第六章 明日の明日のまた明日
「………君は、そういう風にも笑うのか」
「…え?」
「いや、なんだ…その、今までは薄気味悪い…感情の見えない笑みしか見たことがなかったからな。君も…一応は、人間なのかと…」
訝しげに一歩だけ歩み寄った議員の背を見ながら、ジェイは静かに微笑んでいた。
少しだけ見守って、それから、片手を差し出す。
ジェイの利き手である、右手。
一国の王が、利き手を貸して臣下を立たせる…
その挙動が示す事実は、一目瞭然だった。
議員たちは、諦めたように軽く左右に首を振り、改めて敬礼する。
「…信頼しておられるのですな、そやつを」
「ああ。この者がいなければ、この国は建たなかっただろう」
「…と、申しますと…?」
「矛盾の理由は後で話そう。今は情報操作に専念してくれ。お前たちは民意の動きに明るいはずだ。だからこそ託せる。此度の進軍における民の不安を、できるだけ少なく留めてほしい。お前たちならば、民意を上手く回せるだろう? 期待している」
「王…」
「シグルズ様…」
感嘆の声で応えた彼らの様子を、遠くから見守っていたエナは、小さく囁いた。
「……貴殿のような王がもし、そばに居たなら…リゲルも……」
そして頭を振ると、再び指揮へと戻ったアズロに視線を向ける。
(今は―――ここだけに)
後退りした兵の中には、場に踏みとどまる者も多く。
城内から様子見をしていたのか、噂を聞きつけたのか、一般能力兵たちも一人また一人と、どこからか加わって。
セレス史上初の、一般能力者・異能者連合部隊が大陣を成し、遥かヴァルドを見据えていた。