エルフの旅団
DEAD DAYSのLiar,Liarという曲が好きです
エルフとサラマンダー達は落ち葉が降り注ぐ地面を歩くたびに乾燥した落ち葉が割れる音が鳴り、その音のせいで原生生物達に見つかるのではないかと神経をすり減らす。
特にエルフ種は耳が良く音に対してはかなり敏感になりやすく、静かに進めないかと皆で知恵を絞り合っていた。
「どうする?あたしらが飛んで運ぶやり方でもいいのよ?」
「う〜ん…ここで体力使うのも悪手な気がするし…」
「体力がある内に移動するというのもアリじゃない?」
「それ賢いね。初日だからこそ出来る事をするのも賢明だと私は思うよ。」
「移動するって言ってもよ。草原まで行っちゃうの?南方の森の中の探索なんてメゥのせいでほとんど出来てないしこうして歩いてみるのも良いとは思うけど。」
エルフ、サラマンダー達の間でも意見は割れる。どれも最善の方法のような気がするし、他にも良い方法があるような気もした。
「別に狩猟だけじゃなくて採取でもいいんでしょ?秋の季節って収穫の季節とも言うらしいし何か実を成した植物が見つかるかもよ。」
「だと良いんだけど…」
結局だらだらと歩きながら進む事を選んだエルフ達は葉が落ち少し寂しさが感じられる森の中を縦の列を作って進んで行った。
すると少し見覚えのある場所に出る。ここはメゥと初対面した場所で子供達にとってとても印象的な場所だ。
「ここって…」
「ちょっと喋ってる内にここまで来ちゃったね。」
「悪くないペースなんじゃない?どうする?休憩でもする?あたしは別にまだまだ動けるけど。」
エルフとサラマンダー達は互いの顔色と体調を確認し合う。誰も疲れた様子はなくまだまだ動けるといった印象だ。
「じゃあ…このまま先まで行こうか。みんなここからは警戒領域ね。未開の地なんだから気を付けないと。」
リタがリーダーとして指示を出しこのまま先へと進むことが決定する。そして先頭を行くリタの隣にアザが並ぶとリタと歩幅を合わせつつ周囲を警戒し始めた。
「生き物の気配は無いんだけとさ…なーんか嫌な感じするな。」
「…どうする?アザが指示を出す?」
戦闘が想定された際はリーダーがリタからアザへと一時的に委譲される。それは暗黙の了解であり全員がそう決めたものだ。
しかしアザもまだ判断に困っているらしくあまり自信が無さそうなのが印象的だった。普段の彼女ならば即決し行動に移していてもおかしくはない。
「…いや、まだ分からない。でもプロメア様の影響で静かって感じがしないんだよね。」
「それって他の要因が考えられるってこと?」
ふたりの会話に加わったのはパロメ。彼女はふたりの会話を聞き意見の交換を図ろうとしていた。
「どうなんだろうね…この辺は土地勘も無いしプロメア様の影響で環境の変化も著しいからさ。」
「もっと具体的に、論理的に語ってくれないかしら。」
「そういうの苦手なんだよね…。私って感覚派っぽいし。」
「それだとみんな納得出来ないかしら。」
パロメの言う通り後方を歩く他のメンバーはどうしたらよいか意見を求めていた。なのでアザは出来るだけ論理的な思考を持って説明しようと考える。
(…取り敢えず今は適当に言ってこの場を収めようか。だらだらと話してるのは危険だし。)
「あ〜…なんかルーティン?いやサイクル…と言ったら良いのかな?プロメア様の気配を感じて森の生き物が居なくなるのってこれで2回目のはずじゃん?」
「それがどうしたの?」
「1回目ってドラゴンの時のプロメア様の気配でさ、この星の生き物にとっては初めての経験で多分だけど無我夢中で逃げたんだと思うんだよ。」
「それはそうでしょ。プロメア様の気配を感じて逃げ出さない生き物なんて居ないわ。」
「うん、だけど何も起こらなかった。気配を感じただけでプロメア様は何もしていない。これが1回目の出来事ね。」
アザは1回目で起きた内容を自分なりに論理的に説明をする。
「で、次はサラマンダーのプロメア様の気配を受けて森の生き物達は逃げ出した。これが2回目になるんだけどその時の驚きとか衝撃って1回目よりも弱いと思うんだよね〜。ドラゴンとサラマンダーって別の生き物で脅威度なんかは比べ物にならないと思うんだよ。」
「それは…そうね。あたしもそう思うわ。それでどう話が繋がるの?」
「森の生き物達ってもう戻って来ていてもおかしくないよね…ってこと。あれから相当日数経ってるのになんで生き物の気配が無いんだろう。今回も気配だけで実害なんて無かったのに変じゃない?」
その場に居る全員が考え込む。考える内容は日数だ。あれはサラマンダー達のせいで起きた事件だがあれから相当な日数は経過している。
折檻で5日、羊毛の作業で1日、服作りで6日、そして服作りから今日で2日経過しているので合計であれから14日は経過していた。
「…確かに1回目の時を考えるともういくらか戻って来ていても不思議じゃない。というか遅いぐらいよ。」
「冬が近づいて来てるからそもそも過ごしやすい地域へ移動してる可能性は?」
「あ、なら冬眠とかの可能性も…」
「いやいや、冬眠するにはまだ早いよ。アズ様の話なら雪が振り始めるまでまだ30日はあるって話だし。」
「それに冬眠するならいっぱい食べて肥えないとでしょ?森を離れたまま肥えるのは無理じゃないかしら?」
「じゃあさ、生き物が居ない理由って何?何度もプロメア様の気配を感じて完全に森から離れたとか?」
「それを調べるのも私達の仕事なんじゃない?」
結局分からないままエルフ達は森の中を進んでいくことになる。もしもこの森に生き物が戻ってこないとなると狩りが格段に難しくなる事を考えられ、他の理由があって欲しいと考えるのが自然だ。
しかしその他の理由がもしあった場合、事態は想像しているよりももっと深刻なのかもしれない。
エルフ達にとって冬支度は急務だ。だがそれは原生生物達にとっても同じの事。それなのに森に生き物の気配がないというものはとても気味が悪かった。
そしてそういった雰囲気を感じ取ったのかエルフ達の足取りは重く、不安が足元に滲み出ていた。
だが…そんな不安を他所にその日は夕方まで歩き続けても特にこれといった異変はなく、エルフとサラマンダーは少々肩透かしを食らった感じで1日が終わろうとしていた。
体力よりも気疲れの方が強く、今日は良さげな場所を見つけて夜営をしようという声が上がる。
「火を使いたいし水も確保したいな。川とか無いのかなこの森。」
「確かに見かけないよね。木が立ってるし地下水もあるからありそうなんだけど…」
「沼はあったけどね。毒たっぷりの。」
「探しても見つかるのかは分からないのだから他の方法で水分補給をしましょうよ。」
「じゃあツイン、お願い。」
「なら弱ってそうな木を見つけて。あ、でも腐ってる木は駄目ね。みんなもそこから採った水飲みたくないでしょ?」
エルフとサラマンダー達は辺りを見回し目的のものを見つけるとツインがその木に触れて魔法を行使した。
「…上手くいかなくても責めないでちょうだい。」
ツインの魔素が木を縫うように突き進み内部にまで侵入する。そして魔素の持つ指向性を持った力で内部にある水分を引っ張り上げた。
(よし、掴んだ…!)
こうなれば後は引っ張るだけ。ツインが手を引くと1リットル以上もの水の塊が木の表面から滲み出てツインの手のひらの上でチャプチャプと鳴らしながら宙に浮遊し、皆から歓声の声が挙がる。
「あははっ!やっぱりツインは器用な子!」
「みんなに行き渡る量は確保したし勝手に取ってよね。」
ツイン以外の者が水の塊に向けて手を伸ばし意識を向けると水の塊から触手のように水が伸びていき一人ひとりに行き渡る。
これぐらいの魔法ならば全員が行なえた。それだけ魔法に対する理解度と練度が備わったということだ。
「ああ〜生き返る〜…」
「川の水とかあれば便利だけどそのまま口にするの冷静に考えて難しいわ。お腹を壊すかもしれないもの。」
「その点、地下水を根っこから汲み上げる木は天然の浄水装置よ。しかもいくらでも生えてるし。」
「この方法を教えてもらっておいてよかったわね。木があればいくらでも水分補給が出来るわ。」
皆の言う通りこの方法は便利だが水分を吸われた木は弱り最悪枯れてしまう。なのでこの方法を行なう際はもう元気がなく枯れそうな木に対してのみという決まりがあった。
自分たちが森に生かされているということを忘れない為にも必要な考え方である。
「…寝床を決めよう。この辺は根っこが張って寝づらいし火も起こしづらい。出来るだけ地面が露出してる場所で夜営したいかな。」
リタが指示を出すと全員が夜営地に適した場所を探し始める。あまりバラバラになるのではなくそこそこの距離感を保って周囲を見回した。
すると開けた土地が見える。それなりの範囲で木々が生えていない場所を見つけたエルフ達はその方角へと向かい夜営地に適しているかどうか観察をしようとする。しかしそこにあったものは…
「…気の所為じゃなかったらここって例のアレが群生してる土地じゃない?」
「花は流石にこの寒さで枯れ落ちてしまってるけど、この地表を覆うように伸びてる蔓のような根っこは見覚えあるわ。」
「思い出したくもないんだけど!」
「ホントよ!」
サラマンダー達にとってもエルフ達にとっても苦い思い出である肉食花の群生地を見つけた一同はどうしたものかと頭を悩ませる。
「ここにもあるって事は生息範囲が結構広いのね。どうやって広範囲に渡って根付いているのか気になるわ。」
「うーん…それよりもっと話し合うことない?」
「じゃあ何よ。」
「それをこれから話すんでしょ…」
色々と話し合っている内にエルフのひとりが奇妙なものを見つける。小さいが赤い実のようなものを見つけ、指を指して皆に伝えるとそれは肉食花の実なのではないかと議題に挙がった。
「よく見つけれたわねあんた達。あたしらは植物の見分けとか苦手だから気が付かなかったわ。」
「たまたまだよ。」
「あれ食べられそう?」
「流石に見ただけじゃ判断つかないかな…」
「じゃあとりあえず採ってみましょうよ。あんた達はお留守番ね。」
「ちょ、ちょっと!相談も無しに行くなって…!」
サラマンダー達は肩に掛けた革袋とエルフ達をその場に置いていくと無警戒のまま肉食花のテリトリーに足を踏み入れる。見ているだけで心臓が飛び出そうだったが、サラマンダー達がいくら足を進めたところで肉食花は微動だにせず、ただただ踏み付けられるだけだった。
「コイツら休眠してるわよ。だから慌てる必要はないわ。」
「それならそうだと言ってよねパロメ!」
「はいはい。失礼致しやした。」
パロメはそう言ったものの確信はなく、念の為に自分達だけで踏み込んでいたので他のサラマンダー達からニヤニヤとした笑みを向けられるのだった。
「あんたらウザいわよ。」
「パロメって結構さ…」
「うるさい…!」
からかおうとしたピューレを諌めるパロメ。それ以上言われた場合、恐らく拳が出ていただろう。
「ねえ、実ってこれのこと?この赤いやつよね?」
「…自信は無いけどこれじゃない?ねえ!これよねっ?!」
離れた場所に居る姉達に指を指して目的の物がこれかどうか判断を聞くサラマンダー達。実の見た目が派手な部類なのにこうして聞くということは本当に植物の区別が苦手なのだろう。
「それそれ!危ないから直接触れるのは…おいッ!!話を聞けよッ!!」
「もう触っちゃったわよ!!」
もしかしたら触れるだけで悪影響を及ぼす代物かもしれないと、エルフ達が心配して忠告したのに不用心に直で触れるサラマンダー達。やはり種としての感性の違いがあるのだろう。慎重的であるエルフ達に対しサラマンダーは積極的な行動が見られる。
「大丈夫そう!?」
「なんてことないわよこれしき!」
赤い実を直持ちした手でブンブンと腕を振り平気だと伝えるペトラを見てエルフ達の心配は一向に無くなる気配がない。
「ペトラってサラちゃんズの中でも一番我が強いよね。」
「ね、パロメとかは結構話が通じるしピューレはちょっとマイペースだけど良い子よ。ポーラは…なんか私達に近いよね。イジラレがちで。」
「あ〜わかるな〜それ。」
「ペトラが一番竜の要素が強い子なのかな。高慢というか傲慢?プライドが高くてプロメア様の信者って感じ。まあ別に悪い子じゃないんだけど集団行動は苦手なタイプ。」
「聞こえてるわよッ!!あたしの悪口を言わないでッ!!」
サラマンダーもエルフの特徴である長い耳と優れた聴覚を有しているので隠すつもりもない姉達の陰口が聞こえてしまった。普段の彼女からでは分からないがペトラもそれなりに繊細な心を持った年頃の少女であることを忘れてはいけない。
「ごめんごめん!それでその実って食べられそうなのっー?」
リタがその実が食用としての価値があるか調べてほしいと伝えるとサラマンダー達の間で批評会が始まった。
「くんくん…匂いはちょっと刺激的じゃない?あまり嗅いだことない匂いだわ。」
「なんだろうこれ…こう言葉に出来ないけど毒って感じはしないよね?」
「あいつらに食べさせて毒見させましょうよ!」
「「「「聞こえてんぞ!!」」」」
「喧嘩しない。で、どうするのこれ?少し中身とか見てみない?」
赤い実は表面が乾燥しているのか少し硬く、中身はほとんど無さそうで可食部が無さそうだった。なのでとりあえず中身があるかどうかだけでも確認しようということで解剖が始まる。
「爪で突いたら簡単に実が割れたけど中身は…種?ばかりね。身なんてほとんどない。」
「皮と種だけ?」
「この白っぽいのは?種と身を繋いでいるここは可食部なんじゃない?」
「なんにしてもお腹に溜まらなそうね。」
少し残念な空気になるが種から独特な刺激臭が香り、その香りを嗅ぐと少しだけだが食欲をそそられた。…ゴクリと唾を飲み込む音が同時に起き、気が付けば全員が爪の先端で種を摘み口にし始める。
「…あの子達もしかして食べてない?」
「ある意味で凄いわね…私だったら口にしないけど。」
「でも毒見してくれてるわけじゃん?」
「腸内のエルチルスが解毒してくれるっしょ。」
エルフ達が「マジかよコイツら…」的な視線を向けながら妹達が死ぬような事が無いように祈るが、どうやら毒のような成分は入っておらず…
「痛っ!?何これ舌が痛いわゴホゴホッ!」
「そ、そうね…!でもこれ…」
「くせになる痛みというか…」
「辛さ…なのかしら。これあたし好きよ。」
また一粒、また一粒と口に運ぶサラマンダー達。どうやら辛味のある実らしく、食べれば食べるほど体温が上がりこの寒い季節においてとても重宝される代物だった。
「…私達も食べに行く?」
「…そうしましょうか。」
エルフ達もサラマンダー達と合流し辛味があるという種を口にすると…
「辛いっ〜〜!!でも暖まるこれ〜〜!!」
「うぅ…私は苦手かも。これ単体では食べたくはないわ。」
「私は好き!なんか料理に使えそうじゃない?お肉と一緒に焼くと美味しそう…」
「それッ!!何か狩ったらさ!一緒に焼いてみない?香ばしくなりそうだし辛味も落ち着きそうだからツインも食べられそうだよ。」
サラマンダー達とエルフ達が見つけた赤い実はナス科の植物でトウガラシ属のグループに含まれる種類だった。
暖かい時期は鳥などの生き物を栄養とし、寒い時期はこうして赤い実を作り鳥達に食べてもらう事で遠い土地にまで種を運んでもらう進化を選択した種である。
「これ持って帰りたいわ。というか一回持って帰るのもアリじゃない?」
パロメはリタに一旦これを持ち帰らないかと提案する。だがリタは本来の目的から外れると考え、持てる分だけ持ち帰ろうと判断しサラマンダー達に革袋にスペースはあるかと聞いてみた。
「そんなに大きな革袋じゃないから…」
サラマンダー達は革袋から生命の樹の実を取り出すと雑にエルフ達へ投げて渡し余分のスペースを作り出す。
「今日の分の食料しか入ってないし食べちゃいましょうよ。」
「確かに…もう夜になるし食べる時間としても丁度いいか。」
エルフ達は腕に施された時計を見て既に17時を回っていることに気付く。
「…この星って衛星が3つもあるから夜でも変に明るい時間帯があって間隔が一定じゃないのが困るよ。」
「本当よ。もう何十日もこの星に居るけど未だに空の明るさで時間帯が計れない。」
空には2つの衛星が見え、その衛星から太陽の反射光が地表へと注がれるが、地表とは別に宇宙ではこの2つの光がぶつかり合い混じり合った境界線が視認出来る。
もはや見慣れた光景だが、この光はとてもではないが自然光とは思えない人工的な色合いをしていた。この光のせいでエルフ達は宇宙の明るさと時間が一致していないと語る。
「…くんくん。なんかこの実とは別に刺激的な匂いがする気が…」
「あ、あたしも思った。また別のいい匂いがするのよ。」
サラマンダー達は嗅覚でその正体を探ろうとする。
因みにサラマンダー達はエルフ族の中で最も嗅覚が鋭く匂いで食べ物を探す事が出来た。だが他の生物、特に哺乳類と比べると流石にそこまでではなく、あくまでエルフの中ではという枠組み付きだが…
「なになに、まだあるの?」
歩き続け、そろそろ夕飯の頃合いも相まってサラマンダー達の嗅覚は研ぎ澄まされた結果ついにその正体へと辿り着く。
「…根っこ。根っこからこれとは違う刺激的な匂いがする。」
「根っこから…?」
自分の足元を見るエルフ達を他所にサラマンダー達は表皮が乾燥し、動く気配のない根っこを持ち上げるように引っ張って千切ろうと試みるも芯の部分が固く中々の強度を誇っていた。
「…見た目は乾燥して細くなったけどその分固くなって切れなくなってるようね。」
この肉食花に襲われた際は自身の力で千切る事が出来た事を思い出しながら爪を立てて切り離す事にした。
「これぐらいなら…」
サラマンダー達の爪の一閃により肉食花の根が切れる。こう見るとサラマンダー達の爪は純粋なエルフとは明らかに違う代物に思えた。
「はあ〜凄いね君たち。お姉さん感心したわ〜。」
ミロの褒めてるのか茶化しているのか分からない言葉を無視してサラマンダー達は根の断面を嗅いでこの匂いの正体で間違いないと確信を得た。
「これも使えそうよ。ちょっと匂いが弱いけど香辛料?に使えるんじゃない?」
ぽいと投げて渡されたエルフ達はその断面から少しエスニックな匂いを感じ確かに香辛料として使えそうだと考える。
「じゃあここら辺のやつ刈っちゃうわよ。」
「刈りすぎないようにね。もし食用として使えるなら来年も刈りたいし。」
「言われなくても分かってるわよそんな事。あたしらを誰だと思ってんの。」
「はいはい、じゃあ私達が革袋に仕舞うから刈るのは任せるよ。」
共同作業で次々と収穫する一同。香辛料は保存食にも応用が利くのでルーテが知れば間違いなく狂喜乱舞したことだろう。
「良し…これぐらいでいいでしょう。もしかしたらまだ他の食料を見つけられるかもしれないし余裕は持たせてっと…」
革袋の6割程がトウガラシと根っこで埋まり後は他の食料を見つけ次第この袋の中に入れる算段を付けるエルフ達は根が刈られ地面が露出した場所で火を起こそうと適当な木の枝を探し回る。
そして木の枝を積み終えるとサラマンダーのひとりがその枝に魔法を行使し火を起こそうとしていた。
「火の魔法は得意よ。」
魔法を積行使するのはペトラ。彼女の赤い魔素が木に触れるかどうかの距離感で発火し、木の枝にその火が移ると焚き火が完成した。
「おお〜流石はサラマンダーと呼ばれるだけあるね。火の魔法なんていつ覚えたの?」
「はんっ!生まれつき使えるっての!どこぞの誰かさん達とは違ってね、プププッ!」
シバいたろかなこの女…とエルフ達は笑顔で思っているとパロメから「気にしないで…この子はもうこういう子なのよ」という視線を向けられた。
「あんたがちゃんと手綱引かないと駄目でしょ。」
「無理よ。最近だとあたしの言うことも聞かないんだから。」
「そうよ、パロメって長女面してるけどあたしの方が優れてるの。あたしの方が上って認めなさい。」
「反抗期?」
「そうかも。嫌になっちゃうわガキで。」
「何よ!みんなあたしの才能に嫉妬してるんだわ!」
リタとパロメが耳打ちしながら仲良く話しているのを面白くなさそうに見るペトラにアザが大声で話すのを止めるよう忠告する。
「ペトラ、夜の森は危険だから静かにして。」
「だってあの二人が…!」
「ペトラ。」
「…分かったわよ。そうやってあたしを悪者にして…」
おやおや?あのプライドの塊であるペトラがアザの言う事を素直に聞いた事にその場にいた全員が目を丸くした。
「え、なになにペトラってアザの言う事は素直に聞くの?あんたそんな可愛いところあったの?」
「なっ…!?ぴ、ピューレ!そ、そんなわけないでしょ!?止めてよ…!」
「だからペトラ…」
「うぅっ…!」
恨めしそうにピューレを睨みつけるペトラに対し「これはマジであるぞ」と確信を得る他の姉妹達。どうやらペトラはアザに関してはかなり認めているらしいことがここで判明する。
「まあアザって強くて判断間違わないしね。そこが良かったのかも。」
「…私そんな強いかな。まだまだ足りないって思ってるけど。」
「あたしらは対等と認めた相手の言う事は聞くわ。つまりそういうことよ。」
「プロメア様もアザのこと認めてたしそこが良かったんじゃない?」
焚き火を囲んでワイワイとし始めるエルフ達。どうやらこの環境に慣れてしまったらしい。
「話してないで食べよ食べよ。ほらみんな、いいからイジんないでよ。」
アザが耳を赤くしながら樹の実を配り食事にありつく。それはとても珍しい光景だった。アザが恥ずかしがるなんてリタやツインやミロも見たことがない。
「ほら食べ終わったら今日の当番決めるよ。焚き火の番は1時間交代でやるから。」
まだ19時にもなっていない時間帯から寝ようとするアザに他の姉妹達から不満の声が挙がる。
「ええ〜まだ眠くないよ。水浴びしたいしトイレの場所とか決めてないじゃない。」
「水浴びは無理でしょ。」
「いや、私の魔法なら一本の木から一人に対し桶一個分の水が吸えるしみんなも綺麗な状態で寝たいよね?因みに私は身支度を整えてから寝たい。だから私ひとりだけでも水浴びして寝るからね。」
ツインがそう言って立ち上がると皆が一斉に立ち上がる。全員ここまで歩いてくるのにそこそこの汗をかいているしトイレだって済ませたいのだ。だからせめてそういった事を終わらせてから焚き火番を決めようという事でこの話で決着した。
そしてそこから1時間程の時間でエルフとサラマンダー達は生理現象を済ませてから身体を清め、明日に備える為その日は眠りにつくことにした。
「ふあ〜は〜…最初ならその後ずっと寝れると考えて立候補したけどめちゃくちゃ暇で眠い…」
アザはひとり拾い集めた小枝を折ってその枝を焚き火に放り込む。他の皆は驚くほどの速さで眠りにつきもうすでに寝息を立てていた。まだ焚き火番を始めてから5分程しか経っていないのに睡眠状態に入ったのは気を張って気疲れをしていたからだろう。
自分も早くそのひとりになりたいとアザは周囲に意識を向けていると突然自分の腕を捕まれ身体をビクリとさせる。
「…驚かせちゃった?」
「…心臓が飛び出るかと思った。ペトラまだ起きてたの?」
「うん…ちょっと寝付けなくて。」
自分の隣で横になりながら自分の左手を握るペトラは普段の苛烈さ、高慢さは鳴りを潜め、ただの甘え方の知らない年下の妹という印象を受ける。
「…なら、ちょっとお話しようか。眠かったら気にせず寝ていいからね。」
「…うん。」
普段からこうしていれば他の姉妹からも可愛がられるのに勿体ないなとアザは考えたが、同時にこんな姿を他の誰にも見せたくないというちょっとした独占欲もあって少し複雑そうにペトラの手を握る。
無意識で指と指を絡めての握り方をしてしまったアザはマズイなと気が付いたが、おずおずと握り返してくるペトラに内心で心恥ずかしさと甘美な満足感を覚える。
「…なにかはなしてよ。」
「えっと、なら…」
(別にそんなあたしはアザのこと好きってわけじゃないし、ただちゃんとあたしらのことを見ててくれたから姉としては及第点を上げてるだけで…。)
そうこう考えている内に辛抱が効かなくなったのかペトラが不機嫌そうに顔を上げると真剣な表情で周囲をキョロキョロと見回すアザと目線が合い…
「…………………………しっ。」
アザは右手の人差し指を立ててペトラに静かにするように指示を出した。それを見てペトラは急に身体を起こす事なくいつでも動けるようアザの動向に注目する。
「…何、なにこの気配。原生生物とは違う…。」
「…みんな起こす?」
「…まだ待って。本当に分からないの。なにこの感じ…まるで生き物じゃないみたい。」
「生き物じゃない…?」
ペトラの感じ取れる感覚には何も引っ掛からずにいたが、あのアザが見たことがない焦りと緊張を見せているので何かが居るのは間違い。
「…ふたりで確認しにいかない?」
「…私とペトラだけで?」
「何も無ければそれでいい。もし何かあってもあたしならあなた一人を抱えても余裕で逃げ切れる。」
「…せめてみんなに声をかけてふたりで斥候なら乗る。」
「…いや、お姉様達にテレパスで連絡しておかない?」
「…それ採用。」
こうしてエルフとサラマンダーの本当の狩りが幕を開けるのだった。
ブクマお待ちしております。




