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エルフが倫理観の崩壊した世界で繁栄を目指します!  作者: アナログラビット
竜と地に潜む依存の種
43/98

エルフと侵略行動

AJRのWorld's Smallest Violinという曲が好きです

今回の作戦の概要はこうだ。


1.エルフ4名、サラマンダー4名による進行及び偵察。


2.エルフとサラマンダーが菌類に侵された場合を想定し中間地点に検問を設置。ダークエルフ3名による作業を1と並列に行なう。


3.1が成功した場合、菌類を魔素で保護して検問まで持ち帰る。


4.アズ、プロメアにより菌類の調査。害がある場合、その害悪度によって対処を決定。最悪の場合は沼地をプロメアの魔法により蒸発させる。


これが今回の主な作戦内容になる。そしてもう2までは開始されてダークエルフ達が必要な材料を持ち運んでいる段階にまで進行していた。


「当方達は待機だが彼女らの視点を映すことが出来るが?」


「お願いします。少しでも成功率を上げたいので。」


「エルフ達はテレパシーを覚えきれなかったがサラマンダー達はテレパシーを使える。連絡はいつでも行なえる故、余達はサポートに徹するべきと考えるが。」


「そうですね。プロメアの言う通りです。現場の判断も大事ですが必要に応じてこちらから指示を出しましょう。」


生命の樹の隣に生えるアズテックオスターを前に横並びに置いた椅子に座って相談し合うルーテ、アズ、プロメアの3名。場には緊張感が漂い、特にルーテはその空気にあてられ少々落ち着きがない様子だった。


自分がちゃんとしなければと無意識に肩に力が入っているのは明白で、両隣に座るアズ、プロメアのふたりは緊張を和らげる為に声をかけた。


「ルーテ、あまりかたくなるな。汝が緊張して良いことはない。」


「分かってます…分かっていますけどどうしても…」


「当方が必要な魔法を彼女らに与え充分な備えも施した。後は彼女達がどうするかだ。」


(こういう時のアズって助かるんですよね。冷静でいてくれますし何よりもあのアズテックオスターが言っているという説得力があります。)


「そうですよね…後は私が信じて吉報を待っていればいいんですよね。」


「そうだ。それにここには当方やプロメアも居る。最悪の事態になどならない。」


「おお、嬉しいことを言ってくれるな。そのとおりだ。余達もここに居る。」


両隣にはこの世界で最も賢く強い者達が居る。それでも心配しているのは自分に自信がない表れ。


(私ももっと経験を積まないとですね…)


ルーテ達が陣営にて万全の準備を整えている頃、ダークエルフ達は検問設置に必要な資材を両手に抱えながら先頭を歩くエルフ・サラマンダーの後ろを進み、そして先頭を行くエルフとサラマンダー達は身軽な事もありダークエルフ達から距離を離して深い森の中を着実に進んでいた。


彼女達が陣取っている地点から沼地までの距離は7km程でそこまで遠くはない。しかし数値上では対した事が無いように思えてもこの人の手が介入していない森の中ともなれば過酷な道のりとなり、行き来だけでもかなりの体力を消費してしまうだろう。


しかしエルフ達は隆起の激しい地形、平らな場所など一つもない植物の根が多く張る地面であっても淀みなく進み確実に沼地へと進行していた。


そして大体ではあるが沼地まで後2kmの所まで来ると自生している植物に変化が見られる。


「…気付いてる?木々の腰が曲がったみたいに自立出来ていない。」


「リタも気付いたのね。新種でもない、私達が暮らす所に生えている種類の木々達がここだと今にも折れそうで異様な光景だわ。」


先頭を歩いていたリタ、ツインのふたりはここに生えている木々は特別な種類の木々ではなく、何処にでも自生している種類だと見抜いていた。だが同じ種類とは思えない姿形にこの場所がとても危険な所であると強く認識する。


「それだけじゃないわよ。こいつらみんな寄生されてる。菌類の温床ね。」


後ろを歩くサラマンダー達からさらなる指摘が入る。ここの植物はもはや菌類に侵されていて手遅れだと言う。


「あたしらの持つ知識だとこうやって木々に寄生した菌類は成長を歪めて自分達に有利な環境を作るの。その折れ曲がった木々の影になってる場所を見なさい。木々が曲がった事でここには影となっている場所が多いのよ。そうやって繁殖し、地面に落ちる。そうやって侵食範囲を広げて成長しているの。」


サラマンダーのポーラからの追加情報によりエルフ達は折れ曲がった木々をよく観察してみた。すると確かに影となっている場所は明らかに腐りかけていて今にも崩れそうになっている。


この破片が落ちることで地表に侵食した菌類がまた水蒸気等で広がり他の木々に寄生するのだろう。


「菌類は本当に他者を害する事を前提とした進化をする種族なのよ。人種も大概だけど菌類には勝てないわ。人も他の種族も菌類に生かされ、そして殺されるから。」


「生かされ、殺されるか…」


この星の生態系において、もしかしたら菌類が最も上に居るのだろうか…。そんな想像をさせるほどに菌類には外敵が居ないように思える。


「…そろそろ私達も腹を括った方がいいかもね。」


アザが自分達も菌類に侵されてしまう可能性を示唆し、覚悟を決める必要があると暗意に伝えた。


そして菌類に侵食された森の中を進むこと1時間、遂に沼地へと辿り着く。


そこは水面に緑色の何かで覆われて腐った木々が水の底に沈む静かな場所だった。植物以外の生き物の気配はなく小動物、昆虫といった原生生物の影すら見られない。


ここが死の底だと説明されても納得のいく光景で、エルフとサラマンダー達は息を呑み危険だと分かっていてもその場で足を止めていた。


「ここが…沼地。」


やる事は決まっている。しかし想像していたよりも此処はヤバいと感じる有り様だ。木々はまるで自ら進んで沼地に足を入れたみたいに根を沼に伸ばし、浸り、そして根から腐敗していた。


恐らくはそういう風に菌類が成長を促したのだ。でなければこんな暴挙はしない。自ら腐る選択肢を取るような進化など選ぶ筈がなかった。


「…沼よ。沼に菌類の大本(おおもと)が居る。栄養を得る為に木々を沼まで引っ張っているのよ。」


「パロメの言う通り…沼に菌類が居て、その水を吸い上げた木々から寄生されて今も範囲を伸ばしている。」


パロメ、ピューレのふたりは沼の水をさらえば間違いなくこの事態を招いている菌類を手に入れられると断言し、その為には誰かがあの沼に近づかなければとも断言するのだった。


「…一旦、ルーテ様達に指示を仰がない?それに報告も。」


「…そうね。ミロの言う通りだわ。あたしらがテレパシーを使って聞いてみるから待ってなさい。」


ミロの提案に同意したペトラはテレパシーを使って本陣で待機しているルーテ達に指示を仰いだ。


『もしもし、聞こえますか。聞こえたら返答を願います。』


『あ、こちらルーテ、聞こえていますよ。ペトラ…で合ってますよね?それと状況は理解しています。そちらの様子は見えているので。』


『見えている…?もしかしてあの例の魔法ですか?』


『う〜ん…そう〜ですね。魔法…ですね、ハイ…。』


(そういえばサラマンダーの皆さんは実際には見たことが無かったんでしたっけ。知識としては知ってそうですけど予めもう少し説明しておくべきでした。)


『…じゃあ、プロメア様に代わってください。あたしはプロメア様とお話がしたいんです。』


『あはは…分かりました。でもでしたら最初からプロメアに対してテレパスを使えば…』


『まだあまり上手く出来ないのッ!!あたしはプロメア様にテレパシーを送ったつもり!!』


サラマンダー達はテレパシーが使えるもののあまり精度がよくなく対象の選択が完璧ではない。特にこのテレパシーは廻廊を用いた特殊な方法であり普段の魔法とは大きく異なった系統の魔法なのだ。


使うだけでも相当な魔法適正が無ければ不可能な代物であるのでペトラからすればそれを指摘された事はプライドを酷く刺激するものだった。


『こちらプロメア、テレパスを無理やりこちらに繋いだがあまりルーテを虐めてやるな。これでも余達の中で最もお前達を心配していたのだぞ?』


『プロメア様っ!?も、申し訳ありません!!』


『良い良い、元気そうでなりよりだ。余達にはそちらの様子が見て取れているがお前達の言う通り沼に奴らが生息しておる。故に誰かがやらなければならん。』


『…はい。』


『やるのは()()()だ。』


『はい…分かっています。』


『サラマンダーは半分は植物から誕生したエルフだが半分は竜だ。純粋なエルフよりも菌類に対して耐性がある。これは前にお前達にだけ教えたことだが覚えておるか?』


この作戦を行なう前にプロメアはサラマンダー達にだけ特別な指示を出していた。それは菌類の採集はサラマンダー達が行なうこと。


この事実はサラマンダー達だけしか知っておらずルーテもその事を知らない。


『やり方は任せる。エルフ達には沼に近付かんように誘導するのだ。』


『ーーー分かりました。プロメア様の期待に応えられるよう尽力致します。』


パロメが覚悟を決めた表情を浮かべると他のサラマンダーは事態を察し、自分達がやらなければならないと自身に言い聞かせる。


「ねえ、どうなったの?私達はテレパスがまだ上手く出来ないから向こうの指示が分からないのだけど…」


エルフ達は早くこの場から離れた方がよいと考えて早く指示を聞きたそうにしていた。


「…ふん!あんた達はそこで見てなさいよ!プロメア様に成果を報告するのはあたしらなんだから!」


「そうよ!エルフはそこで見てなさい!」


サラマンダー達はエルフ達に気付かれないよういつもの調子で話し掛けて無理やり沼の方へと向かって行った。


「ちょっ…もうちょっと話し合いを…」


その時、森の中でアラート音が鳴り響いた。そしてそのアラート音を聴いたエルフとサラマンダー達は時間が止まったかのように停止し、その音の発生源を探った。


しかしそれは無駄な行為だった。アラート音は一つではなく複数から鳴り響き始め、最終的には全員の腕からもアラート音が鳴り響いたのだ。


これはアズがエルフとサラマンダーに施した魔法でダークエルフ達がよく用いる魔法である。時計や獲物を吸収する魔法等が挙げられるがこれは体内に()()()()()()()()()()()()()()()だった。


「撤収!!!!」


誰かが叫ぶように指示を飛ばすと皆が弾かれたように走り始めて沼地から後にする。


『ルーズ、メーテ、クーデ、全員が寄生された。検問の方はどうなっている。』


『まだ完成していないけど検問として機能はしている。』


『受け入れ体制を整える。』


『妹達には落ち着いて行動するように伝えて欲しい。』


アズはすぐさまダークエルフ達と情報を共有し最悪の事態に対して対応を始める。


「これは予想外だった…まさかここまでとはな。」


プロメアは己の予想よりも遥かに高い敵の危険度に危機感を覚えた。敵はエルフだろうがサラマンダーだろうが体内に侵入し寄生してみせたのだ。これは植物から生まれたエルフ種だからこその速さなのか、それともこの菌類独自の特性なのか判断がつかない。


「侵入することは想定の範囲内だ。しかしそれだけでは当方が施した魔法は反応しない。寄生されたと判断したからこそあの魔法は反応したのだ。」


「もしそうなら私達エルフ種の抗体などが機能していないってことですよね?そんな早く寄生なんて出来ません。絶対に免疫機能が働く筈です。」


「しかしその免疫機能をも容易に突破したとしたら?」


それこそ最悪の事態だ。菌類が体内に入れば免疫機能が働き何かしらの対応がされる。しかしエルフとサラマンダー達の反応から免疫機能が働いていないように思えた。


もし有害な菌類が体内に入れば体温が上がったりなどの体調不良が生じる筈。だが今のところそういった反応は見られない。


「…別の星の菌類ゆえに身体が反応しない可能性がある。ルーテ達の種族は母星から出たことがない種族だったな?」


「未知の存在だから免疫機能が充分に機能しない…ってことですか?」


「それにルーテ達は不死だ。病気などで亡くなってもすぐに生まれ直せる。つまり自然淘汰という概念がほとんど無い種、免疫機能が無い個体でも問題なく生存出来る故そもそも免疫機能が他の種よりも低い可能性があるな…」


今更ながらこの種族の特殊過ぎる特性が仇になり始めた。もしプロメアの憶測が正しければ自分達は免疫機能が低いことになる。そして事実として免疫機能は働いていない様に考えられた。


「当方などのダークエルフは菌類に侵されようが問題ない。体内に存在する膨大なエネルギーによって菌類などの生物は寄生する間もなく死滅する。だから同じように体内の菌類を駆除する手段も存在しよう。」


菌類とはいえ所詮は菌類でしかない。熱に弱かったりそもそも長く生きられなかったりと様々な問題を抱えた生物なのだ。あくまで今は寄生されてしまったが、まだ最悪の事態にまで発展していないとアズは考えていた。


そしてルーテ達があらゆる事態を想定して対応を協議し始めてから少しの時間が経過した頃、ダークエルフ達が設置した検問にエルフとサラマンダー達が到着した。


「はあ…はあ…姉様…」


「待ってたよ。先ずは状態を見ようか。」


ダークエルフ達はいつものように落ち着いた態度で妹達に接した。これが良かったのだろう。エルフ達は冷静に指示を聞くことが出来た。


「みんなトライバルタトゥーが施された腕を出して。」


「メーテ達がそのタトゥーに触れる。」


「そうするとメディカルチェックが出来る。」


そう言うとダークエルフ達はひとりひとりの腕に触れて情報を収集し始める。これこそがアズテックオスターとしての特性。様々な情報を収集、解析を行なえる知能と能力を持ったダークエルフ達からすれば原生生物の菌類を解析することは難しくないことだ。


しかし解析出来たからとはいっても、それが良い結果を生むとは限らない。


「これは…ちょいマズい。」


「うん、これ想定外。」


「クーデ達では判断つかない。」


ダークエルフでもこの事態は想定外なもので3人でいくら協議しても答えは出ないと判断。すぐにアズ達に指示を仰いだ。


『問題発生。』


『アズ様とプロメア様の判断を仰ぎたい。』


()()()()()()()?』


『当方と…』


『余達がか…?』


『うん、直接見て欲しい。』


『解析した結果には自信あるけど判断に迷ってる。』


『時間が経つと事態が変わるかもしれないから早く来てほしい。』


ダークエルフ達から珍しく有無を言わせない言い方にアズとプロメアは腰を上げて合流することを決める。


「あの…ふたりは向こうに行ってしまうのですか?」


「そうだ。留守を頼むルーテ。当方とプロメアは事態を収束させる為、検問地点へと向かう。」


「ルーテは余とアズとは違い菌類に対して免疫が無い可能性が高い。故にお前はここで待機だ。」


アズとプロメアはルーテの言葉を聞く間もなくすぐに検問へと向かった。アズは瞬間的に加速すると木々の間を風のようにすり抜けて行ってしまい、プロメアは羽を生やすと目にも止まらない速さで空へと飛翔してしまう。


そして残されたルーテは最悪の事態を想定し生命の樹の元へと向かいある機能を呼び起こす。それは()()()()()()、この星から飛び立つ為の機能を呼び起こすとルーテはいつでもこの星を離れられるよう準備を整えていく。


これは元々皆で決めていた事で最悪の場合はルーテは生命の樹と共に成層圏よりも上へと飛翔し、衛星軌道上に避難する段取りだった。


「お願いですからこの手段だけは使わせないでくださいね…。」


(また家族を置いて逃げるなんてしたくはない。もうあんな気持ち、一度経験すれば十分です…)


ルーテの縋るような願いをよそに事態は進行していく。ダークエルフ達がアズ、プロメアのふたりに収集を掛けてから僅か1分にも満たない速さでアズが検問まで到着。


その速さにエルフとサラマンダー達が驚愕したのも束の間、空から木々の枝を破壊しながらプロメアが降ってきた。


「遅くなった。」


「お前達、大事ないか?」


このふたりが来てくれたおかげでこの場に安心感が生まれる。このふたりならば今の状況を打破出来る筈だと皆がそう思うことが出来た。


「プロメア様…!!」


「怖い思いをさせたな…ここからは余たちに任せよ。」


「では早速菌類を抽出する作業から入ろう。時間が経てば体内に居る菌類がどのような反応を起こすか分からん。」


そしてアズテックオスター、赤竜種、この最強の2種族による解析作業が開始されるのだった。

今回は切りが良い所で終えたのでちょい短いです。

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