第12話:決戦仕様戦艦大和、完成
■ 鋼の「島」の報
「……決戦仕様が完成しただと?」
土方歳三は、少佐が差し出した電文を奪うようにして眺めた。
そこには軍の最高機密――「呉」の地名と、ある巨大造形物の名が記されていた。
英雄たちが軍と共闘の姿勢を見せたことで、
軍上層部はこの“異能の集団”を、日本海軍の象徴・戦艦「大和」の最終決戦に組み込むことを決めたのだ。
「貴様らがどんなに剣に優れていようと、これを見れば認識が変わるはずだ。
……これこそが、この国の、いや、人類が造り得た最強の“力”だ」
少佐の声には、狂信的な誇りと、哀れなほどの縋りつきが混じっていた。
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■ 呉、鉄の咆哮
軍用列車に揺られ、英雄たちが辿り着いたのは夜の帳に包まれた呉軍港。
湿った海風が吹き抜ける中、
彼らは巨大なドックを見下ろす高台に立った。
「……何だ、あれは」
最初に声を漏らしたのは斎藤一。
幕末、黒船や甲鉄艦(ストーンウォール号)を見てきた彼らでさえ、
目の前の光景は“船”という概念を根底から覆すものだった。
月光に照らされ、暗い海に浮かび上がる鋼鉄の山脈。
全長263メートル。
海面を圧するように鎮座する巨大な船体は、周囲の街並みすら小さく見せる。
無数の探照灯が、その鋼の肌を白く照らしていた。
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■ 英雄たちの沈黙
「……あれが、人の手で造ったものだと言うのか」
上杉謙信が、数珠を握る手を止めた。
「城が……城が海に浮いておる。
毘沙門天の御加護があろうとも、あのような怪物を切り崩す術など、この世にあろうか」
武田信玄は、黙って巨大な46センチ主砲を見上げていた。
かつて種子島の火縄銃に驚愕し、それを戦術に組み込んだ男にとって、
大和の主砲はもはや兵器ではなく――“神の怒り”そのものだった。
「……謙信よ。我らが戦っていたのは人と人であった。
だが、この時代の戦は……人と、あの“鉄の神”との戦いなのだな」
信玄の声は低く震えていた。
一国を支えるだけの鉄。
万人の命を飲み込むだけの火薬。
それらが一つの場所に集約された狂気。
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■ 武蔵の直感
宮本武蔵は、一人だけドックの縁まで歩み寄り、
冷たい鋼鉄の肌に手を触れた。
「……ほう。抜かりない仕事だ」
だが、その指先には鋼鉄の冷たさだけでなく、
この巨大な船に注ぎ込まれた数百万の民の汗と、
いずれ訪れる悲劇の予感が伝わってきていた。
「これほど大きく、重いものを造らねばならぬほど……
この時代の“心”は追い詰められておるのか」
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■ “戦いの舞台”の決定
土方の背後で、眠そうな目をこすりながら沖田総司が歩み寄ってきた。
「……土方さん。あの船……なんだか、とても悲しい音がします」
「……ああ」
土方は和泉守兼定の柄を固く握りしめた。
昭和19年。
日本軍に残された最後の切り札。
この巨大な鋼鉄の塊が向かう先――
そこが、英雄たちが己の命を燃やし尽くすべき“最後の戦場”になることを、全員が直感していた。
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「少佐。……あれに乗れと言うんだな」
土方が振り返り、少佐を射抜くような目で見つめる。
「ああ。あの船の甲板こそが、貴様ら英雄が歴史の終焉を飾る、最高の舞台だ」
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大和。
その名が冠された、史上最大にして最後の盾。
英雄たちは、自らの意志で――
その巨大な“死地”へと乗り込むことを決意した。
(第12話・了)
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