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COVID-RETURNS!!

作者: 川里隼生
掲載日:2026/02/01

 2025年、2月。忘れられかけていた『それ』は、再び僕たちに牙を剥いた。

「速報です。東京で、感染性と見られる結核の症状があった40代の女性がきょう午後、死亡しました。新型コロナウイルスとの関連は現在のところわかっていませんが、東京都は念のため、帰宅後のうがいと手洗いを徹底するよう呼びかけています」


 それからはあっという間だった。まるで5年前の再現を見ているようで、あらゆる楽観的な予想がことごとく外れた。不要不急の外出は自粛、県境をまたぐ移動も禁止、テレビでは日々の感染者と死亡者を速報……。違ったのは大型クルーズ船の停泊地が横浜ではなく長崎だったということくらいだ。

「外出中はマスクをするようにし、帰宅後は手洗いとうがいを徹底してください。新型コロナウイルスを思い出してください」

 アナウンサーは冷静な口調で繰り返す。


 関西万博の延期発表も秒読みに入ったという噂が立ち始めたある日、大学院生の僕は普段通り大学の講義を受講するため、自室でパソコンを起動させようとしていた。講義まで少し時間があったため、何となく適当なフォルダを開いたり閉じたりしていると『virus』というファイルを見つけた。縁起の悪い名前だと思って注目すると、保存日は2023年3月15日となっていた。


 あの頃は2年後に逆戻りするなんて思ってもみなかった、などと感慨に耽りながら『virus』をダブルクリックする。Wordが開かれた。そこに記録されていたのは、ウイルスの人工的パンデミック計画だった。まるで予言のように現在の状況と一致している。読み進めていく内に、このデータがこのパソコンに入っている理由を思い出した。


 同じ大学を卒業した周院しゅういんという男から卒業記念にとUSBごと貰ったのだ。つまらない創作だと思って忘れていた。もしかすると、彼が最も今の状況に驚いているかもしれない。僕は講義を受けながら、周院にラインした。

「久しぶり! 安倍あべだけど、覚えてる?(笑) 卒業式の日に貰ったUSBさ、最近の現実そのものじゃん? もしかして未来見てたの?(笑)」


 すぐには既読はつかなかった。講義が終わってからスマホを確認したときに返信がきていた。それは驚くべき内容だった。

「俺がやってんだ」

 は? と口にしていた。周院がWordのファイル通りに計画を実行しているというのか? 俺が既読をつけたからか、周院から更にメッセージがきた。

「だってこのほうがいいだろ? 講義中でもこうしてラインできる。外出しないことが正義だし、マスクすることが正解だし、雑談しないことが推奨される」


 思い出した。周院はこういう暗い性格の奴だった。僕はこうメッセージを返した。

「でも、不便なことだって沢山あるじやまんか」

 送信してから誤入力に気づいたが、周院には文意は伝わったようだ。

「不便なんか全然ない。永遠にこの生活が続いてほしい。でも新しい生活様式を維持するためにはウイルスの存在が不可欠。2023年、2024年と経ってよく理解した。だから俺は母親の味噌汁にウイルスを入れた」


 母親って……まさか、最初の感染者とされている40代の女性のことなのか?

「俺は国の指示に従ってステイホームした。現に皆、外出して感染した奴らを袋叩きにしていた。なのにそれが明けていざ就活になれば、コロナ禍で如何にしてアクティブな活動をしたか問うてくる。ダブルスタンダードも良いところ」


 以降、周院から新たなメッセージはこなかった。周院は就活に失敗して実家に戻ったと聞いている。社会への復讐だと言いたいのだろう。恐ろしいことをしたものだと感じた。周院はテレビを見ているのだろうか? 毎日増加する死者数を見て、何も感じないのか? どうしてそこまでして……。


 どうしてそこまでして、自分が生きたいように生きようとするんだ? 頭の中に浮かんだその疑問は、とても奇妙なものに思えた。生きたいように生きようとするのは人間として当たり前だ。僕が大学院に進んだのだって、同じ理由じゃないか。とすると、僕は周院みたいな奴をどう止めてやればよかったんだ? このウイルスのパンデミックが終わったら、今度こそ元の日常を取り戻せるのか?

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