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超越探偵 山之内徹  作者: 朱雀新吾
第三話 無能探偵のススメ
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無能探偵のススメ②

 そして俺達は歓迎会に招待された。

 村長の家は意外や意外、雪が降り積む辺境の村であるにも関わらず、洋風作りで、ペンションの様な外観だった。三角形の赤い屋根には小さな天窓がある。頂点から左に少しズレた位置に煙突が刺さっていた。

 おお、煙突だ。まるで漫画で見る様な家だな。

 中も予想に違わずペンション然とした構造である。玄関があってそこを上がると大きな正方形のダイニング。奥には台所や風呂場、トイレに続いているのであろう、通路があり、台所には裏口から外に出る為の扉が見えた。

 ダイニングはまるでパーティーの様にキラキラの折り紙の星や輪っかを繋げたあのお馴染みのヤツ(あれ名前なんていうんだ?「輪っかのメビウスみたいなヤツ」?)で色とりどりに飾られていた。今日の今日で、いつの間に用意したんだ。部屋の中心に置かれたテーブルには所狭しと料理の皿が並んでいる。それを見て俺は自分が空腹である事を自覚した。

 玄関で靴を脱いだら、クラッカーが鳴らされ、吹き出す細紙が俺達を包み込む。驚くべき事にくす玉まで用意されていて、クラッカーの次にその紐が引っ張られた。すると中からは「ようこそ川原真由美さん御一行」という垂れ幕が。おいおい、凄い歓迎モードだな。

「ようこそ皆さん。お待ちしていました。今日は楽しんでいって下さい」

 そして、そこで俺は天使を見た。村長の娘さん。名前は塔子ちゃん。うちの妹麻美子と同じ、小学校5年生。まあ、今が一番可愛い時期だ。女性として極めて脂の乗っている時期とも言えよう。肩にかかる程度のストレートショートが少しだけ内側に巻き込まれている、田舎娘とは思えないお洒落でトレンディな髪型。その艶やかな髪質は真由美とタメを張るクオリティだ。ちょっと垂れ目でニコッと笑う笑顔も健康的。あ、泣きぼくろだ。いいねえ。そして、礼儀正しい。村長がしっかり躾けをしてきた事が窺える。まあ、つまり、天使級に可愛いという事だ。うんうん可愛い。

 可愛いのだが、たった一つ、うちの麻美子と同学年というのが惜しかった。その時点で日本一可愛い小学5年生の称号を逃してしまう事となる。生まれてくる時代を間違えてしまったんだな。実に惜しい、塔子ちゃん。更には6年生になっても常に麻美子がランキングの隣にいるのでは、留年するしか方法はない。だが、まあ十分可愛い。うん、いいぞ。自信を持って!塔子ちゃん。

「適当に座ってください、皆さん」

「ああ、ありがとう」

 塔子ちゃんに礼を述べ、ダイニングに入った俺。

 すると、窓際の角に誰かが立っているのが目に入った。

 あれ、家族の方かな?それとも先客か?他に招かれている人がいたのか。

 とにかく、無視するのは失礼だな。俺はその人物に軽く会釈をしてみる。

「……」

 だが何の返事もない。ビクともしない。あれ?ひょっとして動作が小さ過ぎたかな。分からなかった?声を出して挨拶してみるか。

「どうも」

「……」

 これまた返事がない。うーん。声が小さ過ぎたかな。よし。もっとしっかり元気よく挨拶してみるか。

「どうもこんにちは!山之内徹です!超越探偵です!よろしくお願いします!」

「……」

 全然反応がない。ええー?結構快活に言ったのにな。顔もかなり白いし、ひょっとして外国の方なのかな?日本語じゃダメか。英語で大丈夫かな?

「Hello nice to meet you!! My name is Toru Yamanouchi!! I am a transcend detective!!」

「……」

 おいおいおい、こいつは一体どうなってやがんだ。嫌がらせか。人が挨拶してるのにことごとく丸無視って……。ん?何やら後ろの様子がおかしいな。どうしたんだ。

 俺が何事かと振り返ると真由美と範人が謎の人物を見て、指を差し、笑い転げているではないか。

「ふふふ、あははははははは!!ふふふ!」

「はっはっはっはははははははははははは!!」

 コイツら…………何て常識の無い奴等なんだ!

「お、おいお前ら。何初対面の人の顔を見て笑ってんだ!失礼だろうが!」

 俺はそれで全てを理解した……。

 後ろでこんな失礼な態度を取られたらそりゃあ腹が立って挨拶も返したくなくなるわけだ。

 俺は謎の人物に目を戻し、頭をペコペコ下げながらフォローを入れる。

「いやあ、すいませんね。本当に常識のないヤツらで。後でしっかり言っておきますからね」

「……」

 無言である。いやそりゃ怒るよ。俺だって絶対に怒るもんなこんなの。しかし真由美と範人は未だに笑い続けている。……これには俺も、我慢ならん!!

「お前ら!!さっきから何がそんなにおかしいんだ!!!」

 俺は二人を怒鳴りつける。

「はっはっはっはっはっはっはっは!!はあ……!!はははははは!」

「ふふふ……と、徹君……そ、その人」

 涙を流して笑いながら、尚も謎の人物を指差して笑う。

「この人の何がおかしいっていうんだ!!お前達はまったく。礼儀ってもんが……」

 そう言ってその人物をよく見てみたら、顔が白い布で出来ていた。

「え?」

 白い布に黒のマジックで顔が書かれていて、着ているトレーナーから藁がはみ出している。ズボンからは木の棒が二本突き出ている。首にはお馴染みのパーティー輪っかが掛けられている。まさか、これは……。

「……案山子?」

「ああ、それか」

 その時村長がタイミング良くダイニングに入ってきた。

「ああ、ほらこんな田舎村だろう?大体どこの家も畑や田んぼを持っているんだ。うちはもうこないだ稲刈りが終わったからね。家に帰ってきているんだ。顔は塔子が書いてくれたんだがな。私によく似ているだろう?」

「はあ……そうですか。ああ、そうですね」

 俺はなんとか適当な相槌を打つ事だけしか出来なかった。

 …………。

 …………。

 あの…………ボク死にたいんですけど。

「もう、徹君ってば、ふふふ」

「まったく、おっちょこちょいなヤツだなあトオルは。はっはっはっは!!」

「いやいや違う違う。案山子だって分かってたんだって。ほら、俺『オズの魔法使い』大好きだしさ?それにこの案山子は村長や塔子ちゃんにとって家族みたいなもんだから、だから挨拶しないとなって……ねえ?ちょっと、真由美ちゃん?範人君?聞いてる?」

 俺の説明も聞かずに二人は笑い転げる

 カタカタカタカタ……。

 そしてその様子を見ながら高スピードでタイピングするおっさん。……何メモってんだよ。やめてくれよ。

 そんな俺の超絶恥ずかしい失敗談から、宴は始まった。


 乾杯をして、料理に手を付け、談笑する。

「お父さん。お酒飲み過ぎだよ」

「いやあ、川原君と飲んでいるみたいでな」

 村長は飲むと更に輪をかけて上機嫌になった。テーブルに飾られた真由美の親父から貰った謎の東京タワーの置物を嬉しそうに眺める。だが、俺達は未成年。残念ながらお相手をしてあげるわけにはいかないのだ。

「大屋さん、どうですか、一杯?」

 村長が俺達の中での唯一の大人、記者のおっさんに声を掛ける。

「ああ、スイマセン。僕、お酒一滴も飲めないんです」

 はは、このおっさん、マジで石コロだな。いてもいなくてもいい存在。だが、無能刑事だったらガバガバ飲んで悪酔いして最後は吐いているだろう。アイツ最低だな本当に。現実ではなく只の俺の想像なのにムカムカしてきた。まあ、それに比べたら迷惑をかけない分やはり石コロに分はあると言った所か。

「あら、もうおつまみが空だ」

 空の皿をひっくり返し、そのまま台所に消えていく塔子ちゃん。甲斐甲斐しく働く少女。うーん、良いね。

 村長の家に入った時まず目に飛び込んできたテーブルに並んでいた料理の面々。あれらはなんと全て塔子ちゃんの手作りだったのだ。なんてこった。そして宴会が始まり、口にすると、それがどれもこれもハチャメチャに美味しいときた。部屋の飾りやくす玉、クラッカー等も塔子ちゃんが嬉々として準備したそうだ。少女の小さな体の中に隠されたキャパシティに俺は驚愕を覚えた。

「家内が他界してから小さいのに料理や家事をやる様になってね。母親が恋しいだろうに。それでもつらいとか寂しいとか言わなくてね。本当、僕には勿体ない娘だよ」

 のどかな田舎に父と子の二人暮らし。寄り添いあいながら幸せに生きる親子。

 おお……やばい、なんか泣きそうだ。

 と、隣を見たら範人が即効でおいおい泣いていた。全くコイツは。正義感が強くて涙もろい。昭和の主人公みたいなヤツだ。

「もう範平太くんったら」

 クスっと笑い、ハンカチを差し出す真由美。

「あ、ありがとうマユミちゃん」

「おっと、湿っぽい話をしてしまったかな。まあ、今日は楽しく、盛り上がろう」 

「はい!!」

 範人はもう村長と意気投合していた。確かにこの二人、気が合いそうだな。

 負けてたまるか、俺だって塔子ちゃんと意気投合を謀ってやるぜ!

 とナイスタイミングで新しいつまみを持ってきた塔子ちゃんに話しかける。

「ねえねえ塔子ちゃん。どんな鉛筆使ってんの?良かったら俺に見せて。見せて見せて見せてM☆I☆S☆E☆T☆E」

 ホットドッグボーイの異名を持つ俺は小学生の鉄板、文房具トークで塔子ちゃんとの打ち解けにかかるのだった。

 こうして、宴の夜は過ぎていった。


 次の日、俺達は早朝から村を発った。見送りには村長と塔子ちゃんが来てくれた。

「またいつでも来てくれていいからね」

「おにいちゃん、真由美ちゃん、探偵さん、記者さん、またね」

 昨晩あれだけ攻めに回ったのに、いつのまにか軍配は範人に下されていた。範人は「おにいちゃん」で俺は「探偵さん」。更に名前を呼ばれる序列も三番目。石コロより先でまだ良かったと思うべきか。それでも俺は一抹の寂しさを覚えた。一体いつになれば俺は少女から素直に「おにいちゃん」と呼ばれる日がくるのだろうか。探偵を辞めれば「おにいちゃん」と呼んでくれるのか。素直になれない少女達もその日が来るのを心待ちにしているのか。ああ、俺の心はこの村に降り積もる雪の様……。

「本当にありがとうございました」

「また来ますねー」

「ひゅううう!!塔子ちゃん最高!!L♪O♪V♪E♪T♪O♪K♪O」

「お世話になりました」

 序列順に別れを告げて、いざ出発!

 確かに寂しさはあるが、俺には家で録画されたアニメ達が待っているのだ。アニメ達を裏切る訳にはいかない。こうなったら後5日間は毎日アニメを観て過ごすしかない。だって俺はインフルエンザなのだ。学校に行けない苦しみを慰めるにはアニメを置いて他は無い。この際だ、『マクロス』シリーズを最初から見直そう。おお、そう考えたら、なんか楽しみになってきたぜ。

 前を向いて、一歩一歩突き進む。未来へと向かうその歩みは軽やかである。

 だが、そんな俺達は直ぐに驚愕の現実にぶち当たる事となった。そう、俺達に未来などなかったのだ。

 嫌な予感はしていたよな、確かに。そしてその嫌な予感は大体的中するものなのだ。

 というか、お約束?

 鉄の約束と書いて鉄則?

「橋が……ないね」

「……うん」

 昨日俺達が決死の思いで渡った吊橋が、なかった。

 実際には「壊れている」が正解か。こちら側、つまり村側の支えが何らかの事情で外れたか、切れたのだろう。遠い対岸に長い梯子が垂れているのが見える。

「……」

「……」

「……」

「……」

 そして俺達は終始無言で来た道を引き返した。


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