表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
第三話 無能探偵のススメ
14/68

無能探偵のススメ⑤

 おいおいおいおい・・・・マジかよ。マジですか。いやこれは凄いな。驚きもあるが、何か変な感動すら覚える。壮観だね、まったく。

 その瞬間、俺は全てを理解した。理解せざるを得なかった。

 全員の額に「犯人」。こんな事は前代未聞だよ。そして、その事態に適用される答えはたった一つなのだ。

 ―――これは村ぐるみの犯行だ。

 村人全員が共謀して、画策して、村長を殺害した。それが紛う事無き現実。まったく何て事だよ。救いがない。救われようもない。

 あれだけ人の良さそうな村長が、こんなに恨みをかっていたなんて・・・・。いや、俺の主観で捉えられる村長の人格なんて、所詮本物の村長の100分の1程度の事だ。

 にしても、全員か・・・・。単独犯。せめて2、3人の複数犯なら分かる。その場合の善悪なら、認識する立場によって覆る程度のものだ。だが、この人数は。村人全員が犯人。殺される程の存在。絶対的な悪。

 俺は彼の昨日の寂しそうな微笑みを思い出す。

 村長は悪者だったのか?

 演技?真由美の父親の友人だったのに?

 この俺が騙されていたというのか。いつも皆を欺いている俺が、か。

 どうだろうか、そうなんだろうか・・・・。

 ・・・・・・・・。


 いかんいかん。いかんぞ俺。

 今はこんな感情に支配されている場合では、全くない。 

 自分の事をまずは考えなくてはならない。とにかく考えるぞ。真剣に。シンキングタイムだ。

 俺は今、犯人は全員とは言ったが、本当に全員なのかは分からない。ただ、この村の人口は大体200人程度だと聞いている。そして今現在、ぱっと見てそれぐらいの数の人間は集まってきているように思われる。よってこれはほぼ全員と言っても構わないだろう。

 そして、正直助かるのが、不幸中の幸いだったのが、「犯人」の文字が目の前で浮かび上がる瞬間を俺が見れた事だ。

 犯人の額に「犯人」という文字が浮かび上がるのは「俺が事件を知った瞬間」だ。

 村長が死んでいるのを見てから、集まってきた村人達の額に「犯人」が目の前で浮かんだ。つまりそれは彼らが「村長殺しの犯人」という証明に他ならない。

 医者も、駐在も来ているが、そいつらも全員、何もかもが村長殺害の「犯人」。殺人者なのだ。

「どうしたんだ、これは」

「村長!?何でこんな事に」

「一体誰がこんな事を!許せんぞ」

 つまりこの台詞も全て演技という訳だ。そう考えると何とも白々しいもんだ。

 まったく、何て恐ろしい図なんだ。人には見えない「犯人」が見える俺にとって、今の状況は正に地獄絵図だった。

 さあ、これからどうなるんだ。

 どうすればいいんだ。

 まったく、何て状況だよ。というか、何で今日なんだよ。よりによって。明日になったら俺達はもういないんだぞ。こういうのは内輪で好きなだけやれば良かったんだよ、まったく。

 それはつまり・・・・関係ないのか?俺達がいようといまいと。

 それなら、マズイ。

 これは、ひょっとしたら・・・・・・・殺される、かもしれないな。俺は冷静に判断した。

 そもそも駐在まで黙り込んでいるこの状況だ。駐在のノッポはエラく緊張している。小刻みに震えているし、明らかに様子がおかしい。正直俺は触れたくない。村人も何も言わない所を見ると、どうやらコイツの存在はスルーしても良いようだ。普通に考えてそれで良い訳ないのだが。

 誰も何も言わないし、なんとなく、顔を見合わせている様な状況だ。

 もう、犯人なら段取り決めておけよ。まず誰がどうするとかさあ。俺はあきれてしまう。

 まあ誰も動かないなら、俺がイニシアチブを取らせてもらおう。均衡状態ならば、先手必勝だ。

「お医者さん、お願いします。村長の状態、診てもらっても?」

 俺は小太りのおっさんをそう促す。

「あ、ああわしか?ああ、そうじゃったそうじゃった」

 まあ、まずはどのみち段取りとして医者に診てもらわねばなるまい。村にはこのおっさんだけしか医者はいない。橋が壊されていて外部から警察や医者は呼べない。監察医の任はこのおっさんに必然的に託された事となる。ていうか「そうじゃったそうじゃった」ってどうよ?おかしいだろうが。段取りを忘れてたみたいな口振り。

 俺が知っている医者は大体、事件が起きたら頼んでもいないのに生き生きと検死を始めるものなのだが。まあこの小太りのおっさんは医者であると同時に「犯人」だからな。

 よもや犯人が検死とは。これは既に藪の中状態か?俺にとってこの検死が今後の方向性を分けると言っても過言ではない。

「ううむ。これは・・・・」

 瞳孔から脈、心臓。口から泡。真紫の唇。俺の経験上間違いなく毒殺ではある。あ、でも一応腕から出血もしているがその部分をどう解釈するか。濡れた衣服、クラッカーもあるしな。

 テーブルを一瞥してみる。その上には二つのコップ。そしてその横に置いてある一つのカプセル。カプセルか・・・・ふうん。なるほど。

 まあ医者のコイツも「犯人」だから真実を言うかどうか定かではないがな。それにしても一応の理由付けは考えているのだろう。

 医者のおっさんはしばらく村長の体を調べ、一息つくと、こう言った。

「心臓発作じゃな。後は・・・・特に・・・・問題はないじゃろう」

「そうですか」

 平気で嘘ついたよこの人。

 びっくりしたあ。

 びっくりしたよ。本当にびっくりした。俺も「そうですか」じゃねえよ。馬鹿か俺は。おいおい、子供でももっとマシな嘘つくぞ。口から泡飛ばして腕から血、そこからびしょびしょの状況を見て「心臓発作」ですと?こっちの心臓が止まるかと思ったよ。身の危険があるから余計な事は言えないのがもどかしい。

 だが、そういうことだ。

 つまりコイツ、色んな事実をすっ飛ばすつもりだな。

 それとも検死だからか?自分は死因を調べただけですよって?出血や周りの状況を調べるのは探偵である俺って事?いやそれは警察の仕事なんだけどな、実際は。

「もともと村長は心臓に病を抱えていてな。私は昔からそれを診てきたんだ。そしてこの薬を飲めと言っていた。飲まないとダメだと言っていた。処方した薬を飲まなかったからかもしれないのだ」

 テーブルの上にあるカプセルを悔しそうに見つめる医者のおっさん。そして台詞がとんでもない棒読みであった。小学生の学芸会の様な。あと「私」「~なのだ」とか言っているけど。あんたさっきまで「わし」「~じゃよ」の爺さん口調だっただろうがよ。俺は確信した。・・・・これは間違いなく台本があると。

 ちなみにここ数日だが、村長が薬を飲んでいる所など俺は見た事はない。まあ人前でこれみよがしに薬を飲む人もいれば慎ましやかに陰で飲む人もいるからな、村長は後者だったのかもしれない。

 ここにカプセルがある。それはつまり、馬鹿正直に受け止めると確かに村長が心臓発作の薬を飲み忘れたという事になるのだが、当然そうでもない。

 俺の頭に一つの推測が浮かんだ。確かめてみるか。

 非常に不本意だがこの場を一瞬だけ真由美に任せる。アイコンタクトだ。

「相川さん。村長はいつ頃から心臓を・・・・?」

 すぐに真由美が医者に質問する。相川って名前なのかこの小太り爺さん。

「ううむ、あ、あれはい、いつの事じゃったかいの。ええと・・・・・・・・・・・・なあ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 去・・・・・・・年?だった・・・・か。え、いや、2・・・・年・・・・前?う、うううむ・・・・・・・・いや・・・・・・・・わしは・・・・・・・・・・・・・?2年・・・・?3年??どうか。ううむ・・・・」

 医者アドリブよわ!

 別にいいじゃんそこは!!適当に嘘ついとけよ。5年前とか半年前とかさ。

 まあいい、これでしばらく注目は真由美に集まるだろう。

 俺はテーブルに置いてあるカプセルをこっそりと手にして割る。すると中に小さなカプセルが。の下にもカプセル。ふうん、漫画で読んだことあるぜこれ。体内で、カプセルが溶けるのを遅らせる為だな。そうしてようやく中から小さな顆粒が姿を現した。更に、俺はこっそりとそれに手を伸ばし、部屋の隅に置かれている金魚鉢の中に入れた。

「・・・・」

 直ぐに、金魚がプカリと浮いてきた。

 ・・・・。

 百パー毒じゃねえか!もう、もっと分かりにくい毒使えよ、馬鹿。

 毒はここにある。という事はつまりこれは・・・・村長は毒を飲んでない?いや、違うな。飲まなかったんじゃなくて、村長は二つある内の一つを飲んだ?

 あの医者がやったのかどうかは分からんが、村長に風邪薬かサプリとでも言ってあの何重にもカプセルを重ねて時限式にした毒を飲ませ、もう一個をこそっと置いて帰ったんだな。それで余った薬を「飲まなかった薬」と勘違いさせる。ふうん。シンプルだが、なかなか感心させられるトリックではある。本当は「飲んだから死んだ」のに、「飲まなかったから死んだ」に事実を曲げられる訳か。


 だが、それなら置いていく薬は「本物の薬」の方が良かったよな、絶対に。


 何で毒を二つ用意してその一個を置いていくかね。発想は悪くないのに詰めが甘い。そして俺が知っている歴代の犯人達は皆その詰めの甘さが命取りで逮捕されてきたのだ。そういう意味では致命的だ。

「・・・・・ええ・・・・・と。あれ・・・・・・・・・は春・・・・・・・・?だった・・・・・・・・か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・の?いや、な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・つ?秋か冬の・・・・・・・・・・・・・・・・・・様な?」

 そしてこいつはいつまでアドリブに弱いんだ。呆れて何も言えないとはこの事。真由美は答えを促す事なくニコニコしてそれを見ている。更に村人はそれを見ている。何、この状況。

 そこで俺は真由美に目配せをする。

 ―――オッケイ、バトンタッチだ。

 真由美が俺の後ろにシフトする。

「お医者さん。分かりました。了解です。なんと、村長は心臓に病を抱えていたんですね。知らなかったです。心臓麻痺ですね。ふんふんなるほどなるほど」

 俺はうんうんともっともらしく頷きまくる。

 とりあえずイニシアチブは取った。

 村人皆が探偵として、俺を見ている。真由美が言いふらしていたおかげで俺が探偵である事は周知の事実。それを「おかげ」というか「所為」と呼ぶべきか。この目は何だ?俺の一挙手一投足に注目しているこの雰囲気は。勿論、純粋に事件の解決を期待している訳ではないだろう。そんな筈はない。連中は犯人なのだ。つまり逆だ。警戒しているのだ。事件の解決を。向かう所敵なし、事件が起きると同時に犯人を指名してからのハイスピード推理。この超越探偵山之内徹を。

 どうすればいい。俺は必死に考える。マジかよこんな事ってあんのかよ。もうどうすりゃいいんだよおおおお。・・・・既に泣きたい気分だ。

 だが、今の医者の反応で一つ分かった事があるな。カプセルを薬だと偽り、毒殺を黙殺した。これはかなり重要な事実だと考えられる。それは何か?


 コイツらは確実に隠し通そうとしている。


 そもそもが散りばめられたトリックに糸口はあったのだ。

 村人にとってのこの事件を解決する一番簡単な方法を取ろうとしていない。思い浮かんでないとも思わない。多分、意識してそれを実行しようとはしていないのだろう。

 その方法とは「俺達を殺して、村の人間全員で隠蔽する」という事。

 200人掛かりだ。その手段を取られたら俺達は次の瞬間にでも終わる。そしてこの事件の全てが終わる。いや、そもそも何もなかった事になる。俺達が村に来た事実さえなくなるだろう。ここにいた俺達の存在が消えてしまう。ただ中学生が行方不明になったのだと。永遠に見つかる事はない。

 ゾッとした。やばいな。

 この状況は、全然笑えない。

 驚く程救いがない。

 いや、救いはある。

 さっき述べた通りだ。

 ヤツらは隠蔽しようとしている。

 一番簡単でクールな方法を取ろうとはしていない。それが糸口だ。

 考えろ。考えるんだ。生き残る手段を・・・・。


【問題】

 村長が殺されました。犯人は村人全員です。優秀な探偵御一行様は口封じに殺される確率が高いです。さて、どうすればこのピンチを乗り切れるでしょう?


 選択肢①

「猛ダッシュで逃げる」


 おいおい、どうやってだよ。今玄関フロアには村人全員が集まってきてんだぞ。で、一番気になるのは俺達の動向だろうよ。村長が死んでいて本当に驚いているヤツなんて一人もいないんだ。少しでも不審な動きを見せたら、自滅だ。そもそもどこから逃げるよ?玄関フロアは鉄壁だぞ。裏口か?窓を突き破るか?走りきる自信はあるか?記者のおっさんを犠牲にするか?更に、なんとか村から脱出してもどうするよ。村と下界を繋いでいる橋はまだ今日は通れないんだぞ。


 選択肢②

「細かい事は気にしない。とにかくいつも通り事件を解く」


 馬鹿か俺は。それが一番ありえない選択肢だから。

 ていうか何て言えばいいんだよ。犯人全員だよ?

「謎は全て解けた。犯人は・・・・貴方達です!!」ってオンエアバトルみたいに言えばいいのか。その次の瞬間、村人全員が俺達に襲いかかってきて・・・・ジ・エンド。ああ、これは簡単に想像出来る。嫌な考えだけど。まあ、普通に解いて観念する訳がないもんな。殺されるよ。無理を通して道理が引っ込む数の差だよ、これは。


 選択肢③

「命乞いをする」


 正直、これが一番現実的だと思う。必死で頼み込む。地面に頭をめり込ませて、どうか命だけは勘弁して下さい。絶対に誰にも言いませんから、と涙を流し、恥も外聞も全てかなぐり捨てて哀願する。うん。なんとかなりそうか?だが、この作戦も百パーセント助かるという保証はどこにもない。無慈悲にすぐに殺されるかもしれない。

 更に、範人だな。コイツはそんな事しない。

 想像出来ないし、させたくもない。ああ、ダメだこれも。一番ダメだ。

 俺一人なら良かったんだが。土下座でも土下寝でも土下飛でも土下死でもなんでもやってやったんだがな。コイツにそんな事させられない。今の状況なら例えでもなんでもなくだが、それは死んでもだ。


 うーーん。結構考えたが、どうしようもないな。手詰まりだ。

 ん?―――どうしようもない?

 ・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか。

 そうだな。どうしようもなくなれば、いいのか。俺が。

 相手がバレたくないのだったら、「バレずに済めば良い」と思っているのなら、今、探偵と犯人は利害が一致しているんじゃないのか?そこに俺達の共通の打開策があるんじゃないか。

 俺達は死にたくない。ヤツらはバレたくない。

 俺は考える。そうすると、簡単に答えが出た。


 俺達は何としてでも生き延びる。


 俺は両隣にいる真由美と範人を交互に振り返る。

 真由美は分かったのか、ニコッと笑いかけてきた。変なヤツ。範人は分かっていないのか、悔しそうに村長を見下ろしている。良いヤツ。

 分かってようが分かってまいが、どっちも俺を安心させてくれるヤツらだよコイツらは。で、ついでに石コロ記者も救ってやるとするか。

 うん、よし、動機付け完了。

 それでは早速、始めるとするか。


 さあ、ハッタリの時間だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ