第4話 それでも、笑っていてほしかった
朝の光が、森の隙間から差し込んでいた。
焚き火はすでに消えていて、
ミオは毛布にくるまったまま、静かに寝息を立てている。
アルドは、少し離れた場所で立っていた。
――監視対象。
――処分予定。
頭では、理解している。
それなのに。
(……無防備すぎる)
彼女の寝顔を見て、
胸の奥が、わずかに痛んだ。
理解不能な反応。
排除すべきノイズ。
それを、ただ見つめてしまう自分がいた。
⸻
「……あ」
ミオが目を覚ました。
一瞬きょとんとしたあと、
彼女は小さく笑った。
「おはようございます」
「……ああ」
短い返事。
それでも、彼女は気にしない。
「昨日、ちゃんと眠れました?」
「……問題ない」
「そっか。よかった」
それだけの会話。
なのに、
不思議と胸の奥が、温かい。
⸻
朝食代わりに、
アルドが仕留めた小動物を火にかける。
ミオは、その隣に座っていた。
「……アルドさんって」
「何だ」
「怖い人だと思ってました」
「……今は違うのか」
「はい」
即答だった。
「今は……
ちゃんと、ここにいる人だなって」
アルドは、返す言葉を失った。
(ここに、いる)
それは、
彼が今まで与えられたことのない評価だった。
⸻
食後、二人は森を歩いた。
ミオは、草花を見つけては立ち止まる。
「これ、綺麗ですね」
「……ただの花だ」
「でも、好きです」
理由は、言わない。
ただ、そう思ったから。
アルドは、その横顔を見ていた。
感情を持たないはずの心が、
なぜか静かに揺れている。
⸻
「……ミオ」
「はい?」
「君は……怖くないのか」
「何がですか?」
「この世界が」
彼女は、少し考えてから答えた。
「怖いです」
「……」
「でも、
誰かと一緒なら、
少しだけ平気になります」
そう言って、
ミオは微笑んだ。
その笑顔が――
胸に刺さった。
(……これ以上、知るべきじゃない)
アルドは、視線を逸らした。
⸻
その夜。
ミオが眠ったあと、
アルドはひとり、空を見上げていた。
星が、やけに多い。
そのとき。
カチリ。
空気が、切り替わる音。
⸻
【管理局・緊急通知】
執行官アルド
処分フェーズへの移行を確認
⸻
彼の視界に、
半透明の文字が浮かぶ。
【次回接触時】
【対象へ最終判断を通達せよ】
⸻
アルドは、目を閉じた。
(……明日)
その言葉だけが、
胸の奥で重く沈む。
眠るミオは、何も知らない。
それでも――
「……すまない」
誰にも聞こえない声で、
そう呟いた。
その夜、
世界は静かだった。
――嵐の前の、静けさとして。




