エルフの底力
King Gunの白日という曲が好きです
身近に居た家族が地中へと引きずり込まれ地面には人ひとりが通れるかどうかの大きさに空いた穴のみが残された。
あまりにも呆気なくマモノに身内をやられ、残された面々は口を開けその場に固まっているしかない。
しかし敵はそんな獲物をただ見ている訳なく、マモノ達は地中を移動し彼女達の足元まで向かうと狙いを定めずに無差別に棘を飛ばした。
物量による攻撃、エルフ達は地面から襲いかかってくる棘の猛攻に反応はしたものの2人が身体の何処かに棘が刺さり痺れて動けなくなる。
「チッ…!!」
ここまで来れば最早助けようともしない。いや、助ける事なんて出来ないが正しいか。
無事だったアザ、パロメ、ペトラの3人は地面に倒れるリタ、ミロの2人を助けず高度を取って棘の攻撃から逃げ果せる。
「アレがマモノの姿…」
地面から顔を出したマモノ達。その大きさは地面に倒れるエルフ達と比べると非常に小さく小動物ぐらいしかない。全長はよくて60センチメートル程度と目測される。
顔は哺乳類のような特徴を持っており突き出た鼻を小刻みに動かしこちらの位置を探っているようだ。
恐らく地中で活動する事から目が退化しておりマトモに見えてはいないだろう。そして顔と一緒に地中から這い出る大きくて鋭い前脚の爪、あれで地中を高速で動いていたとみて間違いない。
それに頭の後頭部から背中までビッシリと生えた棘の毛は掘ったトンネルの崩壊を防ぐ役割にもなっている。
これで彼等が地中での生活に特化した原生生物から生まれたマモノということが確定。しかも群れで行動しており脅威度は今までのマモノとは比較にならない。
「クソっ…身体が…」
倒れるエルフ達にマモノ達が詰め寄るとその小さな口を開けてノコギリのように並ぶ牙をエルフ達に突き立てた。
「きゃっ…!痛いっ痛いっ!」
「来ないで…!」
噛む力自体はそうではないのか、噛まれてもその部位が千切れるといったことは起こらないがその鋭い牙で皮膚は容易く裂けて鮮血が地面に垂れる。
「あいつら全員殺すッ…!!!」
家族に食い付くマモノを見てアザとパロメとペトラはブチ切れそのまま手を出そうとするが残り僅かな理性が働きその場に踏み止まる。
これは誘い、マモノは敢えて傷付けている。殺すのではなく獲物を傷付ける事で手の届かない空にいる獲物を自分達の領域である地上へと降ろそうとした策だ。
「ミロ…!自爆は駄目だよ…!みんな巻き込むから…痛っ!」
「こいつら…私達を殺す気がない…!クソっ!役立たずだ…!」
ここで降りればこちらの動向を伺っているマモノが棘の攻撃を放ってくるだろう。故に家族が傷付けられようともこの高度は維持し続けなければならない。
しかしそんな事、サラマンダー達は出来ない。家族を害する者共を放置する事は彼女達の生態上、不可能なのだ。
だがここで状況は変わる。盛り上がった土の中からエルフの手が這い出てその場に居る全員の意識がそちらに向けられる。
「ゲホゲホッ…!うぅ…み、みんな…」
ポーラが地中から這い出て顔を晒すがその姿に他の者は言葉を失う。彼女の片目は潰れて耳は欠け、両手の指全てはあらぬ方向に折れ曲がり正に満身創痍。
地中に出来たトンネルを通って自力で脱出したポーラは上半身を地中から出すと穴を広げてそこからツインとピューレの2人をトンネルから脱出させた。
ツインとピューレの2人も重傷で特にツインは死んでいてもおかしくない姿をしており全身が血塗れ、地中のトンネルへと引きずり込まれた際に無理やり小さなトンネルの中を移動したせいで全身の骨は折れ素肌を晒した箇所は皮膚が擦り剝け血塗れとなっている。
彼女の血が上着の服に付いて真っ赤に染まっていたが、しかし呼吸はあるようで口は動いているものの顔の皮膚が剥けてしまい鼻や唇が無くなり歯も見当たらない。
ここまでいくともう死んでしまった方が楽なのだがそれでも生きていた。この事実がアザ、パロメ、ペトラに強い希望と強い怒気を与える。
「ここで殺る…私達で殺るッ!このマモノは皆殺しにするッ!!!」
「ええッ…!家族に手を出した報いを払わせるわッ!」
「そんなこと言われなくてもね最初からそのつもりよッ!!」
戦闘力において最上位達の彼女達がここで動く。3人からはオーラが発生しエルチルスによるバフ魔法が発動。魔力が上昇していくとそれを感知したマモノ達が迎撃の態勢に入った。
その中でリタとミロを噛んでいたマモノが口を開こうとしたが上着の上から噛んでいたせいでメゥの毛が絡まり口を離す事が出来ない。
「アイツ等から!」
アザは弓矢を構え瞬時に射抜いた。エルチルスは腸内だけでなく魔素袋にも生息している為に魔素で構築された矢にも紛れ込んでいた為その矢がマモノに突き刺さると複数の毒をマモノの体内に注入。マモノは泡を吹いてその場で痙攣してしまう。
しかもマモノの魔素を喰らい更に毒を精製。エルチルスの毒魔法は容易マモノの魔素を崩壊させマモノは魔法が使えない状態に陥る。
「やっぱり私の矢にエルチルスが居るんだ…これなら生物に対して特効が付く!」
アザは矢を射貫き続けながら自身の魔素の量を計算し後どれぐらい矢を放てるかパロメとペトラに伝える。
「私はあと7本が限界!そのつもりで動いて!」
「上等よ!」
パロメとペトラは地上に向かって急降下、これによりマモノ達はこの二人に棘を放つしかなくなりアザがフリーとなった。
「分かってるわよね!」
「誰に物言ってるのよっ!」
パロメは地上に降り立つと同時に口内に魔力を集中させ魔法を行使、彼女が口を開くと攻撃魔法“竜散弾”が発動し幾つも別れる魔力の弾がマモノ達へ襲いかかる。
この攻撃魔法は竜由来の魔法で、サラマンダーはドラゴンの代名詞である息吹以外にも多種多様なブレスを親であるプロメアから継承していた。
竜最大の攻撃魔法である息吹は威力こそ竜の攻撃魔法で最大値を叩き出すが攻撃を放つ際にどうしてもタメが必要でしかも大量の魔素を消費するので使い勝手は実のところかなり悪い。
なのでドラゴンは様々な攻撃を考案し、タメ無しでも放てる攻撃魔法をいくつも開発している。
その中でタメもなく複数の敵を狙えるこの竜散弾は非常に使い勝手がよく、本物の竜が放てば数万の兵を瞬時に屠ってしまう凶悪な性能を発揮する代物となっている。
しかしこれがサラマンダーとなれば威力、弾の数は見る影もなく激減、マモノに直撃してもその部位が千切れて吹き飛ぶ程度にしかならず致命傷には達しない。
「ピュウーーーー!!!」
複数のマモノに弾が直撃すると体重の軽いマモノ達は爆発に巻き込まれたかのように何メートルも吹き飛び、その際に手足や背中の棘を皮膚ごと千切れて赭色の血飛沫が地面に描かれる。
だがここで手を休めるような彼女達ではない。ペトラは両腕に魔力を集中させマモノに向かって大きく羽ばたくと、音速と見間違う速度を出したペトラはパロメの攻撃魔法で吹き飛んだ個体目掛けて飛び掛かりその爪を思いっ切り振り抜いた。
これも攻撃魔法の一種で“赤褐丿爪”と呼ばれる近距離戦用の魔法なのだがこれも本物の竜が放つものと比べれば児戯に等しい威力になってしまいマモノと相打ちになるような無様な結果となった。
ペトラの指が数本飛び、マモノの上半身がいくつか飛んだ。マモノはサラマンダーよりも鋭く大きな爪を持っているので反射的にペトラ目掛けて振り抜けばサラマンダーとはいえその指は簡単に切断されしまう。
しかしそれでも数体のマモノを仕留めてみせたペトラは流石の一言。自分の指が切断されようとも攻撃の手を緩めることなく痛む素振りもなしにすぐ他のマモノ目掛けて襲い掛かった。
だがマモノも馬鹿ではない。仲間が殺られたとなれば他の者は地中へと潜り逃げてしまう。命を賭けて殺り合うなど、この自然界では到底考えられない愚行である。
基本的に争い事は怪我を負った時点でその者の負けとなりどちらかの逃走によって終了するのだ。相手を殲滅するまで襲うなんてことは知性が発達した生き物特有の行動と言えるだろう。
「逃がすかッ!!!」
そう、エルフ族のような高度な知性を持った生き物特有の行動だ。例え自分の指が切断されようとも相手を殺し切るまで止まらないのは異常な行動…そんな行動を取る生き物はまだこの星には存在しない。
しかしこの星には宇宙から来た外来種はそんな行動を選択出来る生物。
この者達によって大きく環境が変わり果て、このマモノ達が誕生したのもアズテックオスター・エルフ・ドラゴンの介入によるものだ。
地上から生命達が消え失せ地中に残された彼等は共喰いを図った。その結果互いの魔素を喰らい合うと彼等の魔素は同じ種ということもあって純度が高くなり自分達の手では負えない魔力となってしまったのだ。
それが通常の進化ではなくマモノ化という形となって昇華され、彼等は群れとしてマモノ化となる結末を辿り着いた。
これが顛末になるが、そんな事を知る由もないエルフ達はただ自分にとって重要となる事実のみを話し合っていく。
「ぱ、パロメ…」
「ポーラっ!!話しても大丈夫なの!?」
マモノ達が地中へと逃げたタイミングでポーラはパロメに話しかける。
「このマモノだ…このマモノが他のマモノを生み出してる。」
「何でそんな事分かるのよ。何があったの?」
「こいつらの掘ったトンネル…奥の方に食い終わった原生生物の死骸が溜まって…それがこのマモノの魔力に当てられてマモノ化してる。」
ポーラはその死骸が溜まってる場所へと一時的に連れてこまれた。そこで仲間達の助けを持っていたが途中から麻痺が取れて自由に動ける様になり、そこにツインとピューレが自分と同じく連れ込まれたのでどうにか2人を引きずって狭いトンネルの中をこうして這い出てきたとパロメに説明するとパロメも合点がいったようだった。
「そうか…マモノの死骸には食われた形跡あったけどあのマモノの大きさなら合点がいくわね。もし大きいマモノに食われればそもそも死骸なんて残らない。丸呑みされるからね。でもあんな小さなマモノなら骨は勿論ある程度の残骸が残って当然。もしくは保存の為にわざと残してて、それがたまたまマモノ化して地面から這い出た…ってところかしら。」
この仮説が正しければ尚更このマモノは殺さなければならない。このマモノを放置すれば地中からマモノが生まれ、最悪自分達の拠点である生命の樹の下から出現する可能性すらあり得る。
「う…やっと、動けるかも…」
ピューレが痺れが取れたのか起き上がり周囲を見回す。彼女をよく見ると深蘇芳色のオーラを発しており、マモノの毒はエルチルスの回復魔法によって除去され、それで痺れが取れたようだった。
「…本当ならマモノの毒でずっと動けず生きたまま身体を齧られて食われていっただろうけどエルチルスのお陰で最悪の事態は避けられたようね。」
「私は生きたまま食われた経験あるけどね…。ツイン、なんて酷い姿…絶対に許せない。」
地面に降り皆と合流したアザはツインの近くに座るとサラマンダー達に回復魔法を施せないか聞いてみた。
「悪いけどアタシ達の回復魔法は自分達専用の回復魔法で他の者には使えないの。」
「そっか…」
「でもアタシの血や鱗を触媒にして回復魔法を使えば治せると思う。」
「どうやるのっ!?」
「…それが出来たらとっくにやってる。アタシ等は戦闘に特化してるからこういう魔法は専門外なの、ごめんなさい…」
「いや、謝らないでいい。そうだろうなって分かってたから。一応聞いてみただけ。」
「でもエルチルスなら出来るかも!回復魔法は使えるし、今もツインを治してる筈よ!でないとこうして息がある筈ない。今はエルチルス達を信じましょう。」
ツインの話はここで一旦終え、全員がその場に集結する。魔力を隠蔽し、地中を高速で移動する小さなマモノ達を見つける事は困難を極め、ペトラですら追うのを中断してしまう程だった。
「これからどうするの。今動けるのはアタシとアザ、それにパロメぐらいで他はまだ解毒が出来ず動けないリタ、ミロ、そして重傷のピューレとポーラ、それに今すぐにでもちゃんとした治療が必要な死にかけのツイン…状況は最悪と言っていいわ。」
マトモに動けるのが3人のみで敵はまだ半分は残っている。この場に留まるのも危険だが放置するのも危険だ。これ以上このマモノ達の等級を上がれば確実に自分達の手には負えなくなる。
「…プロメア様に連絡して殲滅してもらうのが確実だと思う。」
「それは…そうだけどパロメ、貴方はいいの?身内をこんな風にされて自分の手で奴らを殺したいとは思わないの?」
「ーーーアタシは現実的な観点で考えてる。」
「ーーーそう、それが貴方の考えた上での答えならそれで構わないわ。…アザ、貴方はどうする?」
皆の視線がアザに集まる。こういう時はアザの一存が第一なのは暗黙の了解。アザが退くと判断すればペトラでも言う事を聞くしかない。
「ーーーみんなには悪いけど私は自分の手で奴らを殺したい。もしここで退けばもう私は自分を狩人として終わると思う。」
アザは皆と目を合わせず下を向いてそう言い放った。あまりにも自分勝手の意見に数名はアザの正気を疑う程だった。
この状況下で皆の安全よりも自分の矜持とは、姉妹であるリタ、ミロでも理解出来ない。ここでアザに賛同出来る者なんてこの場には…一人しか居ないだろう。
「…ふふっ。言うと思ったわ。なら2人で殺りましょうよ。」
ペトラとアザは立ち上がる。他の者はもう戦う意思なんてなく立ち上がることもしない。しかしそんな者達を置いて2人はマモノの位置を探し始める。
「…なんか、もう私の知ってるアザじゃないんだね…」
「うん…」
リタとミロは何となくだがもう昔の様な関係性は築けないんだと理解した。生まれたばかりの頃は姉妹4人、いくつになってもずっと一緒だと当たり前のように考えていたが今は違う。
もうこの時をもって決別し、お互い別々の道を歩んで行くのだと分かってしまったのだ。
それは彼女達の故郷であるアノン星では当然のように良くある事で、同世代で生まれたエルフ達は最初こそずっと一緒だが暫くすればお互いの進むべき道が見え始め次第に離れ離れになっていく。
そして何年、何十年も顔も合わせることなく最後はただの他人となっていくのだ。
それが思っていたよりも早く来てしまっただけの事。この星の環境に適応した結果が如実に表れただけのことに過ぎない。
しかし悲しいものは悲しい。それだけ早く大人になっている証拠なのだから…
次回で決着、その後は数話で纏めて新章に行く予定です。




