第9話:奪還と覚醒
■ 鬼の謀議
沖田が血を吐き、死の淵を彷徨う隣の教室。
土方歳三は、静かに――しかし凄まじい手つきで、刀の下げ緒を締め直していた。
「……斎藤。この建物の地下に、将校どもが隠している“蔵”がある。
贅沢な食い物と、前線に送るはずの薬が眠っているそうだ」
「……」
斎藤一は無言で、腰の刀の重みを確かめる。
「軍医は“物資がない”と言ったが、あれは嘘だ。
この国の喉元を握っている連中だけが肥え太っている。
……総司を救うには、そこを叩くしかない」
土方の瞳には、京で法を犯す者を冷酷に処断した“鬼”の光が宿っていた。
もはや彼にとって、この時代の軍隊は
「国を守る盾」ではなく――
仲間の命を担保にする“敵”だった。
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■ 龍と虎の「布石」
廊下の闇から、武田信玄が歩み寄ってきた。
「……新選組。小癪な真似をするつもりか。
だがあの“蔵”、貴殿ら二人だけで挑めば、鉄の筒(銃)に蜂の巣にされるぞ」
土方が鋭く睨むが、信玄は不敵に笑い、
軍の警備配置図を広げて見せた。
「我らも、この“ショウワ”のやり口には飽き飽きしておる。
謙信がすでに裏の兵舎に“火”を放った。
注意が逸れた隙に、我が指し示す道を行け」
「……なぜ助ける。あんたらに何の得がある」
信玄は富士の山影を見つめ、低く答えた。
「得などない。
ただ、兵の命を蔑ろにする大将を、我は好かぬ。それだけよ。
……行け。戦国の理が、幕末の志を後押ししてやる」
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■ 「蔵」の襲撃
数分後。
基地裏で爆破音が響き、兵士たちが混乱する中――
土方と斎藤は地下の秘密倉庫へ突入した。
「止まれ! 貴様ら、何をしている!」
歩兵たちが銃を構える。
だが――
斎藤の「片手突き(かたてづき)」が火を噴いた。
銃声より早く、兵士たちの手から銃が叩き落とされ、
あるいは喉元に鞘の先がめり込む。
「そこを退け。……俺たちは、命をもらいに来た」
土方の和泉守兼定が電光のように走る。
鋼鉄の錠前が、一刀のもとに切断された。
扉が開く。
そこには――
軍医が「ない」と言い放ったはずのブドウ糖の瓶、
高級な缶詰、
西洋由来の新薬までもが、山のように積まれていた。
「……やっぱり、あったか」
土方の声が怒りに震える。
民衆が竹ヤリを持ち、少年兵が飢えている中で、
権力の奥底に座る者たちだけが、これを守っていたのだ。
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■ 英雄たちの離反
「貴様らぁッ! 何をしているッ!」
背後から少佐が怒号を上げる。
銃剣を構えた小隊がひしめいていた。
「それは帝国陸軍の資財だ! 反逆罪だぞ! 即刻射殺せ!」
絶体絶命――。
その瞬間、地下室の天井を突き破る衝撃。
上杉謙信が舞い降りた。
「……反逆、か。良き言葉よ」
白衣が風に舞い、
名刀・小豆長光が青白い閃光を放つ。
「民を飢えさせ、病人を捨て、己の欲を肥やす。
そのような者たちが守る国に、毘沙門天の加護はなし。
……我ら英雄、今日より貴殿らの“兵器”であることを辞める」
続いて、宮本武蔵が姿を現す。
奪った三八式歩兵銃を杖のように突き、愉快そうに笑った。
「面白いことになったな。
……土方、薬は取ったか? 取ったなら早く行け。
ここは俺たちが引き受けてやる」
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■ 夜明けの覚醒
土方は薬の瓶を懐に押し込み、斎藤とともに駆け出した。
背後では――
戦国最強の武将二人と、天下無双の剣豪が、
昭和の軍隊を“子供扱い”する圧倒的な武の乱舞を繰り広げていた。
「……待っていろ、総司」
泥濘を駆けながら、土方は確信していた。
自分たちが飛ばされたこの時代で、
救うべきは“国”ではなく――
目の前の“命”であること。
そしてそのためには、
この狂った時代の理不尽すべてを斬り伏せる必要があることを。
昭和19年、富士の麓。
英雄たちはついに――
日本軍という“鎖”を引き千切った。
(第9話・了)
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