エルフ、エルフを増やす
Orangesterの快晴という曲が好きです
ダークエルフ達がエルフである私も分かっていない生命の樹について解析をしてくれることになった。
その優れた処理能力を以ってすればいずれ生命の樹全てを解析し終えるかもしれない。そしてこれがダークエルフ達の主な役割になっていくだろう。
それ以外には万が一の時に彼女達の戦闘力はこの宇宙でも随一な為にもしもの保険という役割を担っている。
これだけでもダークエルフという種族はエルフ種全体に大きく貢献しているし、というよりこれ以上の事はさせられない。有事の際にはどの種族よりも働いてもらうことになるだろうけど、平時ではあまり表立っては動かない方針を取りたいと考えている。
その理由として依存し過ぎない為と自立する為。ハイエルフである私の役目がダークエルフに奪われることはアイデンティティを奪われることと同義。それは避けなければならない。
導く者はその名の通りエルフ種を導いていく役目を精霊様から与えられている。特に私はエルフ種の存亡を賭けて一人だけ脱出した身、この責任から逃れることは故郷に残していってしまった仲間達を裏切ることになる。
それだけは決して出来ない。だからこそ私はそもそもエルフ種が滅びそうになった諸悪の根源ともいえるアズテックオスターと手を結んだのだ。
まあ…全ての責任をアズテックオスターに押し付けるつもりはない。末端の末端だったとはいえ私達エルフ種も戦争に参加していた。そしてアズテックオスターは戦争を仕掛けられた側の立場だ。
なのでアズテックオスターが全て悪いなんて、あまりにも私達に都合の良い主観で物事を語ってしまっている。
それにアズを見れば分かる。彼らは戦いを好んでいないと。とても暴力的な種族なのは否定出来ない事実だが根幹の部分は平和主義である。
実は大昔からこの考えは唱えられていた。何故ならアズテックオスターが戦争に参加した回数は多くても10回程度といわれており、これは他の種族と比べるととても少ない数になる。
宇宙へと進出するほど進化した種族は100年もしない内に上記の数以上の争いをすると言われているのに、宇宙の誕生から存在していると考えられているアズテックオスターの争いの記録が10回しか存在しないなんて彼らが争いを好んでいないことは火を見るより明らかだ。
なので出来るだけ私はアズやダークエルフ達には争いをしてほしくないと考えている。種族として争い事が得意であっても、だからといって争いを好んでいる訳ではないだろう。
その気になればその圧倒的武力で全宇宙のみならず他の世界にも進出して征服することも可能なのに、彼らは小さな星の中に身を隠していた。
そんな優しい種族に争い事を押し付けるほど私達エルフ種は落ちぶれてはいない。自分達のことは自分達で出来ることをアズに見せる事でもうアズテックオスターに暴力は必要無いと思って欲しいのです。
その為にも純粋なエルフ種を生み出し狩りをしなければ…!
「では早速エルフ種を生み出します!」
生命の樹に手を当てて私はエルフ種を生み出す為に魔素を操作する。ダークエルフ種を生み出した経験からエルフ種を生み出すことはそこまで難しいことではない。
「おお。」
「根っこの間から。」
「膜が生まれた。」
生命の樹の根の間から4つの膜が生まれ、その膜の内側には4人のエルフが姿を現し、その様子を興味深そうに3人のダークエルフ達が観察していた。
「ルーズ達も。」
「こうやって。」
「生まれてきたんだね。」
膜の中にいた4人の成長は早く、エルフ達は膜を突き破ろうと立ち上がり始め、意志の感じる動きを見せる。
そして他のエルフ達と同じ様に膜の頭頂部が割れて服のように変質し、根の間からその身を乗り出すと…
「土っー!!」
「草っー!!」
「日っー!!」
「空気っー!!」
と、口にして地面に寝転がった。この光景を見たダークエルフ達は口を開けてそのまま何も言葉を発しない。
(あの好奇心バカ達が無言とか、エルフ達の第一印象が良くなさそうなんですけど…)
「あ、あの!エルフ達は大体みんなこんな感じですから!エルフって植物から生まれているので地面が好きなんです!魔法が使えてもあまり空とか飛ばない種族なんです!」
私もそうだったと付け加えると一歩だけその場から後退する子供達。それに対して対象的にギャハハと叫んでゴロゴロと転がるエルフ達。私も寝転がりたい。
「ルーテよ…本当にエルフ種を、その…」
「アズが口ごもるの初めて見ましたよ!なんですか、文句があるんですか!」
さっきから目線を逸らして気まずそうにしていますが、そんな人間らしい反応出来るぐらいには生命の樹の内部にある情報を解析して自身に取り込んだみたいですね!!
「いや、その…なんだ。…なんでもない。」
私はアズを連れて少し離れた場所へと連れ込みますが、その間も子供達はノーコメント。また3人で一文を構成していいんですよ!?
「何を言いたいのかは分かります。」
「思考が読めるのか?」
「見れば分かります!」
「凄い能力だ。」
馬鹿にしてますよね!?
「あのですね、今はああやってますけど生まれたばかりなので仕方ないんです。」
「当方もルーズもメーテもクーデもあのような…」
「エ ル フ 種 な ら 普 通 な ん で す!ダークエルフが異端なんです!そこは分かってください。」
「了解した。」
なんとかアズの理解を得れた私はアズを連れて戻るとエルフ達が立ち上がり何事も無かったような表情で待っていました。
そうですエルフ達はこうでなくては。この面の厚さこそエルフです。
「ええー私はハイエルフのルー・テ・メーデ。貴方達の親です。」
私の言葉を聞いてかしずいて膝をつくエルフ達、どうやら私をハイエルフとして認識し、ハイエルフは敬うものだと知っているみたいですね。
「今、私達が置かれてる状況は理解していますね?」
「「「「はい。」」」」
まだ生まれて間もないのに大きな使命を理解し、凛々しい姿を私に見せてくれます。…出来れば最初からその姿を見せて欲しかった…
「では己の使命を果たしなさい。我らに繁栄の一歩を示すのです!」
「「「「はい!」」」」
ああ…我が子達が森の方へと走り出していきました。
「名前も与えず。」
「武器も与えず。」
「与えたのは。」
「命令のみか。エルフ達を尖兵として使うために作ったのなら効率は良いだろうな。殆どエネルギーを消費していない。」
アズ達が生命の樹の内部を調べながらコメントを私にぶつけてきます。
「いや、ちょっと気持ちよくなってそれっぽい事を言っただけで今すぐに行けなんて言ってないですよ…」
「それは。」
「エルフ達が。」
「悪いのか。」
「ルーテが悪いのか…か。もう少し良い言い回しがあっただろうに。」
「4人で文章作るのやめてくれません?泣きますよ?多数決で私が悪いことになってませんか?」
5人がそんなことを言い合っている間に生まれて間もないエルフ達は整地されていない森の中を進んでいた。
地面は数メートルもしない間隔で隆起したり大きく埋没していたりと彼女達の体躯では真っ直ぐ進むことも難しい。
彼女達の身長は大体だが150cm程度とダークエルフとそう変わらないが顔立ちはこちらのほうが幼く見える。そして髪の色はルーテと同じ淡い金髪で瞳の色も金色というエルフとして標準的な見た目をしていた。
しかしダークエルフよりも魔素を多く保有しているので魔素袋が大きく胸の大きさは純粋なエルフ達のほうが大きい。勿論ハイエルフのルーテと比べると小さいのだが。
それに着ている服もダークエルフとは違い、ルーテのようなハイエルフが着ている服に近い。しかしハイエルフのものに比べるとこちらは動きやすさに優れていて、ドレス型ではない。
上着は丈が腰の辺りまでしかなく腕を上げると腹部が見えるほどに裾が短い。肌着も胸を支える部分しかないのでルーテのものとは大きく異なる。
下はショートパンツに太腿まである靴下と一体化したブーツのような靴になっていてこちらも他のエルフ種とは異なったデザインだ。
これは動きやすさを優先したデザインとなっていて生命の樹がそういう風に生み出すように元々プログラムされているものになる。
未開の地ならばルーテのようなデザインの服装は歩くことに向いていない。なのでエルフ達のような服装はこういった未開の地には適した服装になるだろう。
では何故ルーテはそういった服装なのか。それは単純に母星ではそうしていたから。それだけが理由だ。つまりルーテが探索をしたりなどはしないと予め分かっていたことになる。
それを理解していた者がルーテの服装をそのままにしたことになるが、それは一体誰なのか…もはや誰にも知る由もない事だった。
「ねえ、飛び出して来たけど私達何も持ってないの致命的じゃない?」
「そうだね〜具体的なこと何も聞かされていないし何すんの?って感じ。」
「じゃあ一回戻る?」
「そんな恥ずかしいこと出来ないよ。せめてこの辺りの様子は報告出来るようにしないと。」
エルフ達は最低限の知識を与えられているので必要なコミュニケーションは取れる。しかし指示系統は分かっているが指示そのものを理解していないというかなり歪な状況に追い込まれていた。
これは経験もないのに知識だけがある者の弊害で、生まれてから数年ほどのエルフには良くあることだ。
「ていうか本当に未開の地って感じ!なのに妙に破壊の跡があって嫌なんだけど…」
森の中を一時間程進んでいくと明らかに拓けた場所があるが、爆心地のように草木が消し飛んでいてかなり不穏な雰囲気を醸し出していた。
今更説明の必要が無いとは思うが彼女達の姉ともいえるダークエルフ達が地面を蹴り上げた跡である。
「…あそこは避けて通りたいよね。周りから丸見えだし。」
「うん、それに地盤も不安定そう…。ここの土地も調べておかないと。」
「あ、食べ物になりそうな植物も見つけたいね。」
「もしくは薬になりそうなもの。毒性の強そうなのも持てそうなら持ち帰りたい。」
皆が意見を出し合いながらやることを決めていく。エルフ種の高い社会性が発揮される場面だ。
「ええっと…」
「あ、私?」
「いや、隣…」
「え、私か。なにどうした?」
しかし高い社会性を有していてもそれは文化があってのもの。人間社会において個人の認識は必須。なのに彼女達は顔立ちも髪型も服装も背丈も同じ。
なので個人の認識が非常に難しくこういったエラーが発生してしまう。個人名も無いのに狩猟をするのは群れをなす獣と変わらない。
そうなると細やかな指示を出せなくなる。この問題は早めに解決しなければならない事柄だ。
「名前…戻ったらルーテ様に貰わないと。」
「母様じゃない?私達の親なんだし。」
「はあ…こういうのも私達分かってないんだね。」
今現在の問題を4人が認識し合ったのはかなり大きな進展といえる。しかし4人には他に問題があった。それは単純な問題だが、解決する手段が現在では存在しないことを考えればこれが一番の問題になるだろう。
「はぁ…はァ…」
更に森の中を進んでいくと声を出すのも難しくなり、誰もが無言になった。
そう、一番の問題はこの未開の土地だ。木々は高く地面は凸凹していて自分達が何処にいるのか方向感覚を失いやすく、何よりも周辺に居る生物の気配が彼女達の警戒心を刺激する。
狩猟もしていたエルフ種は野生の生き物を気配で探れる素質を後世のエルフ達に継承させているので、生まれて間もない個体でも此処がとても危険な地だと肌で感じられる。
そんな緊張感のある土地では一歩進むだけで体力が無くなっていくが、別に身体能力が無いわけではない。しかし何度も言うが彼女達は生まれて間もない。知識があっても経験が無いのと同じで身体能力があっても体力が無い。
まだ何も口にしたことが無い彼女達は体力という概念を経験では理解していない。だからペース配分も概念として知っているが今が初めての経験になるので誰もが休憩を取るという発想を思い浮かべないのだ。
それに休憩を取るにも休憩を取る場所がない。腰を落ち着けるにもここは未開の地。安心して体力を回復出来る場所は生命の樹の周辺に限られる。
その点ルーテは経験豊富なハイエルフ。先ず何をすべきかは経験で理解しているので初日としては驚異的な結果を残した。
衣食住を初日で確保したのはそれだけ優秀ということで、そもそもルーテはエルフ種を代表して旅立った。有能なのは疑いようがない。
そしてそんな有能なハイエルフから生み出されたエルフ達も有能なはずだ。でないと困る。
しかしルーズ・メーデ・クーデもルーテの子供達であり、彼女達のことを考慮すると期待のし過ぎは良くないだろう。
だが行動するということは何かしらの結果を生むことになる。期待しようがしまいが自ずと結果は示されるものだ。
(見られてる…)
エルフの一人が他の個体に目線を送ると目が合い、全員が気付いていた。周囲にエルフを狙った獣達が居ることに。
しかし姿は見えない。敵が隠れているというよりも地形が複雑で中々読めず、草木が視界を阻害して見通すことが出来ない状態だ。
だが4人が一か所に固まっているとエルフ達の胸の位置まで生えている草の間からそれは姿を表した。
「鳥…?」
二本脚で歩く鳥が5羽現れる。羽はあまり発達していないのか、胴体に隠れるほどで飛行は不可能に見えた。そして大きさもエルフとそう変わらない。
地味な色合いで毒も持っていなさそうであり口も鋭くもなく平凡そうである。これはある程度の知識を保有しているエルフ達でも分かり、そこまでの警戒をせずに出方を待っていた。
攻めてくれば迎撃し、土産として鳥を狩るのも良いだろう。そう考えていると一人のエルフが痛みを覚える。
「痛っ…」
左手に鋭い痛みを感じたと同時に風が彼女が襲ってきた。しかしその両方も大したものではなく風は服が少し揺らぐ程度で、痛みも初めての痛みということでオーバーなリアクションをしたというもの。
だがそれは誤りだったと彼女は自分の左手を見て気付く。本来あるはずの指が無くなっていて地面を見ると指が5本とも落ちていたのだ。
「みんな…」
攻撃されている事を伝えようと言葉を発する彼女の喉は首ごと斬れ、一人のエルフの頭が地面へと落ちた。
それはあまりにも呆気ないもので、他の3人は何かを言う事も動く事も出来ずに姉妹ともいえる個体が死にゆくのを静かに見ていた。
これも彼女が初めて知るもの…誰もが経験する“死”だった。まだ生も経験し始めたばかりである彼女達はこれを死だと認識出来ても受け止めきれない。
その証拠として彼女は耳、鼻、首、胸、腕、腰、足と、一瞬にして斬りつかれても悲鳴を上げれず、そして…
「キュルルル…」
血を流してその場に倒れた己の身体をよだれを垂らす鳥達についばまれ、彼女たちは初めて死というものを理解した。
死とはありふれたもので、いつ何時も己に訪れるのか分かり得ない理不尽で呆気ない終わりだということに…。
やっとストーリーが進み始めました




