エルフと気高き隣人
キタニタツヤの聖者の行進という曲が好きです
宇宙から来訪した隣人が住み始めて5日目の朝、流石に狩りに出ないとマズいと考えたルーテ達はエルフ達を森へと送り、自身はダークエルフ達と共に生活に必要な設備の工事に取り掛かっていた。
「台所というか竈門が欲しいですアズ。」
「火をおこして調理に使える場所と道具が欲しいんだな。承知した。」
ルーテの希望を聞いたアズは地下水を掘った際に入手した様々な土と粘土を捏ねくり回して煉瓦と陶器を形成していく。
その動きはもはや職人のようで非常にこだわりが強そうな様子だった。
「ルーズとメーテとクーデは台所に付ける屋根と煙突を作ってください。雨が降ったら大変ですから。」
「りょーかい。」
「まかせて。」
「アズ様との共同開発、ワクワク。」
ダークエルフの姉妹達は切り出しておいた木材を加工し始める。前にルーテが見せた魔素をナイフのように形成する魔法を駆使して加工を進めていくのでスムーズに作業が進んでいく。
「じゃあ私はログハウスの掃除をしますかね。」
ルーテは魔法を使いログハウス内にある埃などのゴミを集めて生命の樹に捨て始める。どうやら生命の樹をゴミ箱のように扱っているらしく、しかも慣れているのか動きに迷いがない。
そしてそんな様子を見ていた隣人は一体自分は何を見せられているのだろうと熟考を重ねていた。
(こ奴ら…もしかして阿呆なのか?余の事を無視して普通に生活し始めたぞ。)
最初の2日目辺りまではこちらを意識してあまり動きを見せなかったが、3日目にもなれば水浴びや魔法の指導をし始めた。
4日目には外で食事をし、しかも食事が終わっても夜遅くまで話し込んで笑い合っていた。正直なところ余は頭痛を覚えたぞ。
仮にあの戦争を経験した者達がアズテックオスターとエルフらしき者達と楽しく話し込んでいた所を見たとしよう。さすれば間違いなく全員が目を逸らしただろうな。余もその中のひとりよ。
全く…観察を続ければ何か分かるだろうと高を括っていたが、分かるのはこ奴らがとても原始的な暮らしをしていることぐらいよ。
アズテックオスターの力ならばいくらでもやりようがあるだろうに奴は手作業で土を捏ねくり回し、手作業でそれを組み上げていくのだ。
しかもこれをさも楽しそうにやる。どうなっておるのだ。アズテックオスターとはこのような奴だったのか?誰もアズテックオスターの生態なぞ知らぬから余も知らぬぞ。
(アズテックオスターの生態について推測、憶測が全宇宙の知恵ある者達で語られたが、実在はこのようなものか…)
プロメアが呆れ返っていると森に出ていたエルフ達が戻って来る。どうやら狩りに出ていたようだが獲物の姿は見られない。
「ルーテ様〜生き物が一匹も居ませんでした〜…」
「え?…あぁ、なるほど。」
ルーテは一瞬だけプロメアの方を見て原因に気付く。
「ええっとですね、恐らくなんですけど…その、みんな怖がってこの一帯から逃げ出したのではないですかね…」
「え?…あぁ、なるほど。」
そしてエルフ達も一瞬だけプロメアの方を見て納得した。
「どうしましょうか…」
「どうしましょうかね…」
ルーテとエルフ達を頭を抱えて悩み続ける。しかし答えは出てこない。原因がオモクソ目の前にあるが、自分達ではどうやっても解消出来ない案件なので今のところは無視するしかなかった。
「…取り敢えず出来ることからやりましょう。雨が降る前に屋根の設置を急がないと。」
「手伝います!」
手持ちぶさたとなっていたエルフ達も加わり作業はスムーズに進んでいく。元々手先が器用であったエルフ達は指示を聞けばすぐに作業に移り誰にも目劣りしない働きを見せた。
そしてその一連の出来事を見てプロメアは彼女達の生態についてある特徴を見つける。
(そうか、こ奴らは余に順応したのだ。だから余を気にせずに過ごしておる。)
余は竜だ。そしてプロメアという個体、故に皆が恐怖する。例え知性を持たぬ種でも余から逃げ出す。その証拠にこの一帯は最早余達しか居らぬ。
しかしこ奴らは逃げる事もなく受け入れた。恐らく適応力がとても高い種なのだ。何故すぐに気付かなかった。余とした事が目の前のものに囚われていたようだ。
全てあのアズテックオスターとその隣に生えている奇妙奇天烈な木のせいよ。あんなものが並んでいたらそちらに目が向くのは仕方のないことだ。
だから見落としてしまった。あのアズテックオスターと共生している彼女らを…
全生物に対し余とアズテックオスター、どちらがマシかという話をすればどちらも御免被ると答えるだろう。余とてアズテックオスターがすぐ傍に居るなどと考えたくもない。
余ですらこうなのだ。宇宙に住む生き物はアズテックオスターを恐怖の対象として認識している。しかし彼女達は適応し順応しておる。
この異常さに気付けぬとは余もまだまだということか。この種族の精神性は他の種族と一線を画す。アズテックオスターという存在を知っていて共生しているのだからな。
もしアズテックオスターという存在を知らずに共生したというのならば、まあ納得がいかなくもない。しかしルーテと名乗ったあの女、アズテックオスターが余に正体をバラした際は驚いておった。つまりアズテックオスターという存在を認知しているということ。
それなのにこ奴らはアズテックオスターと生活を共にし、コミュニティを形成してみせた。…全く、こんなことがあってよいものなのか…余にはもう判断がつかん。
プロメアが一種の諦めの境地に辿り着く頃、遂に恐れていた事が起こる。それはルーテ達が台所を作り始めて2日目のお昼に入った頃、遂に完成しエルフ達が手持ちぶさたになったタイミングだった。
(童子共…まさか余に話しかけるつもりか?)
ダークエルフの姉妹達が興味深そうにプロメアを観察し始める。大きな身体を持つプロメアの周りをぐるぐると回り、そしてその様子を見ていたルーテも目を回していた。
因みにアズは横目でその様子を確認し、焚き火に使う薪を切り出し続けていて姉妹達を止める様子が見られない。
「あ〜…これ私達が止めに行かないといけないやつかな…」
「え?行くの?私やだよ。」
「流石にそこまで命知らずじゃないし…」
「ていうかお姉様達すげー…よく近付けるよね〜。」
エルフ達は姉達の無謀なる行動を諌めようと考えるが、どうやっても止めることは出来ないだろうと判断してルーテの指示を仰いだ。
しかしルーテは顎が外れるんじゃないかと心配になるほどに口を大きく開けてフリーズしていたので指示を出すことが出来なかった。
(あ、あの好奇心馬鹿娘ども〜…!いつかやるんじゃないかと思ってましたがまさかたったの数日も我慢出来ないなんて!ちょっと外向的過ぎですよー!!)
心の中で絶叫するルーテをよそにダークエルフ達はプロメアを観察し終えて話しかけてしまう。
「プロメア様ー私達の言葉分かりますー?」
「少しお話をしましょう。」
「たのもー。」
(((((や、やりやがった…!)))))
この辺りが焦土と化す幻覚が見えたルーテと子ども達は戦々恐々とプロメアの様子を伺う。
『理解している。しかし余の発声器官では其方らの言葉を発声することは叶わん。故にテレパシーでの会話のみを求むぞ。』
意外にも気安く答えてくれたプロメア。この言葉はダークエルフ姉妹にしか届いていなかったが、目線が彼女達の方へと向いているのでどうやら会話をしていることはなんとなくだがルーテ達にも伝わってきた。
『それに敬称は不要。此処に居るのはただの竜、ただのプロメアという個体だ。』
顔を少し持ち上げて顔をダークエルフ達の方へと向けるプロメア。首だけでも数メートルもあるので近くで見ると迫力があり、頚椎の数が人とは大きく異なるのか蛇のように自由自在に動くようである。
『分かりました。ですがわざわざ遠くの方から来ていただいたお客様に対して敬称無しは失礼に当たります。なのでこの場ではプロメア様と呼ばせてください。』
『ふむ…其方の文化ということならば無理強いはしまい。好きに呼べ。』
『ありがとうございますプロメア様。』
プロメアは他文化について寛容だ。文化とはその者たちにとっては常識であり当たり前の事であるので否定はしない。
但し押し付けがましい内容については寛容ではないのでそこを見誤ると後々にその代償を支払うことになるだろう。
『あと、先ずは謝罪をさせてください。』
『謝罪?なんの謝罪だ?』
『初対面なのにルーズ達は威嚇行動をしました。』
『あれは良くなかった。』
『ごめんなさい。』
ダークエルフ達が自身に接触を図ろうとしていたことは一昨日あたりから察してはいたが、しかしまさか謝罪をされるとは予想もしていなかった。
これには流石のプロメアは素で驚き、そしてまじまじとダークエルフ達の顔を見回すが、無表情の為にその真意は図れそうにない。
『ーーーあれは正しい反応だった。主らに何も悪いところはない。あそこで動けたのは主らが家族を想いそして必要だと判断したからだ。ならば余が謝罪を求める事も主らが謝罪をする必要性もない。そして余こそ突然の訪問で警戒させてしまった。許せ。』
逆に謝罪をされたダークエルフ達はここで初めて感情らしい反応を見せる。まさかプロメアの方から謝罪をされるなど考えいなかった彼女達はお互いの顔を見回してどうしようかと話し合い始める。
「なにを話しているのでしょう…聞き耳を立てているのに内容を聞きたくないですよ。」
ルーテは不安そうに我が子達の様子を見守りつつその場をうろちょろとし始める。ここまで落ち着き様がないルーテは珍しく、アズはダークエルフ達よりもルーテの方が気になっていた。
「アズ様よりも良識あるよ。」
「ね?どうしようこの展開は予想していなかった。」
「アドリブでかまそうぜ〜。」
ろくでも無いことを話し合う姉妹達。どうやら姉妹間の中では親であるアズの評価がかなり低いらしい。
『そうだ、私達まだ自己紹介していなかった。ルーズです。』
『メーテです。』
『クーデです。』
『『『3人合わしてダークエルフ姉妹です。』』』
3人で即興のポーズを取って自己紹介をするダークエルフ姉妹。ルーテは失神して真後ろへ倒れた。
「ルーテ様っ!?」
「お気を確かに!!」
エルフ達は突然倒れてしまったルーテを快方しようと4人でログハウスの方へと運んでいく。
因みにアズは薪割りに精を出していた。
『お前達の片方の親が倒れてもう片方の親は無視しているぞ?』
『まあ…いつものことです。』
『気にしないで欲しい。』
『身内が粗相を働いてしまい申し訳ない。』
再び謝罪を口にするダークエルフ達。自分達が原因である事を棚に上げての謝罪にプロメアは無言で答える。
『ーーーして、何用か話して貰おうか。まさか謝罪が本題というわけではないのであろう?』
プロメアは前足を組んで羽を羽ばたかせる。この一連の動きだけでも王たる者として相応しい風格を感じさせるものでダークエルフ達の喉を鳴らした。
『…興味があった。プロメアという竜と対話する機会なんて不老不死でもそう巡り会えない。』
『このまま話さずに別れるのは勿体無い。』
『これから生まれてくる妹達に自慢出来る。』
俗物まみれの答えだったが、プロメアとしてはそれぐらい本音で来てもらった方が心地良く、子供というものはこれぐらいの好奇心があって然るべきと考えていた。
『良い良い。人種の童子と戯れる機会など余ですら巡り会ったことがないことよ。この機会だ。互いに交流を図ろうではないか。』
『プロメア様寛大。』
『感謝感謝。』
『懐の深い御方ですぜ。』
いつもの調子で接するルーズ達。怖い物知らずに思える対応だったが、プロメアは彼女達が自身の危険性についてもうすでに体験しているという事実に思いを馳せる。
(もう適応したのか…。この種族は恐怖を感じ、緊張も覚える。しかしその事を忘れることなく目の前の難題に取り組めるとはとても優れた種族よ。)
ルーテという女が緊張感に耐えられなくて気絶しておったが、その周りにいた童子共はすぐに動いていた。最初は余を前に何かしらの行動を取ることすら出来ていなかった個体達が今では自分達の考えで行動しておる。
つまり余の予想は間違っていない。こ奴らは適応することに関してはどんな種族よりも優れている。一体どのような進化を辿ればこうなるのだろうか…。少し探りを入れたいが余のことを警戒していない訳が無いからな。簡単には行かんだろう。
ならば次の思考に進むべき。次に考えるべき事はアズテックオスターの反応だ。奴もこの種族と同様に余に対して適応した反応を見せた。最初はあれだけ警戒していたのに今は木を均等に切り分けておる。
(まさかアズテックオスターもこの者達と同じ特性を…?もしそうならばこの種族は…)
プロメアはもう少しでこの種族に対して理解が及びそうになっていた。しかしそんなタイミングで脳内にダークエルフ達の言葉が流れ込んでくる。
『交流ってどのようにするものなのですか?』
『メーテ達は異文化交流したことがない。』
『初めてエルフ種以外と交流する。』
『…余が初めてとは運が良いのか悪いのか分からんな。…では互いに一つずつ質問をし、それに答える。これならばどうだ?簡単であろう?』
これは竜という人種を遥かに超える知性を持った種族の常套手段だ。このやり方にルーテはすぐさまに気づいたが、ダークエルフ達はまだ経験が浅く知識も少し偏りがあってルーテ程の対応が難しい。
そんな立場を見抜かれたプロメアの一手にダークエルフ達は…
『それ良い。』
『簡単でお互いのことを知れる。』
『シンプル・イズ・ベスト。』
プロメアの提案に乗ってしまう。これでプロメアに自身の事について知られてしまうだけではなく、種族や生命の樹についても情報を引き出されてしまう危険性も出てきた。
『よし、ならば主らから余に質問をせよ。勿論ひとりひとつずつで構わん。』
かなりダークエルフ達側に有利に思える提案だが、これは3人分の情報を別けて知る為のプロメア側の策略。ここにルーテが居れば真意を読み解きダークエルフ達へそれとなく伝えられただろう。
しかし今は居ない。ダークエルフ達のせいで今もログハウス内にてうなされている最中だ。
そんな中ダークエルフ達は竜の王と称されたドラゴンと交流をしなければならない。アズも新しい丸太に手を伸ばし薪割りを続けているので助けは期待出来ないだろう。
『じゃあルーズから。プロメア様の故郷ってどこなのですか?』
『…故郷か。余に故郷はない。しかしこの答えでは些か味気ないな。余の種族が誕生した星で良いなら答えよう。』
『聞かせてください。妹達に自慢出来そうな予感がします。』
『余の種族が誕生した星はすでに死に絶えて滅んだがその星の名はイーファクティオという。これが正しい呼び名かは少し自信が無い。随分と昔の事でこの名を口にする者も機会も無かったからな。』
「イーファクティオ…発音は簡単だけど多分竜語だよね。」
ルーズは実際に口にして発音してみるが、この発音が正しいかどうかが分からず眉間にシワを作っていた。
『発音が大分違うな。余と主とでは発声器官に違いがあり過ぎて正確には発声出来ん。しかし…その名を口にする者が余以外に居た事を覚えておこう。感謝するルーズよ。』
『こちらこそ貴重なお話を聞かせてもらってありがとうございますプロメア様。』
ここまでは良好な滑り出しで不安要素は感じられない。薪を割りながら聞き耳を立てていたアズもそう感じていた。
そしてその様子を目の端で捉えていたダークエルフ達はこのまま進めてもよいと判断し、質問を重ねていく。
『じゃあ次はメーテの番。メーテの質問はこの星に来るまでの道中のお話、エピソードを聞きたいです。』
仕掛けてきた…プロメアはダークエルフ達がこの交流の本当の意味を理解していた事に気付く。
(こ奴、探りを入れてきおったわ。これは面白くなった。まさか童子共が余と競うなどとはな。…クフフ、案外負けず嫌いなのかもしれんなこの者達は。)
余が大17次宇宙戦争に参加していたことは誰もが知る事実。ここまでは余の行動が確定している。そして今現在の余の行動も確定している中で未確定なのが余がこの星に辿り着くまでの期間だ。
つまりこの間の余の行動を知ればこの星に来た本当の理由も自ずと分かってくる。そう考えるとルーズという童子が昔の事を聞いたのもこの為の布石と考えてよいだろう。
時系列としては最初に大昔の事、つまり答えやすい内容を聞き、そして次に最近の事を聞く。こうすれば質問をしやすくなり余は答えない訳にはいかなくなる。ここで言い淀めば言えない理由があることを知られ余の真意がバレてしまうからな。
全く…本当に楽しませてくれる者達よ。これは余を相手に経験を積みに来ている者の動きだ。経験値不足を補うには経験を積む以外に無い。こ奴らはそれを理解して仕掛けてきた。
全てこ奴らの策略、余は先手を取られ後手に回っていたのだ。これはあの時のシチュエーションと同じ、あの時は先に向こうが仕掛けようとしてきたが余は相手にもしなかった。しかし今回はあの時とは一味も二味も違う。
この子らは反省をし、策を講じてきた。この短期間でよくぞ成長してみせたものだ。素晴らしい成長といえるだろう。若い子達が成長していく姿を見るのは例え別の種族であろうとも心が踊るものよ。
『戦争が終結した後、余は旅に出た。戦後の後始末が残るあの宙域に残る理由が無いからな。それに先程申した通り余には帰るべき故郷がない。竜種は主らのように家を持つ文化も無い故、基本的に宇宙を放浪しておるのだ。』
嘘ではない。竜種が宇宙を放浪しているのは紛れもない事実である。しかし旅というワードには目的があって然るべき。その事を言葉にしない事に対してダークエルフ達は不信感を抱くが同時にとても上手い言い方だなとプロメアを褒め称えていた。
ルーズの質問を引き合いに出して更に情報を提示し、肝心な部分を明言せず質問の回答を終わらせる手腕は流石は竜の王と言えるだろう。
そしてプロメアも同様に心の中でダークエルフ達を褒め称えていた。ここまででもルーテと比べて遜色のない働きを見せている。
(なるほどアズテックオスターが出てこないのはこの子らに任せているからか…。或いは何かしらの方法で指示を出しているのかもしれんな。相手はアズテックオスターの混合種。油断は出来ん。)
プロメアは1段階ギアを上げる。彼女達は無警戒で相手に出来るほど生易しい強者ではない。ほんの少しでも隙を見せればこちらが負けるかもしれない相手だ。
そんな彼女達にプロメアは思考を巡らせて次の質問に答えていく…
誰が何と言うおうともこの物語はコメディです




