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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
第四話 超越探偵と七つの密室と消去法探偵神山司
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消去法探偵神山司②

 到着した刑事は、なんと無能刑事だった。

「やあ神山君に、山之内君まで。名探偵が二人も、どうしたんだい」

「お久しぶりです加納刑事」

「どうも、刑事さん」

 ぐぬぬ、無能刑事め、俺を後回しに呼びやがって。必然的に返事も後にしないと誰が喋ったか分からないじゃないか。しかも、「お久しぶりです」を先に使われた。俺も「お久しぶりです」って言おうと思ったのに。「どうも」しか残ってなかったじゃないか。小物感が半端ないぜ。


 だが、そうだ。まだ無能刑事の方がマシだ。コイツよりは百倍マシだ。


「じゃあ神山さん、後は刑事さん達に任せるという事にしましょうか。今回の事件は僕達みたいな子供の出る幕じゃなさそうですし」

 そう言って俺はそそくさと退場しようとする。

 いざ、魔魅子フェスへ!!さあ!!

 だが、当然そんな言葉で引き下がる様なヤツではない。

「今更何を言っているんだ、山之内君。僕達が事件に関わったのは別に今日が初めてではないだろう。僕達は探偵なんだぞ」

 俺の腕をギュッと掴み、逃がさない。そして無能刑事に向き合うと、太陽の様な笑顔でこう言った。

「加納刑事。当然僕達も協力させてもらいますよ」

「それは心強い。是非頼むよ」

 もう、簡単に許可しやがって。早くしないと、魔魅子フェスが終わってしまうよ。ああああああああああ。嫌だよおおおおおお。魔魅子フェス行きたいよおおおおおおおお!!今ここで俺が皆の前でうんこをぶりぶり漏らしたら魔魅子フェスへ行けるというのなら俺は確実に笑顔でうんこぶりぶり漏らせる自信がある!それぐらい行きたいんだよ!!

「まずは事情聴取だよ。初めは何よりも、話を聞かないとダメなんだ、いいね山之内君」

 小さな子を諭す様に言う神山。俺の中に殺意が芽生え始めていた。


 こうして、地獄の事情聴取が始まった。


 まずは一人目である。

「まずはお名前からお聞かせ願えますか?」

「日置です」

 ていうかコイツ犯人じゃねえか!この日置が犯人なんだよ神山さんよー。

 ああ、コイツ何かボロだしてくれないかな。

「事件当時は何を?」

「俺は部屋にいました」

「部屋に?部屋で何をしていたんですか?」

 メモを取りながら話す。白のタキシードにメモ帳って、似合わないよな。その格好ってもっとスマートに事件を解く系の探偵のスタイルだろう?見た目は似合っているんだけど、実は推理や捜査自体は凄く地味なのコイツ。

「事件当時は部屋でテレビを見ていました」

「テレビを。内容は覚えていますか?」

「旅番組です。『汐留夕矢の旅ガラス』です」

「はあなるほど。あの番組、素朴で面白いからなあ。汐留さんと言えば、犯人役が多かったりしますよね。あんなに良い人そうなのに。逆に意外性があるという事で犯人役にされるんですかね。刑事さん、それではその旅番組の確認を・・・・」

「はは!」

 何がはは!だよこの刑事も。お前誰でもいいのかよ。自分の代わりに事件解いてくれるならさ。それとも何か。俺よりもやっぱり美形で背の高い探偵の方が良いんですか?

「なるほどなるほど・・・・被害者が刺された時には、自室にいてテレビを見ていたと。その内容もはっきりと言える」

「はい。内容もはっきりと言えます」

「そうですか。ではあと、何か覚えている事はありますか?」

「あと、向かいの川で遊んでいた小学生が落ちるのを見ました。あ、直ぐに通りかかった人に助けられて無事でしたけど。多分それってあの時間、俺の部屋からしか見られない景色だと思います。その時間が丁度被害者が殺された時間なんじゃないかな」

「そうですか!これは有力な無罪の証拠ですよ。加納刑事、これも裏を取ってください」

「はは!」

 それから日置は自分が事件の起きた時、自室にいたという証拠を幾つもあげたのだった。

 日置の部屋と「日暮の間」は真向かいだから、同じ景色が見える事はない。

 じゃあ、こいつは「犯人」としてどうやって被害者を殺したんだ?

 俺の中に疑問が浮かぶ。まあ、いいか。犯人指名さえすれば、後はなんとかなるんだからさ。


「分かりました。では次の方」


 ああ、次の人間なんていらないんだよ。今話していた日置というヤツが犯人なんだからよ。無駄な事すんなよ


 そして俺は時計に目をやる。

 時計をみると――――正午を回っていた。


 ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!魔魅子フェス始まったじゃねえかよおおおおお!!!!ぎゃああああああああああ!!!時間よ止まれ!!!!


 俺の心の雄叫び等お構いなく、神山は他の何の関係もない無実な宿泊客にも、ゆっくりじっくりと話を聞いていった。

 まだ人数は半分ぐらいなのに二時間ぐらいかけている。マジで殺す、コイツ。


 うおおおお!!俺がなんでこんな思いをしなくちゃならんのだ。血の涙を流す様な苦痛を、俺に味あわせるのは――――一体誰だ!!


 するとぼわんと神山の額から白い煙が立ち上がる。煙が消えると神山の額には「犯人」という文字が浮かび上がっていた。


 知ってるよ。こいつが俺を苦しめる犯人だってのは知っているよ。

 クソが、見てろよ!!


 俺と魔魅子の仲を引き裂くクソ野郎は誰だ!

 俺に殺されても仕方ないクソ野郎は誰だ!!

 俺の思いを踏みにじってまで探偵をやりたがっているクソ野郎は誰だ!!!

 俺の怒りを買い、丑三つ時に呪いの藁人形を撃たせるクソ野郎は誰だ!!!!

 俺をこんなにまでも悩ませ、血の涙を流させるクソ野郎は誰だ!!!!!

 俺の背が伸びないのは、お前の所為だクソ野郎!!!!!!!

 俺をこの日のトラウマの所為で実の妹の麻美子への愛情が愛憎へと変わり、とんでもない間違いを起こさせてしまう原因を作るクソ野郎は誰だ!!!!!!!

 俺がこの日の所為で将来碌でもない大人になって、激烈ニートの道を辿る原因となるクソ野郎は誰だ!!!!!!!!

 太陽がこんなに眩しいのに、俺を洋館に閉じ込め、愛する魔魅子の下へと行かせないクソ野郎は誰だ!!!!!!!!!!

 世界でいつまで経っても戦争がなくならないのは、神山司、お前の様な空気を読めないクソ野郎がいるからだ!!!!!!!!!!


 ぼわん、ぼわん、ぼわん、ぼわん、と神山の額に何度も煙が上がる。

 へへ、神山の額に「犯人」を上書きしまくってやったぜ。へへへ。


 俺がささやかな復讐をしている間に、事情聴取は終わっていた。時計を見ると午後三時。俺は気を失いかけそうになる。三時間も、無駄な時間を、なんてことだ。


「さあ山之内君。待たせたね。君の番だよ。じっくり質問するがいい」

 神山は両手を広げて、俺を促す。冗談じゃない。

「いえ、僕は別にいいんで」

「何を言っているんだ。それではフェアじゃないじゃないか。僕はこういう事はとても気にするんだよ。遠慮する事はないさ。さあ、早くしたまえ」

「いや、本当に結構ですから」

「まあまあ、遠慮せずに。ほらほらほらほら」

「・・・・分かりました」

 このまま拒んでいても神山は絶対に折れないと分かった俺は、渋々その要求を呑んだ


「それでは皆さん、横一列になってください」 

 そう言って全員を集めて、並べる。

 容疑者+無実な方々に対して、俺は至って真剣な面持ちで尋ねる。

「それでは皆さん・・・・順番に、昨日の夜ご飯を教えてください」

「ハンバーグ」

「カレーライス」

「肉じゃが」

「ラーメン」

「カレーライス」

「ラーメン」

「ビーフストロガノフ」

 俺は神山を真似してメモを取る振りをしながら、うんうん頷いてみせる。

「なるほど・・・・カレーライスとラーメンの全面対決ですね」

 そして俺は何かに気が付いた様にハッと顔を上げる。

「――――!!分かりました!今回の事件、百パーセントの確率で犯人はハンバーグを食べた日置さん、あなた・・・・」

「だからそれはやめるんだ!!」

 後ろから羽交い絞めにされる。離せ!この野郎!!俺に犯人を言わせてくれ!

「何をするんですか神山さん。僕は今の事情聴取で論理的に犯人が分かったんですから、黙っていてください」

「嘘をつけ!なんだその質問は。昨日食べた物が事件と何の関係があるというんだ。ハンバーグを食べたら人を殺すのかい?君はまたルールを無視して!!」

「だから古畑とかコロンボとか徳永警部はどうでも良い世間話から解決のヒントに繋げたりするじゃないですか」

「かといって昨日食べたものが何かなんて関係あるもんか!」

 そういうのも、あると思うけどな!

「もう!ちゃんとしなさい!いいかい。これ以上ふざけると僕は怒るよ!!」

 なかなかの剣幕で言われたから俺は流石にビクッとなった。怒られたよ。なんだよなんだよ。・・・・ちぇ。

 だったら、どんな質問をすればいいのか。俺はとにかく早く終わらせたかった。

「それでは皆さん、昨日は何時に寝ましたか?」

 という無難な質問に変えた。

「ううむ。まあ、いいだろう。確かに就寝時間は何かの手掛かりになるかもしれない」

 各々が就寝時間を答えて、俺は質問を終了させた。神山はもっと聞きたい事はないのかとうるさかったけど、無視してやった。



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