天突く雷塔
ウトゥバン魔法国の人々は、正確な星詠みのために星詠峰すら見下ろす魔法の塔を築こうと考えた。それは星々の囁きを聞き取るための、壮大な祈りの場。だが、塔の建設は難航を極めた。石を積むための魔法陣は、熟練の魔導師たちでさえ解き明かせない難題を突きつけていた。
そんな中、立国以来の天才と謳われるアルレドが現れた。若き魔導師アルレドは、古びた教えを嘲笑うかのように、常識を覆す革新的な魔法陣を描いてみせた。それは浮遊と重力の魔法を大胆に融合させた、まさに天才の閃きと呼ぶにふさわしいものだった。
しかし熟練の石工バルドの目は、魔法陣に潜む危うさを見抜いた。バルドは赤黒い墨でそれを塗りつぶすと、アルレドへ突き返した。ひどい悪筆のサインを添えて。
激昂したアルレドは、バルドの些細な煽りにあっさり乗った。得意な魔法の使用を自ら禁じたアルレドは、汗と埃にまみれながら、自らの腕でのみと槌を振るう。意地になって続けるうち、アルレドには不思議な「石の声」が聴こえ始めた。のみを振るう度に、石は抵抗する。槌を打ち下ろす度に、石は応える。それは、机上で理論を練っているときには想像したことのない「対話」であった。
アルレドが石の扱いに慣れてきたある日、大地は突然咆哮した。未完成の塔は、嵐に翻弄される薄のように激しく揺れる。アルレドは魔法で塔を守ろうとするが、自然の猛威の前では全く無力であった。
その時、バルドが立ち上がる。雷鳴のごとく響き渡る怒号。自ら石と木材を自在に操って、弟子らを指揮しながら塔を補強していく。その姿はまるで、この国に語り継がれる“雷帝”の英雄譚のようだ。大地の揺れすら利用して跳ね上げられた石はみるみる積み上がり、塔は凛と背を伸ばす。
揺れる塔の頂で、雷斧は打たれた。それと同時に電霆が落ち、すべての石が固まった。
こうして魔法塔はついに、白亜の輝きを手に入れた。しかしバルドが再び姿を見せることはなかった。
アルレドは気乗りのしない祝宴から抜け出して、ぼんやりと塔を眺めていた。そんな彼のもとに、一通の祝辞が届けられる。
「書物に記されぬ知恵もまた、この世界には満ち溢れている。己の目で見て、手で触れ、心で感じよ。『バルディラン・アーダルベルト』」
それはかつて“雷帝”と呼ばれ、今も国を強固に守り続ける魔法障壁を築き上げた、誰もが知る英雄の名である。
赤墨で書かれた英雄の署名は、ひどい悪筆であった。




