神研ゼミ②
水曜日、木曜日の事件も俺はなんなく解決してみせた。
普段よりも随分楽だ。何故なら、俺にはお手本があるのだから。
神山さんの神研ゼミでの言葉を思い出すと、嘘みたいに、魔法みたいに事件が解けるのだ。いつの間にか俺の中で神研ゼミという言葉が定着していた。
水曜日と木曜日は雉と猿のケースだった。
――◆■□●◆△▲★▽▲◎☆◆△殺す、というトリックだってあるんだ。大胆にも程があると君は思うだろうが、これがなかなか面白い。
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――検死のフリをしながらその場で殺す、というトリックだってあるんだ。大胆にも程があると君は思うだろうが、これがなかなか面白い。
――◆△▲□◆□なんてものを使われたら、スピード解決がモノを言ってくるね。何故なら、▲◎☆◆△▲なく、犯人の◆△▲★□けたら終わり、なんてものがあるかもしれないからさ。
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――遠隔殺人装置なんてものを使われたら、スピード解決がモノを言ってくるね。何故なら、現場に証拠はなく、犯人の部屋を片付けたら終わり、なんてものがあるかもしれないからさ。
俺は一昔前の自分について考える。
何にも考えずにとにかく犯人指名して、後は出たとこ勝負等、なんて愚かだったんだ。
一歩引いて、状況を確認してから動き出す。
すると、神山さんの言っていた事例に当てはまる。
それから、犯人の証拠を押さえる形と同時に、犯人指名をすればいいのだ。
なんで俺はこんな合理的なやり方も出来なかったんだ、今まで。
水曜日は目の前で被害者を殺した訳だから普段でもすぐに解決出来たかもしれないが、
木曜日の犯人なんかは特に、神研ゼミを受けていなかったらもっと時間が掛かっていただろう。
あれは完全な愉快犯だった。
あの手の犯人は、動揺もなく、感情の動きも著しく乏しいから、とにかく観察しづらい。ボロを出しにくい。俺だけの考えでは上の部屋に何かあるという確信は得られなかっただろう。
遠隔殺人装置という言葉を神山さんから聞いていたから、その考えが浮かんだだけであり、前情報がなかったら俺にはちんぷんかんぷんだったに違いない。
犯人は不思議そうな顔をしていたが、まあそういう事もあるかと、一切食い下がることなく、逮捕された。なんだったんだアイツは一体。
そして、ここまできたら俺は事件が起こる度に少し楽しくなってきていた。
今回は一体どのパターンなのか、と。
神研ゼミの内容は今ではしっかりと俺の頭にしまってある。
頂いたブログのメモをゴミ箱から引っ張り出して、アクセスしたのだ。
「密室殺人のトリック」と書かれたカテゴリの内容にしっかりと目を通して、予習してある。完璧だった。
金曜日に関しては駆け付けた時に部屋の名前を見て、直ぐに理解した。
「金剛の間」か。
俺は事件がマスターキーによるものである事を確信した。
額に「犯人」と書いてある館長に話しかける。
「これはこれは、山之内様。どうされました」
「犯人さん、マスターキーを使いましたね」
「これはこれは・・・・」
館長は直ぐに観念してくれた。潔い犯人で助かるぜ、本当に。
「ですが、何故分かったんですか」
「顔に書いてあったのと、あとはまあ、消去法です」
俺は正直に答える。
「ああ。なるほど」
館長は直ぐに納得してくれた。そう、消去法なのだ。「土田源太郎の間」でないのだとしたら、あとは決まっている。マスターキーしかない。それこそまさに究極に分かり易い消去法だった。
「徹君の考えている消去法とは、ちょっと違うと思うけどな・・・」
真由美が難癖をつける。なんだよ。お前が神山さんに学べって言ったんじゃないか。いいよ分かったよ。分かっていますよ。つまり、こういう事だろう。
俺は再び神研ゼミを思い出す。
――■にも、★にも、〇▲にも、□◎にも、▲□にも、■●▲■にも、何一つ、□△▲な□△▲は存在しない。つまり完全な●●なんだ。であればあるだけ、□☆さんが犯人である可能性が高まる。他の□●●を全て潰せば、最終的に犯人は★□▲□☆●を持っている□☆さんだという結論へと向かうしかない。つまり、消去法ということだ。だって、★□▲□☆●を▲□●いるのは、□☆さんだけなんだから。
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――扉にも、死体にも、凶器にも、二階にも、隣の部屋にも、何一つ、人為的な仕掛けは存在しない。つまり完全な密室なんだ。であればあるだけ、鬼蔵さんが犯人である可能性が高まる。他の可能性を全て潰せば、最終的に犯人はマスターキーを持っている鬼蔵さんだという結論へと向かうしかないんだ。つまり、消去法ということだよ。だって、マスターキーを持っているのは、鬼蔵さんだけなんだから。
「つまり、こういう事ですよ。窓にも、扉にも、死体にも、凶器にも、二階にも、隣の部屋にも、何一つ、人為的な仕掛けは存在しない。つまり完全な密室なんです。であればあるだけ、貴方が犯人さんである可能性が高まる。他の可能性を全て潰せば、最終的に犯人はマスターキーを持っている貴方だという結論へと向かうしかないんです。つまり、消去法ということです。だって、マスターキーを持っているのは、貴方だけなんですから」
神山さんの受け売りの説明に館長は何度も頷き納得してくれた。最終的には豪快に笑い始めたのだ。
そして、これに関しては、神山さんの奇跡の采配が見られた。
――あとは鬼蔵さんだが。・・・・?ああ、■△の名前さ。△▼鬼蔵さんと言うんだ。あんな優しそうな人が鬼蔵さんだとはね。おかしなものさ。
―あとは鬼蔵さんだが。・・・・?ああ、館長の名前さ。金谷鬼蔵さんと言うんだ。あんな優しそうな人が鬼蔵さんだとはね。おかしなものさ。
館長は金谷鬼蔵という名前だったのだが、つまりあの時点で、今後のトリックだけではなく、未来の犯人まで当ててみせたのだ。これは最早超越探偵の領域なのではないだろうか。
水、木、金も魔魅子フェスは最高だった。
水曜日のじゃんけん大会。
木曜日のキャラクター人気投票。
金曜日の魔魅子大運動会。
俺は最高にエンジョイしたのだった。
「真由美の言う通りだったな」
金曜日、大運動会を終え耀曜館へと帰ってきた俺達。自室で俺は真由美に話しかける。
「確かに俺は普段から推理が嫌で、謎解きも嫌で、特に勉強をする訳でもなく、がむしゃらに犯人指名をしていた。それが今回、月曜日からここ数日の事件を経験して、痛い程分かったよ。俺の能力は、本来こういう風に使うものなんだな」
月曜日から金曜日の事件も、今までの俺のやり方で解ける事は解けただろう。
だが、5分以内等は到底無理な話だ。
犯人指名して、犯人の動揺を誘い、その間に何か糸口を見つけ、作戦を練り、ハッタリを企て、それが上手くはまってようやく解決。
下手をすれば一時間以上、いや、もっとかかる事件もあった筈だ。
実際耀曜館に来る前に起きた数々の事件は、どれもそれなりの時間を要している。
「まあ、徹君が欲しくて手に入れた能力じゃないからね。仕方ないんだろうけど。宝の持ち腐れは勿体ないよー」
「ごもっともです」
俺は床に胡坐をかいて、ぺこりと頭を下げる。真由美はちょうど風呂上りで、眉毛で揃った前が額にペタンとくっついている。
髪からはシャンプーの良い匂いが漂ってくる。
ええと、何と言ったらいいのか・・・。たまらん感じがする。
「神山さんの講義の通りに行けばこうも簡単に事件が解決するなんてな。本当に、あの人を舐めていたよ。確実に」
日曜日の神研ゼミがなければ、月曜日から今日まで、もっと無駄で地獄の様な時間を過ごしていたかもしれない。
「真面目で堅実な人が、何事でも一番偉いし、凄いって事だよ。絶対」
真由美のその言葉は俺にではなく、まるで自分に言い聞かせているかの様だった。
「という事は俺達が一番、駄目人間って事だな。努力もせずに、ただただ自分の能力に頼って」
「まあね」
その表情に笑顔が見えて、俺はホッとする。
「だけど、事件まで当てている訳だからな。神山さんも能力者なのかもしれないな」
「何言っているの?能力者なんて徹君以外にいないでしょ」
真由美は決めつけた口調である。
「そうか。どこかにいるんじゃないのか。だって俺が持っているんだぜ。他にいないとは限らないじゃん」
「だって能力者が増えると、異能バトルになっちゃうでしょ」
「いや、だからどうなんだよ?」
異能バトル良いじゃん。盛り上がるよ。
「だって、能力系はただでさえ大変なんだから。能力者は徹君だけで十分なの」
「・・・・誰に言わされているのか分からんが、まあ、お前がそう言うんなら、そうなんだろうな」
なんだか俺はこれ以上ない程に納得してしまった。
「そんじゃあまあ、明日に備えて。そろそろ寝ますか」
「うん」
真由美がベッドに滑り込んでくる。俺はリモコンで電気を消した。
明日は土曜日。魔魅子フェス最終日。
そして、待ちに待った―――『土田源太郎の間』の日である。
「今日は銅像だろ?いよいよ?」
「徹君。それは神山さんも冗談だって言ってたでしょう?」
真由美が笑いながら俺の意見を否定する。
ええー。だってもう神研ゼミで残っているの、これしかないんだぜ。
――残った可能性としては、限りなくゼロに近いのだが、まあこれも言及しておかなくては、僕のポリシーに反する。
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覚えておくといい。
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△▲□△!!
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――残った可能性としては、限りなくゼロに近いのだが、まあこれも言及しておかなくては、僕のポリシーに反する。
山之内君は知らないかもしれないが、吉備さんの部屋の「土田源太郎の間」だけ、耀曜館創設者の銅像が飾られているんだよ。
覚えておくといい。
ひょっとしたら犯人が銅像に成りすましているなんていう事もありえるかもしれない。
ははははは!!
だがまあこれはギャグだな。冗談だよ。そんな馬鹿なトリックがあるわけないだろう?そもそも「日暮の間」には銅像なんてなかったんだしね。
扉を開いたら、犯人が銅像に変装しているって・・・・マジ最高だろコレ!笑いをこらえる自信がない。想像しただけでにやけてしまう。
「俺これマジだったら神山さんを本当の神と崇めるぜ」
「もう、本当に徹君ったら、すっかり神山さんのファンね」
「ファンにもなるさ!!こんなにお世話になっていればね!」
キランと俺は親指を立てて最高の笑顔を見せる。
「いや、でも徹君。おかしくない?こんなに神山さんの言った通りになるのも・・・・」
真由美が喋っている途中で―――悲鳴が上がった。
「いやっほう!銅像!!待ってました!」
俺は迷いなく一階の一番奥、中央に堂々と立つ扉へと向かう。
金縁の表札には「土田源太郎の間」と書かれている。
俺は期待で胸が張り裂けそうだった。正に最終日、土曜日の楽しみ。魔魅子フェス最終日の前哨戦に相応しい。
だがこの後、俺の期待は裏切られる事になる・・・・。それも思ってもみなかった方向で。
扉が開けられた瞬間、俺は分かっていたのに、信じられなかった。
神山さんの言っている事が嘘だった訳ではない。
言った通りにはなったのだ。そこには銅像がいた。
だが、俺が言葉を失っているのは、そういう事ではない。
「土田源太郎の間」には額に「犯人」と書かれた全裸の銅像が立っていた。
それが俺の正直な感想だ。
何が信じられなかったかというと・・・・そのクオリティの高さ故、本物の銅像と区別がつかなかったのだ。
俺は額の「犯人」とその銅像の全体像とを、交互に見比べる。
え?この銅像だよな?
これ、マジで人か?
銅像にしか見えんぞ。
額に「犯人」って書いてなかったら、マジで分からなかったかも。というか、銅像過ぎて見落としてたかも。いや、凄いぞこれ。
俺はガン見している。先程から確実に目が合っている。相手もそれは当然認識しているだろう。だが微動だにしない。
あ、よく見たら、本当によく見たら、人だこれ。俺は感動を覚えた。
いや、この人これでお金もらえるよ。外国とかではよくあるよね、こういうストリートパフォーマンス。
凄いよな。まばたき一つしてないし。
一瞬たりも動いてない。
人って頑張れば銅像になれるんだ。
俺の心は俄然銅像に対する興味で満ちていった。
そして俺はふと、股間に目を落とす。
これ、丸出しだよな。うん、丸出しだった。
この人、恥ずかしくないの?
冷静に考えてさ。何してんの、マジで。
「徹君たら、何ジロジロ見ているの。めっ」
真由美に注意された。
いや、だけど真由美、これ凄いってば。本当、何の反応も無いんだぜ。どういう事だよ。
実際、真由美も信じられないといった表情はしている。
本当、よく出来ているよな、この銅像。
俺はもっと近くで見る為に、銅像に歩み寄る。あ、違う。犯人に歩み寄る。あ、気が付いたら近づき過ぎていた。ちゅーしちゃいそうなぐらいの距離だ。それでも動かない・・・・。
というか、何度も聞いて悪いけどさ。これ本当に人間か?
額に「犯人」と書かれた銅像だと言われた方がしっくりくるくらい、目の前の犯人は銅像だった。
大笑いしてやろうと思ったのにさ、これは意表をつかれた。
しばらく黙っていてやろうか。
魔魅子に間に合う時間まで。
この人には健闘を称える価値がある。
だが、そう思った俺は、凝視し過ぎた所為で。銅像に大変なものを見つけてしまう。
銅像の――――首の辺りのほくろから長い毛が生えているのを発見してしまったのだ。
「ぶほわッッ!!」
俺はたまらず吹き出してしまった。
「わはははははははははははは!!!!!はっはっはっはっはっはっはっはっは!!ははははははははははははははは!!!!あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは」
ど、銅像のほくろから毛!!!!!
無理だ。ああ、面白過ぎる!!!
俺はこの後、げらげら笑い転げながら、息も絶え絶えになんとか、犯人指名をする事が出来た。
だが、敬意を表するとしよう、あれだけ舐めていた銅像の犯人。
貴方が一番クオリティが高く、指名まで一番時間がかかったと。
尊敬の念しか浮かばない。あれほどのものを見せつけられると、無条件に頭が垂れる思いだ。
ああ、最近の俺ってこんな事ばっかりだな。舐めて、倍返しされる、みたいな。
主人公なのに、当て馬感が半端ないぜ。
だけどこんな完敗の気持ちは、悪くない。清々しいったらないぜ!!




