第3話 処分対象、レベル1
白い円卓の間。
そこに集められたのは、世界管理局の上位執行官たちだった。
「――議題に入る」
中央に立つ老執行官が、淡々と告げる。
「仕様外存在・識別名。
レベル1、非戦闘型。
だが、魔物の敵意を無効化する能力を確認」
空間に、映像が投影される。
草原で、レッドファングが伏せる場面。
「感情干渉型スキル……前例は?」
「ありません」
即答だった。
「世界は“感情”を数値化し、排除することで安定を保ってきた。
それを理解し、操作できる存在は――危険だ」
誰かが、静かに言った。
「……処分対象、ですね」
その言葉に、誰も反論しない。
⸻
「担当執行官、アルド」
呼ばれた名に、
壁際に立っていた青年が一歩前へ出る。
「報告を」
アルドは、表情を変えずに答えた。
「対象は、敵意を持たない。
また、こちらへの干渉行動も確認されていない」
「それは“今は”だろう?」
「……はい」
老執行官が、鋭く目を細める。
「では聞こう。
なぜ、即時処分を行わなかった?」
一瞬の沈黙。
ほんの、刹那。
「……判断が、遅れました」
その言葉が、室内に落ちた。
ざわ、と空気が揺れる。
「遅れた?」
「はい」
「理由は?」
アルドは、答えなかった。
⸻
映像が切り替わる。
ミオが、震えながらも魔物と向き合う姿。
そして――
彼に向けて、向けられたあの言葉。
『大丈夫。奪わない。傷つけない』
老執行官が、低く唸る。
「……感情干渉は、
執行官にも影響を与える、ということか」
「仮説の段階です」
別の執行官が言う。
「だが事実、アルド。
君は“揺れた”」
視線が集中する。
「感情を持たない君が、だ」
アルドは、拳をわずかに握った。
――胸の奥に残る、あの温度。
理解不能なはずのもの。
名前のない感覚。
「……対象ミオは」
アルドが、静かに口を開く。
「世界を壊す意思を、持っていません」
「意思の有無は関係ない」
老執行官が、冷たく言い放つ。
「存在そのものが、想定外だ」
そして、結論が下される。
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「執行官アルドに命ずる」
「仕様外存在を――
監視継続ののち、処分せよ」
⸻
会議は、そこで終わった。
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夜。
監視区域外の小さな野営地。
火のそばで、ミオは膝を抱えていた。
「……やっぱり、消されるのかな」
小さな声。
アルドは、少し離れた場所に立っている。
――命令は、絶対。
――感情は、不要。
そう、教えられてきた。
それなのに。
「……ミオ」
名を呼ぶ声が、わずかに揺れた。
彼女が顔を上げる。
「しばらく……俺のそばを離れるな」
「え?」
「それが、最も安全だ」
嘘ではない。
だが、真実でもない。
(――離したく、ない)
その理由を、
アルド自身が、まだ理解できずにいた。
遠くで、世界が低く軋む。
それは、
恋が生まれたことを、世界が検知した音だった。




