序章
◇序章◇
〜第1幕.遠い遠い空の下〜
「忘れ物はない?」
「うん、工具は全部持った。何度も確認したし、抜かりはないよ!」
「……携帯食料は、水筒は」
「あ!」
「はぁ…。リオのことだから、どうせそうだろうと思って持ってきたよ。はいこれ」
集落へと辿り着いた者を出迎えるように生い茂る数多の樹木の葉が、そっと風に擦れ合う静かな音を背に、淡い紫の肩までの髪を持つ少女はにっこりと笑った。
集落から一番近い…しかし歩けば二日ほどかかる距離がある隣街に向かって、延々と敷き詰められた石畳を背に、長い金髪の少年が微笑み返す。
少女の藍にも紫にも見える瞳は揺るぎなく少年を見つめ、少年の青い瞳も、普段と変わらず穏やかだった。
「隣街に出れば、そこからは楽よね」
「そだね、あそこからは交通の便もあるから」
「ここももうちょっと行き来がしやすくなればいいのに。…今だに徒歩か乗馬の手段しか無いなんて」
「仕方ないよアディ。ここ周辺に交通機関が敷かれないのは、ユーディアルの方針でもあるし……それに僕は嫌いじゃないよ、ここのこと」
「まぁ、それもそうね。私もなんだかんだ言ってもここは好きだし」
少年は少し離れた所で嘶いた栗毛の馬に、待たせてごめん、それから重たいけどごめんと小さく囁いた後で鞍を乗せ、鞍の右脇に工具袋の一つを緩衝材でくるんで、さらにその上から布を幾重にも巻いたものを括り付ける。
その後、左脇に少女からもらった数日分の固形食料と水筒を同じように括り付けた。
最後に少年自身が背に飛び乗ると、少女に向かって満面の笑みを浮かべる。
「…大丈夫。向こうに着いたらたくさん色々覚えて、便利道具を発明してみせるよ! 全面的に機械に頼るんじゃなくて、皆の作業の負担を少し減らせるような、支えになるようなもの。なるべく自然の素材を使って、弊害を抑えた……ここのやり方に合った、何かをさ」
「……」
「あ、そうだ。もし長い休みがあったら帰るけど、お土産何がいい?」