第2話 監視者は、感情を持たない
「――対象確認。
名前:ミオ。レベル1。仕様外スキル保持者」
低く、抑揚のない声だった。
突然現れた青年は、私を見下ろしたまま動かない。
敵意も、警戒も、好奇心すら感じない。
――まるで、感情が存在しないみたい。
「……誰、ですか?」
喉がひくりと鳴る。
逃げなきゃ、と思うのに足が動かない。
青年は淡々と答えた。
「世界管理局・執行官。
君の存在を監視するために来た」
「……監視?」
その言葉に、胸がざわつく。
【警告】
監視対象が確定しました
半透明の文字が、私と彼の間に浮かび上がる。
「私は……何か、悪いことをしましたか?」
自分でも驚くほど、小さな声だった。
執行官は一瞬だけ首を傾げる。
「悪い、という概念ではない。
君は――想定されていない」
その言葉が、胸に刺さった。
(あ……まただ)
不要。
想定外。
この世界でも、私は――。
無意識に俯いた、その瞬間。【スキル発動】
《観察》が強制起動しました
⸻
青年の“内側”が、視界に流れ込んでくる。
……何も、ない。
怒りも、喜びも、恐怖も。
ただ、冷たい白。
役割。
命令。
処理。
それだけで構成された心。
(この人……空っぽ……?)
思わず、口をついて出た。
「……寂しく、ないんですか?」
空気が、凍りついた。
執行官――アルドは、初めて瞬きをした。
「……その質問は、不要だ」
「でも……」
言葉を止められなかった。
「感情がないのに、
誰かを“消す”役目をするの、つらくないですか?」
沈黙。
風が草を揺らす音だけが響く。
⸻
【警告】
執行官アルド
感情反応:微弱
「……君は」
アルドが、私を見つめる。
「危険だ」
「え……?」
「そのスキルは、
人の内部に触れすぎる」
彼はそう言いながらも、
剣に手を伸ばさなかった。
それどころか。
「……理由は不明だが」
一歩、私から距離を取る。
「君を、今すぐ処分する判断ができない」
その言葉に、胸が跳ねた。
(処分……?)
怖い。
でも――
不思議と、逃げたいとは思わなかった。
「……じゃあ」
私は、彼を見上げて言った。
「少しだけ、
一緒にいてもいいですか?」
アルドは、はっきりと眉をひそめた。
「理解できない」
「私もです」
それでも、笑ってしまった。
「でも……あなたの心、
ここにあるって、わかるから」
彼の胸元を、そっと指さす。
その瞬間。
⸻
【世界アナウンス】
仕様外存在と執行官の接触を確認
監視レベルを引き上げます
アルドは小さく息を吸い、
そして――私の手首を、掴んだ。
強くない。
けれど、離さない力。
「……君を連れていく」
「どこへ?」
「監視が及ばない場所だ」
彼は、私を見て言った。
「それが、
今の俺にできる“最適解”だ」
その言葉の奥に、
ほんのわずかな――揺れを感じた。
(あ……)
これが、始まりだ。
世界を救う理由。
そして――
この人を、知ってしまった理由。




