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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
第三話 無能探偵のススメ
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無能探偵のススメ④

 そして次の日、10月31日、ハロウィン当日。


 塔子ちゃんが別にハロウィンが好きというわけでもないが楽しみな日。

 そして俺達は明日帰れる日。ようやく橋が復旧するのだ。

「明日!俺は帰れる!」

 口に出して言ってみた。

「ふふふ、嬉しそうね、徹君」

 控えめな笑顔で真由美が語りかけてくる。今日は珍しい二つ結び。随分と幼く見えるし、かなり似合っていて俺は好きなのだが、本人はその幼く見えるのが嫌らしい。なら何故するんだか。変なヤツ。

「おう、嬉しいぞ。早く家に帰って愛する妹に会わねばな!あやつも寂しい思いを募らせている事であろう。毎日夜になると俺の部屋に忍び込み俺の布団に残る俺の残り香を嗅いで俺の枕をクリスタルの様な涙で濡らしている事だろうZE!」

「伸び伸びと生活している麻美ちゃんの姿が目に浮かぶね」

「オレもだ」

 まあ、やはり何だかんだ言って帰宅は嬉しいな。これは田舎が嫌いだとか、中二だから悪ぶって言っているというものではもうない。掛け値なしの感情である。

 その感情を自ら理解したうえで、この村の最後の一日を堪能せねばならない。それこそが大人の嗜みと言えるだろう。ではこの村の最後にふさわしい、堪能すべきものとは?それは天使。天使と言う名の少女。少女と言う名の天使。一人は皆の為に。皆は一人の為にである。そういうわけで村を発つまでに心行くまで塔子ちゃん達と戯れておかねばな。

「今日は雪合戦!!」

「あ、いいねえ。楽しみ楽しみ」

「これ、お真由、合戦を楽しみとは何事じゃ。合戦とは男達が守るべきものの為に己が命を懸けて戦う神聖且つ荘厳な場なのじゃぞ・・・・」

「ハッ・・・・これは、何とも軽率な事を。どうかお許し下さい、父上様」

「・・・・ふ、まあよい、お前にこんな説教をするのも、これが最後かもしれんしな・・・・」

「父上様・・・・」

「お真由・・・・」

「いざ」

「「出陣」」

 そう言って俺と真由美はシャキンと伸ばした右手をクロスさせた。

「かっかっか、何やってんだよお前達。本当に仲良しだよな」

 大笑いする範人。ここまでウけてくれるとやった甲斐があるというもの。

 子供は子供らしく遊ぶのが一番という事だ。楽しいだろうな。想像しただけでも最高だ。俺が投げる雪玉が塔子ちゃんに当たり、恵子ちゃんにも当たる。勿論楓ちゃんにもだ。素晴らしいね。逆もまた然り。塔子ちゃんが投げる雪玉が、恵子ちゃんの雪玉が、楓ちゃんの雪玉が俺に当たる。素晴らしい。おお、なんて最高なんだ。想像するだけでワクワクが止まらない!

 今日は日曜日だから学校も休みだし、一日中遊べる。

 一つだけ問題があると言うならば、今日の降雪量はここ何日かで一番だという事。いつもなら足首から上くらいまでの雪が、今日は膝から下くらいまでの位置にきている。だが、吹雪とまではいかないし、まあ視界が少々悪くなる程度で、外で遊べない程ではなかろう。いや、逆にこの足元の覚束なさと視界の悪さを利用して雪合戦のスリルを高めるポジティブシンキング。ひゅう!思わぬ肌と肌との接触、ハプニングなんてあっちゃったりして、むふふ。

「オレ達学校を休んでここ何日か遊びまくっている気がするなあ」

「まあ、たまにはいいよね」

 真由美と範人もここでの生活は気に入っている様だ。

 ちなみに今更どうでも良い事だろうけれど、範人への嘘は村に滞在して二日目あたりに白状した。真相を聞いた範人は「なんだ、それならそんな嘘つかなくてもオレに一言『お前の力が必要だ』と言ってくれたら、それだけで全てをかなぐり捨てて同行したのに」という最高に男前な言葉を放ち、一切俺達に腹を立てる事はなかった。その男前さに免じて着替えは俺のを貸してやっている。

「だがまあ、明後日には帰れるわけだからな」

「そうだな」

 いくら住み心地が良いと言ったって俺は基本的にはシティボーイ。文明の最先端でサイバーに生きる男だからな。この村の様な雰囲気は結局老後でいいわけさ。

「オレはまだまだこの村にいても構わんがね」

「は!信じられないヤツだね」

 俺は範人を呆れた顔で眺める。

「こんなに自然が残っている場所はそうそうないぞ。素晴らしいと思わんか」

 こいつは本気で言ってるからな。こういう中二もあるわけよ。斜に構え、悪ぶる傾向の中二に対をなす中二。素直に、第二次反抗期もなんのその、すくすくと心も体も育っていく中二。陽の中二。じゃあ俺はなんだ?陰の中二か?陰陽中二説か。

 陽の中二、谷崎範人。

 陰の中二、山之内徹。

 二人の勇者がこの村を救う・・・・。フフフ。何か格好良いね。

「『勇者』とか自分を非凡に捉える所なんて、世間一般的にはどちらかと言うと徹君の方が健全な中二って感じがするね」

「うるさいね」

 いい加減そう簡単に心を読むんじゃねえよ。


 という訳で俺達の足は当然の如く広場へと向かっている。家に呼びに行ったりはしない。彼女達は基本的に休みの日は朝から広場で遊んでいるのだ。なんとも健康的で喜ばしい事である。


 だが、予想は外れ。広場には誰もいなかった。

「あれ?」

「誰もいないね」

「そうだな」

 広場にぽつんと佇む我ら三人。

「塔子ちゃん達、一体どうしたんだ」

「この雪だからおうちにいるのかもしれないよ」

「確かにここ何日かでは一番降ってはいるが、遊べないわけでもないんだがな」

 俺も範人の意見に賛成だった。だが、広場にいないのは事実なわけで。俺達はしばらく塔子ちゃん達を待っていたが、来る気配がしない為、その場を離れた。

 道端で井戸端会議をしているおばちゃん達に声を掛ける。

「あら、範人君、こんにちは」

「どうも杉田さん、田中さん、中杉さん」

 勿論範人はおばちゃんにも人気だ。背は高いし顔も男前でそれでいてハキハキとした好少年だからな。

「どうしたの?」

「塔子ちゃん達見ませんでしたか?」

「そういえば、今日はまだ見てないね」

 近所で遊んでいるわけでもないようだ。

「村長ならさっき見かけたけどね。もう家の方に帰っていったけど」

「それはそうと奥さん聞いた?おかしな事が起きたって」

「あらなに」

「公民館のロウソクがなくなってたのよ」

「あらやだ。非常時にどうするの」

「そうなの新しいの買わなくちゃね。まだあったと思ってたんだけどねえ」

 俺達に構う事なく会議を再開するおばちゃん達。ロウソクね。ああそうか、実際は何とか送電線が渡っている程度の場所だからな。何かあった時には既にレッドゾーンなんだな。やっぱり田舎は大変だ。アニメを愛でている時にそんな事態が起きたら俺はショックで間違いなく死んでしまうであろう。まったく、田舎の村は命がけだ。

「あの、・・・・ハロウィンは?」

 俺は再び割り込んでみる。

「あらなにそれ?ズボンの銘柄の事?」

「それはエドウィン・・・・」

 思わずツッコんでしまった。嘘だろその返し。ハロウィン知らずにエドウィン知ってるおばちゃんって何だか凄いロックな感じだな。だが、「ズボンの銘柄」って・・・・。

 いや、今はそういう場合じゃない。

「ああ、そう言えば今思い出した。恵子ちゃんの家に塔子ちゃんと楓ちゃんが入って行くのを見たわね」

 それだよ。何で直ぐに思い出してくれないかね。まあ、いいや。

「恵子ちゃんの家なら、塔子ちゃんの家の裏手だな」

「じゃあ、一応塔子ちゃんの家を覗いてみて、それでいなかったら恵子ちゃんの家に行くか」

 そう言ってひとまず村長の家に行こうと決めた俺達。だが、恐るべしはおばちゃんパワー。

「芋食べない?」

「あ、芋持っていきなさい」

「芋、食べて。芋」

 何故だか突然、芋を薦めてくるのだ。何だ何だ、どうした?この村の伝染病「芋薦めたい症候群」か。そして、気が付いたら俺達のポケットは芋だらけだった。範人なんか芋人間みたいになってるし。せめてもっとバリエーションと軽量性に富んでいて欲しかった。ひょっとしてこの村に飴というアイテムは無いのか?

「やあ、山之内君」

 いつのまにか記者のおっさんが合流していた。一応おっさんにも聞いてみたが、当然、塔子ちゃん達を見てはいないとの事。流石石コロ。説明が二行で済む。

「じゃあ、家に行ってみ―――」

 と俺が言いかけたその時。


「きゃあああああああああ!!」


  村中に響き渡る程の大きな悲鳴が聞こえた。


 その声の持ち主を俺は一瞬で分かった。この声は、塔子ちゃん。うん、塔子ちゃんだ。間違いない。一体―――何事だ!!

「今のは――!!どこから聞こえた!?」

「こっち!!」

「こっちだ!!」

 真由美と範人が真っ先に走り出す。俺と記者のおっさんが後を追う。

 その方角は、今から俺達が向かう予定だった、村長の家。

 おばちゃん達には申し訳ないが芋は全部捨てた。非常事態だ。狭い村だ。走れば直ぐに村長の家が見えてきた。村の南外れにある。

 雪の上に村長の家に向かって伸びる一人分の足跡が点々とあった。誰か来ているのか?ん?足跡が一つ?

 ―――そんな古典ミステリみたいな、状況。

 一応この事を記憶に留め、俺達もその雪の上を踏みしめて玄関まで向かう。

「村長!塔子ちゃん!」とノックするが返事はないし、扉も開かない。

「窓は?」

「ダメだ!閉まっている」

 調べに行っていた範人が即答する。屋根に付いている天窓は―――ダメだ。高すぎて入れない。窓の外に何かがぶら下がっているのが見えるが、今はとにかく中に入らないと。

「裏口は?」

「時間が勿体ない。蹴破るぞ!」

「・・・・分かった。頼む!」

 躊躇している場合ではない。悲鳴は塔子ちゃんのものだったのだ。塔子ちゃんにもしもの事があったら大変だ。

 ばあん!と思い切り、扉を蹴破る範人。

 中に入る。

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

 息を呑む俺達四人。




 そこで、村長が死んでいた。




 ダイニングで村長は倒れていた。先日俺達が宴を開いてもらった場所だ。村長が言っていた通り、片付けはされていない。歓迎会の時の飾り付けのままだ。

 うつ伏せに倒れているのでしっかりとは見れないが表情は苦しそうに歪んでいる。唇は紫に変色して、口の端から気泡が垂れている。

 これは、毒・・・・?だな。そう考え真由美を見ると首を縦に振る。やはりそうか。その間に範人が俺の横を通り過ぎる。

「村長?大丈夫ですか、村長!」

「馬鹿、触る―――」

 止める間もなく村長の体に触れ、抱き起こそうとする。

「おいおい・・・・何だこれは?」

 範人に抱かれ、正面を向いた村長の体を見て、俺は思わず声を漏らす。

 顔は今述べた通り。口から泡を出し唇も変色している。毒殺の可能性が高い。だが、身体にも異変が見受けられる。

 村長の左腕の辺りに赤い染みが広がっている。これは、出血?更にその赤い染みで出来た円より一回り大きな円を描く様に衣服の袖周りがびしょびしょに濡れているのだ。これは・・・・水?

 そして、村長の体全体には紙屑が巻き付いている。周りには小さな円錐型の紙切れが何個か散らかっている。これは・・・・クラッカー?更には窓の外にぶら下がっている物体。


 おいおいおい、どういう状況だよこれ。


 一体何がどうなってんだ。


 訳が分からない。

 どういう事だよ。

 一旦落ち着こう。整理しないと。

 何が起きて、どうなったのか、考えろ。

 ・・・・ダメだ、分けが分からない。

 

 俺の思考が停止している内に、

「何だどうした」

「村長じゃないか」

「おい、まさか死んでいるのか」

「どうした」

「早く、医者と駐在を!」

 後ろから声が聞こえてきた。騒ぎを聞きつけ、村の人々が集まってきたのだ。


 俺は振り返った。





















――その時見た光景を俺は多分一生忘れないだろう。














 そこには村人のほぼ全員が集まっていた。 

 とは言っても200人程度だが、

 だが、

 だが―――次々と。

 そう次々と――。次から次へと。

 俺は見た。

 何をって?

 もう言わなくても分かるだろう?






































「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」「犯人」!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 その200人全員の額に「犯人」という文字が次々と浮かび上がってくるのを俺は見たのだ。


「おお、オリエント・・・・」

 気が付くと、俺は訳も分からずそう呟いてしまっていた。



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