表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフが倫理観の崩壊した世界で繁栄を目指します!  作者: アナログラビット
竜と地に潜む依存の種
22/98

エルフと竜の対話

keenoのglowという曲が好きです。

この対話にて明らかにしなければならない事項は2つ。


1.プロメアの本当の目的。


どう考えても休憩がてらこの星に立ち寄った訳が無いのは明白。アズテックオスターを追ってこの星に辿り着いた可能性が高いが、真相のほどは分からない。


2.プロメアの意志


プロメアは何を思いどう行動に出ようとしているのか探る必要がある。戦う意志があるのか、それとも今のところはただ情報を収集するつもりでいるのか今の段階では判断がつかない。


よって竜の王の意志を問わねばならない。例え真実を言葉にしなくとも何故真実を言葉に出来ないのか推測は立てられる。


(当方がしなければならないことは…)


アズがこの先の展開を読み切ろうとした思考を巡らせる。人間からすれば刹那のような短い時間だが、その一時(ひととき)の間を狙うように竜の王は魔法を行使した。


(ふむ…ここからでも見通せないとは。)


竜の王プロメアがリスクを負ってでも魔法陣を抜けて地上へと降り立ったのは生命の樹を間近で見るためだ。


明らかにひとりだけ突出した実力を持つ者が居ることは理解していた。体内に内包する膨大なエネルギーは自身と比較しても遜色ない。そんな相手に近付く行為は生き物として間違った選択だったのかもしれない。


しかもそんなリスクを背負っても近付ける距離としては大した距離ではなく、あっても数十メートル程度しか近づけなかったが、その大したことのない距離であってもどうしても詰め寄りたかった。


プロメアにとって生命の樹の頭上に展開されていた魔法陣は邪魔だった。だが別に認識を阻害する魔法が組み込まれた魔法陣そのものが邪魔だったのではなく、視界に入って鬱陶しかったから破壊しただけのこと。


プロメアからすれば目の端に虫が写って手で払ったような感覚だ。その程度の影響しか及んでいない。


そしてプロメアは魔法を行使した。使用した魔法は単純なものでただの“見通す魔法”で、たった一つの魔法である。


ドラゴンは魔法生物と言われるだけあり、生命活動そのものを魔法で行なっている生き物だ。筋肉を動かすのも電気信号を送るのも血液を全身に巡らせるのも魔法で行なう。


勿論だが眼球という感覚器官も魔法によって動いているので、ドラゴン達にとっては見る行為そのものが魔法なのだ。しかも何千もの魔法を同時に行使して眼球という感覚器官を機能させている関係上、ドラゴン本人はそれを無意識で行なっている。


分かりやすく言うとエルフなどといった生き物が暗い場所などを見る時に瞳孔を動かして光の量を調整するのと似ている。これも本人達は意識せず行なっていて生き物として当たり前のように備わっている機能だ。


つまり竜にとってすれば魔法とは生命活動の一部。こんなことをいちいち意識して行なったりはしない。プロメアが生命の樹を見ようとして、眼球が瞳孔を動かして見えやすいように動いている。それだけのこと。


その時に魔法は行使されるが、エルフ達が用いる魔法とは大きく異なるプロセスを踏んでいるので、アズやルーテの魔法適性ではプロメアが魔法を行使していることにすら気付けない。


それにドラゴンは光のみを見る訳では無い。電波や紫外線、赤外線、それと魔素などいった普通の生き物では見ることが出来ないものも見ることが出来る。


(やはり分からぬか…。つまり距離の問題ではない事は確定。それが分かっただけでも十分よ。)


この木の形をしたものは何重にも層がある。恐らくは年輪のような層があるが、余の魔法()を以ってしても見通せないとは物理的なものでは無いということ。概念や魔法に近い。


表面上の層だけでも相当な情報があるが、その奥はもっと膨大であろうな。詳細は分からぬが恐らく余の求め続けた情報が…


余でもここまで分かっているということはアズテックオスターも同じかそれ以上に見通しているだろう。しかし余と同じく全てを見通せていまい。でなければああやって休眠状態のような有り様になっていないであろう。


もし全てを認知していたのならば放置するわけがない。アレにはとんでもない秘密が隠されている。だからこその放置、今は分からなくともいずれ分かる時が来るまで放置するしかない。


ならばこの者らは何か…という疑問のみが残る。いくらか予想は立っているもののどれも根拠に欠けるものばかり。特に黒い方のエルフらしき者は()()()()()()()()()()()()()()()()。奴と無関係とは到底思えぬわ。


そして、その隣に立つエルフらしき者は正直なところ余でも分からぬ。見た目も魔素の量もエルフの枠を出ぬところを見るに平凡なエルフ種にしか思えん。


しかしこれは余の勘だがあの木の形をしたブラックボックスとの何かしらの繋がりを感じる。本当に余の感覚のみの話だ。この目で見て感じたものではない。


あくまで長年の経験から来る余自身の判断。しかし自身でもこの感覚は無視することが出来ない。それほどまでの情報として価値がある。


今までこういった勘が外れたことがない。ここまで辿り着いたのも余の勘の部分が多い。そして余は当たりを引いたのだ。この勘は無視出来ぬ。


それに奴は余を前に笑ろうてみせた。ならば余と対話する資格がある。


プロメアがルーテについて興味を示し思考を巡らせていたが、この間の時間は1秒にも満たない。ある一部の生き物の中には自身の思考速度を自由自在に操作出来る者がおり、プロメアもその中に含まれる存在だ。


そしてアズもその中に含まれた存在である。しかし互いに自身の深い思考の海に沈み込み、お互いの観察がほんの一瞬だが疎かになっていた。


故に刹那の時が過ぎ去ったタイミングではあるが、両者共に意識を向け合ったのはほぼ同時である。


『では先ず余のほうから名乗ろう。余は赤竜種のプロメアである。ただの竜として扱ってくれて構わない。敬称などは不要ゆえ、ただプロメアと呼ぶとよい。』


ここで初めてプロメアと名を明かすが、どうやら竜の王としてではなく、単独の竜としての立場で此処に居るらしい。


『そう…ですか。なら私はエルフ種の代表者ルー・テ・メーデと申します。長いのでルーテとお呼びくださいプロメア。』


ルーテは敬称をあまり使用しない。彼女が故郷で敬称で呼んでいたのは精霊のみで、他の者とは愛称で呼び合っていた。なのでプロメアを敬称抜きで呼ぶことに対してそこまでの忌避感は感じていないようだ。


『…それとこの者は私達と同じエルフ種の者で私と立場はそこまで変わりません。』


一瞬、どう紹介しようか迷うルーテ、ここで嘘をついて向こうの心象が悪くなるよりも全てを話さず話してもよい情報のみを話すことにしたが、どうやらアズは違う考えのようだった。


『紹介に預かった。当方はアズテックオスターとエルフの混合種ダークエルフ代表者のアズだ。』


「ちょっ…!?」


見た目は一般的なダークエルフに似た種族である暗き者(ダークエルフ)。何も言わなければ誰もアズ達のことをアズテックオスターの混合種とは考えもしないだろう。


しかし敢えてアズは言い放った。これに対して竜の王は…


『それは…言葉の通りか?貴様は余にアズテックオスターの末裔と言い放ったのだ。その意味…問わなくとも分かるな?』


初めて、竜の王から敵意が放たれる。その圧に当てられて遂にエルフ達が立っていられなくなり腰から地面に着いてしまい、表情は顔面蒼白に加えて恐怖に引き攣っていた。


『分かっているつもりだ。しかし汝はまだ理解しきれていない。当方はアズテックオスターの末裔ではない。』


『ーーー詳しく申してみせよ。』


『当方はアズテックオスターそのものだ。今はダークエルフの身体に魂を移しダークエルフとして暮らしている。』


遂に、遂に言ってしまった。プロメアを相手に自身がアズテックオスターそのものであると。この時にルーテは死を覚悟した。何故ならプロメアからの気配が消えたからだ。


あれだけの濃密な敵意が消え失せ存在そのものが希薄に感じる。それだけの落差があったが、まさかそこから更に変化が起きるとは思いもしなかった。


プロメアはたっぷりと間を取り、そして…


『ーーークフフ、クアハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!』


エルフ達の脳内にプロメアの言葉が届き、それと同時にドラゴンの咆哮が鼓膜を、全身を揺さぶった。


プロメアは顔を空へと向けて笑い続ける。テレパシーで伝わる言葉はプロメアの笑い声を表現したもので、実際のプロメアの笑い声は恐ろしい竜の咆哮そのものだ。


あまりの声量と迫力にその場に居たエルフ達は咆哮で全身がバラバラになるんじゃないかと心配に思うほどで、細胞の一つ一つが振動したような感覚を覚える。


そして竜の咆哮はエルフ達のみならず森に住む全ての生き物にまで響き渡った。


先ず前提としてこの森にドラゴンは住んでいない。それにドラゴンという存在も知らない。しかし全ての生き物が脅威(りゅう)の存在を感知して一斉に逃げ出した。


ダークエルフの狩りの際でも逃げ出さずにそのまま森に住み続ける生き物は数多く存在した。だが中型、小型、そして微生物までプロメアから逃げようと活発化し、夜行性の生き物達ですら瞬時に覚醒してすぐに逃げ出す始末。


これが全ての生き物が竜を恐れるという説の起源だ。姿形を見ずとも存在を感知すれば逃げ出してしまう。例えドラゴンという生き物を知らなくても。


その事実を表すかのように地面が震え始める。これは竜の咆哮によるものではなく生き物が一斉に動き始めたことによる地震だった。


大気のみならず地面すら動かしてみせる竜の咆哮は生き物としては行き過ぎた影響力である。


『クハハハハッ!!ここまで笑ったのは久しいぞ!まだ可笑しくてたまらない!』


何十秒も笑い続けたプロメアがようやく顔を下げてアズ達の方を向いたが、まだ可笑しいのか口はだらしなく開いたままで、そこから覗く歯は見る者を竦ませる鋭さと大きさを誇っていた。


『あははは…ですよね。私もそう思います。』


プロメアと同じくルーテも笑っていた。これはもう笑うしかないと半分諦めの笑いだったが、目だけは未だに熱を持ちプロメアを正面から見定めている。


『クククッ…そうだ、アズテックオスターよ。その身体の住み心地はどうだ?元の身体よりも手狭であろう。貴様ともあろう者がそのようなか弱き容れ物に入ろうなどとよく考えたものだ。』


『それが存外気に入っている。住み心地は前よりも良いほどだ。』


『アッーハッハッハッハッハッーー!!!!』


再び笑い声(咆哮)を天に向けて上げるプロメア。その衝撃は空高くにある雲にまで届き形を変えさせる程だった。


風に乗って流れていた雲が止まったと思ったら穴が開いた。ちょうど雲に息を吹いたかのようにだ。そして風で流れていた筈の雲が四方八方に散っていき青空が広がっていく。


『そうか!!住み心地は良いか!!クフフ!貴様にこんなにも笑わせられるとはな!!これは礼だ、貴様らの質問に嘘偽りなく一つずつ答えると約束しよう!』


上機嫌であるプロメアから提案をされる。内容は質疑応答に答えるというもので、ルーテ達からすれば願ってもない申し出だった。


『なら()()()()()()()?』


たった一言、たった一言だった。エルフ達はその意味を理解しきれておらず、何がプロメアの気分を害したのか分からない。分かることは今までで一番敵意を向けてきたことだけだ。


『貴様…その言葉の意味を知っているらしいが、なら簡単に言葉にするべきではないことも知っておくべきだった。()()は我が竜種にとって最も尊き意味のある言葉ぞ。あまり口にするではない…いいな?』


まるでその場にある全てがのしかかって来たような濃密な圧力。そんな圧力を放つ存在を前にルーテは膝から折れそうになるが、気力を振り絞ることでどうにか膝をつくような不様な姿を子供達に見せずに済む。


『失礼した。当方からの質問はそれでいい。ルーテよ。汝の番だ。』


「え?」


急に振られたことで声で返事をしてしまうルーテだったが、取り敢えずは向こうの意識がこちらに向き、先程まであった圧が薄れている事に気付くとすぐに質問の内容を考え始める。


(えっと、先ず聞かなければならない事を整理しないと。)


時間は掛けられない。だってこの質疑応答は向こうから情報を得られるチャンスというわけではないから。これは私達がどういったものを優先して考え、どこまで先を見通しているのかを見定める為の向こうの策略。


ここで馬鹿正直に喜びチャンスだと考えれば私達の評価は落ちて対等以下の立ち位置として認識されてしまう。それぐらいの事は分かっています。わざわざアズに聞くことでもありません。


『ではプロメア、私からは…』


ルーテはここで何を聞くべきかを瞬時に選択した。ここで時間を掛ければ自身の評価が下がってしまう。そして聞く内容によっても同じ事が言えるだろう。


向こうは知りたい筈だ。ルーテが種の代表者という立場からの質問をするのか、それとも個人的な内容の質問をするのかを。それでルーテという個人の考え方が分かってくる。


その為の提案、その為の児戯。プロメアにとってこの質疑応答は相手の情報を引き出す為の常套手段だ。なのでこの一手をミスればその後の展開は彼女達にとって非常に難しいものになるだろう。


(私が聞くべき事…それは私が()()()()()()!)


『…貴方が我々と戦うつもりがあるかないかです。』


非常にベターな内容だった。しかし聞く内容としては間違っていない。ここをハッキリさせれば向こうのスタンスが分かりこの後の展開が読みやすくなる。


つまり次の為の布石。これがルーテの答えだった。


『ふむ…余は偽りなく答えるとそなた達に約束した。よって答えねばならない。』


内容としてはつまらんが、悪くはない。余とアズテックオスターとの会話の内容に引っ張られた感じはあるものの、前提条件として余の立ち位置を明らかにしようという気概と思惑を感じる。


『最初はそういった事も考えていた。しかし今のところはそういったつもりはない。安心せよ。』


『そう…ですか。』


少し安心するルーテ。向こうが嘘をついている可能性が捨てきれないものの、竜の王と呼ばれた者が安い嘘を言う理由が思いつかない。


『そして、余の知りたい事も知り得た。』


プロメアはこの問答である程度の事を理解し終えていた。


(こ奴らは()()()()()()()()。隠すつもりがないからな。)


最初の時点でそうなのではないかと考えていた。アズテックオスターがわざわざ自身の事を話したのは何も隠していない事と何も知り得ていない事を伝える為。


そしてルーテと名乗るエルフらしき者も余への質問を余自身の事に対してのものだった。これは自身の事について特に隠す事が無いということだ。


もし何か重大な事を隠そうとするならば何かしらのアクションを起こす。余はそれを見抜こうと質問させたが、そういった事を隠そうとした者特有の動きではなかった。


そもそも後ろにあるあの木もアズテックオスターも隠すつもりがない様子。あの魔法陣も余のような相手には何も意味を成さないどころか、寧ろ目印となっておる。


本当に隠すつもりなら余のような者に見つかってはいけない筈だ。なれば対応の仕方にやや矛盾と拙さを感じる。


つまり隠すつもりが無い。そしてこ奴らは何も知らない。もしくは…そう、今から色々と知ろうとしていたのかもしれんな。


『そなたらは余の求める情報を持っていない。ならば最早問答は不要。余はここで休ませてもらうが元々ここはそなたらの土地ではないだろう。故に許可を求めぬぞ。』


そう言い終えるとプロメアは首を下げて尻尾のように身体に沿って巻いてしまう。


『えっと…?あの、此処で?此処でお休みになる感じでしょうか?』


『何度も言わせるな。余は長旅で疲れている。』


『そう…ですか…。わ…かりました。』


ルーテは覚悟していた。これから腹の探り合いをしなければならないと。しかしどうやら腹の探り合いは終わっていたらしい。


(こちらの事情も何もかも探り終えた…?もしそうならわざわざ話す必要はありません。だって情報を私達に与えてしまうだけだから…)


つまり終わったのだ。竜の王との対話は終わり日常に戻る。しかし先程までと違うのは休息を取る竜の王が薄目でこちらを観察し続けていることだ。


「どう…しましょうか…。」


「どうしようもないだろう。受け入れるしかあるまい。アレと事を構えることは考えない方が良い。碌な結末にならん。」


「そうですよね…それしかないですよね…。」


ルーテはアズに意見を求めたが、返ってきた言葉はあまりにも仕方のない内容で、この場に居る全員が受け入れるしかないと結論付けた。


そしてこの日を境にエルフ達は超常的な隣人と共にサバイバル生活を送ることになるが、ルーテはすぐ気付くことになる。腹の探り合いはまだ終わっていないどころかこれからが本番であることを…。

前回が長かったので今回は短めです。ここで区切り良く終え、次回からは竜との共同生活?がスタートします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ