第二話 閻魔のお気に入り
登場人物
主人公 神村攷
厨二病なヒロイン 誓野明
まともなヒロイン 西宮朋子
バカな親友 近藤テツ(こんどうてつ)
誤字脱字等々ありましたら、教えていただけると嬉しいです。把握次第修正致します。
第二話 閻魔のお気に入り
しかし、自己犠牲をしたからといって、助かるとは限らない。挟み込むように、三人が俺の前に立ちはだかる。
(銃声を聞いて集まってきたのか!)
銃弾を避けるなんてのは無理だ。
俺と明は、身体中に鉛玉をぶち込まれた。
「ゔっ゛……」
身体中が、燃えるように痛い。当たり前だが、こんな痛みを感じたのは初めてだ。
声もろくに出せないまま、その場にうずくまった。
俺たちを撃った3人は、テツか、西宮に銃弾を浴びせているようだ。振り返って見てみようなんて、とても思えなかった。
金属のような、独特の臭い。生暖かいその液体は、俺の全身から染み出していて、気味が悪い。薄れゆく意識の中でも、その気持ち悪さは強く感じていた。
銃声もおさまり、不審者達はその場を去った。後始末くらいはして欲しいものだな……
「……おい」
「……なんだ」
意識が朦朧としているであろう明が、話しかけてきた。
「もしも……」
「……」
もう喋るなと言いたいところだが、そんな気力すら、俺にはもう残っていないらしい。
「この後生き返ったら……」
「……」
「プラスに……なるか……?」
「……」
「なるさ。」
「……そうか」
明は音を出さなくなった。
(……俺も、そろそろキツいか。)
「……誰かいきてるか?」
誰からも応答らしき声はしなかった。
「……俺が最後……か。」
俺が、一番長く生きてるなんてな。
まあ、最期だし、長く生きていようが……
意味は無いよな──────────
「死」というのは不思議なものだ。己を死なすまいと頑張る心臓の鼓動を強く感じつつ、肝心の身体は一切動かない。脳味噌は謎に冷静で、自らの死をすんなりと受け入れている。
かと思えば。
「……どこだ、ここは?」
見知らぬ、殺風景な、赤い世界で目を覚ますのだから。
「……本当に何なんだ?」
状況の理解が追いつかない。
俺は何故生きている……?生きているのか?
何よりも、ここは何処だ?
酷く殺風景。見渡す限りの水平線。
地平線ではない。今、俺が立っているのは、赤い水の上だ。空は紅く染まっていて、気味が悪い。水の底も全く見えない。
「……ここは地獄なのか?」
天国というよりは、地獄に近いよな……?
よくよく目を凝らすと、赤い水は5cmくらいしかなく、下は何やらよく分からない、赤いコケのような何かで埋め尽くされているようだ。
「……どうしたもんか」
意識は、今さっき死んだとは思えないほどはっきりとしている。五体満足、傷ひとつ無い。
服装はごく普通の無地な白シャツ一枚。ぶかぶかなおかげで、大切な部分はすっぽりと隠されている。
「……お主。」
とても重みのある声がした。
威圧感だけでいうと、天井の言という言葉がぴったりなのだが、声単体だと、小学生の女の子のような声をしている。
「……誰ですか?」
「私は、この世界を統べる十二の閻魔の四番目。第四閻魔である。」
第四閻魔?
閻魔?
ってことは、やっぱり、ここは地獄なのか?
「……お主に問う。何故、お主は今ここに居るのか
分かるか?」
「……死んだから、ですか?」
安直に考えるとそうなんだが……
「違う。」
「そうか……」
ここは地獄。だとすると、俺は何か罪を犯してしまったからここに居る、のだろう。
ただそんなことは、ここは地獄です。と言われたら、誰にだって答えられる回答だ。この第四閻魔とやらは、俺が犯した罪は何だと聞いているのだろう。
「……私が犯した罪で思い当たるのは、命を奪ったことです。」
「ほう……?」
「蚊を叩き潰しました。蟻も踏みました。肉も魚も大量に食しました。そういった命の積み重ねが、私をこの地獄へと連れて来たのだと思います。」
これでどうだ……?
「半分正解している。おめでとう、神村攷よ。」
「半分間違っているのですか……」
「そうとも言えるな。まず、ここは地獄では無い。冥界だ。」
「冥界…?」
確かに、閻魔の審判は地獄でするものでは無いな。
中間層的な所でやっているイメージだ。
そうか、冥界か……
「ここは天国でも地獄でもない、中間層とも思うな。また別の空間だ。 」
「また別?」
世界ってめんどくせえな……
「罪の方は、ほぼ正解だ。おめでとう。」
「あ、ありがとう?」
「どれだけ生命に感謝しようと、教を唱えようと、失われた生命は帰って来ないのだ。」
「……」
そんな事は、中学生になったあたりでとうに気付いている。
「……だが。」
「だが?」
「私は違うのだよ。神村攷。」
「……どういうことですか?」
「私が今した、『お主はなぜここに居るのか?』という質問。それに半分でも答えられた人間は、実に久しい。」
「つまり……どういう事ですか?」
「私は、お主を気に入った。」
「!?」
気に入っただって?地獄の閻魔が?俺を? いや冥界か。
「特別だ。お主に能力を授け、どこか別の世界へ転生させてやる。」
「そっ、そんなことが……」
あまりにも、俺にとって都合の良すぎる展開だ。
命というものは、今さっき第四閻魔が言っていたように、そうそう蘇らせることが出来るものでは無い。
「勿論、お主を転生させる為にはそれなりの魂が必要だ。しかし私が勝手に気に入ったのだ。私の力で転生させる。安心するがいい。」
「安心……」
「能力についても、お主が欲しいものを、なんでもひとつやろう。欲しいものをひとつ言うがよい。」
「欲しいものか……」
「能力で無くとも、剣や杖でもよいぞ?」
「能力じゃなくても良いのですか?」
「そうだ。」
なるほど。それなら、欲しいものはあるな。異世界に転生するのであれば、必ず必要になるものがある。
「……能力は、いりません。」
「かわりに、俺と一緒に死んだ、あの三人を一緒に連れていきたいです。」
「ほう?」
「異世界で生活するとなれば、仲間は必ず必要になる。」
俺みたいな地味男では、異世界で友人や仲間を作るのは大変だ。ひょんなことから、仲間沢山出来ました!なんてことはありえない。
仲間を作るのに使う時間もエネルギーも膨大になる。それを節約出来るのであれば、どんな能力より有能だし、手分けして作業したり、1人では出来ないことが出来る。
「魔法等を使わなくとも良いのか?」
「魔法が必要になったら、現地で習うようにすれば、何とか生きていける様な気がしているんですよ。」
「ふっ、そうか。」
「……もういいな?転生させるぞ。何か、質問等はあるか?」
質問か。ここでしないと、もう二度と出来ないかもしれない。気になるのは……
「言語は大丈夫なのですか?」
「問題ない。正確な日本語に変換される。」
「感染症や、腸内の細菌が及ぼす現地への影響はありますか?」
「無い。詳しい説明は省くが、自然の魔力や、あっちの世界の細菌に破壊される。」
「消化に必要な細菌達も、向こうの世界のものから自然と手に入れる。そもそも、私が向こうの世界に適応出来るよう、お主らの身体を変える。」
「変える……」
とんでもないことを言っているな。どうやら俺……というより俺達は、向こうの世界に合わせて作り変えられるようだ。
「顔や声、勿論性格も変わらないから、安心したまえ。」
「分かりました。」
「……では、転生させる。せいぜい、異世界の生活を楽しんておくんだな。」
足元が光り輝き、一瞬だけ、第四閻魔の姿が見えた。見た目は、髪を伸ばした小学生の女の子。表情はよく見えなかったが、口元は不敵に微笑んでいた。
その後すぐ、眩い光に包まれた俺の意識は、遥か彼方に飛んだ。