エルフ、魔法を学ぶ
RADWIMPSのShinsekaiという曲が好きです
トイレに行くと言うルーテと付き添いのアズが席を外したタイミングでエルフとダークエルフ達は円陣を組んでお互いの意見を話し合っていた。
「母様、思っていたよりも強い。多分この辺りで勝てる原生生物はあまり居ない。」
「この辺の生物が母様を害す可能性は低そうで良かった。」
「アズ様も付いているし安心。」
ダークエルフ達はルーテの身の安全について分かった事があって安心した様子だ。
ダークエルフは戦闘力を買われてこの生命の樹が生えている場所から離れることは出来なかったが、最悪ダークエルフ達がこの場を離れて狩りをしたとしてもルーテの安全について問題がなさそうだと分かったのは大きい。
「やっぱりハイエルフという種って私のようなエルフよりも魔法適性が高いんですね…」
「いや、年の功もあるだろうし悲観することないでしょ。ルーテ様が何年生きていると思っているの。」
「そうそう、まだ私達生後まだ数日だよ?これからでしょ。」
「でもあれぐらいの魔法を覚えるのに1000年掛かりましたじゃ駄目だし早く覚えないと…」
エルフ達はルーテとの実力の差を感じて不安な気持ちになっていた。どうすればあれ程の高みに登れるのか想像もつかない。
「お待たせしました。さっきの魔法について少し話しますね。」
そうこうしている内にルーテが戻って来る。これは余談にはなるがトイレはログハウスの中に作られていてそこで用を足すのだが、そもそもエルフ種は基本的にあまり排泄行為をしない種族だ。
エルフ種は植物としての特性を色濃く継いでいるので排泄行為があまり必要ではなく、食事で摂取した栄養素を無駄なく吸収出来る身体を持っている。
なので排泄物は少量で済むし菌も繁殖しない。排泄物に繁殖する程の栄養素が無いからだ。なので基本的にエルフ達は自分達の排泄物を生命の樹に吸収させる。
トイレと生命の樹は地下で繋がっていて非常に衛生的であり効率化が成されているが、逆に言うと肥料などに使えないので農業をする際は別の方法で肥料を作らなければならない。
彼女達が農業に手を出せるのはまだまだ先の話になりそうだ。
「そもそも魔法とは何か、ツイン、分かりますか?」
「は、はい。魔法とは“魔素の運用方法”のことを表しています。これらを略して“魔法”と一般的に呼ばれています。」
「正解です。」
突然ルーテに振られたツインは緊張しながらも堂々とした態度で答えを口にした。
魔法とは基本的に魔素の運用方法を略した名称であり、魔素の特性を利用して様々な運用方法を研究し、探求した学問という一面を持っている。
「なので原則として魔素を操れないと魔法は使えません。私達エルフ種の使う魔法は魔素のみを重点に置いたものなので基本的には人が魔法を行使します。ですが魔法には機械を用いた方法もあります。」
「あの、キカイ…とはなんですか?」
ミロが手を上げて機械とはなにかと質問をした。どうやらエルフの中には機械について知識を持っていないものが居るようだ。
「正直私もよく分かりません。私達の故郷にはあまりありませんでしたし、別の星から来た技術なので詳しいエルフも2〜3人ぐらいしか居なかったです。」
ルーテも機械については詳しくはない。知識として機械という存在は知っていても自身の環境に機械が不必要だったこともあり彼女も説明出来るほどの知識は有していなかった。
「なら当方が説明しよう。」
「アズ…アズは機械に詳しいのですか?」
「見た所、当方がこの中で最も詳しいだろうな。」
ルーテの代わりに授業を受け持つことになったアズはルーテの前に立ち教鞭を執るが、ルーテとはまた違った緊張感をエルフ達は感じていた。
「初めに言うが魔法と機械に大きな違いは存在しない。なので今の時代では機械と魔法はイコールで考えられている。先の大戦では機械と魔法を融合させた兵器が全艦隊に配備されていた。」
この説明を聞いてエルフ達はアズがあの大戦の生き残りであることを思い出す。そしてそれらの兵器を間近で見た数少ない存在であることを今更ながら知るのだった。
「汝らはアノン星のエルフ種だ。そこではルーテの言う通り魔法は人が行使するもので機械は介していない。これは他の星の文明と比べるとかなり遅れていると言っていい。どの星でも星の外と交流すれば嫌でも技術は流れてくるが、どうやら敢えて技術の流入を禁じているらしいな。」
「ああ〜精霊様の教えで機械は星に入れない方針だったのです。星が汚れてしまうと教えられた記憶があります。」
「まあ、そこの話は個人的に興味があるが今は一旦置いておくとしよう。話は機械についてだな。先の言う通り機械と魔法に違いはない。…そうだな、少しあの水汲みの装置で説明しようか。」
アズは昨日ルーテが拵えた水浴び場に設置された水汲みの装置を指差し、そこで説明をすると皆を誘導する。
「これは魔法で地下水から水を汲んでいるが、どういった方法で行なっているか分かるか?」
アズはダークエルフ達にではなくエルフ達に問いかけた。エルフ達は未だにアズについてどういう接し方をすれば良いか分かっておらず、代表としてリタがその問いに答えることになる。
「ええっと、魔素をこの線に流せばそこの口から水が出てきます。昨日ルーテ様がそうしていたのを見ました。」
水浴び場には水を汲む装置が付いている。水汲みポンプのような構造だが、このポンプには手押しで汲むような機構は備わっておらず、ポンプの頂点から真下にかけて赤い線が引いてあるだけだった。
しかもポンプといってもレンガで造られているので全体的に角張っていて、ポンプというよりも湯船に取り付けられた湯口といった方が近いかもしれない。
「そうだな。この線は昨日汝らが狩ってきた生き物の血だ。魔素を必要とする生き物の血は良く魔素を通す。そうしなければ身体中に魔素を循環させられないからな。」
魔法を行使するのに触媒を使用することがあるが、その触媒として魔素を有した生き物を使用することが多い。
「しかし血は血だ。そのものに魔素は無い。だから魔素はこちらで用意する必要がある。このようにな。」
アズは赤い線に触れて魔素を流す。すると下向きに取り付けられた口から水が出てきてレンガで囲まれた水汲み場に貯まっていった。
「魔素が通しやすい物、通しにくい物がある。これは前者だ。なのでこうして装置として使える。原理としては気圧を利用して水を引き上げているのだ。」
「あの、気圧を利用するということは風の魔法を利用しているのですか?」
アザが魔素を通すことでどうして水が汲み上がるのか、詳細な情報を質問する。
「血を持ってきてくれた時に魔素を利用していただろう?魔素は水を通さないように出来る。そして空気もだ。この水汲みの口は細い管として地下まで伸びていて地下水と繋がっている。そして魔素を流すと管の周りにある空洞の体積が減り地下水が逃げ場を求めて上まで水が上がってくる仕組みだ。」
「はあーそういう仕組みなんですね。気圧で上げてるんですね〜。」
「そうだな。そして当方が伝えたい事はこれらは機械でも同じ様な仕組みをしているというとこだ。もし機械なら電気を通しやすい物を利用して電気を流し、気圧を利用して水を汲み上げる。」
「あ、電気を流しやすいものが私達で言うところの触媒なんですね。」
「正解だリタ。機械は電気を流し、魔法は魔素を流す。そしてその仕組みも目的も似通っている。なので魔法で機械を操れるし、機械で魔法を行使出来る。」
「だから大きな違いは無いんですね…。」
エルフ達は感心したような声を出して魔法について知恵を付けていく。
(皆さん頭が柔らかいですね…私は機械と魔法を同じ様に捉えられないですよ。)
そしてこの中でルーテだけがアズの説明についてあまり理解していないような様子だった。恐らくは長い人生の中で機械をよく知らずにずっと生きてきた弊害と思われる。
「そして次の話だ。この装置の仕組みは単純なものだが、複雑なものでも機械と魔法に大きな違いはない。今度は上を見てみろ。」
アズは真上を指さして説明を続けていく。
「エルフである汝らにはアレが見えるか?」
「…ルーテ様の施した魔法陣ですよね?完全にはありませんが見えます。」
エルフ達は目を凝らして頭上に存在する魔法陣を見つける。ルーテがこの星で最初に行使した魔法である阻害魔法は上から見れば魔法陣として認識することが出来ないが下から見れば魔法陣として認識することが出来る。
しかし目を凝らさなければ魔法陣があるとは気付かない程にとても薄く細い魔法陣だった。
「あれは正に複雑な魔法だ。あの水汲みの装置には線が一本のみだったがあれは1000を超える線で複雑に絡み合い作用し合っている。」
魔法陣は一見すると丸い円の中に文字やら図形などが描かれているように見えるが、全てが左右対称にあるわけでもなく、外側の円すら途中途中で途切れていたり内側や外側に線が出っ張っていたりと法則性が見られない。
「ルーテよ、アレはどれ程の時間を要して創り出した?」
「え?あれぐらいならすぐに創り出せますよ。実際ここに来てすぐにあの阻害魔法を張りましたし。」
「「「「え!?」」」」
エルフ達は驚いた。ルーテはあれ程の魔法陣をすぐに創り出せるというのだ。どう考えてもあれ程の魔法を行使するのには様々な触媒、そして魔素が必要になる。
なのにルーテが単独の時にあの魔法を行使したのだ。驚かない筈がない。あのダークエルフ姉妹達でも驚いている。
「母様はパターンを覚えているの?」
「それとも魔法陣を元々用意していた?」
「まさかとは思うけど即興で創ったの?」
「え?あれぐらいの魔法陣を覚えていないとかあり得ないですよ。それにあれぐらいの魔法陣を用意する理由がありません。用意する方が大変ですもん。あとルーズの言う通り即興で創りました。余裕があったら見直そうかなと思いますけど今も機能しているので今のところは放置ですかね。」
ルーテは何でもないように答えて更にエルフ達を驚かせた。
「あの、私からするとあれぐらいの魔法陣はすぐに創れないと逆にやばいんですよ。私達ハイエルフは精霊様から魔法についてかなり仕込まれていますからね。精霊様は私達ハイエルフにはとても厳しく魔法について教授なされたのです。」
遠い目をして語るルーテは過去を思い出す。
「精霊様はいつもお優しいのですが、魔法についてだけは厳しかったのです。特にハイエルフはエルフ達を導く為と言ってすっっっごく厳しかったんですよ!本当に厳しくて泣く娘達が居たほどです!私もめちゃ泣かされました!」
「ふむ…その辺りの話は聞きたいが、ルーテの精神衛生上よろしくはないと考慮して今は聞かない。本題に戻ろう。」
「はい…そうしてもらえると助かります。ずっと昔のことなのに未だに詳細が思い出せるんですよ。…うぅ、頭が…」
「それ以上は話さなくてよい。」
アズが心配そうにルーテの肩を抱き現実に引き戻そうと画策するが、ルーテのトラウマはかなりのもので中々戻っては来ない。
「ルーテ様がこうなる程の厳しさって…」
「でもそのお陰でルーテ様は魔法がとても上手いのですね。」
「メーテもあれぐらい魔法が上手くなりたい。」
子供達がガヤガヤとした頃にルーテがようやく現実に戻って来た。
「ふう〜…今はこの子達のことが第1優先。過去は忘れんだルーテ。あの頃のことは忘れる…忘れる、忘れる!」
「当方なら記憶を奪えるぞ?調整が利かず大切な記憶も消えるかもしれないが。」
「止めてください!記憶喪失は身体を変えても引き継がれる場合があるんですよ!」
「そうなのか?本当に興味深い生態をしているな汝らは。」
「興味があるからといって記憶を奪わないでくださいよ!」
アズとルーテがイチャイチャしていると子供達の視線に気付き、居心地の悪さを覚えてすぐに授業を再開させる。
「ごほん!…ではここからは私もやりましょうか。私は機械について詳しくはないですが魔法についてはある程度語れます。先ずは魔法陣の仕組みを話しましょうか。」
ルーテは手のひらサイズの魔法陣を構築して創り出すとその魔法陣を使って説明を始める。
「これは頭上にある魔法陣と同じものです。」
「わあ…ルーテ様の手が見えなくなりました。」
ミロの言う通り魔法陣を上から見るとルーテの手が見えなくなり、魔法陣にはただの地面が映し出されていた。
「魔素は様々な性質があります。こうやって光を屈折させたり電波の干渉を防いだりですね。あとは魔素を飛ばして生き物の脳に干渉したりして認識を阻害したりも可能です。この魔法陣はこの3つの効果を宿しているのですよ。」
「…知識としては知っていますが、理屈としては理解出来ないです。どうやって魔素がそのような性質?を持たせられるのか想像もつきません。」
「まだリタ達には難しい話だったかもしれません。…アズは機械でこのような性質を持たせることは出来るのですか?」
ルーテはエルフ達が自分よりも機械について理解を示していた事を思い出し、アズに機械でも同じ事が可能か聞いてみた。
「可能だ。光も電波も人の脳に干渉することも出来る。魔法で出来ることは機械でも出来ると覚えてほしい。」
「そうなのですね。でも機械ってそもそも機械そのものを作らないとなんですよね?しかも複雑な機械って個人ひとりでは作れないと教わりましたよ。だから精霊様は私達には必要無いって、個人で魔法を使えるんだから機械は結局使うことが無いと…」
「確かにそうだ。しかし機械は機械で造れるようになる。しかも大量にだ。一度技術的革新を得れば後は時間と資源があればいい。そこは魔法とは違う。魔法は個人の能力で決まるが機械は文明で決まるものだ。」
「機械で機械をつくる…?なんか矛盾していませんか?魔法を創る魔法を創るって話ですよね?それなら最初から創りたい魔法を創ればいいだけの話で、機械も最初から欲しい機械をみんなで造ればいいじゃないですか。」
「…ルーテは本当に機械について知識のみしか知らないのだな。魔法を使えない、魔法が存在しない文明を知らないとこういった考え方が生まれるのか。興味深い。」
「勝手に納得しないでください!」
ルーテは頬を膨らませてさらなる説明を要求した。
「ならドラゴンと兵器で例えよう。ドラゴンは存在自体が兵器と言っていい。だからドラゴンは武器を作ったり兵器を開発したり組み立てたりはしない。自己鍛錬した方が強くなれるからな。そこは分かるな?」
「そりゃあ自前の魔法や息吹で充分ですもん。ドラゴンの中には一息で星ひとつを燃やし尽くせる個体が居ますから。」
「そうだな。ではドラゴン以外ならどうだ?もしルーテがドラゴンと対抗しようとしたらどうする?」
「え?そりゃあ死にますよ。勝てるわけありません。だって竜種ですよ?私達の星にもドラゴンは居ましたが接敵すれば死が確定するほどの実力差がありました。なのでドラゴンは精霊様か、ハイエルフ全員で対応したりしていました。」
「それでもひとりで戦わなければならない時、ルーテは自前の魔法のみで対抗しようと考えるか?…そうだな、では条件を設けよう。ドラゴンと戦うのは1年後だ。そうした場合、ルーテは1年を使って自己鍛錬をするのか?」
エルフ達は興味深そうにふたりの話を聞いていた。エルフはこういった話が好きなのだ。特に考える内容の話は大好きで、長い時間を使って一つのことを考えたりする。
これは長い寿命を持つ種族によく見られる傾向で、一つの事に対して長い時間を費やしても寿命的問題が起こらない種族だからこその嗜好であった。
「…私ひとりでドラゴンと戦うんですよね?それならドラゴンに対抗出来る魔法を開発するか、武器を造ります。私が少し強くなっても実力差は埋まりませんから。」
「そうだろうな。それしかあるまい。そこで魔法が使えない種族で考えてほしい。もし魔法が使えない種族がドラゴンと戦う際どうすると思う?」
「…機械を造ると思います。それでドラゴンに対抗出来る兵器を開発するのではありませんか?」
「そうだな。その通りだ。そこで先程だが汝が言った言葉を思い出して欲しい。機械を造る機械を造る…これを汝は矛盾していると言ったな。今はこの発言に対してどう思う?」
「…必要ならば、機械を造る機械を造るのもありだとは思います。」
不本意ながら…といった具合の答えだったが、ルーテはようやく機械について、機械を造る意味について理解が及んでいた。
「ルーテよ、魔法は個人の能力だ。そして個人が死ねばそのチカラは失ってしまう。しかしルーテのような長寿の種族ならば個人の能力も種全体の能力として常にカウントしてもいいだろう。だが魔法というステータスが無い種族は種の持つ能力を文明や機械といった物でカウントすることが当たり前だ。」
「だから機械を造れる技術として技術を造る機械を造るんですね…。そうすれば元々の機械を造れた人が亡くなっても種族としての力は損なわれない。」
「その通りだ。分かっているではないか。そこが魔法と機械の差だが、今となってはその差も曖昧となっている。現代においてはどの文明もその両方を研究、開発をしているからな。…ドラゴンや、当方のような存在に対抗する為に。」
話はそこに帰結する。恐ろしい事にどのような種族、文明であっても話はドラゴンのような種族に対抗出来るかどうかの一点に帰結するのだ。
そしてルーテ達の目の前に立っているアズがその終結になる。どの種族も魔法と機械を使って兵器を開発していた。この世界にはドラゴンという超常的な存在が確かに存在しているのだから。
この世界ではある日突然宇宙からドラゴンが現れる事は特に珍しくない。ドラゴンという種は単体で宇宙間を移動出来る生き物だ。
そして脅威は別にドラゴン達だけではない。別の世界から神や魔王が現れてからはこの世界は物騒になった。
皆がそれらの脅威に対抗する為に技術を身に付けて別の星々で情報を交換し合い技術は流通していった。全ては生存する為の行動であり当たり前の事だったのだ。
「先の大戦では神をも滅ぼす兵器が使われていた。当方はその兵器を食らったから分かるがアレは矛盾したものでも無駄なものでもない。確かに必要なものだったと当方は考えている。」
今やダークエルフとしての印象が強いアズだが、あの大戦では確かな脅威として全種族から恐れられていた。そしてアズテックオスターという存在が居たからこそ技術は洗練されていき、魔法を使えない種族が神をも滅ぼせるようになった経緯がある。
「…なんか、今日はみんなに教えるつもりが、逆に私が教えられましたね。」
「いつもこちらが教えられているから気にする事はない。寧ろ当方はこういった話しか汝らにしてあげられなくて申し訳ない。血なまぐさい話だった。」
「そ、そんなことないですよ…!」
この世界で生まれたからには知っておかなければならない内容だった。この世界は自分達の住む星以外にも生物は存在し、しかも他の世界からも侵略者が現れる。
どうやっても血なまぐさい話は避けることは出来ない。特にアズテックオスターと共に歩むなら必ずだ。
「…本題から大分逸れてしまっていたな。この話は終わりにしよう。」
「そう…ですね。あまり子供達には関係の無い話でした。もうあんな大戦はないでしょうし、神も魔王も滅びたんですよね?」
「前半の部分は肯定するが、後半の神と魔王については断言出来ない。当方は最後まで奴らが滅びたかどうかは確認していないからな。…だが、当方の同士達の攻撃を受けて生き残っているとは考えにくい為、滅びたと考えていいだろう。」
アズは生き残るように同士達から見送られた過去がある。その為に最終的に同士達がどうなったのかは分からない。しかしあの攻撃はアズテックオスターですら滅ぼしてしまうものだった。それは間違いないことだ。
そしてそんな攻撃を受けて神と魔王が生き残っている筈もない。それにもし仮にだが生き残っていたとしてもアズひとりでどうにかなる話だとアズは考えていた。
何故ならここに居るアズテックオスターは、敗北した事も傷を負ったこともない。
一度も負けを知らなければ脅威となる存在に出くわしたことも無いのだ。
だがそんなアズでも予想をしていない事態というものがある。
アズテックオスターは間違いなく世界最強ではあるが、万能でも完璧でもない。それは普段の生活を見れば分かることだろう。
そしてルーテはか弱い存在だ。確かに魔法は使えるし知識もある。エルフ種を導く者としては最高の逸材だろう。
しかしだ、それはこの宇宙全体とすれば大したものではない。例えこの星の中では上位に入る実力があるとしても、アズテックオスターという存在が居ることから分かる通りルーテは宇宙全体で見れば非常に弱い存在なのだ。
だからこそ、ルーテの種族は滅びかけた。そしてアズのようの強い種族でも絶滅の危機に陥っている。
その事をもう少しこの時点で考えるべきだった。彼女達がこうして子ども達に勉強を教える事よりもやる事があった。
この星の菌類が脅威かもしれないとか、機械がどういうものなかとか、そういった話よりも先ず冷静に考え行動に移すべきだった。
そもそも彼女達がどういった存在で、どういった立場なのかをもう一度良く理解すべきであった。
彼女達は別の惑星から来た外来種だ。これがどういう事なのかエルフ達は分かっていない。ハイエルフのルーテもダークエルフのアズも分かっていなかった。
しかしそれもしょうがない事なのかもしれない。彼女達はこうして母星を離れて別の惑星に移住する事が初めてのことだ。だからこそ彼女達は見落としていた。
この宇宙には宇宙間を移動し、様々な星を燃やし尽くす種族が確かに存在することを。
そしてそんな存在がこの星に来る可能性もあると、アズとルーテは一番最初に教えるべきだったのだ。
やっとここまで書き切れました。次回から本編?的な話が始まります。お楽しみに。




