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エルフが倫理観の崩壊した世界で繁栄を目指します!  作者: アナログラビット
竜と地に潜む依存の種
39/98

エルフと当たり前の日常

スズムの世界寿命と最後の一日という曲が好きです

赤竜人種(サラマンダー)のクソ生意気な妹達が家族に加わってから少し経った頃、私達の朝は前に比べて忙しく辛いものになっていた。


「早く起きなさいよ。」


鈴の音のような可憐な声と共に頬に走る鋭い痛み。これが今となっては毎日わたしに朝を知らせる妹達からの愛情という名の理不尽で、もう少し優しく起こしてほしいと多分10回は言っている。


でも聞き入れてはくれない。だってワガママ姫達だもん。姉である私達の言葉なんて真面目に聞いてすらない。


「えぇ~…もう朝?まだ寝てたいよ…」


「もう日は昇ってるの!早くしてよね!」


ここでゴネると別の頬に熱い愛情を叩き付けられることを多分10回は経験しているので私達は己を叱咤して無理やり起き上がった。


そして腕時計トライバルタトゥーで時間を確認するとまだ6時になったばかり。…あと30分は寝ていたい。サラマンダー達はなんで朝早くからこんなに元気なのだろうか。本当にエルフなの?ルーテ様なんてあと2〜3時間は寝てるよ。


「ん!」


ワガママ姫から木の戸棚(アズ様の意欲作)から取り出した木製の櫛(ルーテ様からのご褒美)を渡される。これももういつものことになっているけど、私達は妹達に言われるがままに髪を梳かしてあげるが、ふむ…こうしてみると感慨深い。


初対面からは想像もつかない事だけど妹達は私達に髪をこうして触らせてくれている。寧ろこうやって早朝から叩き起こしてやらせる程だ。


私達エルフの髪は真っすぐの直毛で一晩経っても絡まったりせず手入れが簡単なのだけど妹達は私達とは違い癖っ毛で一晩あれば絡まってしまい、毛先なんかは爆発したみたいになる。


最初、彼女達は自分で髪を梳かそうと手櫛でやってみたりしていたけど手櫛で無理やり梳かそうとして枝毛になったり、寧ろ髪先が絡まって切るしかない状態まで悪化してしまい最終的にプロメア様に助けを求めていた。


でもプロメア様は髪を梳かすという文化を知らないし何より本人に至っては無意識に魔法で髪が絡まったりしないように動かしていて妹達の悩みを理解し切れずにいた。最後はルーテ様に頼んでいたっけ。


「はあ?貴方に触られるなんてゴメンなんだけど?」


しかし妹達はルーテ様に髪を触れる許可を出せず何故か私達がやることになっていた。今思っても本当に意味が分からないんだけど…


「あたし達に奉仕しなさい。」


「有り難く思いなさいよ?」


「あなた達、あたしらの髪を弄りたがっていたし嬉しいわよね?」


「ほら、さっさとやりなさいよ。」


という理不尽な物言いにルーテ様もプロメア様も呆れて何も言えず、結局わたし達の仕事になって今日に至るって訳ですよ。


でも仕方ないのかな。恐らくだけど暗き者(ダークエルフ)と似たような感じで赤竜人種(サラマンダー)はそこまで手先が器用な種族ではない。あの爪とか手仕事に向いていないし性格的にも無理そうな雰囲気がある。


それに妹達というかサラマンダーにはある問題を抱えていた。一緒に暮らしているとやっぱり順当に進化した種族じゃないと感じる場面が多々あるんだよね。


一見するとサラマンダー達には欠点が無さそうに見える。魔力も高いし身体は頑丈で戦闘力があるし知能も高くて学習能力も高い。


少し一緒に居ればそういった感想を抱くが、それ以上に欠点…生物としての致命的な部分が見えてくる。


サラマンダーの髪の分け目は頭頂部から左右に別れていて他のエルフ種と同じなんだけど、左右から生えるこの光沢のある黄色の角によって更に2つの分け目が存在する。


だから櫛をこうして根元から通そうとしても角が邪魔だったり分け目を意識して髪を流さないとだから非常に難易度が高い。というかこれ本人がいくら器用でも髪を梳かすのは無理だと思う。


こうやって誰かにやってもらわないとろくに髪をセットすることが出来ないなんてどう見ても異常だ。エルフと竜を無理やりくっつけたような印象がどうしても拭えない。


これを私はエルフとドラゴンの混合生物(キメラ)と心の中で称した。絶対に口に出したりはしないけど、本人達はもう気付いている…というか私と似たような感想を抱いている筈。彼女達は私よりも聡い…。私よりも遠慮のない酷い評価を己に下している可能性すらある。


だから頼みたくない相手であっても私達に頼んだのだと考えている。自分一人では髪の手入れすらままならないと早々に気付き、誰かにやってもらうしか方法が無いと判断した。


なまじ美意識がちゃんとあるせいで見た目を気にしてしまいこうした問題が出てくる。本当ならばこうした問題は進化の過程で改善されていくが、いきなり誕生したせいで妹達はこうした問題に直面してしまう。


「よし…出来た。今日も可愛くできたよ〜。」


私達が妹達の髪を梳かし終えると彼女達は手にしていた一本かんざしを髪に挿した。これはルーテ様とお姉様達が妹達に贈ったもので本人達を見た目で判断出来るように作ったものだ。


勿論だけど服にはもう彼女達の名前が刻まれているのでそこを見れば分かるようになっている。でも正面から見ないと分からないし、彼女達の髪質的に今の道具類ではヘアアレンジがし辛くて4人共に全く同じ見た目(髪型)をしていた。


なのでルーテ様が姉様と協力してそれぞれ異なったデザインのかんざしを妹達に贈ろうとしたんだけど、ルーテ様を下に見ている妹達が素直に受け取るか心配だったからルーテ様ひとりではなく姉様達との合作としてこのかんざしを手渡した。それが光を差し妹達は毎日これをつけて生活している。


気に入ってくれて良かったとルーテ様と姉様達が喜んでいたよ。特に姉様達はどうにかワガママ姫様たちと仲良くしようしているので嬉しそうだったな。


「次、いい?」


「あ、いいですよ~。」


そしてこれも毎朝のこと。妹達の次は姉様達の番。姉様達も中々にオシャレさんというか見た目に気を使うので毎朝頼まれる。


「本当は自分の手でやれればいいんだけど。」


「みんなみたいに上手く出来ない。」


「己の不甲斐なさに泣いちゃった。」


姉様達は髪のやり方自体は覚えたのだけどあまり上手には出来なくて私達にお願いすることが多い。というか大体わたしらがやっている。まあ楽しいしお姉様達と交流が出来るので頼まれなくてもこっちからするんですけどね。


「はい、終わりました。今日もとても可愛らしいです。」


皆の支度を手伝った後にようやく自分達の髪に取り掛かると背中に視線を感じた。これは玄関の方でスタンバっている妹達からのもので、早くしろという無言の圧をヒシヒシと感じるが、まだ頭が動いていない私達はそれらの圧を無視してマイペースに髪を梳かし合う。


自分でやるよりも他の人にやってもらったほうが楽だし早い。後ろ髪とかはどうしても自分でやるよりも人にやってもらった方が綺麗に仕上がるしね。だから私達は毎朝姉妹同士でやるようにしている。コミュニケーションになるし、なによりも妹達に邪魔されにくい。


他人の為に動いている人の方が邪魔しにくいからね。これも経験が活きている。個人それぞれでやっていた時はよく邪魔されたというか無理やり中断させられて外に引っ張り出されたものだ。


「ねえ、まだ?」


本当にうるさいなこの娘達…。少しは待てないものかね。あなた達程じゃなくても寝癖が付いているし私達も見た目は気にするの。


「早くしてよ。早く起きた意味ないじゃない。」


こらペトラちゃん。イライラして貧乏ゆすりをしない。見た目はお上品なのにやってることは(やから)よ。


「まあまあサラちゃんず。エルフちゃんずにも支度する時間は必要だから待ってあげて。」


「…お姉様がそう仰るのなら待ちます。」


流石はお姉様。いつも私達の味方をしてくれるから大好きです!でもね〜やっぱりまだ両者共に硬い…。妹達はお姉様達に対してちょっとぎこちないというかね。はっきり言って緊張してしまっている。姉に対する態度ではない。


そしてそんな態度を取られる姉様達の言動も少々ぎこちなさを覚える。冗談とか妹達に言わないし気を使って喋ってるって感じ。


はぁ…。こういうのは私達が間に入ってやるしかないんだろうな〜。エルフって手先だけじゃなくて人間関係も器用だと思うんだよ。だって妹達が素の態度で話せるの私達だけだし。


なんというか妹達は母親であるプロメア様に対してもちょっと大仰な態度を取っていて家族って感じがしない。多分、竜の本能なんだと思う。相手が強者であることが本能で分かるのだろう。


だから自分よりも弱いと判断した私やルーテ様には舐め腐った態度を取り、自分よりも強い相手である姉様やプロメア様、アズ様にはああいった硬い態度を取っている。


まあ環境が悪いとも言えるかな。ここには弱すぎるか強すぎる人達しか居ないもん。それで中間が妹達って感じ。でも上への開きは物凄い。だから言い方が悪いけどこの中で最も弱い私達エルフに甘えてしまっている。


緊張しないで気軽に話せる相手が私達しか居ないから私達にだけ絡む。そして緊張して安心出来ない此処から出来るだけ離れようとしている。


この事についてプロメア様にも相談したけどやっぱりプロメア様も似たような認識をしていた。プロメア様の方がキツい言い方をしていたけど…


「依存しているのだろう。…余によく似ておる。」


家族に依存する傾向がドラゴンにはあるらしい。実際ドラゴンは他の種とは交流がほとんどない。つまり他者がドラゴンしか居ない。だからコミュニケーションを図れる相手が限られて来る。


「だがすぐに()()するであろう。だからあまり気にせず、いつものように姉としてあの子達に触れ合い続けてほしい。頼めるか?」


勿論私達はその頼みを聞きましたとも。プロメア様からのお願いなんて中々ありません。私達にとってもうプロメア様は母親も同然、言う事は聞きますよ。


「ふあ〜あ…櫛貸して。私が仕舞うから。あと私の弓も持っておいて。」


アズ様の作った化粧棚の引き出しに櫛を入れて立ち上がり、私の弓を受け取ると妹達からせっつかれながら玄関へと向かう。


「行ってきますお姉様方。」


「「「気を付けてね〜。」」」


これもいつものこと。お姉様方に別れの挨拶をし、外に出ると妹達は私達しか居なくなったからなのか、それとも日に当たることで更に元気になったのかとてもリラックスした様子。先程までの不機嫌さは嘘のように笑顔で私達を出迎えてくれる。


いつもそういった態度ならすぐに打ち解けられるのに勿体ない…。まあ、今は私達だけで独り占めしましょうかね。独占欲が出るほどにご機嫌な妹達は可愛いらしい。…見た目だけは。


「いつもそんなに眠そうにしているのなら早く寝なさいよ。」


「いや、君らの寝相が悪くて夜中に起こされるんだよ。」


サラマンダー達はかなり寝相が悪い。でも別にすごく寝返りをうつという訳ではなく、尻尾と羽が寝返りをうつ度に我々エルフ達にのしかかるのだ。


サラマンダー達はプロメアとは違って羽を結晶化させて仕舞うことが出来ない。だから出しっぱなしになるのだが寝ていると折りたたんでいた羽が広がり尻尾も無意識に動いて近くにいる私達に巻き付くことがある。


これは意識せずにやってしまうことなので最初の方は私達も我慢していた。しかしこうも毎日眠りを妨害され毎朝早く起こされれば文句のひとつも出てくる。


「あの部屋が狭いのよ。11人で横になって寝れるスペース無いじゃない。」


「アズ様が増築するって言ってたしそれまで我慢してほしいわ…。」


確かに子供の体躯とはいえ10人以上で寝泊まり出来る間取りをしていない。しかしそれでもエルフ達からは文句が続出する。


「いや今日なんて息苦しいと思って起きたらあんた達の抱き枕にされていたんだけど…」


「あ、私もだよ。しかも羽が顔の上にあって息苦しいのなんの。」


エルフ達から色々と文句が出てくるが爪を弄って聞き流しているサラマンダー達に姉達は大きくため息を吐いて文句を胃に流し込む。朝飯とは最低の部類だがこれ以上無駄なエネルギーは消費出来ないと判断したようだ。


「…あ、終わった?」


「じゃあ行くわよ。」


サラマンダー達は羽を広げて飛翔すると慣れた様子でエルフ達を尻尾で捕まえて高度を上げていく。


「だから急に持ち上げて飛ばないでよ!!!」


「地面が遠いよ〜〜〜っ!?」


「アホバカまぬけ!!!」


「一言断るとかないのっ!?」


腰をガッチリと掴まれたエルフ達は抵抗も虚しくサラマンダー達と共に高度を上げて空へと飛翔した。高度としては地上から60メートルの位置で飛行し、その高度を保ったまま森の周りを巡回するようにぐるりと飛び続ける。


「ほら、早く獲物を見つけなさい。役目でしょ。」


「そんな簡単に言わないでよ…!」


エルフ達は妹達に急かされながらも地上に意識を向けて獲物を探っていく。木々が邪魔で目視では地上に居る獲物の姿を見つけることは出来ないが、エルフ達は優れた感覚によって魔素を含む生物を感知することが出来た。


「ん〜〜…これ近くには居ないわね。」


「どうする?やっぱり3キロは離れないとキツいかな?」


「相談してても仕方ないから勝手に飛ぶからねあたしら。」


ツインが姉妹達と相談し合っているとサラマンダー達が拠点から離れるように飛行して探索範囲を広げていくが、一応サラマンダー達はお互い離れないように一つの群れとなって飛行している。


だから探索範囲を広げるとはいっても散らばったり、各々で探したりはしない。あくまでエルフひとりにサラマンダーひとりでペアを組み、空からの探索をこうした形で行なっている感じだ。


「プロメア様から3キロっていうのがやっぱり有力そう。」


この森に住む生き物たちがプロメアの気配を感じて一斉に逃げ出したという経緯があるが、逃げ出した生き物が次第に森に戻って来ているらしく、拠点から数kmという距離で獲物を発見することがここ最近ではよく見られる。


そして大体ではあるが3kmが境界線となっているようでこれ以上の距離となると原生生物の姿を見かけることが多い。


「プロメア様も言っていたけど竜種からエルフ種になった影響で周囲に与える恐怖心が薄れているみたいだね。竜の時はもっともっと遠くの方まで生き物が近づこうとはしなかったって言ってた。」


「なんか喜んでいたよね。怖がられなくなったって。」


「竜の時も最後の方は全く怖くなかったけどね。」


「そうそう。プロメア様は竜の時は見た目が少し怖かったけど優しかったもん。」


どうやら空を飛んでいる事に慣れたようで普通に会話をしだしたエルフ達。そしてそんな呑気な話を黙って聞き続けるサラマンダー達はご機嫌な様子で滑空し高度を下げていく。


「3kmは離れたからそろそろ居ると思うけど大物だけを見つけなさい。雑魚はいいから。」


大所帯になりつつあるエルフ達は大型の獲物を見つける必要があった。今は余裕があったとしてもこれからの事を考慮するといくら狩っても足りない。新たに生まれてくるであろう妹達や必ず訪れる冬期など考えれば大型の獲物は優先して狩りたいとエルフ達は考えていた。


そしてエルフ達は一際大きな気配を感じ取る。優れた魔覚を持つエルフ達が指を差しサラマンダー達に指示を出すとまだ見ぬ獲物目掛けて急速加速していった。


「降りるわよ。準備しなさい。」


羽を畳み降下の準備をしたサラマンダー達。それに対してエルフ達は慣れた手付きで自身の魔素を正面に放出すると流動的な形に固め、一種の盾のような形状をしていた。


エルフの魔素は硝子のように半透明なので正面に放出しても視認性が失われたりはせず、例えサラマンダー達の正面にあったとしても問題なく飛行することが出来る。


「ーーーいいよ。いつでもどうぞ。」


その一言がきっかけとなりサラマンダー達は目下の森目掛けて一気に急降下し、木々の枝を折りながら森の中へと侵入した。


「邪魔。」


「はいはい。」


森の中に入るとエルフ達の張った防御魔法が不要になりサラマンダー達は目の前の魔素を仕舞うように促す。それに対してエルフ達はすぐに魔法を解除して体内に魔素を格納すると弓を構えて戦闘準備に入った。


「…正面、距離で100かな。動きからしてキュルルみたいな鳥類。」


矢を構築し弓に掛ける。サラマンダー達の飛行速度的にあと3秒程度の時間で目標に接敵することをこれまでの経験で理解していたエルフ達は言葉を交わすこともなく連携が取れていた。


そして予想通り3秒後に目標とすれ違う形で接敵する。サラマンダー達は飛行速度を落とすこと無くそのまますれ違う軌道を取り、エルフ達はというと突然の出来事で反応の遅れる獲物が見せた一瞬の隙を見逃さずに弓を引いた。


同時に放たれた4本の矢は獲物の胴体に命中し、2本は貫通するほどの威力を見せると獲物は断末魔の叫びと共に地面へと倒れ込む。


「…仕留めたかな。」


すれ違う事でその場から離れていたエルフ達は妹達へ戻るように指示し、仕留めた獲物を確認しに行った。


「…また鳥類?前見たあのデカいやつが良かったのに。」


「デカいやつ?あ〜あの哺乳類っぽいやつか。あんなのがしょっちゅう見かけてたらこっちも殺れちゃうよ。私達は草食類からも狙われる生態を有しているからね。」


「あたしらが居るんだから平気よ。弱気でどうするの!」


「いや、サラマンダーもエルフ種ってことを理解しなさい。」


サラマンダーもエルフ種ということで半分は植物のようなもの。例え竜のような特徴を有していようとも草食動物からは食べ物として認識される可能性が高かった。


「…あたしらをぱっと見て草として認識出来るのなら一周回って別に構わないけどね。話も道理も通じない感あるし。」


「ふふっ、確かに妹達を見て草だ!と認識出来る奴とか話が通じなさそう。」


妹達が周囲を警戒している間にエルフ達は利き手とは逆の腕に刻まれたトライバルタトゥーを操作し始める。


そして腕にある時計を手の平まで移動させると模様は自動的に変わり、ある別の魔法が発動した。その魔法とは獲物を分解し生命の樹へと転送する魔法だ。


「ふぅー…まだ緊張しちゃうよ。こんな大きな生き物が手の平に吸い込まれていくの意味分からんし。」


「分かる〜。なにかの拍子に私達まで吸い込まれそうでさ。」


エルフ達がそんな心配事をしている間にも大型の鳥類はみるみるに分解されてエルフ達の手の平にある模様に吸い込まれていく。


「終わった?」


「うん、周囲の警戒お疲れ様。」


これがエルフ達の日常。狩り全体の動きと仕組みがスムーズとなり安定した狩猟が可能となっていた。


「じゃあ次の獲物を探しにいくわよ。」


「だから急に持ち上げて飛ぶなー!!!」


これもいつもの日常。エルフ達はサラマンダーに捕まり空を飛んでいく。


だがそんな楽しい時間も気付けば過ぎ去ってしまい帰宅の時間になる。エルフ達は時計を確認して切り上げようとサラマンダー達に拠点へ戻るように指示を出した。


「まだ4時を過ぎたくらいじゃない。」


「日も傾いてきたし今日はまだルーテ様とも挨拶出来てないから帰りたいんだけど。」


「ハイエルフに挨拶してなんになるのよ!」


「プロメア様とも挨拶してないんだけど。」


「うぅー…分かったわよ。でも明日はもっと遠くまで狩りに出掛けるからね!」


サラマンダーは渋々といった具合で方向を展開しエルフ達と共に拠点へと戻って行った。そしてエルフ達の帰宅に気付いたルーテ達が出迎える為に作業を中断しエルフ達に声を掛ける。


「おかえりなさい皆さん!今日も大漁だったみたいですね!」


「ただいま戻りましたルーテ様!」


「うわっ、なんか家が増築されてる!?」


「アズと一緒に今日は増築作業をしていました。完成度としてはまだ8割ぐらいですけど問題なく使えますよ。ね?アズ。」


「部屋をいくつか増築した形だがまだ仕切りが完成していない。明日までには部屋ごとに区切り、作業部屋などを完成させるつもりだ。」


もはやエルフ種の棟梁としてセカンドライフを堪能しているアズが角材を肩に担ぎエルフ達の出迎えに来ていた。


「アズ様お疲れ様です!完成楽しみにしていますね!」


「ああ、皆もお疲れ様だっただろう。休憩がてら部屋を見てくるといい。その間に食事の支度を終えておく。」


「はい!お言葉に甘えさせてもらいます!」


アズともコミュニケーションが取れているエルフ達は言われた通りに家の中へと入っていくと歓声が外にも響き、アズは満更でもなさそうに角材の加工をし始める。


「いや、ご飯作るので作業は止めてくださいよアズ。」


「期待には応えなければならない。」


「明日やるって話だったじゃないですか!」


「サラマンダー達を手伝わせれば良いだろう。なあプロメア。」


「そうだな。手が空いているのなら手伝うといい。」


プロメアが遅れてやってくるが、彼女の手には木で作られた何かの道具が握られていて仕事を中断してここに来たことが分かる。


「「「「プロメア様!!」」」」


「おお我が娘たちよ。よく帰ってきた。近うよるが良い。」


興奮した犬のようにプロメア目掛けてダッシュする姿は年相応で微笑ましいものだ。


「あの〜私にもそういった反応してくれると嬉しいんですが…」


親として自分にもそういった甘えた反応を求めるルーテだったが、サラマンダーの耳にはそんな想いが届いていないのか、それとも考慮する必要もないのかサラマンダー達はプロメアにしがみついて今日一日どれだけ頑張ったのかを報告し始める。


「分かった分かった。後で聞く故、今は余たちの手伝いをするといい。今日はそれなりの料理を作るらしいからな。」


いつもはただ生命の樹に生る果実をそのまま食べているエルフ達だったが、今日は珍しく果物を調理しソースを作る算段を立てていた。


「あっ!前に狩った獲物の肉を使うのですか?」


実は今日の為に肉を干して熟成させていた物があり、これはプロメア達に頼まれてサラマンダー達がエルフ達と共に狩ってきたものだ。


今では狩った獲物はダークエルフの作り出した魔法によって分解、吸収を行ない廻廊を通じて生命の樹へと送り込むが、これだと肉そのものを食べたり毛皮や骨といった素材が手に入らないのでたまに狩った獲物を生命の樹に吸収させないで保存する場合がある。


今回はそうして保存し、水分を飛ばして旨味成分を濃縮させた20kgもの肉塊があり、それの付け合わせとしてソースとフルーツサラダを作ろうとの事だった。


だがサラマンダー達は不満気に顔を逸らす。どうやら料理には興味が無いらしい。これも竜の特性を色濃く継いでいる弊害かとプロメアは考える。


(余たちには料理という文化が無かったからな。いまいちピンと来ていないか…)


「面白そう。ルーズも手伝いたい。」


「メーテもやる。料理出来る女はモテると風の噂で聞き申した。」


「食文化を発展させれば行事がやりやすくなる。お祭りしたいぜ〜。」


面白そうな事に対して尋常ではない嗅覚を持つ面倒くさい一味がやって来た。どうやら家の内装を手伝っていたらしく、家から出てくるとすぐさま話に乗って来て自分達も参加すると表明する。


「サラちゃんず一緒にやろうず。」


「え、えっと…ね、姉様達がそう言うのなら…」


「決まり。肉はこっち。運んでこよう。」


ダークエルフ達がサラマンダー達を連れて木陰で吊って保存していた肉の下に向かって行くと、残された大人組が安心したように溜息を吐く。


「良かった…ダークエルフ達がとても外向的で。」


「余もそれで助けられたからな。本当に良い姉達よ。」


「ルーテと当方との子だ。好奇心もコミュニケーション能力も高いのだろう。」


サラマンダー達が中々周囲の人間と打ち解ける事が出来ないことを危惧していたが、ダークエルフ達がああして強引にも輪に入れてくれるので大人組としては大変助かっていた。


(うぬ)に似たのではないだろう。どう見てもルーテに似たのだ。どの世界にアズテックオスターと共生しようと考える。世界広しとは言えどそんな者はルーテしか居まいて。」


「別に私から申し立てたわけじゃないんですけど…」


「当方から提案し、ルーテが承諾したのだからお互いに外向的だったと思うが?」


「ん〜…そう言われるとそうかもしれません。でもあそこで断ったらどうなるんだろうとか考えた末の判断だった気がします…よ?」


「…聞けば聞くほどに分からんな。会ってすぐに共生することが決まったのだろう?」


「それはこっちの台詞だ。最後の別れの挨拶の筈がどうして婚約の話になった。」


アズもプロメアもどうしてそんな話になったとお互いに疑問をぶつけ合うが、その両方の当事者であるルーテが一番どうしてそうなったのか疑問に感じていた。


しかしそんな疑問もサラマンダー達とダークエルフ達から腐ってるという単語が聞こえてきた時点で霧散し、そしていつもの平穏でお腹の痛くなる日常へと戻っていくのだった。

今週中は連休ですし2話ぐらい投稿したいと思います。

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