エルフ、指導する
MKTOのClassicという曲が好きです
エルフ達が飛び出して行ってから暫くすると生命の樹の魔素がひとりでに活発化し始め、そして根の間から膜が生まれたと思ったらそこからエルフ達が生えてきました。
「あー…やられちゃったんですね。」
私にとっては見慣れた光景で、事故や病気などで亡くなった時はこうしてエルフ達が生まれてくることが多々あります。懐かしい光景なんですけど、ダークエルフ達は私の反応を見て何かを言いたそうにしています。
「エルフ種ではよくあることなんです。」
私がダークエルフ達に説明しているとエルフが木の根から這い出てきて…
「し、死んだままのほうがマシ…!!」
「生きながら食われるって経験したくなかったよ…!」
「生後数時間でこれとか…!」
「え?みんな死んだってこと?指切られてからよく覚えていないんだけど…あ、そういえば視点がひっくり返って地面に落ちたような…」
各々に“死んだ”感想を口にしてからその場に倒れこみ、そして「うわあああ…」とうめき声を吐きながら頭を抱えてジタバタと転がり始めました。…初めての死を経験した者は大体こうなります。懐かしいですねー。私も初めて死んだ後はこうだったと思います。
「うんうん、皆が通る道です。こうやってエルフは大きくなっていくんです。なんだか懐かしいですね。」
「そうかな?」
「どうだろう?」
「…」
ルーズとメーテは何も言わずにエルフ達を見ているクーデを見て驚いた。いつもなら締めを担当してオチをつける筈なのにそうした発言をしないことにルーズとメーテは疑問を感じる。
「どうしたの?」
「お腹減った?」
「…いや、なにもないよ。」
なにも無いはずがない…しかし、本人がこう言ってしまっているのでこれ以上は掘り下げることは出来ないので2人は心配そうにクーデを見ることしか出来なかった。
「それで、なにがあった?」
アズが小屋の改築を止めてエルフ達に近付いていくが、完全にダークエルフ生活を満喫している様子だったので、もしここにアズテックオスターを知る者達が居たら絶句してしまっただろう。
「えっと、あの…」
エルフの一人が頭を上げてアズを見るが、どうやらアズを恐怖の対象として見ているようで、上手く声が出せていない。
これはアズテックオスターがどんな存在かを知識のみで知っている影響なのだが、それ以外にアズの纏う強者のオーラが影響している。ルーテも最初はそれで怯えていたのでエルフ種は危険な存在を察知出来るようだ。
「怯える必要はない。当方も今はエルフだ。同族は守る。」
「…分かりました。私達は、実は…」
エルフ達が語ったのは森の奥にはエルフを襲って食らう生物が生息していて、その生物に襲われて生きたまま食われたという内容だった。
「ああ〜それは仕方ないですね。私達は魔素袋がありますから。」
「魔素袋があると襲われるのですか?」
ルーテは皮の鞣しをやりながらエルフ達に襲われた理由を説明する。
「原始生物は魔素袋が無いので魔素を体内に貯められないのです。なので他の生物を食らってその獲物が持つ少量の魔素を得て生きているのですが、私達エルフ種は魔素袋を持っているので彼らからすればご馳走に見えるのですよ。」
「そうだったのですね…。そこら辺の知識はあったのですけど上手く知識と知識が繋がっていなくて思いつきませんでした。」
「最初はみんなそうです。そうやって何度も何度も死んでは学び、そして少しづつ大きくなって立派なエルフになっていくんですよ。」
ルーテは昔を懐かしみながらも母親が我が子にかけるような優しげな声で語るが、内容がとんでもないもなのでエルフ達は目を見開いたままお互いの顔を見回した。
この発言に対して何かを思っても上手く言語化が出来ない。どうやらそれが普通らしく、自分達の価値観が異常なのかと疑ってしまう。
何度も死ぬことを前提として自分達が生み出されたんだと知ったエルフ達が不安な気持ちを抱いてしまうのは仕方がないだろう。
「…」
そしてアズは何も語らずに聞き手に徹していた。人種の教育などやったことがないし、ルーテ達の種族はこの宇宙の中でも異端な生態と文化を有している。
なので自分が口出しすることは理にかなっていないと思考し、黙って聞くことにしていた。正しく言うと木材の加工をしながらなのでルーテと同じく作業をしながらになる。
完全に母親が子供達に教育している様子を眺めながら趣味の道具を磨いている父親の姿だった。
「分かりました…。あの、この後はどうしたら…」
「あ〜今は手が離せないのでまた森の方へ向かって今日食べる食材を取ってきてください。」
「それってつまり…」
「狩りですね。あ、採取でも良いですよ。」
なんてことないように言うルーテにエルフ達は絶望した表情で項垂れる。つまりまた自分達を殺して食らった生き物が潜む森の中へと行けと言われたのだ。
かなり畜生な発言だがエルフ達は死んでもすぐに生き返る。そんな特殊な生態を有して長年生き続けるといずれはルーテのような考え方になるのだろう。
しかもルーテはまだエルフという種族の文化が定まっても繁栄もしていなかった時代に生まれたハイエルフ。そんな彼女からすればこのぐらいのことは大したことがなく、もっと悲惨な目に遭っていても不思議ではない。
というよりも仲間達を全員失った経験を持つルーテこそエルフの中で最も悲惨な目に遭った個体ともいえるだろう。
なのでたかが一度死んだ程度ではルーテは何も感じない。百回近くも死んだ経験を持つルーテは絶望的にエルフ達の考えが理解出来ない。それをこの場で指摘出来る者が居ないのはエルフ達にとって不幸なことだろう。
しかし全く手を差し伸べないという訳ではない。中にはエルフ達のことを思って行動する者達も居る。
「ちょいちょい。」
一人のダークエルフに手招きされたエルフ達はルーテとダークエルフの方を交互に見てどうしたらよいのか迷っていると、ルーテが頷いてダークエルフの方へと向かうように見送り出した。
「へー…ダークエルフ達って私が思っているよりも外向的なんですね。」
「当方と似て好奇心が高いのだろう。喜ばしいことだ。」
ルーテのもとにアズも来てふたりで子供達の様子を静かに見守っていた。こうした事は子供達同士のほうが上手くやるだろうとルーテは考え、手元にあった皮の鞣し作業を再開し、アズは手にした木材を爪のみで削って加工を始めた。
大人組は自分達が住みやすいように環境整備を行ない、子供達は外へと目を向けて新たな道をこれから模索していくことになる。
「話聞いていたけど。」
「あなた達が見たのって。」
「こういうやつ?」
ダークエルフ達が持つタブレットには画像が映し出されていてその画像はエルフ達を襲った鳥の写真だった。
「あ!それですそれです!」
「これに襲われたの!」
エルフ達はどうしてこの写真を持っているのか、どうやって鉱石にしか見えない板で写真を出力しているのか、様々なことが気になるが、相手が相手などで下手なことは言えず向こうの反応を待つしかない。
エルフ達はダークエルフが自分達と同じエルフ種なのを知っているが、同時にアズテックオスターであることも知っている。そのせいで同族であり生まれが自分達よりも早い関係で姉達であることは間違いないのだが、姉というよりも権力を持った遠い親戚の子供達という印象だった。
「ルーズ達も。」
「会ったことがある。」
「だからふたりで文章終わらせないで。」
ダークエルフ達がいつものをやるとエルフ達はポカーンとした表情でダークエルフ達を見た。どうやらあまり受けは良くないらしい。
「ほらふたりで終わらせるから。」
クーデはエルフ達に受けが良くなかったのは3人でやらなかったからだと的外れな意見を言うが、それでもエルフ達には何を話しているのか理解出来ずにいた。寧ろ分からなくて良かった。
もし分かっていたらエルフ達もダークエルフ達と似た感性を持っていることになり、ルーテの胃に穴が空いてしまうだろう。
「えっと、クーデ…お姉様。」
エルフの一人が申し訳無さそうにしながら、そういう訳で反応が鈍かった訳では無いと訂正しようとすると、クーデの首がぐるんと高速で回ってエルフ達の方へと向けられる。
はっきり言ってホラーだった。無表情なのも相まって非常に怖く見える。
「ひっ…!ご、ごめんなさいクーデ様!ただのエルフがクーデ様を姉と呼ぶなんて畏れ多いことを…!」
エルフ達がダークエルフ達を識別して名前を口にできたのは勿論彼女たちの着ている服に名前が刻まれていることもあるが、エルフ達が生まれる前にダークエルフ達が生命の樹に触れて名前を刻んだ事でエルフ達にその情報が与えられていることが一番の要因だった。
生命の樹を有して名前を刻むのはこういった手間を省くためだったりするのだ。
「もう一度呼んで。」
「…はい?」
「ワンモアプリーズ。」
「えっと…」
「復唱して。クーデお姉様と復唱して。」
クーデは目をキラキラさせてエルフ達に詰め寄るとエルフ達は冷や汗をかきながら指示のとおりに復唱を始める。
「く、クーデお姉様…」
「もう一回。」
「クーデお姉様?」
「みんなも言って。」
「「「クーデお姉様。」」」
「生まれてきて良かった。」
クーデは天を仰いで泣きそうになっていた。どうやら妹達にお姉様と呼ばれたことを喜んでいるらしい。その様子からクーデが妹達のことをとても大切に思っている事がエルフ達にも伝わり、先程までにあった微妙な空気が霧散していた。
「ずるいずるいずるいずるい。」
「私達も呼ばれたい。」
そしてルーズもメーテも姉と呼ばれたいようでエルフ達の周囲を囲んでぐるぐると回り始める。こうなると呼ばれるまでこの包囲網は解かれることはなく、エルフ達4人に名前を呼ばれるまでこの包囲網は解かれなかった。
「姉として。」
「妹たちのことを。」
「サポートする。」
ご機嫌なダークエルフ達はタブレットを使って色々とエルフ達に指導を仕始める。戦いにおいてはダークエルフはどの種族よりも強い。そんな種族から指導をしてもらえるのならエルフ達にとってこんなに有り難いことはない。
「このタブレットには。」
「ルーズ達の持つ。」
「情報を出力出来る。」
ダークエルフ達の言うには自分達の記憶をこのタブレットに出力することが出来て、こうして目に見える情報としてエルフ達に教えることが出来るのだという。
「この生物は。」
「すぐに殺したから。」
「良く分からない。」
しかしだからといって全部を説明出来るというわけではない。特にダークエルフはその強さ故に相手の力量を測るのが致命的に不得手としており、この星の原生とする生物全てがダークエルフにとっては虫けらに過ぎない存在となってしまう。
「「「「ええ…」」」」
エルフ達は思っていたような事を言ってもらえずテンションが下がる。しかしダークエルフ達はまだ言いたいことがあるようで言葉を続ける。
「攻撃方法も。」
「弱点も。」
「分からない。」
「…なら、何が分かるのですか?」
おずおずと挙手して質問する一人のエルフにダークエルフ達は告げる。
「それは。」
「勿論。」
「妹達だよ。」
「「「「私達…?」」」」
ダークエルフ達は地面に座りタブレットを横においてエルフ達に座るように促した。そしてエルフ達もそれに習って座り、ダークエルフの話を聞く姿勢を取る。
「相対した時。」
「妹達は。」
「魔法を使った?」
これは確信を得た質問で、答えは口にしなくともダークエルフ達は分かっていた。
「武器もなく。」
「経験もなく。」
「魔法もなく。」
だからこそエルフ達に向かわせる訳にはいかない。このままでは先程の二の舞いになる。ダークエルフ達にとってエルフ達は大事な家族として認識しており、無駄に命を散らして欲しい訳では無い。
「無策では勝てない。」
「知性を用いて。」
「狩猟を行なう。」
しかしダークエルフ達もエルフ種であり、死生観は他の種族からすればかなり異端な感性を有している。なので…
「そこで考えた。」
「このタブレットに。」
「触れてみて。」
エルフ達に自分達のタブレットに触れるように言って触れさせることでエルフ達の情報をタブレットに保存させ、そしてある提案を口にした。
「これでみんなの。」
「視界から。」
「情報を出力できる。」
ダークエルフ達のタブレットに映像が出力される。その映像にはダークエルフ達が映し出されるが、その視点は正にエルフ達が見ている光景そのものだった。
「これは廻廊を利用してる。」
「エルフには目に見えない繋がりがある。」
「タブレットと妹達を繋げた。」
かなり凄いことをしているが、同時に無機物と繋がってしまったエルフ達はかなり動揺してしまう。タブレットと自分の視界が繋がったらプライベートも何も無いからだ。いつでも視界をジャックされてしまうなんて考えたくもないだろう。
ダークエルフ達はルーテよりも死生観はマシだがこういったプライベートという概念を理解していない。何故ならアズテックオスターは触れ合う事で情報のやり取りをする種族。彼女達にとってはこれは当たり前のコミュニケーションなのだ。
「これで悪いところを。」
「記録して。」
「指摘出来る。」
そして最後に凄いでしょう?と付け加えたダークエルフ達。勿論凄いことは凄いのだが、これは悪い方に凄いことだ。悪用しようものなら何でも出来てしまう。
しかしそのことを指摘出来るほどエルフ達の立場は強くない。なので…
「「「「…行ってきます。」」」」
そう言い残して危険な生き物が生息する森の中へと向かうしかなかった。
この物語は大体こんな感じで進んでいきます。つまりエルフ達が死にまくるお話です。




