第七話 常用魔法
登場人物
主人公 神村攷
厨二病なヒロイン 誓野明
まともなヒロイン 西宮朋子
バカな親友 近藤テツ(こんどうてつ)
魔導馬車の運転手 キルアス
天才魔道士 アリア・ストレイスト
誤字脱字等々ありましたら教えていただけると嬉しいです。把握次第修正致しますので。
第七話 常用魔法
13種類を、ひとまず全部確認してみるか。
・身体強化
・魔力強化
・思考強化
・魔力探知
・錬成
・物質粉砕
・魔法粉砕
・平面防御魔法
・立体防御魔法
・物質変換
・魔力弾
・魔力噴出
・簡易鑑定
……なるほど。応用はともかく、俺が使えるのは上の4つ。気になるのは2種類の防御魔法と物質変換。そしていかにも便利そうな簡易鑑定。
とりあえず、立体より平面が先そうなので、平面防御魔法を覚えることにした。
『平面防御魔法は、魔法粉砕で簡単に破壊できるため、防御としての機能をほぼ果たしません。魔法粉砕を属性魔法や魔力弾に付与するのが基本なためです。』
防御魔法の意味とは……
『なので、多くは空中の足場を作る際に平面防御魔法を使用します。』
足場か。なるほど、それなら探索で使えそうだな。足元が悪かった時に使えたり、川を渡ったりできるのは大きい。
『防御魔法は物質錬成と似ていますが、物質ではなく魔力をかためるイメージです。自然魔法の方がやりやすいですが、体内魔法でも、体内の魔力を集め、固めて板にするイメージで使うことが出来ます。』
自然魔法……それをできるようにしてからな気がしてきたが、とりあえずやってみよう。
「集めて固めて板に……」
目の前にぽんと丸い板が浮かんだ。これか。黄色く半透明なガラスのようだが、油のような波打つ模様がある。叩くとコンコンという硬い音がした。
大きさや形も簡単に変えられるし、疲れないな。使いやすいのはありがたい。もしかして、これを立体にすると、立体防御魔法になったりするのか?
『立体防御魔法は、平面防御魔法を立体にしたものです。球とするのが最も難しく、強度を均一に保つのが難しいので、込める魔力を多めにして、そこから徐々に減らしていくと良いでしょう。立体防御魔法は、危険な特性を持っている液体や気体の運搬などに利用できます。』
なるほど。使いやすさが上がったガラスのようなイメージだな。これは便利だ。球にも簡単に出来たし、俺が覚えた4つは、比較的難しいものだったのかもしれない。
次覚えたいのは簡易鑑定だな。物質変換は、探索ではあまり使わなさそうだし、こちらを優先するか。
『簡易鑑定は、この13種の中で最も難しい魔法です。目に魔力を込め、鑑定したいものと魔力の繋がりを作るイメージですると、ものの情報を知ることができます。目に魔力を込めすぎると失明する危険があるため、慎重に行ってください。』
なるほどな?とりあえず、俺の筆箱を鑑定してみることにしよう。目に魔力を少し込め、繋がりを……作るのが難しいな。魔力探知を少しだけ使って、筆箱の魔力を感じ取りながらやってみるか。
一時間ほどやり続けていると、急に筆箱の情報が頭に流れてきた。商品名、材質、機能、今入っているもの……などの情報だ。これは簡易鑑定なのか?凄く詳細に鑑定出来ている気もするが、俺が知っているものだからかもしれないな。部屋の花瓶を鑑定してみるか。
名称 模様入りの花瓶
材質 物質錬成によって作り出された魔力物質
機能 水を入れて植物を育てる。植物成長補助0.23%が付与されている。
花瓶は、名前と材質と機能が分かったな。作った人とかも分かりそうだったが、頭の中で消えてしまった。使い続けていれば制度が上がって、分かるようになるかもしれない。
その後4時間ほどかけて、13種類全ての魔法を使えるようになった。簡易鑑定を先にやったせいか、他の魔法がかなり簡単に感じた。魔力噴出や魔力弾を防御魔法で防ぐことが出来たし、割と使えているのではないだろうか。
まだ夕方まで2時間くらいある。この時間で、中級者用をどこまで進められるかだな。
俺は本を開いた。
『この中級者用を手に取ったと言うことは、常用魔法を複数マスターし、属性魔法や補助魔法に手を出そうとしているか、既に属性魔法を覚えたということでしょう。』
正解だな。
『属性魔法や補助魔法の使い方は、本で教えられるものではありません。なので今回は中級者向けの、魔法の使い方、応用についてです。』
まさに俺が欲していたものだ。常用魔法を使えるようになったとはいえ、こういう基礎的な魔法は応用が醍醐味だからな。
『まずは魔法の同時発動です。組み合わせて発動しなければならない魔法は、同時に発動した方が勿論早く発動することが出来ます。常用魔法だと、魔力探知が思考強化や魔力強化と組み合わせて使うものです。』
魔法の同時発動か!上級テクニックなのかと思っていたが、中級レベルなんだな。だがありがたい。これができるだけで相当違うだろう。
『初心者用で、魔力の種を作ったと思います。魔力の種を、ふたつ同時に作ってみてください。体内魔法であれば、血液をふたつの場所に分けて集める感覚です。両手に作るのが最もやりやすいでしょう。』
両手同時にか。魔力の種を作るのは、ひとつでもかなり集中する必要がある。5分ほどで、ふたつ同時に安定して魔力の種を作れるようになった。
『ふたつ同時に、安定して作れれば、おそらくふたつ同時に魔法を既に発動できる状態です。』
やってみるか。
魔力強化から、思考強化と魔力探知を同時に発動!
順番にやった時と同じくらいの範囲を探知することに成功した。思考強化を発動している時間が減ったので、前より負担が少ない。
『最低3つ、出来れば10個ほどの魔力の種を作ることが出来れば、同時発動をマスターしたと言えるでしょう。自慢ですが、私は同時に1285369223個の魔力の種を作ることができました。1285369224個目で、私は安定しなくなってしまったので、ぜひ私の記録を越せるよう頑張ってください。』
12億8000万個……?ということは、アリア・ストレイストは、12億8000万種類の魔法を同時に発動できるということか。とんでもないな。
俺はとりあえず、10個を目指すか。
30分程で10個の魔力の種を安定して作ることに成功したが、少し欲張って13個の魔力の種を作ることができるようになった。これでだいたいアリア・ストレイストの100000000分の1だな。
でも65年前に引きこもったということは、これは65年以上前の記録ということか。
『次の応用は、魔法の付与です。』
魔法の付与……確か防御魔法をやっている時に、魔法粉砕を付与するのが常識と書いてあったな。これは常識レベルの応用なのか。
『魔法付与は同時発動ができていれば、ほぼ確実にすることができます。魔力弾や魔力噴出に、魔法粉砕を付与してみましょう。同時発動をすると、おそらく魔力弾や魔法噴出が粉砕されてしまいます。それは同時発動しているだけで、組み合わさっていないためです。今までは感覚で魔法を使っていたと思いますが、ここからは少し学術的に魔法を使っていくことになります。魔力弾や魔力噴出の魔法陣に、魔法粉砕の魔法陣を組み入れるのです。』
魔法陣?そんなもの、今までに出てきていないな。体内にあるということか?自然魔法であれば、見ることができるのかもしれないな。
『魔法陣は、体内魔法の場合、体内に存在しています。今までのイメージだと、流す血液を混ぜるイメージで行えば付与をすることができるでしょうが、魔法陣を思い浮かべ、その中に魔法陣を組み入れるイメージで付与をした方が、今後が楽になります。』
体内に魔法陣があるイメージか。実際に体内に存在しているのであれば、イメージはできるはずだ。とりあえずやってみよう。
魔法陣は式みたいなものだと思う事にしよう。そうすれば、俺は上手く組み合わせられるはずだ。その予想は当たり、上手く魔力弾に魔法粉砕を付与することができた。
平面防御魔法を同時発動して、付与した魔力弾を当ててみると、ガラスのようにバラバラに砕け散った。
「これが基礎……なんだよな。」
とりあえずスタートラインには立てた、という事だろうか。次は魔力弾に、魔法粉砕だけでなく物質粉砕も付与してみるか。こういう組み合わせの応用技が、基礎的な物を強く使う秘訣だ。
一度こういうことを始めると楽しくなってしまい、13種の常用魔法を組み合わせ、汎用性が高そうな組み合わせから、絶対に使わないようなマニアックなものまで作ってしまった。
「……こうなると、もっと常用魔法を覚えたくなるな。」
13種では足りない気がしてならない。常用魔法全集とかあったら助かるが……
そんなことを考え、魔法にどハマりしていた時、コンコンと部屋がノックされた。
「誰だ?」
「我だ!もう皆戻ってきたからな。情報を共有するためだ、早く降りてこい!」
「ああ。」
俺はドアを開けて、明と一緒に例のギルドの食堂らしき場所に向かった。あそこと宿屋が、俺たちの集合場所になりつつある。
「で、どうだったの?」
「無事に、この国全体の詳細な地図をゲットした。」
「ナイス!私たちは特に収穫なかったけど、街の北側にあるお店とか、色々把握出来たよ。」
中々ありがたいな。まだここに来たばかりだし、ここは拠点にするつもりだったし、街で具体的に何が出来るのか把握するのは、できるだけ早い方がいい。
「俺たちも、南側散策すれば良かったな。」
「そうだな……目先の楽しさに、目がくらんでしまった……。」
「そっちは何してたの?」
「地図はすぐに入手出来たから、宿に戻って魔法の練習をしていたんだ。」
「魔法!?もうそこなの!?どこで魔法覚えられるの?教えてもらわないといけないんじゃ……」
「あー、えっとな……」
俺はギルドの魔法屋のことを教え、アリア・ストレイストの本をおすすめした。魔法の原理は、俺が教えるよりも自分で学んだ方がいいだろう。
「明日から扉を探すことになるが、東カンブリム大森林に近い、このタニス村ってとこに一時的に移動したほうがいいと思う。」
俺はキルアスにもらった地図を広げた。この地図には、小さな冒険者ギルドがある。と書かれている。それなら、一時的に移っても依頼でお金を稼いだり出来る。
「いいんじゃない?少し火山側だから、探すルートと一致するし。」
「我も、地図を見た時からここが良いと思っていたのだ!さすがだな。褒めてやろう。」
「明に褒められてもな……」
「みんながそう言ってるなら多分そうなんだな!俺も賛成だ!」
自分の意見を持っていないバカは置いておいて、とりあえず知性がある2人に賛成を貰えたので、ここに移ることにした。
「タニス村へ移る前に、西宮とテツは魔法屋で本を買っておいた方がいいと思うぞ。常用魔法はかなり便利だからな。」
「常用魔法……なるほどね。なんとなく分かった。」
「わからん!!!」
「あー。もうテツは筋トレでもしてろ。」
「わかった!!!」
明日からが不安だ……。明がどこまで常用魔法を使えるようになっているのか分からないし、西宮は今からだとできて常用魔法を数個覚える程度だろう。テツはもうなんとかなるだろ。
西宮は魔法屋へ行き、テツは筋トレのために宿屋へ戻った。俺と明だけになったので丁度いい。
「明。今どのくらいまで常用魔法使える?」
「身体強化、魔力強化、思考強化を極め、魔力探知をひたすらやっていた。ここギフトスの街の半分ほどを探知できるようになったぞ。」
「マジか!?」
魔力探知って、俺が使うと宿屋の周りくらいでもキツい。明には魔力探知の才能があったのか。それとも、いずれは全ての魔王をそのクオリティで出来るようになるのか……
「貴様はどうだ?」
「俺は、常用魔法を13種類覚えて、13個の同時発動と、魔法の付与が同時に3つまでできるようになったぞ。」
「なんというか、目指す方向が正反対だ……我はひとつずつ極めて、貴様は全体的に積み上げていっている。」
「目指す先は、全ての魔法を上手く使えるようになることだし、その過程が違うだけだろ。」
「……そうだな。」
俺たちは、しばらく魔法の使い方や解釈について伝え合った。考え方が違うおかげか、色々と学ぶものがある。
「魔力ってどう認識してる?俺は本にあった通り、血液と同じイメージで扱ってる。」
「我は、魔力は魔力として認識できるようにやっている。まだその領域まで達していないがな。」
魔力を魔力として認識する……か。多分、それができたら一番いいんだろうな。