第13話:大和搭乗
■ 鋼鉄の威容
昭和19年、呉軍港。
英雄たちは、重油と鉄の匂いが立ち込める桟橋を渡り、
ついにその巨大な舷側へと足を踏み入れた。
見上げるほどの鋼鉄の壁。
彼らを受け入れるのは、帝国海軍の誇り――戦艦大和。
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「……よくぞ来られた、諸君」
艦上で迎えたのは、白の軍服に身を包んだ艦長。
伝説の名を冠する者たちを狂人と笑わず、
一人の武人として敬礼で迎えた。
「この大和は、もはや単なる船ではない。
この国の最後の一滴だ。
貴殿らの力を、この巨大な鋼に貸していただきたい」
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■ 将の器、龍と虎
武田信玄は艦橋へ続く複雑な構造物を一瞥し、
どっかと甲板に足を据えた。
「……軍師、そして将としての目は時代を超えても曇らぬ。
艦長、この“浮く城”の配置図、そして海図をすべて出せ。
戦略はこの信玄が預かる」
信玄の声には、数万の兵を動かしてきた者だけが持つ
圧倒的な支配力が宿っていた。
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その横で、上杉謙信が白衣をなびかせ、艦首を見つめる。
「戦略は信玄に任せる。
だが、敵陣を切り裂く一閃が必要ならば、我が毘沙門天の旗を掲げよう。
この大和そのものを一振りの名刀とし、敵の心臓部へ突き立ててみせようぞ」
謙信の瞳には、死を恐れぬ純粋な闘志が宿っていた。
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■ 剣の極致と守護の誓い
宮本武蔵は、巨大な46センチ主砲の影で海を眺めていた。
「……鉄が飛ぶ戦に、剣など無用と思うたか。
だが、道具を動かすは人の心よ。
心折れし者が操る鉄など、ただのゴミに等しい」
武蔵は木刀を軽く叩き、不敵に笑う。
「剣は、真に必要な時にのみ振るう。
それまでは、この鉄の山に腰を据え、死神の機嫌でも伺うとしよう」
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甲板の中央には、土方歳三・斎藤一・沖田総司。
互いに背を預けるように立つ三人。
「……俺たちは軍略も海戦も知らねえ。
だが、この船に乗り込む若い水兵たちが絶望に背を向けるのは許さねえ。
俺たちの仕事は、仲間を守ることだ」
土方の言葉に、斎藤が無言で頷き、
沖田が澄んだ笑顔で続けた。
「僕も……みんなを守ります」
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■ 甲板に立つ英雄たち
「……抜錨!」
艦長の号令とともに、巨大な錨が巻き上げられる。
大和の心臓が、地響きのような唸りを上げ始めた。
広大な一番甲板に、時代を異にする英雄たちが横一列に並ぶ。
幕末の志士。
戦国の大名。
天下無双の剣豪。
彼らの視線の先には、
燃えるような夕陽に染まる大海原と、避けられぬ滅びの運命。
だが――
大和の重厚な船体は、彼らという“魂”を得たことで、
もはや単なる兵器ではなかった。
神話の怪異のような力強さを放ち始めていた。
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「……さて、歴史の終わりを、この目で見届けるとするか」
土方の呟きとともに、
戦艦大和はゆっくりと、しかし力強く、呉の海を滑り出した。
(第13話・了)
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