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第六話 アリア・ストレイスト

登場人物

主人公 神村攷かみむらこう

厨二病なヒロイン 誓野明ちかのめい

まともなヒロイン 西宮朋子にしみやともこ

バカな親友 近藤テツ(こんどうてつ)

魔導馬車の運転手 キルアス

天才魔道士 アリア・ストレイスト


誤字脱字等々ありましたら教えていただけると嬉しいです。把握次第修正致しますので。

第六話 アリア・ストレイスト

 宿に戻った俺達は、明日の朝にまた食堂で集合することになり、それぞれの部屋へ戻ることになった。


「さて……これからどうしたもんか……」


 やわらかなベッドに腰掛けて、大きめのため息をこぼす。長老スライムが言っていた、常用魔法の習得もしたい。ギルドって、確か夜間のトラブルに備えるために24時間営業だったよな。ありがたいことに、この世界も一日24時間で、今は夜10時30分。今から出かけるには遅い。


「……でも今やっといた方がいいよなぁ」


 この世界の治安も心配だし、何より今日は疲れた。明日は東カンブリム大森林を探し回る。早めに寝ておくのが吉。


「でも常用魔法の中に便利なやつがあったら……」


……行くか。多分無いよりあった方がいい。


 音を立てないように、ゆっくりと部屋の扉を開くと、何故か目の前に明が立っていた。


「ふぇっ!?」

「でかい声出すなよ。」

「あっ……あ、ああ、そうだな……」

「なんでここにいるんだよ。」

「ちょっとトイレに……」

「トイレは反対方向だろ。」

「……」


 明は何がしたかったんだ?まあいい。俺は常用魔法をひとつでも多く使えるようになっておきたい。早めに行かないとまずい。


「どこにいくの……?」

「常用魔法を覚えにいく。」

「ああ、長老スライムが言っていたやつか!」

「そうだ。森の中を探し回る時に、役に立つ魔法があるかもしれないからな。」

「なるほど……ならば!我も同行しよう。我ひとりでは……治安の心配があるからな。」

「……好きにしてくれ。」


 そうして、俺と明はふたりで宿を出た。やはり電灯はなく、日本の夜道よりは少し暗く感じる。だが魔法灯らしき照明があり、暗くて先が見えないという訳でもなかった。空を見上げると、元いた世界の10倍は大きい月のような天体が見える。この月も、夜の大きな照明になっているのだろう。

 宿から冒険者ギルドは近い。特にトラブルもなく、冒険者ギルドへ着いた。ギルド内は静かだったが、まだ数人残っているようだ。勉強している人や、机に突っ伏して寝ている人もいる。


「魔法屋は……」


魔法屋は、ギルドの隅に本屋のような風貌で佇んでいた。魔法感がない。通りで最初見つけられなかった訳だ。


「さて……どれにしようか。」


どうやら魔法書のようなものを購入して、魔法を覚えるらしい。どれもなかなかの値段だ。薬草の依頼分の報酬と、スライムの素材の報酬を足しても、1人1200シアン。ざっと市場を見た限り、1シアンは10円ほどだ。魔法書は、平均で1冊300シアンぐらいだ。元々持っていた金を使ったとしても、多くは買えないな。


「明も好きなのを選べ。」

「分かった。」


とりあえず俺は『初心者用・魔法基礎大全』

 (450シアン)と『基礎常用魔法13選』(350シアン)を買うことにした。

帰り道、特に何も無かったので、治安はそこそこ良さそうだ。

明は俺の右に並んでいる。


「別に隣に並ばなくてもいいだろ。」

「貴様の後ろを歩くなどありえん。」

「なんでだよ。」

「ありえんからだ。」


理由になってねぇ。

明は淡々と、それが当たり前かのように答えた。

俺達はそのまま互いの部屋へ戻った。

部屋についている時計だと、今は10時54分。一、二時間は練習できそうか?

とりあえず、『初心者用・魔法基礎大全』を読むか。


『魔法は主に3種類に分けられる。常用魔法と、属性魔法と、補助魔法の3種類だ。属性魔法と一部の補助魔法は、選ばれた生物にしか使うことが出来ない。

逆に、常用魔法と一部の補助魔法は、コツさえ掴めば誰でも使うことが出来る。』


……なるほど。自転車の運転みたいなものということか?コツの掴み方を是非(ぜひ)教えて欲しいものだな。


『魔法は、主に2種類の使い方に分けることが出来る。そこらじゅうに存在している自然魔力と、あなたの体内にある体内魔力のどちらを使うかだ。体内魔力には個人差があるので、大体は自然魔力を利用する。自然魔力を使った魔法(自然魔法)は、体内魔力を消費しないので、発動者への負担が少ないのが利点だが、体内魔力を利用した魔法(体内魔法)に比べて発動が遅い。そのため、戦闘魔法では体内魔力を利用することが多い。』


俺達には体内魔力がありそうな気もするな。この本には体内魔法のやり方は載っているのか……?


『自然魔法は、手のひらに空気を集める感覚で行う。センスのある人であれば、この説明だけで魔法を使用出来る。』


ちょっとやってみるか。

右手に力を込め、空気を集めるイメージで……


「……出来ないな。」


俺には魔法のセンスがないらしい。


『今の説明でできなかった人も、座禅を組み、集中して体内の魔力を感じ取れば、魔法を使用することが出来る。座禅を組み目を閉じて、心臓から流れる血液とともに、流れる魔力を感じ取り、その流れを手のひらなどに集めるイメージ。これで出来れば、あなたは自然魔法より体内魔法の方が向いています。』


心臓から流れる血液のように……か。

俺は目を閉じて集中し、15分ほど手のひらに力を送り続けた。

すると、俺の手のひらにかすかな光がともった。


「なんだこれ……!」


すごいな。これが魔法……いや魔力の塊か?しかし、今まで全く知らなかったものをたったの15分で使えるようになるとは。非常にわかりやすい例えだった。この本を書いたのは誰だ……?


『制作著作 アリア・ストレイスト』


……知らないな。


『もしあなたの手のひらに、光のたまのようなものが出てくれば、大成功です。一度出来てしまえば、何度でも、自由にその光を出すことが出来ます。その光は魔法の基礎。自然魔法か体内魔法のどちらかでそれを生み出せた人は、次の本に移ってください。』


次の本……?まずいな。続きを買った覚えがない。ここから先には、さっきの説明で出来なかった人用の説明が書かれていた。1回別の本に移ってもよさそうだ。


ひとまず『初心者用・魔法基礎大全』を閉じて、『基礎常用魔法13選』を読んでみることにした。


『常用魔法の中でも特によく使われるものを13種類厳選しました。この13種類の魔法を全て使いこなすことが出来れば、あなたは立派な魔法使いです。』


前書きにはそんなことが書いてあった。13種類全てを今夜習得するのは無理だろうから、森の探索で使えそうなのを厳選するか。

1ページ目には、『身体強化』とあった。


「これは必須だろうな……」


2ページ目には『魔力探知』とある。


「これも必須だろ……」

「……」


もしかしなくても、ここに書いてある魔法は必須級のものしかないのか?そうなんだろうな。


「……とりあえず身体強化覚えるか。」


戦闘になった時、武器がない俺たちは身体能力に頼るしかない。その部分を底上げ出来るのは生存率に直結するだろう。


『身体強化は魔力を強化したい部位に流し、魔力によって筋肉を補佐、強化する魔法のことです。体内魔力を血液のように筋肉へ送れば身体強化を使うことが出来ます。魔力の種を生み出せている人は、すぐにできるでしょう。全身への身体強化は、魔力の消費が激しいので、部分身体強化を使いこなしましょう。』


魔力の種?さっきの魔力の塊のことか。体内魔法の方がやっぱり色々といいんだろうな。自然魔法より先にやり方が書いてある。

血液を筋肉に流すイメージ。さっきと似た感じだったからか、一発成功してしまった。腕に魔法をかけて、部屋についていた花瓶(中身なし)を持ち上げてみる。


「……思ってたより軽いな。」


そこそこ大きな花瓶だが、筆箱より軽い。魔法を解いて持ち上げてみると、1キロはありそうだった。これは便利だな。

次は魔力探知だな。身体強化よりも難しそうだ。


『魔力探知は、魔力を感じる範囲を広げるものです。体内の魔力を認識出来ていれば、体外の魔力を認識することは難しくありません。血管を空気中に広げていくイメージで、少しの魔力をその広げた血管に送ってみましょう。すると、あなたの魔力が周りにある魔力とぶつかります。慣れると広げた血管はあなたの体と同じように扱うことが出来ます。そうなれば、手に取るように周りの状況を知ることが出来ます。広い範囲には一瞬だけ広げ、魔力の消費を抑えることをおすすめします。広げ過ぎると、脳が情報を処理しきれなくなるので、思考強化と併用することをおすすめします。』


思考強化?魔力探知の基礎が出来たらやってみるか。血管を空気中に広げるイメージで……


「あ、出来た。」


部屋の中が、目を閉じていても見える。見えるというか、感覚で分かるな。なるほど不思議な感覚だ。これが魔力探知か。

次ページに思考強化があったので、脳に魔力を送るイメージで習得した。


「広い範囲で魔力探知してみるか。」


思考強化!

魔力探知!


宿全てを魔力探知してみた。うおおすげえ。一気に情報が頭の中に入ってくる。これは普通の脳だと神経細胞が焼き切れるな。明は魔力の種を作っていたな。よし、俺の方が進んでいそうだ。テツは寝ている。西宮はナイフを綺麗にしてるな。

宿内を探知出来れば、森でもそれなりに役立つはずだ。

次は物質錬成……?面白そうだがパスだな。森の中で物質錬成をしても、恩恵が少なそうだからな。

次は、物質粉砕……。いやそうじゃないんだよな。もっと回復系の魔法とか、さっきの身体強化系の魔法が使いたい。身体強化系はともかく、回復系は難易度が高そうだし、この本には載っていないかもしれない。


次ページを開いてみると、魔力上昇とあった。身体強化と違って、魔法にバフがかかるものか。魔力探知と組み合わせれば、より広範囲を探知できるようになるかもしれない。やるか。


『魔力上昇は、一時的にあなたの魔力量と魔力制御能力を底上げする魔法です。魔力制御能力上昇に特化させた魔力上昇を、魔力制御上昇と呼ぶこともあります。魔力制御上昇は難易度が高い魔法のため、次ページにやり方を詳細に書いています。魔力上昇は、体に魔力を流すうえで重要な心臓のイメージを爆発させる。つまり、あなたの鼓動を早くするイメージで行います。本来の鼓動と違い、心臓のイメージの鼓動は操ることが可能です。勿論鼓動を遅くして、消費魔力を抑えることも可能です。鼓動を無理やり早くするようなものなので、身体への負担は他の常用魔法に比べて遥かに大きいです。』


拍動を早くするイメージか。段々と魔法の使い方、イメージのしかたが分かってきた。これはいけるな。

一度魔力上昇を使って、魔力探知をしてみるか。


思考強化!

魔力上昇!


魔力探知!!!


ぶわっと宿と周辺半径100メートルほどの情報が頭に入ってくる。俺は鼻血を出しかけた。

魔力上昇を使ってから、思考強化をするべきだったか。なるほど、魔法って奥深いな。魔力上昇は思ったよりも体力を持っていったので、残りの魔法はいったん置いておき、今日は寝ることにした。まあ今週中には13種類全て使いこなせるようにしたいな。




次の日の朝。俺は集合となっていた食堂に行った。まだ西宮しか到着していないな。


「おはよう!」

「おう、おはよう。」

「森の扉ってどうやって探すか決めた?」

「四人固まって探した方が安全だろうな。森で手分けは、通信で映像とか音声を送れるようになってからだな。」

「えっ通信とかできるの?」


西宮の疑問は最もだが、元いた世界と同じ電力とか金属さえあればできなくはない。通信魔法とかがあれば便利だけどな。


「扉を全員で探すとしても白色の扉としか情報がないしな。地図を確認したけど大体縦800km、横が500kmで面積40000k㎡。北海道の半分ぐらいの大きさだ。簡単に見つかるとは思わない方がいいな。」

「北海道の半分!?」


西宮は驚いた!というのを通り越して、目を見開いてにやにやしている。朝風呂でもしてきたのか、ほんのり石鹸と女子の匂いがしてきた。

この宿にはなんと大衆浴場がある。それを考えると本当に破格の宿代だ。大衆浴場は男湯、女湯、そして奥に混浴の大浴場がある。

ふと浴場の入口を見ると、朝風呂を終えたテツがちょうど出てきた。


「テツも朝風呂してたのか。」

「も?」

「いやなんでもない。朝風呂してたんだな。」


西宮が聞いてきたが、なんとか誤魔化した。西宮の表情から疑問は消えなかったが、これ以上深掘りされることはなかった。


「あとは明だけだな。」

「明がいちばん遅いとかめずらいしな!」

「いっつも、私か明が最初だもんね。」


きっと明は昨日の夜遅くまで魔法の練習をしていたのだろう。睡眠が大切なことくらい、明は分かってるはずなんだがな。

気長に待つことにするかと椅子に深めに座ったら、タイミング悪く明が階段から転げ落ちるように降りてきた。


「はあっ……はあっ……」

「遅刻してる訳でもないし、そんなに急がなくても……」

「短い廊下だろうに、スタミナねえな。」

「はあ……うるさいっ!」


スタミナが無いことは本人も自覚しているのか、うるさいと言いつつ反省顔だ。顔に出やすいのは分かりやすくて助かる。


「で……森のどこから探すの……?」

「とりあえず森の奥側。森が途切れる川沿いに探して、そこから手前に移動する。」


東カンブリム大森林は、北の火山から流れる温水の川で東側を囲まれている。そこから手前、つまりこっちの街側に探していけばいい。縦に潰していくイメージだ。奥から終わらせた方が、後半探すのに飽きてきた頃に、帰宅に必要な時間が減る。


「奥側っていっても、そこに行くまでにすごく時間がかかりそう……」

「そうだな。ここじゃなくて、森の近くに拠点を置いておきたいところだ。」

「森の近くに村でもあればいいんだけど……」

「地図には、それらしい村は無いな。」

「村のひとつくらいありそうなものだが……」

「元いた世界と違って、地図に何でも描いてあるって訳じゃないだろう。聞き込みでもしてみるか?」

「賛成だ!聞き込みなら得意だからな!」

「情報が無い以上、そうするしかないだろう。賛成だ!」

「私も賛成かな。」


テツや西宮はともかく、明はしぶると思ってたんだが、見当違いだったらしい。嬉しい誤算だ。


「流石に四人で聞き込みは効率悪いな。安全性も考えて、二人組がちょうどいいか。」

「我は攷と行くぞ!」

「なんでだよ。」

「悪いか?」

「別にそういう訳じゃないけども……」


明は厨二病的な笑みにつつまれている。こいつは本当に何がしたいんだ?別に俺にばっかり付きまとわなくてもいいだろ。


「じゃあ私はテツとだね。」

「西宮とか!心強いな!」

「それほどでもある?」

「ある!!!」

「そ、そう!」


西宮は高校に入ってからテツと知り合ったからな。テツの勢いに押されがちだ。元の性格が控えめなのもありそうだな。明には対応出来ているし、慣れてないだけかもしれないが。


「俺たちは街の南側をやるから、西宮たちは北をやってもらえるか?」

「任された!」

「任せた。よし、行くぞ明。」

「ふん」


明は小さく息を鳴らしてうなずいた。


「出たは良いがどうする?とりあえず魔導馬車の集まってる街の出入り口あたりに行くか?情報が集まっていそうだしな。」

「魔導馬車の運転手ならきっと国中を駆け回っているだろう。わたっ……我らが先に情報を手に入れて、全てを終わらせるか!」

「競走じゃないんだぞ。」

「競走だろう!」

「ちげえよ。」

 

ゆっくりと歩きながら、いつものテンションで会話をする。死んでから、こんなに生産性のない会話をすることになるとはな。

明の独り言に付き合っていると、魔導馬車が待機している、ギフトスの街の入り口が見えてきた。石造りの城壁に、アーチ型の大きな門がついている。いかにも西洋の城壁という感じだ。


「この辺りで聞き込みだな。」

「攷!あれって……」

「何?……あ。」

「お前らは、昨日のスライムハンターじゃないか!他のふたりはどうしたんだ?」


昨日の魔導馬車の運転手と偶然再会した。だが都合がいい。この人は経験がありそうだし、小さな村や町に詳しいかもしれない。


「東カンブリム大森林の近くに、村や町が無いか確かめたくてな。ギルドの地図には何も載ってなくて、困っていたんだ。」

「あのふたりは、今頃街の北側へ向かっている頃だ。手分けして聞き込みすることにしたんだ。」

「それは……あのふたり、運が無かったな。俺はこの王国の詳細な地図を持ってる。せっかくだし、お前たちに譲ってもいいぜ?」

「本当か!?」


譲って貰えるなら本当にありがたいぞ。


「ほらよ。」


運転手はまるめられたA4ぐらいの大きさの紙を渡してくれた。開いてみると、手書きで小さな村や、目印となる特徴的な木や岩などが細かく描かれていた。


「こんなに凝った地図、本当に貰ってもいいのか?」

「ああ。それは俺が暇な時に描いた模写なんだ。本物は、俺がちゃんと持ってる。それは予備だったからな。物を大切にする、俺みたいなやつにはいらない。」


ひらりと高級そうな紙をちらつかせた。古そうな紙ではあるが、かなり保存状態がよさそうだ。確かに大切に扱っているらしい。


「地図をやる代わりに、ここを出発する時は是非とも俺の魔導馬車に乗ってくれよ?」

「そうさせてもらうよ。」

「ありがてえ!」

「あんた達は常連になってくれるだろうし、自己紹介をしておくよ。俺はキルアス。魔導馬車の運転手をやってる。この大陸を転々としてきたから、地理には自信があるぜ。これからも、よろしく頼む!」

「俺は神村攷。冒険者だ。ここに来たばかりで、何かと世話になると思うが、よろしく頼む。」

「……というか、運転手って言い方合ってたんだな。なにか別の、騎手みたいな言い方をするかと思っていた。」

「確かに言われてみれば、運転手と言うのは不自然かもしれんな……」


明は自己紹介をせずに、キルアスに疑問の視線を向けた。


「あー、聞いたことあるぐらいの不確かな情報なんだが、魔導馬車を作った『アリア・ストレイスト』さんが、これは車みたいなものだから、運転手と呼ぶ。って言ったらしい。」

「アリア・ストレイスト?」

「知らないのか?王国が誇る天才魔導師だぜ?国から何個か称号まで貰ってる。」

 

いや知ってる。魔法の初歩の、あの本の作者だ。分かりやすい例えだったし、魔法についてかなり詳しい人物だろうとは思っていたが、国を代表するような魔導師だったのか……


「90年前の、このギフトスの街があるスラスト平野を取った戦争は、アリア・ストレイストがいなければ負けていたって言われてるくらいだ。」

「昨日少し言っていたことか。」


隣の帝国が、攻めてくるかもしれないという話の中で、ここの王国が、元々帝国領だった土地を奪い取ったから攻めてこようとしている……という。


「このスラスト平野は、大陸で最も大きい森な、東カンブリム大森林の3倍は大きい、超巨大な平地なんだ。どんな国でも欲しがる土地だよ。」


東カンブリム大森林の3倍ということは、北海道の1.5倍の平地。平地としてはかなり大きいな。アメリカの平地、プレーリーの半分くらいか?


「スラスト平野は、超真っ平らなんだ。材料は火山や東カンブリム大森林から何でも取ってこれるから、でかい建物でも何でも作り放題。海にも面してるし、ここにはマジで何でもある。」


なんでもある……か。この街に何か問題があったりしたら、別の場所に移住することも考えていたが、その必要は無いか?


「真っ平らで、魔導馬車で爆走出来るから、ここから離れるなんてもう考えられない。俺はずっとこの街を拠点にする。」

「制限速度は守れよ?」

「当たり前だろ。俺は、このゴールド免許を失う訳にはいかねえ。一文無しになっちまうからな。」


キルアスは魔導馬車の免許証らしきカードを取り出した。ちゃん免許もあるのか。しっかりしてるな。長年やっててゴールド免許らしいし、安心できるな。


「じゃあ、また来るよ。移動する時は、よろしく頼んだ。地図ありがとう。」

「おうよ!またな!」


俺は一瞬で地図と情報と安心できる移動手段を手に入れてしまった。これ以上無いほど順調だ。

なんだか明がおとなしいが……まあいつものことだ。キルアスの性格的に、明もすぐに慣れるだろう。


「また人見知り発動してたな。」

「してな……いとは言えんな。恥ずかしい限りだ。」

「恥ずかしくは無いだろ。」

「……そういうこと、パッと言うタイプだったか?」

「そうだとも思うけど、違ったか?」


明が顔を覗き込んできた。気がついたら隣にいるし、どういうことだよ。キルアスと別れた時には、俺の後ろにいたじゃねえかよ。


「違ったというか……貴様はもっと共感性の無い人間かと思っていた。」

「貴様って呼ぶのやめた方がいいぞ?」

「いいだろう別に!中学からずっとこうだろう……」

「それがおかしいんだよ。」


明は中学の頃からずっと俺の事を貴様と呼び続けている。


「い、嫌か?」

「別に。変な呼び方だなーとは、いつも思ってたけどな。」

「そうか!ならずっと貴様と呼び続けてやろう!」

「変な呼び方だってことは自覚しろよ? 」


明はなんだか嬉しそうな表情を浮かべて、にこやかに笑った。全く曇りのない、かわいい笑顔だ。


馬車から宿屋までは案外近く、すぐに着いてしまった。夕方までは、まだかなりの時間がある。


「どうしようか。俺は部屋で魔法の練習の続きをしたいところなんだけど、明はどうだ?」

「我も、ちょうど魔法の練習をしたかったところだ!まだ魔力の種を作っただけなのでな。」

「遅くね?」

「失礼な!我は自然魔法と体内魔法のどちらでも魔力の種を作れるように練習していたのだ。1時間はかかったが、無事成功した!」

「それは凄いな。俺は体内魔法しか出来なかった。代わりに、応用の常用魔法を何個か習得したぞ。身体強化と思考強化と魔力上昇と魔力探知だな。」

「覚えすぎではないか!?くっ……先を越されているな……。こうしてはいられない!今日中に全ての常用魔法を習得してやる!」


明はダッシュで部屋に駆け込んで行った。

さて、俺はどうしたらいいか。明と同じく、部屋に駆け込んで行ってもいいが、少し気になることがあるんだよな。

『アリア・ストレイスト』が書いた本。きっと、あの一冊だけでは無いはずだ。俺が買ったのは初心者用だったから、中級者用があれば最高だな。きっと、どんな本よりも魔法を覚えやすいはずだ。


俺は昨日と同じようにギルドへ向かった。昼間だからか、昨日とは違う道のように感じる。


ギルドに入ると、なんだか騒がしい。夜より昼の方が騒がしいのは当たり前だが、初めてギルドに入った時よりもかなり騒がしい。おしゃべりが多いというよりも、緊急事態の時の騒がしさだ。


「何かあったんですか?」


さすがに騒がしすぎるので、近くの冒険者に聞いてみることにした。


「知らないのか?アリア・ストレイストが戻ってくるんだ。」

「戻ってくる?」

「ああ。アリア・ストレイストは、不老魔法を開発してからずっとどこかに引きこもっていて、消息が不明になっていたんだが、さっきギルドマスターと面会したらしい。」


不老魔法……とんでもない魔法だな。病気や怪我をしなければ、不死ということになる。長い時間引きこもるためには必須の魔法だな。


「面会?」

「内容はギルドマスターが伏せているんだが……あのアリア・ストレイストが人前に姿を現すなんて65年振りなんだよ。」


65年も引きこもっていたのか。一体どれだけ魔法の技術を進歩させたんだ?65年前には、既に不老魔法を使える領域にいたんだよな……。


「面会の内容は何だったのか、ギルドはその話題で持ちきりだ。」

「なるほどな。それでこんなに騒がしいのか。教えてくれてありがとう。」

「おうよ。」


アリア・ストレイストか。気にならないわけでは無いが、はっきり言って今の俺達には関係無い。初級の魔法もまだまともに扱えないのに、アリア・ストレイストに会っても意味が無いはずだ。

俺は魔法屋で『中級者用・魔法大全』を購入し、宿に戻った。


……さて。中級者用を買ったはいいものの、まだ13種の魔法を覚えきれてない。先にそこからだよな。



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