超越探偵の師匠
「師匠!」
俺は思わずそう叫んでいた。
叫ばずにはいられなかった。
その瞬間、俺が先週神山さんにつけた呪いの「犯人」がパッと消えてなくなった。
天啓を覚えた。そうだ、この人こそ俺の師匠だ。師匠と呼ばせてもらおう。アニメの師匠、明日夢師匠とはまた違う師匠。探偵の師匠だ。
「ああ、山之内君」
「師匠!どうも。どうしたんですかまた?」
ええと、前会ったのが日曜日だから、大体一週間前だな。
まさかまたこの耀曜館で会えるなんて。
「いや、少し野暮用があってね」
「師匠にまた会えて、嬉しいですよ!」
俺はただただ正直な気持ちを伝える。
「この一週間ほど、大活躍だったそうじゃないか」
「まあ、師匠のおかげですよ」
「何を言っているんだいまた君は。ははは」
「はっはっはっは」
二人で爽快に笑う。最高に愉快な気持ちだ。
神山さんは謙遜したが本当に神山さんのおかげなのだ。。
神山さんから初日の日曜日にしっかりと指南を受けていなかったら、残りの六日がどうなっていたことか。
確かに日曜日は不幸にも八時間かかってしまったが、その八時間がなければ、月曜日から土曜日の合計時間はもっとかかっていた事だろう。犯人が分かっても、それに当てはめる例題がなければ、結局知力と体力を大幅に消耗して、時間を浪費してしまうのだ。
「セーラー服がお似合いで。僕初めて見ましたよ?」
「ああ、そうだっけ?いつも会う時は私服の時ばかりだもんね」
あの白のタキシードって、私服だったんだ。俺は衝撃を覚える。
まだ「探偵着」だとか言われた方が納得するんだけど。じゃあ、買い物とかもあれで行くんだ。ある意味女子の視線は釘づけだな。
ただ、セーラー服着たら普通に可愛いよなこの人。まあ、元が良過ぎるんだ。男っぽからろうが、女っぽかろうが、どっちも似合うって事か。ホント、神様は不平等だ。
学ランやブレザーが似合いそうって言って申し訳なかったな。いやまあ、似合うんだろうけどね。
「山之内君。彼女は・・・・」
意を決したように記者のおっさんが俺に話しかけてくる。
「ああ、この方は僕の師匠ですよ」
「師匠、なんだね」
俺は何の迷いもなく大きく頷く。更に記者は珍しくぐいぐい聞いてくる。
「ひょっとして、探偵の師匠かい?」
「ふふふ、どうでしょう」
あまりにも鼻息が荒いので、なんとなくはぐらかしてしまった。だが、そうです。探偵の師匠なのです。凄い人なのです。ああ、誇らしいぜ。
神山師匠か。うん、しっくりくるな。
だが、師匠は師匠でも、明日夢師匠とは本当に正反対だよな。
そりゃあ明日夢師匠みたいに高校生だけど小学生みたいな外見で、超鬼ロリっ子というのは最強だが、神山師匠みたいに男装の麗人も、悪くはないよな。
というか俺って、「アンパンマン」でもしらたまさんが一、二位を争うくらい好きじゃないか。宝塚も好きだし。
あれ?そう考えると、神山さんって、俺全然オッケーなんじゃないの?
更に、えとね、更に言うならね・・・・僕っ子大好きですからあああああ!!!!!普段から言ってますけど!!!!僕っ子最高!!!!!真由美や麻美子にも見習ってほしいぜ!師匠をよ!!馬鹿にしてスイマセンでしたああああ!!
明日夢師匠も僕っ子似合うんだけどね。ただし明日夢さんは基本的に一言も喋らないから。家から一歩も出ないし。鬼ニートだからさ。
確かもう三年くらい出てないんじゃないかな。成績トップだから、学校には許されているけど、本当、天才ってああいう人の事を言うんだよ。俺もよく天才少年探偵みたいな事言われるけどさ。明日夢師匠と並んだら、紛い物も良いとこだよ。
ちょうど一週間前の土曜日、魔魅子フェスの前日に、フィギュアを預かりに家まで行った時は、元気そうではあったけど。
明日香さんがいたから少し会話が出来たけどね。
先週の日曜日、津村君はまあ大変だったろう。
姉妹だと言うのなら、神山師匠と明日香さんが姉妹の方がなんだかしっくりと来る感じだ。
「で、師匠。今日はどうしたんですか?」
俺は一番気になっている事を聞いた。わざわざ何しに戻ってきたのか。そもそも、初日の日曜日に来て、それから六日後の最終日の土曜日に来るなんて、どういう事なんだ。ああ、そうか。平日は学校があるから、絶対に来れなかったんだ。師匠は真面目だからな。
だが、違う。それは根本的な質問の意図となっていない。そうだよ。師匠は何でこんな山奥の洋館にそもそもいたんだという、疑問だ。
そして、その答えは直ぐに本人より出される。
「ああ、実はね山之内君。届け物さ」
届け物?なんだろうか。
そう考えていると、いつの間にか記者のおっさんが離れていった。どうした?まあいいか。邪魔者だと思って席を外してくれたのかな。
そして、神山さんはカバンからおもむろにボックスを取り出す。
そのボックスに、俺は見覚えがあった。
「うおおおおお!!!!!それは!!!!」
箱が開くと、中からは・・・・。
こ、これは!!豚魔魅子!!!!!!!!。オークションに出された明日夢さんの作品ではないか。何故それを。
「いや、実はセバスチャンが二つ落札していてね、初日のあの日に渡して帰りたかったんだが、帰りの列車もあったから、慌てて帰ってしまって、すまなかったね。セバスチャンに聞いた所、君も魔魅子の大ファンだそうじゃないか。今日も来ているかと思って、届けにきたんだ」
「君もと、言いますと、まさか、神山さんも・・・・」
俺の問いかけに神山さんは堂々と、力強く頷く。
「ああ、ガチガチのマミラーさ!」
そうだったのか。まさか神山さんが。それなら、何故この土地を訪れていたのか、納得がいく。
セバスチャンとも確かにアニメトークをした事がある。あの人はそれをわざわざ覚えていてくれたのか・・・・。
「いいんですか?頂いて?」
「ああ、構わないよ。君には迷惑をかけたからね」
「ひゃっほーーー、凄い!!師匠、ありがとうございます!!!」
俺は飛び上がって喜んだ。最高だこの人。うわー、超好きなんですけど。
「師匠最高!!」
「ちょ、ちょっと、山之内君。痛いよ、もう」
気が付けば俺は師匠に抱き着いていた。俺は慌てて離れる。
「あ、ああ。すいません。嬉しさのあまり」
「いや、いいんだよ。僕も山之内君がそんなに喜んでくれて、凄く嬉しいよ」
そう言ってほのかに赤い顔で乱れた髪を整える。こう見ると、どこからどう見ても超絶美人のお姉さんでしかない。
それから師匠は俺の耳元まで顔を寄せ、小さな声で言った。
「僕も初日のあの日は早く行きたかったんだ。だが、そんな理由で事件の解決を早めるわけにはいかないだろう」
「はい!!その通りです!!!」
なんて真面目な人なんだ。何事にも真剣で、全ての可能性を見逃さない。本当に素敵な人だなあ。
「だがそれも僕は、君に影響を受けているんだよ」
「え?俺ですか?」
「ああ、魔魅子をこよなくを愛しているにも関わらず、ザイツ監督を捕まえた君のね。捜査に私情を持ち込まない。本当に凄いと思ったよ。誰でも出来る事じゃない。僕が同じ立場なら、逮捕出来ていたか、と時折考えるんだ。探偵の鏡だ。尊敬に値するよ。だから覚えておくといい。周りの皆が君を責めようとも、僕だけは、君の味方だと・・・・」
「師匠・・・・」
俺は泣きそうになっていた。なんて、なんて格好良いんだ、この人は。
「それに何よりさ、僕みたいな女子がこういうのが好きだって言ったら、引かれるかと思ってさ」
「何を言っているんですか。最高に良いに決まっているじゃないですか!!誰ですか、師匠にそんな事言うヤツは!俺がぶん殴ってやりますから!!誰ですか?あの記者野郎ですか!?ああ、そういえばアイツは俺に対しても馬鹿にしたような態度を取ったんですよ(取っていません)、魔魅子の事ちっとも分かっちゃいないんです。ちょっと待ってて下さいね!俺がぶん殴ってきてやりますから」
俺はぷりぷり怒りながら拳を高く挙げる。
「・・・・山之内君。君ってそんな性格だったんだね」
神山師匠は呆れた表情で俺を見る。
「神山さんこそ、こんなに可愛かったんですねー。俺、一遍でファンになっちゃいましたよ」
何故だか知らないが、神山さんの顔が一瞬で火が着いた様に真っ赤になった。
「・・・・ええと、その、山之内君。そういう事言われたの初めてだよ。ありがとう」
「どうしました。熱でもあるんじゃないですか?」
そう言うと俺は自分の額を神山さんの額にくっつけた。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
女子らしからぬ悲鳴を上げ、倒れこむ神山さん。
「師匠?どうしました、神山師匠?」
真由美が冷ややかな目で俺を見つめる。
「徹君・・・・。セバスチャンさんがいたら、殺されているよ」
「ええ。なんでだよ。今までの無礼の方が殺されるよ。俺は心を入れ替えたんだからな。師匠には忠誠を尽くす」
お嬢様命のセバスチャンと、俺も同じだ。同士だな、セバスチャン。しばらくすると神山さんは落ち着いた様で、再び僕に笑いかけてくれた。
「いや、だが、探偵もやっていて、趣味も同じとはね。君となら、良い友達になれそうだな」
「はい!俺も嬉しいです」
初めて、俺から手を差し出す。神山さんはしっかりとその手を握ってくれた。
師匠は顔を上げ、大声を出す。
「さあ、それでは行こうか山之内君」
「はあい!!お姉さま!!えへへへへへへへへへへ!!」
いざ、魔魅子の下へ!!
最高の魔魅子フェス最終日が訪れようとしていた。
「それじゃあ記者さん。僕達はこれで」
俺は取り残されている記者の下へ行くと、今度こそ別れを告げる。
「あ、山之内君。最後に一ついいかい?」
「なんでしょう」
「ええと、その、あの、最後に、その、師匠の名前を教えてくれないか?」
そう言って記者は、何故か俺が大事に持っているフィギュアをしっかり、はっきりと指差していた。
ん・・・・?どういう事だ?フィギュアは師匠じゃないぞ。
――ええと、その、あの、最後に、その、師匠の名前・・・・
・・・・その、師匠の名前?
・・・・ああ。
・・・・なるほど。
――そのフィギュアを作った師匠の名前を教えてくれ?
という事か。
ああそういう事か。
なんだよ。コイツも何だかんだで豚魔魅子気になるんじゃないか!もう、本当に素直になれよ!!
初めて気があったな!いや、豚魔魅子とは、センス良いよあんた。俺は心で記者にエールを送った。
「ああ、いいですよ。師匠の名は・・・・」
俺は満面の笑みでこのフィギュアを作った、今は家でゲームをしているであろう、もう一人の師匠の名前を告げるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
彩華は報告書の束をゴミ箱に捨てると、パソコンデスクの前に座った。
結局、どのトリックも使いものにならなかった
全く、困ったものだ。許せないったらありゃしない。
お気に入りからあるサイトに飛ぶと、コメントを書き始めた。
「ええと、おたく様のサイトですが、全く持って使えません。実用性のないトリックを掲載するのは今後一切取りやめた方が良いと、思います。もっと、完全犯罪が出来る、証拠も何も残らないものを掲載しないとダメです。あ、でも銅像は最高でした。あれは秀逸です。銅像はありがとうございました・・・・」
モニターの真ん中にはサイト名が記されていた。
「神研ゼミ!!女子高生探偵神山司の推理教室~密室編~」
超越探偵山之内徹 第四話「超越探偵と七つの密室と消去法探偵神山司」完




