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パーソナリティさんの死

作者: 西埜水彩

 地域コミュニティFMのパーソナリティさんが亡くなったらしい。


 その情報を初めて知ったのは、とある人のブログだった。そのブログが本当なのかどうか分からなかったから、知った当時はそれほど気にしなかった。だけどリスナー友達とのやり取りで、本当だと知ってしまった。


 地域コミュニティFMのパーソナリティさんが亡くなってしまった。


 その事実をすんなりと認める事が出来ない。


 その亡くなった地域コミュニティFMのパーソナリティさんが芸能人のように身近でない人なら、ここまで落ち込むことが無かったかもしれない。


 会ったことのある人だったから。あくまでも番組のパーソナリティとリスナーというプライベートではない関係だったけど、私にとってはごくごく知人だった。


 そこで知人の死をなかなか受け入れられない。特に最近はラジオ番組を聞いてメールを送ることをしなかったから。いつか番組を聞いてメールを送ろう、そう思っていたから。


 いつかがこれから永遠にこないこと、その事実に後悔が大きい。


「行こう」


 今日はそのパーソナリティさんが受け持っていた番組の放送日だ。ベッドから体を起こして、服を着替える。


 今日はパーソナリティさんが亡くなったことを話すだろう。今まで非公式の情報しか手に入れることができなかった、だけどラジオ番組なら公式の情報だ。


 着替え終わってすぐ、家を出る。


 自分の気持ちにけりをつけるためにも、スタジオへ行こう。そこでなんとかなるはず、このぐちゃぐちゃとなった気持ちも整理できるはず。


 私は街を歩き始めた。


「あそこで鹿耳が売っているって」


「えー買いたい」


「あそこのかき氷屋さん、おすすめ」


「じゃあ食べたい」


 楽しそうに話している人達が、街を埋め尽くしている。


 ラジオ局のスタジオは観光地にある。そこでスタジオに近づいてくると、観光客の人達と出会う。


 そんな人達をかきわけると、気がついたら走っていた。周りの人が邪魔すぎて、焦ったからだと思う。観光に来た、楽しくて幸せな人達と関わりたくないという気持ちもあったかもしれない。


「はぁっ、ついた」


 ラジオ局のスタジオでは、パーソナリティさんではない人が話していた。当たり前だ、パーソナリティさんは亡くなってしまったのだから。番組に出演できるわけがない。


「どんな楽器が得意ですか?」


「ピアノが得意です」


 知らない人達が楽しそうに話しているところから視線をそらして、番組の説明が書いてある看板を見る。


 そこには亡くなったパーソナリティさんのフルネームが含まれた番組名の下に、私の知らない人の名前が書いてあった。


 かわりのない人なんていない。パーソナリティさんが亡くなっても、番組は続く。何事もなく、番組は放送されている。


 その事実に悲しくなって、思わず出そうになった涙を手で拭う。


 この世に必要な人なんていない。こんな風にかわりのない人なんていないんだ。


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