出会い
登場人物
勇者で師匠で魔術師の老人 ジン・ソーヤ (宗谷 仁 そうや じん)
4歳 → 13歳 ラグナス・ルイド (ラグ)
気が付くと、僕は瓦礫に埋もれていた。
うつ伏せになっていたけれど抜け出せることに気付く。
まだ幼児体型の足を踏ん張り、
瓦礫から外へ顔を出すと、母がその前で倒れていた。
「母さん」
慌てて瓦礫を避け這い上がり、母の近くに寄ると、既に事切れていた。
「母さん、母さん」
ぼろぼろと泣く僕には、母を生き返らせる力もなく何も出来ない。
それでも冷たくなっている母に縋るしかなかった。
「よお、坊主。オレと来るか?」
背後から、随分と歳を取った老人の声がした。
涙も鼻水も拭かず振り返ると、童話に出てきそうな白い髭の爺さんが俺を見下ろしている。
「誰?」
「オレか?オレはこの世界の世界一の魔術師」
ニヤリと笑う。その顔がいかにも気のいい老人だ。服装は、マントだが、
見え隠れしている装備(長剣とか)は、魔術師のものとは思えないもの。
僕は強そうな自信に溢れているオーラに、なんだか安心して爺さんに微笑んだ。
その老人の背後にいた精霊達だろう姿が数人と大きなドラゴンが笑っていた。
『ジン(仁)・ソーヤ(宗谷)、いつのまに魔術師になったんだ?』
『勇者は辞めたのか?』
くすくす笑われている。
「勇者は、こんな年寄りには無理、無理。今は魔術師に転職」
どうやら勝手に魔術師だと名乗ったようだ。
『知らなかったわ』
『主、いつの間に転職したんだ。われらに教えてくれ』
そんな楽しそうな会話を聞きながら、僕は爺さんと精霊達とドラゴンの輪に
入った。
「坊主の名は、ん~・・。ラグナス・ルイドか。4歳・・。クルティン村か」
僕の顔を見つつ、僕の情報を魔術師の爺さんは読みとる。
彼が言うには、相手の情報が分かる能力があるから、読めるそうだ。
「うん。ラグって言われてる」
『この村の子ですね』
精霊のひとりが、憐れむように手を自分の胸におく。
他の精霊達も悲しそうな顔をしている。
「ラグナス。いや、ラグ。お前の住んでいた村は、魔物に襲撃されてしまった。
覚えているか?」
爺さんの言葉に僕は頷く。
「父さんと母さんとお姉ちゃんと僕と夕食だった。隣のおじさんが扉を叩いてきて。
見張り役の人が魔物が5匹見たから、来てくれって」
ぐすっと鼻を啜る。
「母さんもお姉ちゃんも怖いから、地下の部屋にって言われた。
僕とお姉ちゃんが地下の部屋に入ると、突然突風が来て、それから知らない」
僕は、倒れている母さんへ視線を送ると、姉の存在を思い出した。
「お姉ちゃんは?」
大きなドラゴンが器用に足をかけて周辺の瓦礫を避けると、僕がいた場所から
少し離れた場所で埋もれて倒れている姉が見えた。
爺さんと僕と慌てて駆け寄ったが、息をしていなかった。
「うわああああ」
姉を抱きしめて大声を出す僕に、爺さんはずっと付き添ってくれた。
それから精霊達にも手伝ってもらい、
村の亡くなった人達を土に埋めた。
「ラグ。これからオレの言うことをよく聞いてくれ。
オレは、ここから300キロ離れた地、約束の森と言われるところに住んでいる。
この村には、急ぎの用が終わっての帰り道に、上空をドラゴンに乗って通り過ぎるところ、
異変を感じて立ち寄ったところだ。
つい先程、お前を見つける少し前の話だ。
上空からこの村を見て回ったが、お前以外、村で生き残っている人間の反応はなかった。
魔物の方だが、食事中だったところの5匹は向こうで炭にしてやった」
老人が、魔物を退治してくれた話に頷く。
「この村には、もう誰もいない。お前は、隣の村に行くか、オレと一緒に来るかの
2選択だが。お前はどうしたい?まだ4歳では、判断つかないかなあ」
僕に言い聞かせているのか、自分に自答しているのか分からないようなことを言い出した。
確かに僕は、4歳。だけど、この村の子は、魔物や生きていく為の手段を
1歳から必要としていて、言葉もなんとなく把握できた。
「世界一の魔術師に魔術を教えて欲しい」
僕は4歳で両親を殺されたことはショックだが、強くなりたい気持ちが芽生えていた。
「お前、小さいのに凄いな」
爺さんは苦笑しながら、僕の頭をポンポンと軽く愛しそうに叩くが、
誰かが一緒にいてくれる嬉しさともう村の誰もいなくなったという
事実の寂しさに涙を流し続けた。
それを爺さんは、マントの中に入れてくれて泣き止むまで抱きしめてくれた。
それが、僕と異世界から来た勇者で魔術師に転職した師匠との出会い。
僕ラグナス・ルイド4歳は、
異世界から来た勇者で現・魔術師 ジン・ソーヤの弟子になった。