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第四話 一条一家殺人事件

登場人物

主人公 神村攷かみむらこう

厨二病なヒロイン 誓野明ちかのめい

まともなヒロイン 西宮朋子にしみやともこ

バカな親友 近藤テツ(こんどうてつ)

魔導馬車の運転手

一条蘭


誤字脱字等々ありましたら教えていただけると嬉しいです。把握次第修正致しますので。

第四話 一条一家殺人事件

「と、言いますと?」

「さっき君たちがいた、東カンブリム大森林を超えると、ジクロル帝国があるんだ。その国が、ここと戦争しようとしているらしい。」

「やばいじゃん!」

「目的は?」


 戦争をするとなると、国単位で大きな損失が出る。それに見合う対価が無ければ、戦争なんてそうそうしない。


「今いるスラスト平原は、元々帝国領だったんだ。でも、90年前くらいに、当時小国だった王国が、この平原をまるまる侵略したんだ。」

「その領土を取り返すために戦争を……」

「何か条約とか、そういうのは結んでいないのか?」

「いや、ちゃんと終結した戦争だ。200年は平和にやろうということになっている。」


 200年分も平和条約を結ぶなんて、そうそう無い話だ。もともと破るつもりで結んだものだったのかもな。

 それにしても明が静かだな。いつもはもっとうるさいんだが。


「明、どうかしたか?」

「……酔った。」

「は!?先に言えよ!全く。すまん、少し休憩してもいいか?」

「勿論だ。こまめに休憩を挟んだ方が、馬も速く走れるからな。」


 明が回復するまで、平原で少し休むことになった。低い草に覆われた地面は、高校の人工芝の何倍もふかふかだ。


「この草気持ちいいね……」


 西宮は、早々に寝っ転がってくつろいでいる。無防備だ。


「ここ寝る所じゃないだろ。」

「いいじゃん、ちょっとくらい。」

「土で汚れても知らんぞ。」


 とは言っても、このふかふかには抗えない。俺もいつの間にか横になっていた。芝の長さが丁度いいのか、土はほとんど付かない。


「明も、回復体位(かいふくたいい)(右腹を下にして横に少し丸くなる姿勢)になった方がいいぞ。」

「……分かってる。」


 元気無いな。まあ乗り物酔いしてるんだから仕方ない。そっとしておくか。


「あー、ねみぃ!!!」

「じゃあ寝ろよ。」

「それじゃあ退屈じゃんか。」

「じゃあ起きてろよ」

「それじゃあすぐに眠くなるよ。」

「なんか目が覚めるような面白い話してくれ!」

「そんな急に言われてもな……」


 俺は面白い話をパッと思いつける程の発想力と知識は持ち合わせていない。


「じゃあ、私が話してあげようか?」

「まじで!?聞きたい!!!」

「明の邪魔にならないくらいの声量でな。」

「我も聞きたい。」

「寝てろよ。」

「嫌でも聞こえてくるだろう。こんなの。」

「それもそうか。」


 明も酔っているだけで、割と元気なんだな。この話が終わる頃には、回復しているだろう。


「じゃ、話すね?」

「50年程前の話。勿論転生前の世界。伝説的な殺人鬼がいた。」

「殺人鬼!?」

「そりゃまた物騒な。」

「たったひとりで、138名殺害し、負傷者が300人以上。当時の警察に大きな被害をもたらした。」

「じゃあ殺された138名は、ほとんど警察官ってことか。」

「そうだね。134名の警察官が殺されたよ。」

「残りの4人は誰なんだ?」

「犯人の家族だよ。」


 当たり前のように、凶悪な事件を話す西宮に若干恐怖を覚えつつも、純粋に続きが気になる。


「一家殺人事件から始まったってことか?」

「そういうこと。この事件の始まりは、一条(いちじょう)一家殺人事件。両親と、長男、長女、次女の、五人家族だった。」

「でも、殺されたのは四人……」


何となく予想がついた。


「そう。事件の犯人かつ、伝説的な殺人鬼となったのは、次女の一条(らん)。当時10歳だったかな?」

「10歳!?」

「どうやって、そんな事をやり遂げたんだ?」


 10歳って事は、小学校4年生くらいだよな。そんな少女に、138人も殺害できるとは思えない。


「そこだよね。それが、この事件が伝説的な理由。」

「一条一家殺人事件は、包丁での刺殺や撲殺だったから分かりやすくて、すぐに犯人が特定出来たんだけど、肝心の一条蘭が、全く見つからなかったんだよね。」

「でもそれは局地的な捜査で、全国に広めようと警察が動き始めたところで、とんでもない事になるんだよ。」

「とんでもない事・・・?」


 10歳の少女が、親や兄妹の殺害に成功している時点でとんでもない。局地的とはいえ、警察の捜査でも見つけられないなんて、相当すばしっこいのか?


「そう。一条一家殺人事件についての情報が書かれた書類がある警察署に、火を放ったんだよね。」

「当時はインターネットも無いし、他のところに事件の連絡をする前だったから、事件についての情報がほぼ全て焼失したんだよ。」

「ひとつの部署にしか情報が無いなんて、そんなことありえるのか?」


 一家殺人事件なんて、そうそう起きることの無い重大事件だ。少なくとも複数の部署には伝わっているはずだ。

 

「犯人が10歳だったのもあって、すぐに犯人を確保できると思ってたみたいだね。」

「油断したってことか!」

「何やってんだよ……」

「まあ、その油断が命取り。その火災で3名の死者と14名負傷者が出たよ。」

「大火災じゃねえか!」


 3名死亡はまだありえるにしても、14名負傷者が出るなんて、相当大規模な火災だったはずだ。


「これが伝説の始まりでね?方法は不明なんだけど、施設内部に侵入して、油をばらまいた後に放火してるんだよね。」

「一体どうやってそんな事を…」

「放火現場専門の調査団が捜査したのに、方法が一切分からなかったんだよね。」


 放火現場専門の調査団?そんなものがあるのか。それにしても、それなりの規模があるであろう警察関係の施設を丸々燃やせるほどの油を、女子小学生が運べるものなのか?


「その放火事件のあと、放火犯として捜索が始まって、13日後に発見された。」

「早いな!」

「いや、かなり時間がかかっている方じゃないか?」

「そう。警察官の被害がかなり大きかったから、全国指名手配されて捜索されたんだよ?それで13日逃げてる。」

「でも13日逃げて、その後どうなったんだ?」


 13日間逃げたということは、14日目に捕まったということだろう。


「えっとね、確か路地で発見されて、そこで戦闘になったんだ。」

「戦闘?小学生と警察がか?」

「そうだよ。ヘリが出動する自体になるまで、周辺が壊滅的な被害を受けた。そのヘリも落とされたけど。」

「ちょっと待て。色々おかしくないか?」


 ヘリが出動するほど被害を受けた?小学生との戦闘で?ヘリが落ちたってどういうことだよ。おかしいだろ。


「証言からは、石をヘリに投げつけて落としたらしいね。」

「どんな怪物だよ、その一条蘭ってやつ。」

「結局は、警官に撃ち殺されるんだけどね。その戦闘で、沢山の死傷者が出たって感じ。どうだったかな?」

「どうだったも何も、フィクションすぎて笑えてくる。」

「いや、でも本当にあったことなんだよ?」

「そんな訳……」


 俺は有名な事件、事故あたりは基本全て暗記している。こんなに大規模な事件を覚えていないはずが無い。だが、西宮が嘘をついているとは微塵も思えないな。


「で、明。酔いは冷めたか?」

「完全復活!!!我はもう、弱音を吐いたりはしないぞ!!!」

「じゃあもう酔うなよ?」

「もっ、勿論だ。」


明は少し不安そうに答えた。


「出発しても大丈夫そうかな?」

「はい。大丈夫です。」

「じゃあ、乗ってくれ。もう半分以上は来ているからな。もう少しで、火山の(ふもと)に着くよ。」


 俺達は魔導馬車に乗り込み、いつもと変わらない雑談をした。雑談をしていれば、時間は想像の何倍も早く流れる。俺達は無事に、火山の麓へたどり着いた。

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