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天突く雷塔

作者: 月岡ユウキ
掲載日:2026/03/12

 ウトゥバン魔法国の人々は、正確な星詠みのために星詠峰(テルミナ)すら見下ろす魔法の塔を築こうと考えた。それは星々の囁きを聞き取るための、壮大な祈りの場。だが、塔の建設は難航を極めた。石を積むための魔法陣(せっけいず)は、熟練の魔導師たちでさえ解き明かせない難題を突きつけていた。


 そんな中、立国以来の天才と謳われるアルレドが現れた。若き魔導師アルレドは、古びた教えを嘲笑うかのように、常識を覆す革新的な魔法陣を描いてみせた。それは浮遊と重力の魔法を大胆に融合させた、まさに天才の閃きと呼ぶにふさわしいものだった。


 しかし熟練の石工バルドの目は、魔法陣に潜む危うさを見抜いた。バルドは赤黒い墨でそれを塗りつぶすと、アルレドへ突き返した。ひどい悪筆のサインを添えて。


 激昂したアルレドは、バルドの些細な煽りにあっさり乗った。得意な魔法の使用を自ら禁じたアルレドは、汗と埃にまみれながら、自らの腕で()()と槌を振るう。意地になって続けるうち、アルレドには不思議な「石の声」が聴こえ始めた。のみを振るう度に、石は抵抗する。槌を打ち下ろす度に、石は応える。それは、机上で理論を練っているときには想像したことのない「対話」であった。


 アルレドが石の扱いに慣れてきたある日、大地は突然咆哮した。未完成の塔は、嵐に翻弄される(すすき)のように激しく揺れる。アルレドは魔法で塔を守ろうとするが、自然の猛威の前では全く無力であった。


 その時、バルドが立ち上がる。雷鳴のごとく響き渡る怒号。自ら石と木材を自在に操って、弟子らを指揮しながら塔を補強していく。その姿はまるで、この国に語り継がれる“雷帝”の英雄譚のようだ。大地の揺れすら利用して跳ね上げられた石はみるみる積み上がり、塔は凛と背を伸ばす。

 揺れる塔の頂で、雷斧は打たれた。それと同時に電霆(でんてい)が落ち、すべての石が固まった。


 こうして魔法塔はついに、白亜の輝きを手に入れた。しかしバルドが再び姿を見せることはなかった。


 アルレドは気乗りのしない祝宴から抜け出して、ぼんやりと塔を眺めていた。そんな彼のもとに、一通の祝辞が届けられる。


 「書物に記されぬ知恵もまた、この世界には満ち溢れている。己の目で見て、手で触れ、心で感じよ。『バルディラン・アーダルベルト』」


 それはかつて“雷帝”と呼ばれ、今も国を強固に守り続ける魔法障壁を築き上げた、誰もが知る英雄の名である。

 赤墨で書かれた英雄の署名は、ひどい悪筆であった。




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