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第三章 水面に零れた一滴は


〜7.水面に零れた一滴は〜



 静まりかえった鍾乳洞の奥深くに、二つの足音が響いていた。


 腰ほどまである長い金髪の青年が、少し癖のある短い金髪を持った女性に呼び止められ、振り返る。


「本当に、続行する気なのか、リゲル?」


「エナ…」


「今ならまだ、何とかなる。今なら――…」


 縋るように女性が青年の片腕に添えた手を、青年は柔らかに解いた。


「既に進言済みだ。近々、あれも掘り出すことになるだろう」


「リゲル……」


「悪いな、エナ」


 困ったような、苦しいような笑みを浮かべて、青年は女性を抱き締めると、優しく口付ける。


 女性の背に回した右手に隠し持っていたものの先端を女性の背へと向けると、針のようなその先端を、ゆっくり皮膚へと刺し、薬草のような緑色をした液体を少量だけ注入した。


 違和感に気付いた女性はとっさに青年の腕を振り解いて距離をとったが、そのまま場に伏してしまう。


「リゲル……何を……」


 薄れゆく意識の中、力をふり絞って青年を見据えた女性に、青年は穏やかに微笑んだ。


「エナ…愛している」









ポツ、ポツ、ポタリ。

キン、キキン、コン。


 静かな洞穴に、透明な水音が響き渡る。


 小さく寝息を立てる女性を抱えた青年は、ふと、水の滴る頭上に目をやり、それから前方へと視線を戻して、鍾乳洞を後にした。





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