第11話:虎と龍、共闘を決意
■ 武蔵の語る「理」
「……この時代の将らは、道具の使い方を間違えておる」
月明かりさえ届かない校舎の隅。
宮本武蔵は、壁に立てかけられた三八式歩兵銃を眺めながら静かに語り出した。
「これ(銃)は確かに遠くから命を奪える。
だが、それは“殺す理”であって、“守る理”ではない。
心なき者が持てば、ただ人を無為に死なせるだけの無機質な棒きれだ」
武蔵の鋭い視線が、闇に佇む武田信玄と上杉謙信を射抜く。
「そなたら、この時代の軍を“巨大な力”として見ておったろう。
だが、この数日で見えたはずだ。奴らは巨大なだけで、中身は空っぽよ。
……この“理”が崩れた時代に、真の“芯”を通せるのは、もはや我らしかおらん」
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■ 新選組の放つ「情」
その時、教室の奥から土方歳三と斎藤一が歩み寄ってきた。
土方の腕には、ようやく安らかな寝息を立て始めた沖田総司が、毛布に包まれて抱えられている。
「……武蔵の言う通りだ」
土方の声は低く、しかし熱を帯びていた。
「俺は組織というものを見てきた。
法で縛り、“誠”の旗の下に命を懸けてきた。
だが、あいつら(軍)がやっているのは、法でも誠でもねえ。……ただの“使い捨て”だ」
土方の“情”――
一人の仲間を救うために国を敵に回したその剥き出しの執念は、
かつて数万の兵を率いた信玄と謙信の心を激しく揺さぶっていた。
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■ 沖田の生還という「灯」
「……土方、さん」
土方の腕の中で、沖田が微かに目を開けた。
その瞳には、死の淵を覗いた者だけが持つ、透き通るような光が宿っている。
「……僕、まだ、斬れます。
……この時代の、冷たい風を、斬らなきゃ……いけない気が、するんです」
病み上がりとは思えない剣気。
沖田の生還――
それは歴史という巨大な歯車が、英雄たちの意志によって“逆回転”を始めた証だった。
本来なら死ぬはずだった男が、生きている。
その事実が、英雄たちに確信を与えた。
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■ 虎と龍、ついに動く
武田信玄が、どっかと腰を下ろしていた椅子から立ち上がる。
「……謙信よ。もはや、見定めは終わったな」
上杉謙信もまた、静かに数珠を懐に収め、愛刀の柄を握り直した。
「応。毘沙門天の導きは、もはや迷いなし。
……信玄、貴殿と背中を合わせる日が、このような不浄の地で訪れようとはな」
「くかっ、違いない!
だが、あの新選組という若造や、剣客の無頼に、戦のなんたるかを教えねばならぬ」
信玄は、土方が奪った軍の配置図を指一本でなぞる。
「軍は我らを“道具”として次の戦地へ送り込むつもりだろう。
……だが、行く先は我らが決める」
信玄の声が低く響く。
「この国を滅ぼす敵。
そして、この国を内から腐らせる病根。
……そのすべてを、我ら六人の“武”で叩き潰してやろうぞ」
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■ 共闘の誓い
土方は沖田を斎藤に預け、信玄と謙信の前に歩み出た。
「……話が早くて助かる。
俺たちは誰の下にもつかねえ。
……だが、この時代をぶち壊すためなら、あんたら“伝説”とも手を組んでやる」
武蔵が愉快そうに鼻を鳴らす。
「……面白い。虎に龍に、狼(新選組)か。
……地獄の底のような昭和の冬も、これで少しは賑やかになりそうだな」
暗い教室の中――
時代を異にする英雄たちが、ついに一つの“軍勢”となった。
昭和19年。
日本軍という鎖を解き放った彼らは、もはや誰の兵器でもない。
自らの意志で戦う“守護者”たちが、
富士の裾野から、滅びゆく日本を逆転させるための第一歩を踏み出そうとしていた。
(第11話・了)
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