エルフ、子供をもうける
EVO+の[A]ddictionという曲が好きです
アズのおかげで私達エルフ種はふたりになりましたが、それと同時にアズテックオスターの亜種を作ってしまいました。どうしましょう…絶対に良くないですよねこれ。
「あの、ダークエルフを増やしても結局の所、この星を危険に曝すことになりませんか?だってアズですら力のセーブが出来ていないのに…」
「問題無い。寧ろ当方のこの状態がいつまで続くか分からない状況下では汝の安全を確保出来ない。」
「まあ、それはそうなんですけど…」
でも、アズのようなダークエルフが何百人も生まれたら世界征服出来てしまいますよ…。そんなの駄目です。どうにかこの流れを変えれませんかね…
「…あ、そもそも生命の樹にはもう人を作り出すだけのエネルギーがありませんよ!」
「それなら問題無い。当方の元の身体からエネルギーが常に送られている。例え1垓ものダークエルフを作っても底につくことはない。」
「ぐぬぬ…!で、でも魔素は!?魔素も無ければエルフ種は作れませんよ!」
「そもそもダークエルフは魔素をそこまで必要としていない。」
そう言ってアズは自身の胸を触ります。私と比べて薄い胸板にはあまり魔素がありません。
「面白い生態だな。魔素をここに溜め込むのは肋骨内に魔素を収めきれないからか。他の内蔵を圧迫させる危険があるから理にはかなっている。」
「うぅ…確かにアズは私に比べて魔素袋が小さいですね。私達は魔素を体内に取り込んで液状に変化させて溜め込みますから。」
個体によって魔素袋の大きさは異なるけど私はハイエルフとしては普通の大きさをしています。でもダークエルフはあまり魔素を必要としない生態なのかもしれません。
暗き者はエルフよりもアズテックオスターの因子が強い種のようです。
「…あ!」
「まだあるのか。」
ありますよ!無ければそれらしい理由を作るだけです!
「私達の身体は有機物が含まれているのでタンパク質などのアミノ酸が必要になります!土からの栄養だけでは身体を作れません!」
「…さっきルーテが自分の身体を生命の樹に吸収させていたように他の生き物を生命の樹に吸収させればいいのだろう?」
「そうなりますね。」
「ルーテの居た星でも狩りなどを行なって生命の樹に生き物を吸収させていたのか?」
「えっと、狩りもしていましたが基本的に生き物を育てて寿命で死んだ個体達を生命の樹に与えていました。」
「いわゆる畜産業のようなものを営んでいたのか?」
「あーそうですね。私達はお肉を食べるので。」
「なら問題無いな。」
アズが急に上を向きましたので、私もそれに釣られて空を見ると上空を飛んでいる生き物が見えました。どうやらこの星の生き物は空を飛ぶぐらいには進化しているようです。
光学迷彩の魔法を掛けておいて正解でした。
「力の加減を間違えると危ないからな…」
そう言うアズはおもむろに地面に落ちている小さな小石を拾うと…
「こんなものか?」
アズが手にした小石をなんてことない構えから軽い感じで空に向けて投擲すると、急激に放出された小石が空気を圧縮させながら突き進んでいき、衝撃に耐えきれなくなった空気は爆風のように弾けて物凄い音を周囲に撒き散らし、私の耳はその爆音で鼓膜が破壊されてしまいました。
「ぎゃあああっ!!!耳がっー!?」
ルーテが両耳から襲ってくる鋭い痛みに耐えかねてその場に倒れ込むのと同時に上空を飛んでいた生物が地上へと落ちて行く。
そしてその後もルーテは痛みでジタバタと暴れ回るが、アズは「少し待て」とだけ言い残して痛みに悶えるルーテを置いて仕留めた生き物の落下地点へと歩いて行ってしまう。
それから数分経つとアズが仕留めた生物を引きずって戻って来たが、その生物はアズと比べて何倍も大きな鳥だった。
羽を広げるとゆうに20メートルはありそうな鳥類で、そんな大きな鳥を軽い足取りで持ってきたアズの筋力はエルフ種には見られない特徴だ。
「何か私に申し開きすることはありますか?」
「なんだ。治癒の魔法を使えないのか?」
「一言だけ言いたいことがあったのでそのままにしておきましたよ。」
ルーテの両耳からは赤い血が流れており、鼓膜が破れた状態だった。そして敢えてそのままの状態にしてアズの帰りを待っていたのだ。
「ーーールーテの着ている服に血が付いても吸収しているな。」
「限度はありますけど老廃物とか少量の血とかはこの服が吸収して服自体が補修されるように作られているんです。」
「面白いな。」
「この様を面白いの一言で片付けないでくれますっ!?」
ルーテはブチギレていた。アズ相手でも流石にブチギレてしまった。
「…すまない。当方の想定よりもハイエルフが貧弱のようだ。」
「あまつさえ私のせいですかっ!?」
ルーテは魔法で自身の傷を治しながらアズに詰め寄る。ルーテの行使した治癒魔法は彼女の鼓膜を修復し、体外へと漏れ出た魔素が耳から垂れていた血を洗い流していった。
その光景は幻想的でありながらも、怪我の理由が理由なので少し間抜けにも思える。
「こっちを見てさっきの言葉をもう一度言ってみてください。」
「…すまない。こちらに全ての非があると認める。」
相変わらず生まれたばかりのアズの表情に変化は無いが、声色には申し訳無さを感じた。
「はい、良くできました。」
謝罪は大事なことだ。殊更異種族間の中では不穏な事柄は不利益にしかならない。戦争を経験した者同士ここは理解している。
「…ふぅ、で、さっきのは何ですか?魔法では無かったようですけど。」
「小石が壊れない程度のエネルギーを込めて射出した。」
「私の鼓膜は壊れましたけど?」
「…当方の想定よりもこの身体に馴染めていないようだ。あと数百年は掛かるやもしれない。」
「こっちを見てから宣言してもらいます?というかアズの言う数百年って私の星の時間で何年ですか?」
星によって1日の時間は変わり、天体の動きで1年は大きく異なる。アズの言う数百年がルーテにとって数百年で済むのか済まないかはアズの時間設定によって変わってくるのだ。
「ルーテ達エルフ種はアルル銀河系の宇宙公式銀河時間を用いているだろう?」
「よく知ってますね。なら数百年程度は我慢出来ます。」
数万年も生きていると数百年は我慢出来る範囲になるらしい。
「というか、この星って1日の時間はどれぐらいなのでしょう。」
「24時間だ。太陽の周りを一周するのに400日掛かり、この星の周りには大きな3つの衛星がある影響で小さな隕石が落ちて来る事が多々ある。」
アズはルーテが来る前からこの星に居るので時間とこの星の特徴を把握していた。
「隕石ですか…それは私にはどうしようもないですね。」
空を見ると小さな衛星を1つ見つけることが出来た。太陽の光の影響で視認が難しいがそれでも輪郭がはっきりと分かる程度には大きな衛星である。
「だから当方は汝の保護を提案したのだ。そしてそのためにも暗き者を増やさねばならない。」
「うぅ…!そう言われると何も言い返せない…。でもですよ?またあんな方法で攻撃をしたら最悪私はいいですけど生命の樹が傷付きもすれば大事になります!あの木が最後の希望なんです!」
ルーテやアズは死んでもまた新たに身体を生み出して復活が出来る。しかし生命の樹が枯れたり破壊されたらもうエルフはこの世に生まれなくなってしまう。
そのことをルーテは一番恐れていた。そして自分が死ぬことに関しては特に何も思っていない。
アズはその事をしっかりと理解しており、ルーテという人物について記録し、これからのルーテとの付き合い方を考えていた。
「ーーーなら尚更ダークエルフは必要になる。当方はアズテックオスターとしての経験、記憶が妨げになって調整が上手くいっていない。汝もいきなりダークエルフの身体を与えられたら制御出来ないだろう?」
「…アズが出来ないのなら私にも無理ですよ。ハイエルフとダークエルフはあまりにも違い過ぎます。本当にエルフの亜種なのか怪しいもんです。」
見た目は同じエルフ種であるが、どうやら筋力にも大きな隔たりが存在している。その証拠に大きな鳥を今も掴んで首を持ち上げているが、特に疲れた様子もない。
「では最初からダークエルフとして生まれた個体はどうだろう。ハイエルフは生まれた時に力がコントロール出来なかったりするか?」
「なるほど…そういうことですか。アズの言いたい事は分かりました。分かりましたが数に制限を設けさせていただきます。」
ルーテはアズにダークエルフの数を制限したいと申し出る。
「理由は?」
「先ず第一にダークエルフを増やすにもその鳥?みたいな生き物ではそこまでの数は生み出せません。私の経験からすると成体個体として2人ぐらいが限度でしょうね。」
「成体個体というと当方と汝のような個体のことだな?つまりエルフ種には幼体も居るのか?」
「居ますよ。ハイエルフの中で幼体のエルフを生み出して自分で面倒を見たりする娘たちが居たんです。」
エルフ種に子育ては必要ない。エルフは生まれた時には自分で歩き、自分のことをしっかりと認識している。
生命の樹には様々な情報が保存されていて、生まれるエルフには最低限必要な知識が与えられるからだ。
なら何故そんなことをする個体達が居たのか。それはルーテにもアズにも分からない。子育てという概念が彼女達には到底無縁なものであったせいであろう。
「ふむ…それなら幼体は何人生み出せる?」
「…そのぐらいの大きさなら3人が限度でしょうね。でも正直な話分かりかねます。ダークエルフなんて今の今まで居ませんでしたし。」
「よしそういうことなら試してみよう。」
「そうなりますよね…。あれれーおかしいな〜。なんでこういう展開になっているのでしょう。不思議だな…」
気がつけばダークエルフを増やそうとしている事にルーテは今更ながら気付くが、もうどうしようもないと諦めて生命の樹の下へと歩いていく。
そしてアズは手にした大きな鳥を生命の樹の根の上に置き…
「大き過ぎるか?少しバラした方がいいか?」
「大丈夫ですよ。見ててください。」
ルーテの言う通りにアズはその場で様子を伺っていると生命の樹に動きがあり、鳥のような生物が徐々に分解されていった。
これは魔法によるもので、鳥を魔素・エネルギー・栄養素(元素)に分解して生命の樹はそれらを吸収していった。
「面白い。これを自身の物だと理解しているのか?」
「どうなんでしょうね。ゴミとかも分解してくれる便利な木としか思っていなかったのでよく分かりません。」
「…汝達はもう少し敬意を持ってこの木を大事にしたほうがいいと当方は思うぞ。」
全てを破壊してきたアズに言われたら終わりである。
「それで、また私が鍵として必要ですか?」
ルーテは生命の樹に触れてアズの指示を待つが、アズは先程とは違った方法を試そうとしていた。
「なあルーテよ。親が2人の場合はどうなる?」
「それってつまり私とアズとの間に種族をもうけようという話ですか?そんなの分かりませんよ。だって私の星にはハイエルフとエルフと精霊様しか居ませんでしたもん。そんなこと試した娘たちも居なかったはずですし。」
急な話にルーテは目をパチクリとさせて驚きの反応を見せる。
「つまりハイエルフと精霊、精霊とエルフという異なった種族間では種族をもうけたことが無いのだな?」
「だから分かりませんよ。もしそんなことしてたら…」
「新たな種族が生まれていた…か?」
「だから分かりませんって。」
「なら試そうではないか。」
アズはルーテの隣に立って生命の樹とルーテに手を置いて触れた。
「わ!ちょっと!」
人に手を置かれたというよりもとても大きな生き物に掴まれたような感覚にルーテは身体を硬直させた。まるで本能がダークエルフという生き物が自身の種族よりも脅威であると知らせているようだ。
「アズテックオスターは触れることで情報のやり取りを行なう。そしてその特性はこのダークエルフという種族にも受け継がれている。」
「わ、私の情報なんて大したことないですよ!?」
「謙遜するな。非常に面白い情報が入手出来ている。」
「プライバシーの侵害です!!」
エルフ種にもプライバシーという概念はあるらしい。
「そんな概念は知らないし興味ない。」
アズテックオスターにはプライバシーという概念は存在しないらしい。
「この星に降りたのは間違いでした!!」
「この星に辿り着いたのは正解だった。」
両者の言い分の差異が酷いことになるが、アズは特に気にした様子もなく生命の樹の操作を始めていた。
「当方と汝との間に子供をもうける事は可能のようだ。」
「こ、子供をもうける?それって他の生き物がする性行為とかで生まれる過程の話ですか?そんなの聞いていませんよっ!?」
彼女達エルフ種にはそういった概念は存在しないのでかなりの拒否反応を顕わにする。ルーテのような種族になると虫や動物がする行為を自ら実践しようなんて考えたくもないだろう。
「性行為はしない。というよりも仮に行なっても互いに妊娠出来ないだろう?だが少し興味あるな。面白そうだ。」
無表情ながらも確かな興味と関心を持ったアズの熱い目で見られたルーテは身の危険を感じた。恐らくダークエルフに組み伏せられたらハイエルフの自分では抵抗は出来ない。
つまりはいつでもアズの気分次第で襲われる可能性があるということだ。
「ちょっとそんな気はありませんよ!?私には性欲というものが無いんです!確かにそういうのに興味を持った娘たちも居ましたけど…!」
「ハイエルフにもそういった関心があるのか。興味深い。」
「しまった!!」
(好奇心お化けのアズにこれ以上情報は与えてはいけません!)
「そ、そんなことよりも子供を作れそうですか!?楽しみだな〜!?初めての子供たちなので分からないことばかりだなー!?」
「もうすぐだ。ほら、膜が生まれ始めた。」
強引な話題変更に成功したルーテは強引な性行為を回避した。恐らく力のセーブの出来ないアズに捕まった場合、性行為の途中でハイエルフのルーテでは身体の強度的にも耐えられず死んでしまっていただろう。なので生命の危機も回避していたことになる。
「そうなるのか…これはアズテックオスターの因子が強いせいか?それともそうなる法則が別にあるのか。やはり他の種族との交配を試す必要があるようだ。」
アズは膜の中に3人のダークエルフを捉えてハイエルフとダークエルフとの混在種が生み出せない事に不満を覚える。
しかし間違いなくルーテの因子も生命の樹が汲み取ってこの3人に受け継がせているのでルーテとアズの子供であることは間違いなかった。
「私…初めて子供を作りましたけど、まさか最初の子供がダークエルフとは思いもしませんでした。」
膜を破ろうと起き上がる3人のダークエルフ達は直立してもルーテとアズの胸の辺りに頭頂部が来るので身長は150cm程度であり、幼体の個体であるのことは確かだ。
しかし膜が破れてその身が顕わになるとその感想は誤りであったとルーテは考え直す。
幼体であってもダークエルフはダークエルフ。あのアズテックオスターの因子を受け継いだ種族である以上はハイエルフよりも強力な力を持っている。
その証拠にアズと似た強者感を持ち合わせていて勝てる気がまるでしないのだ。恐らくアズと似て筋力も高く、その身に宿すエネルギーはルーテには想像も及ばない領域に達している。
しかし魔素はルーテやアズよりも少なく胸がほとんど平坦なもので、胸が開いた服のせいで角度的に乳房が見えそうになる。だがその代りに腰にはベルトような物が付いていて身体に服が密着されていた。
基本的にエルフの服は袖や裾が広がった造りなのでこれは珍しい特徴である。
「当方とのとは少し違うな。これはハイエルフの因子が原因か?」
アズの着ている服との差異でこのダークエルフ達がアズとは異なったダークエルフということが分かる。通常でこういった服に差異は生まれないからだ。
「後は特にアズとは違いがありませんね。無表情で肌色は暗く瞳も髪色も同じです。もう少し私に似ても良かったのに…」
あれだけダークエルフを増やすまいと考えていたルーテでも自分の子供となると関心、興味、それと愛着のようなものが生まれる。特に初めての子供である。特別な思いはあって然るべきだ。
「汝らは言葉を理解し発せられるか?」
アズの問いに反応を示す3人のダークエルフはアズの目を見て…
「理解、してる。」
「言葉も、話せる。」
「我ら、ダーク、エルフ、なり。」
まだ辿々しいが問題なく言葉を理解して言葉を話せるようでアズとルーテは一安心する。
そして3人のダークエルフの声はアズをより幼くしたような声質だったが、やはりというかアズのように平坦で感情を感じさせない話し方にルーテは不満を感じていた。
「無事に生まれてきてくれて良かったです。…良かったですけど、ちょっと口調が固いです。アズに似てて嫌です。エルフはみんな愛嬌があって可愛かったのにこれではアズが4人になっただけですよ。」
「ーーー汝は当方のことが嫌いか?」
「…嫌い、ではないです。」
好きではないようだった。アズは少しだけ落ち込む。
「親、となる、個体、が。」
「2人、いる。」
「父、母?母、父?それとも父、父?母、母?」
アズとルーテの子供たちはルーテとアズの2人を交互に指を指してどちらが父でどちらが母なのか、又は父同士なのか母同士なのか聞いてきた。
「えっと…私は一応女性個体なので母…になるのでしょうかお父さん。」
「当方がお父さん…?当方も女性個体だが?」
突然のお父さん呼びにアズは目を丸くする。アズは自身のことを女性の個体と認識していたのでこの発言は予想外なものだった。
「もうちょっと柔らかな口調じゃないと男性っぽいです。たまに来る異星人達も男性の個体はそんな雰囲気でした。」
アズの外見や声は間違いなく女性のものだがどうしても口調が固いので中性的、または男性的な印象が拭えない。それにエルフ種ではあり得ない力を持っているせいか暴力的な印象も相まって粗暴な異星人の男性個体を連想してしまうのだ。
「…善処する。」
目をつむり腕を組むアズを見てまだまだ先は長いなとルーテは思った。しかし自分と過ごしていけばいつかはアズもエルフ種らしくなるとも考えているので、特に心配はしていない。エルフ種は全員が女性の種族、いつか必ずアズもルーテのような感性を獲得出来る筈である。
「つまり、母は、ルーテ。」
「そして、アズが。」
「父、になる?」
ダークエルフ達はルーテとアズのやり取りを聞いて関係性を予測した。大体合っていて大体合っていないが、まだ出会ったばかりの関係性を生まれたばかりの個体たちが正確に認識出来るわけないので特に訂正せずに話を進めていく。
「う〜ん…ルーテ、ルーテか。一応は私が親になるので敬称で呼ばせるのが普通なのですかね〜。他の娘たちはどうしていましたっけ?」
ルーテは昔の記憶を引っ張りだすが、個体達によって呼ばせ方は違ったと思い出し、どうしようかと頭を捻る。
「ルーテ、様?」
「母、様?」
「創造主?」
「創造主は精霊様です!」
ルーテはそこは譲れないものがあるので強く訂正した。
「ルーテ様、の母は、精霊様?」
「母様、の、母様は精霊様。」
「創造主、の子供の、子供が、我ら。」
ダークエルフ達はアズテックオスターの因子によるものなのか、好奇心と知識欲が強く、色々と情報を与えてくれるルーテの周りに纏わりつく。
その様子は親鳥からご飯を貰おうとする雛たちに似ていて正に子供と親の構図だが、ルーテにとっては子供達に懐かれたというよりもミニアズが増えたという認識だったので、内心では勘弁してほしく、少しだけ後退りをするのだった。
「ルーテ様。」
「母様。」
「呼び方、どっち?」
子供特有の遠慮の無さにルーテはたじろぐしかない。ルーテはエルフの子供達を相手にした経験があるのだが、エルフ達はハイエルフ達を敬っていたのでもう少し距離感があった。
しかしダークエルフはハイエルフよりも客観的に見て上位種になるし、そもそもダークエルフ達はハイエルフを特別に敬おうとは思っていない。
ただルーテに対してはとても関心を向けている。そこは親であるアズと同じで流石は親子といった所だ。
「…母様ですかね。ルーテ様はちょっと親子って感じがしないので暫くは母様と呼んでください。」
ダークエルフであってもルーテが3人の親である事は変わらない。それにルーテは3人に母と呼ばれる事に関して悪くないと感じていた。これは本能的な部分を刺激して彼女の母性を呼び起こした事が起因している。
ハイエルフはエルフ種を導く為の種族と言って過言ではない。ダークエルフもエルフ種のひとつ。ルーテはダークエルフ達の頭に手を乗せて撫でていく。
「まだまだ頼りない母ですけど最後の最後まで面倒を見るので心配しないでいいですよ。」
それは無意識に出た行動と無意識に出た言葉だった。
昔、ルーテはこれをしてもらったことがある。しかしそれが何時だったか、誰にしてもらったのかまでは思い出せない。
しかし、ルーテは不思議と漠然とあった不安感が消えていくのを感じていた。
初めての子育てでしかも未だに未開の地である環境に加え、この日に初めて誕生した種族を相手にちゃんと子育てを自分がやれるのだろうかと感じるのは自然なことである。
そんな心配になる要素しかない現状であってもルーテは3人の子供たちを見ているだけでどうにかなるだろうと前向きに考えることが出来た。
すると自然と笑みが溢れる。それは母親が子供に向ける自然な笑顔で、そしてそんな彼女に頭を撫でられる子供達は興味深そうにルーテのことを見ていると、自然と自分達は祝福を受けて生まれてきたんだと思えた。
「なので母の言うことはちゃんと聞くんですよ?優先順位はアズではなく私ですよ?」
そんな中でルーテは刷り込みを開始する。流石は戦争の生き残り、この時代まで生き残れた生存本能は伊達ではない。
「分かったら返事をしましょう。」
「「「はい。」」」
ルーテなら問題なく子育てが出来る。アズは子育てに関しては何も口を挟まないとその時に誓ったのだった。
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