エルフのコスパ
ゆうゆの天樂という曲が好きです
ミロが森の中へと入り皆と合流するまでの間、エルフとサラマンダー達は歩きながら反省会という雑談をしていた。
「はあ…疲れた。まさか飛び続けることも出来ないなんて。」
「サラちゃん達って羽はあくまで補助でメインは魔法で飛んでるんだっけ?」
「そう。だから今は魔素…というか魔力不足で安定して飛んでいられないの。」
サラマンダー達は息吹によって大量の魔素を外部に排出してしまい体内に残った魔素だけでは飛行し続けることが難しく、今は歩いてミロとの合流地点に向かっていた。
合流地は一夜明かした場所で、此処は肉食花が自生しているので木々が生えていない範囲が広く見つけやすいので目標として良い地点となっている。
「あれが最適解だと思って4人のフルパワーで息吹を放ったけど結果的には下策だったわ。」
「一人で十分だったわね。多分半分の出力でも消し飛ばせてたわ。」
「へえ〜やっぱり息吹って火力あるんだね。」
「そもそも息吹程の攻撃魔法が必要無いかも。まあアタシらもそんなに多種多様な攻撃魔法が使える訳じゃないけど。」
「あ、そういえばサラちゃん達色んな魔法使ってたけどあれって竜系統の魔法なの?」
戦闘中ずっと気になっていた事をリタは質問することにした。あれが竜系統の魔法なら習得は難しいが、エルフ系統の魔法なら希望がある。
「え?あ〜アタシの召喚魔法のこと?いやあれはエルフ系統の魔法よ?ドラゴンがあんな使役獣を召喚しても意味ないでしょ。」
「へえ…そんな魔法があったんだ。私エルフなのにエルフ系統の魔法だって知らなかった…」
「個人で知識差があるからね。アタシもなんであの魔法が使えるのかは知らないけど使えるってのは感覚で分かってたの。あ、でもアタシの場合は自分の鱗を触媒にしたからエルフ系統だけどそこはオリジナルって感じ。」
「そういえばピューレ、自分の鱗を剥いでたけど大丈夫?」
「え〜?大丈夫だと思うけど…」
ピューレは尻尾を自分の胸の前まで伸ばして剥いだ痕を確認する。するともう新たな鱗が生えてきており傷跡などは見当たらなかった。
「え〜〜!もう生えてるの!?」
ツインはピューレの尻尾に触れて新たに小さな鱗が生えてるのを見ると指先でツンツンとつついて状態の確認をした。
「ちょ、ツイン!新しい鱗は敏感だから触れる前に許可を取りなさい!」
尻尾を背中側に戻してお尻を押さえるピューレ。どうやら生えてきたばかりの鱗は敏感らしい。
「あ、ごめんなさい。でもそれってどうなってるの?回復魔法?」
「そんなの知らないわよ。そもそもアタシらみたいな魔法に傾倒した生物は生命活動も魔法で行なうからほとんど無意識で魔法を行使してるの。だから傷が治る工程そのものが一種の魔法なのよ。…多分。」
「便利な生態ね。私も回復魔法覚えないと…」
これが終わったらルーテ様に回復魔法を教えてもらおうと決めるツイン。攻撃魔法もそうだが回復魔法もこれからの狩りには必須になる筈である。
「エルフでも結構魔法に関しては差があるって気付かされたな…私もルーテ様に攻撃魔法教えてもらおう。」
アザはエルフ達の中でも反省の色が強く、己の足りなさについて痛感していた。しかし卑屈さはなくてあくまで前向きに物事を考えているようだ。
「それならミロの馬鹿がやったあの魔法が最終目標にしなさい。多分あれがエルフの出せる最大火力だと思うから。」
隣に来たペトラからアドバイスが行なわれる。
「…それってエルフは自爆してろってこと?」
ペトラ相手でも流石にジト目を向けるアザにポーラが声を掛けて話の輪に入ってきた。
「実際いいんじゃない?コスパは最高よ。エルフ一人の犠牲で等級2のマモノ3体の収穫よ?」
「ポーラ…アンタは勝手に話に入ってくるんじゃないわよ。」
ペトラは話の腰を折られた事に対して不服そうに反論した。
「それなら別にエルフじゃなくていいじゃない。サラマンダーでも自爆出来るんだから。」
ツインも会話に入り話題が自爆魔法に変わっていく。
「アタシらが自爆したらあれ以上の火力が出て過剰よ。それにアタシ達サラマンダーはあなた達エルフよりもコストが掛かるの!見なさいこの角と羽と尻尾!体積的に見てもエルフよりアタシらがコスト高いのよ。」
ポーラはポーズを決めながら角や羽をエルフ達に見せびらかした。確かにサラマンダーはエルフよりも生産コストが高く魔素もエネルギーも栄養の量も高くなる。
「なんか人の命をコストとかで換算するの嫌だな…」
リタは疲れた顔でそんな話題を今するべきではないと主張した。恐らくこの方法が確立されるとエルフの立場が悪くなる。その事を憂いての発言だが隣にいたパロメから違う視点で自爆魔法について語られる。
「でも実際悪くは無いとは思うけどね。全滅するより一人が自爆魔法を行使して最悪相打ちに持ってくのは。その点ミロは誰よりもその事を見抜いていたわね。」
「いやパロメ…ミロはそこまで考えはいた…のかもしれない…けど、けれど!それだとこれからの狩り全部自爆魔法で済んじゃうじゃない…」
「流石にそれは極論すぎよ。100と0みたいな話じゃなくて8人全滅なら一人だけ自爆魔法を発動して状況を変えるってのは悪くない手ってこと。それで実際にアタシ達は生き残った。これは事実でしょ?」
「うーん…そうなんだけどさ…それでエルフはコスパ最高!…みたいなのは嫌なの。」
「それはポーラが悪いわ。ポーラ、リタに謝りなさい。それにミロにもね。彼女のおかげでアタシ達は死なずにすんだのだから感謝の言葉を言うべきよ。」
「ええ…アタシ一人が悪いみたいな感じ〜?…まあ悪かったわよ。…ごめんなさい。」
ポーラも少し言い方が悪かった自覚があったのか素直に謝罪をし一旦この話題は終わりとなった。
「…じゃあ本題戻るわよ。あの自爆魔法、あれってエルフの持つ魔力をフルに使った攻撃魔法だけど別に自爆する必要はない。あれを敵にだけ放出させることが出来ればエルフ一人でも等級2のマモノ3体を一回の魔法で倒せると思う。」
「じゃあ私達エルフも魔法を極めればあんな光の柱を建てられるようになるってこと?」
「もうミロが一人で建てたじゃない。自分の魔素を全て使ったからあそこまで火力出たけど、正直あそこまでの火力は必要無いから難易度はそこまで高く無いはず。」
光の柱はエルフ由来の攻撃魔法で時間さえあれば誰でも習得が可能な魔法だ。なので望めば誰でもあの攻撃魔法を放つ事が出来る。
「…お姉様達に頼んでトライバルタトゥーを刻印してもらえば簡単に強くなれるんじゃない?」
ツインは左腕を上げて姉様に刻印してもらった時計を見ながらある可能性を口にした。
「…それありなの?」
「だって自爆魔法が今現在わたしたちに施されているでしょう?この火力の魔法が刻印出来るのなら簡単な気が…」
「それ止めといた方がいいわよ。」
ペトラはその方法で強くなるのは止めたほうがよいと忠告する。どうやらこの方法には問題があるらしい。
「ペトラ、それはどうして?」
「さっきのミロの魔力感じたでしょ?あれ、ミロはコントロール出来てなかった。その時計もコントロール出来るように出来てないでしょ。トライバルタトゥーはそれ自体が魔法として完結してしまってるから本人ですら調整が出来ないの。だから攻撃魔法をトライバルタトゥーとして刻印するのは止めたほうがいいわ。」
「そっか…なるほどね。確かに調整出来ない攻撃魔法とか怖くて使えないか…じゃあ召喚魔法は?あれはトライバルタトゥーだと危ない?」
「それは分からないわ。アタシが使った宇踊鳥とかならいいかもね。でもトライバルタトゥーで刻印するほどの魔法では無いしそういう珍しい、意識しなくてもいいような使い勝手のいい魔法にしておきなさい。」
ペトラは腕の時計を指差し、こういう魔法に留めておくようにと助言を告げると合流地点へと向かって行った。
「アタシも止めておいた方がいいと思う。召喚魔法は触媒が必要なんだけどトライバルタトゥーだと使用する触媒が固定化されて自由度が無くなるし呼べる召喚獣も固定されるからさ。」
「じゃあ後で私達に召喚魔法教えてよ!」
「わ、私も教えて欲しい!」
「じゃあ私も。」
エルフ達は召喚魔法を習得したいとピューレに願い出るがピューレは困った様子で召喚魔法について説明をし始める。
「ええ〜教えれるほど詳しく無いのよね…召喚魔法って素質とか資質、才能が必要な魔法でどれだけ修練しても習得出来ない人は習得出来ないから期待しないでね。」
「そうなの?」
「それに多分アンタたち勘違いしてる。実はアタシの体内に使役獣が保存されてるのよ。」
「「「え!?」」」
「重石亀は人工生命体で作られた存在なの。たからあれ自体が魔法でアタシはそれを鱗を触媒にこっち、つまり体外に呼び出したってわけ。」
「そんな魔法あるんだ…」
「ペトラの宇踊鳥を凄くリアルにして高級にしたって感じね。だから勝手に消えたでしょ?魔素を使い切ったから身体が消えてアタシの中に戻っていったのよ。」
「そういえば…」
「なんかミロが自爆したりでそこまで見てなかったわ。」
ミロせいで印象に残っているのはあの光の柱だった。あれのせいでマモノの印象が消し飛んだといって差し支えない。
「はあ…やっぱり簡単に強くなれたりはしないか。」
「アザは十分強いじゃない。召喚魔法まで使われたらアタシたちサラマンダーの立場が無くなるわ。」
「そうよ。戦闘要員なのよこっちは。そっちが強くなり過ぎると困るのよ。」
「…はいはい。分かりましたよ。」
エルフとサラマンダー達は先程まで戦闘を興じていた事もありそこまで元気がないのか突っ掛かれてもおざなりの反応だけで会話が終わってしまう事が多々あった。
そのせいか会話も途切れ、合流地点に到着するとすぐに腰を下ろし地面へとへたり込むように座り込んでしまう。
あの激闘からやっと休憩出来たエルフとサラマンダー達はミロを迎えに行くのを断念し、彼女の合流をただ静かに待った。
大体2時間ぐらいか。座っている者の中には船を漕ぐものも現れ集中力が低下していた中、遂に息を切らして走って戻って来たミロと合流を果たす。
「はあー!はあー!はあ…!寒すぎて全速力で走って来たわ…私の上着持ってきた!?」
「おぉ〜ミロおかえりなさい。これ。」
「リタありがとう!風邪引きそうで困ってたんだよ!」
ミロはリタから上着を奪う様に取るとすぐさま着込んで火を起こそうと枝を集め始める。
「あんたらよく焚き火もしないで座ってられるね。」
「アタシらは体温高いから昼間は平気よ。」
「じゃあリタとツインとアザは?」
「昼間から煙が立つの嫌だったから火をつけなかったの。」
「え?じゃあ焚き火止めたほうがいい?」
「うーん…別に良いかな。みんな合流出来たし、最悪今日はここで一晩過ごさないとだから。」
それを聞きミロは枝を集めるのを再開しエルフとサラマンダー達は昨日火を起こした場所へと移動を始めた。
すると自然と会話が始まりこれからの動きについて話し合いが行なわれるのだった。
「これからどうしようか。ミロも合流したし暗くなる前に一回探索に入る?それとも今日は止めとく?」
リタは進行役として皆に意見を求めるがお互いの顔色を伺うだけでそれしらしい意見が出てこない。
「…今動くべきか休むべきかの判断材料がなさ過ぎるって感じかな?じゃあみんなどうしたい?一回家に戻るのもアリっちゃアリだよ?」
「それは無しよ。」
パロメがサラマンダーを代表してその案を拒否した。
「因みにご飯無いから今日ここで野営するならご飯は無しになるけど。」
リタを除く全員が絶望した表情を浮かべる。まるで終末の希望が無い世界に放り出されたような反応だが、たかだか1日ご飯抜きというだけでこの表情が出るなら明日もご飯に抜きの可能性を示唆した場合いったいどんな反応を見せるかリタは好奇心に駆られた。
「だから一度ご飯を食べに戻るのもアリって話。」
「………………そ、それでも駄目。」
「長い沈黙だったね…」
唸りながら出た返答がこれならサラマンダー達は戻りたがらない理由があるというわけだ。
リタは大体だがその理由について察していて特に言及したりはせずあくまでサラマンダー達の一意見として聞き入れるのに留める。
「じゃあご飯どうしようか。マモノは食えそうにないビジュアルしてるし原生生物の姿も見えない。食料なのはこの乾燥した肉食花ぐらい…」
スパイスとして可能性がある肉食花だがこれをメインとして食べるのは胃には良くないだろう。出来れば回避したい選択肢の一つだった。
「…虫。」
アザの一言は皆を更に絶望へとたたき落とすもので、涙目を浮かべる者も現れるほとだった。
「それだけは…それだけは…!」
特にツインが拒否感を顕にしアザの提案を蹴った。しかし…
「じゃあどうする?他に食べられそうなの無いよこの森。」
「じゃあ今日一日ぐらい食べなくてもいいもん!」
ツインにしては珍しい子供っぽい反応にエルフとサラマンダー達から笑い声が上がった。だが笑い事ではないことは百も承知なので皆の笑い声はそれはそれは乾いたものである。
「…ミロにさ、ここに来るついでに持ってきてもらえばよかったんじゃない?」
ポーラの一言でその場にいた全員が地面に拳を振り下ろす。その衝撃は小枝を集めているミロにまで届き「あいつら何やってんだ…?」と懐疑的な視線を送るのだった。
「あの娘にそこまでの事を期待出来ない…!」
「そんなに気を回せる性格してないよ…!」
「だってあいつ今さっき生き返ったばかりだからお腹空いてないだろうしね…!」
姉妹であるエルフ達はミロにそこまでの事は求めないで欲しいとサラマンダーへ懇願がされた。姉妹達からのこんな評価をされてるミロは少し怒ってもよいだろう。
「期待なんか端からしてないわよ。」
「そうそう。」
「あの何も考えてなさそうな顔見れば一目瞭然じゃない。」
「もう一回自爆させて取りに行かせる?」
妹たちからこんな評価をされてるミロはもう少し頑張ったほうがよいだろう。
「さっきから何話してんの〜?」
枝を集め終えたミロが焚き火をしていた場所に枝を下ろすとサラマンダー達に火を起こして欲しいと頼んだ。
「いや…今日のご飯どうしようかなって。」
「ん?虫食えばいいんじゃん。」
ミロは自分の魔素で作った袋を皆の前に出すと悲鳴が上がった。魔素の袋の中には地面の中で冬を越そうとしていた幼虫で埋め尽くされており最悪なビジュアルをしていた。
「最悪最悪!!ほんとうに最悪なんだけど!!こっち来ないで!!」
ツインの強い拒絶は相当のもので空に飛んで逃げるほどだ。エルフにここまでの事をさせるとはミロ、恐ろしい娘である。
「はあ〜?タンパク質豊富なんだぞ!貴重なタンパク質を摂るために集めてきたのになんだよ!」
ミロはミロで何故こんな対応をされないといけないのかと憤慨するが、自分が生命の樹から樹の実を収穫して合流すれば良いだけの事について気付いていないようだ。
「香辛料あるしいくらでも調理出来るじゃん!」
「見た目はどうにもならないでしょうが!!」
「全部まとめて叩いて潰せばいいじゃん!肉団子にすれば見た目なんて…」
「それ以上言ったら攻撃するからッ!!」
ツインは遂に弓を構えた。因みに他の者も弓に手を掛けたり爪を立てて攻撃の体勢に入っていたりする。
そしてそれからさらなる話し合いが行なわれ…
「じゃあ食料を求めて探索を再開しよう。」
結局当初の目的である探索に戻りエルフとサラマンダー達は森の奥へと足を踏み入れた。
「私そんなに悪いことしたかな…」
「悪いことというか…」
「良いことはしてないよね…」
ミロは納得がいかないといった具合に愚痴を零すがリタとアザからはフォローにもなっていないフォローがされ更に不満そうにミロは不貞腐れていた。
本人からすれば自爆したことで最悪の展開、つまり全滅を回避したのになんで自分がこんな風に言われないといけないのかと思うかもしれない。
しかし彼女が自爆したせいでルーテとプロメアの間で一悶着を起こしている事をもうすでに忘れてしまっている時点でコイツも大概なのである。
「向かう方向はこっちでいいの?」
「うん、取り敢えずマモノ化がされていない地域に行きたいからちょい西側に流れていく感じ。」
「南は進んでいくと最後は草原に出ちゃうから食べ物なんて期待出来ないものね。」
「メゥさんの身内がもしかしたら生き残ってるかもしれないけど…」
「流石にメゥさんの身内を食べたりは出来ないから行っても意味ないわ。」
ということでエルフ達の旅団は西側へと流れることで未知の食料を探しに向かっていた。あるかも分からない食料を目指しているのに西側に向かう理由がそこしか希望がないというのは些か心許ない根拠だが、南に行っても何も無いのが分かっているのでもう西へと向かうしかないのだ。
「サラちゃん達って嗅覚良いんだよね?食料とか探せそう?」
「お腹が空いてるから嗅覚が鋭敏になってるしアタシ達に任せなさい!」
「おお〜期待してます妹たちよ〜。」
サラマンダー達は先頭に躍り出ると嗅覚を駆使して食料を探し始める。しかしそう簡単に見つかるはずもなくいくら歩いても食料らしきものは見当たらない。
いや、本当はたまに見かけるのだ。虫の卵とか軟体動物門の生き物とか食べたくない見た目をしたものは。しかしこれを口にするのは本当に飢えた時のみ。今はまだ飢えきれていないので果実や肉などを希望している形だ。
そんな現代っ子みたいな価値観を持ったサラマンダー達はある匂いを嗅ぎ分ける。それはよく知っている匂い。しかしあまりこの森では嗅がないでもある。
「まさか…!」
サラマンダー達が走り出すとエルフ達も続いて走り出しその後ろ姿を追った。そしてサラマンダー達は見つける。
「やった…!やったわ!ヒャッフーー!!」
飛び跳ねて喜ぶサラマンダー達。それもその筈、彼女達は見つけたのだ。透き通った水に溢れこの森の中を走る清流の川の流れを…
清流、それはきみが見た光。




