最終話:諸行無常
■ 鋼鉄の落日
爆発音は、もはや音ですらなかった。
大和の最後部で起きた大爆発は、
巨大な火柱となって天を突き、
鋼鉄の城を真っ二つに引き裂いた。
「さらばだ、英雄たちよ。さらばだ、日本……」
艦長の呟きは、押し寄せる海水の轟音に消えた。
あれほど誇らしげに空を睨んでいた46センチ主砲が、
ゆっくりと、しかし抗いようのない速さで海中へ没していく。
上杉謙信が祈りを捧げ、
武田信玄が軍配を振るい、
新選組が駆け、
武蔵が立ち尽くしたあの甲板は――
今や冷たい波濤の下へと飲み込まれていった。
巨大な渦が、生き残った者も、死にゆく者も、
すべてを等しく深海へ引き摺り込む。
昭和20年4月7日、午後2時23分。
日本の誇りと、時代を超えた英雄たちの夢は、
北緯30度22分、東経128度04分――
その暗い海底へと沈んだ。
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■ 無常の響き
海面には、重油の黒い膜と砕けた木片、
そして数えきれない軍帽が漂っていた。
先ほどまでの狂騒が嘘のように、
風は止み、空はただ虚ろに広がっている。
場面は変わり、どこかの島の浜辺。
打ち寄せる波が、黒い重油と残骸を砂浜に吐き出していた。
その中には、もはや動かぬ“英雄”たちの姿があった。
赤備えの具足の欠片をまとった巨躯。
泥にまみれた白衣。
折れた木刀を握りしめたまま倒れる男。
そこへ、陽気な音楽とともに米軍のジープが乗り付ける。
勝利の熱気に酔った若い米兵たちが降りてきて、
口々にジョークを飛ばし、大声で笑い合った。
「Hey, look at this mess!(ひでえ有様だな!)」
「That was a turkey shoot, huh?(七面鳥撃ちみたいなもんだったな)」
一人の米兵が、邪魔そうに足元の遺体を跨ぐ。
別の兵は仲間と談笑を続ける。
そこには、死者への敬意も、戦いの美学も存在しなかった。
ただ、勝者の無邪気で残酷な笑い声だけが、
浜辺に響いていた。
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■ 諸行無常
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
「でもこれがリアルでしょ」
完
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