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エルフが倫理観の崩壊した世界で繁栄を目指します!  作者: アナログラビット
星に流れ着く
19/98

エルフ、教育を受ける

KEIの走れという曲が好きです

「さて、先ずは皆さんの名前を登録するところから始めます!」


朝の7時から始まったルーテの魔法教室にはエルフ達だけではなくダークエルフ達も参加しており全員参加という形で進んでいた。


「あ〜確かに私達って名前を登録していなかったですね。」


「なんでだっけ?…あ、そっか…」


ツインは思い出す。姉妹の中でとある問題を抱える2名のせいで名前の登録自体そのものが流れていたことに。


「ツイン…思い出さなくていいんだよ?辛い過去は忘れたほうがいい。」


「リタ…うん、忘れる。忘れられるように頑張るよ。」


リタとツインとの絆が更に深まる。


「なんか嫌な感じよね?」


「ねえー?」


そしてアザとミロの絆も深まっていく。


「ゴホン、ええっと、まあ色々とあったとは思いますけど今回登録する名前は愛称とします。その方が混乱しなくていいですから。」


これからもエルフ達が増えていくことを考えると本名と愛称が乖離したものだと混乱を招くことになる。ルーテはそういった表向きの理由を挙げることでこの問題を有耶無耶にしようと画策していた。


「…どうしても愛称じゃないと駄目ですか?」


「駄目…とは言いませんが、逆に聞かせてください。貴方のアザという愛称、自分の姉妹から付けてもらった名前は嫌ですか?」


「それは…」


卑怯な聞き方だとルーテは自覚していた。しかし姉妹から貰った名前は大事にすることは彼女の故郷では常識だったのだ。エルフ達は知らないだろうが故郷では名前は人生で唯一残るものという認識がある。


エルフは長寿だ。しかし時間が経つと身体は劣化し、エルフ種であってもいつかは朽ち果てて新たな身体に移り変わらなければならない。身体は一生ものではないのだ。


そして当たり前だが物も時間と共に朽ち果ててしまう。いくら大切に扱おうとも数百、数千の時の流れの前では形状を保つことは不可能だ。


しかし名前だけは変わらない。名前だけはいくら時間が経とうとも姿も形も変わらず、その者にとっては唯一のものになる。


「私はその名前がとても大切なものになると思いますよ。時間と共にもしかしたら貴方たち姉妹も形が変わってあまり関わらなくなるかもしれません。しかし名前と共に残った思い出が残ります。貴方の名前を呼んでくれた人達のことを貴方はいつか思い出す時が来ます。」


「ルーテ様…」


アザは別にこの愛称が嫌なわけじゃない。嫌なのは自分で考えた名前を否定されていることだ。しかも姉妹達に否定されたことが嫌なのだ。


「あの…アザは別にアザという名前が嫌じゃないんです。私もミロという名前はもう呼び慣れて馴染みましたけど、やっぱり元の名前を否定されている気がして…」


ミロはアザの気持ちが痛いほど理解していた。しかし同時にルーテの言い分にも理解を示していた。これからの事を考えるならばこの愛称のままで行くしかないことも彼女は分かっていたのだ。


だがこれは感情の問題。理屈だけで進めていいものではない。


「…アザ、ミロ、私がふたりにした事は酷いことだったと今では思う。だからごめんなさい。ふたりのことを悪く言ったり軽んじる発言を姉妹にしてしまった。本当にごめん。」


リタが謝罪の言葉を口にする。するとツインも申し訳なさそうに謝罪の気持ちを口にし始めた。


「私もごめんなさい。あまりに軽率にふたりを傷付けてしまったわ。ごめんね…私も自分の名前を貶されたら傷付くわ。だってみんなが付けてくれた名前だもの。」


「リタ…ツイン…。」


まさかリタとツインが謝るとは思わなかったアザは困惑した気持ちになっていた。恐らくはミロも似たような心境だろう。


「ううん、悪いのは意固地になってる私達なの。ごめんね。今の名前は嫌じゃないんだよ。そこは分かってほしい。」


「ミロ…ありがとう。私絶対に後悔させないから。その名前にしたことをいつか誇りに思えるように私頑張るから。」


「いや、頑張るのは私達のほうだから。そうだよねミロ?」


「うん、そうだよね。みんなから付けてもらった名前に相応しいように頑張るよ。」


これにて4人のわだかまりが無くなった。非常にナイーブな問題が早期的に解決したことは喜ばしいことだ。その証拠にダークエルフ達が喜びのあまり涙を流していた。


「感動…姉妹愛、良い…」


「メーテの妹達尊い…」


「クーデ達とは大違い…」


ルーテは無表情で泣き続けるダークエルフ達を見て思っていたよりも感受性が高い子達なんだなと感想を抱く。


見た目からは分かりづらいがダークエルフ達は外向的でエルフ種特有のコミュニケーション能力の高さを有しているようで、そこはアズと似なくて本当に良かったとルーテはひとりで安堵していた。


「えっと、じゃあ改めまして名前の登録をしましょうか。皆さん、生命の樹まで…」


「あ、母様。それならルーズにやらせて。試したいことがある。」


少し目を離したらダークエルフ達は涙を拭き終えていつもの様子に戻っていた。その変わり身の速さに驚きつつもルーテはルーズに任せることにする。


大抵こういう場合にダークエルフ達が何かをしようとした時はダークエルフに任せた方が良い方向へと進むことを理解した判断だった。


「みんなタブレットに触れて。」


ルーズはフードに収納していたタブレットを取り出して触れるように指示を出す。


「すっかりそこが収納スペースになってますね…」


エルフ達はちょっとだけ羨ましそうにしながらタブレットに指先を乗せて触れるが、4人ともどれだけの面積を触れれば良いか勝手が分からず、ルーズの反応を待つ。


「うーん…良し、行けた。」


ルーズがそう言うとたちまちにエルフ達の服に文字の紋章が刻まれていく。


「「「「おおおおおー!」」」」


エルフはタブレットから手を離して自身の服の裾などを掴んで見せ合いっこを始める。どうやら生命の樹に触れずとも名前の登録を完了させたらしく、ルーテは興味深そうにルーズのもとへ歩いて行く。


「へえ…なるほど、解析が進むとそんなことまで出来るんですね〜。」


「タブレットと生命の樹は廻廊で繋がってるからそれを利用して情報のやり取りをしたの。褒めて母様。」


「良く出来ました。よーしよし。良い子ですねルーズは。あ、勿論ふたりも良い子ですよ〜。メーテもクーデもよしよしよしー!」


ルーテはダークエルフ達の頭を順番に撫で回していった。恐らくルーズだけを撫でていたらまた争いが生まれてしまっていただろう。ここはルーテの危機管理能力の勝利である。


「因みにだが当方も出来るが?」


「え、何を言っているんですか。アズは何もしていないでしょう?」


何故かアズも撫でられようとルーテのもとに来るが、ルーテは華麗にスルーをして授業に入ることにした。それが賢い生き方というものだ。


「では、魔法についていくつかレクチャーをします。」


「「「「「「「「わーい。」」」」」」」」


エルフとダークエルフが嬉しそうにルーテの前ではしゃぐが、アズは必要が無いということでひとり寂しくルーテの斜め後方で待機している。


というより下手に魔法を使って星が砕けましたでは洒落にならないので力を完璧にコントロール出来るまでルーテが魔法は禁止させているのだ。


「先ずはそうですね…実戦的、なものを優先的に教えていきますか。今は基礎の基礎を教える時間はありませんからね。そうすると…取り敢えずリタ、あそこに立ってもらえますか?」


「あ、はい!あそこですね!」


エルフ達の長女枠として捉えているリタを使って実戦的な内容をレクチャーしようとするルーテ。そして流石に淋しそうにしているアズを放置するのもどうかと考えたルーテはアズにも手伝わせることを決める。


「アズ、リタの立っている位置から延長線上に丸太を一本立ててくれませんか?」


「承知した。」


アズがいつもよりもほんのちょっとではあるが素早い挙動で丸太を一本、地面に突き立ててくれました。わざわざ伐採して樹皮を剥いだ物を使わなくても良かったですが、張り切ってくれているようなのでお礼を言ってまた待機してもらいます。


なので両手いっぱいに丸太を抱えなくてもいいんですよ。あの一本で十分です。エルフ達びっくりしてるでしょ。抱えている丸太の長さが10メートルもあるんですから。突き立てた丸太も5メートルぐらいは地表に出ているんですよ。恐怖ですよ恐怖。


「じゃあリタ、基礎的な操作が出来るか見せてもらいます。今わたしが立っている場所からあの丸太の延長線上にリタが立っていますよね?」


「はい。大体ですが、ルーテ様とあの丸太の間、その中間地点に私が立っています。」


「では今から私が魔法をあの丸太まで放つのでリタは自身の魔素を使って魔法を感知してください。あ、勿論リタは少し離れていてくださいね。あくまで魔素を使って感知してください。」


「分かっ…りました!」


リタは返事をしながら言われた内容を理解して数歩分延長線上から逸れて自身の魔素を放出した。放出したといっても拡散させたわけではなく障害物のように固体化させて延長線上に停滞させた形だ。


するとルーテの視点ではリタの魔素が邪魔になり丸太を直視することが出来ない。しかし直視出来ないといってもエルフ達の魔素は硝子のように透明なので透けて向こう側は見えている形だ。


「ほ〜優秀ですねー。もう魔素をそこまで自在に放出させて操作出来るなんて凄いですよ。生まれて数日でそのレベルにいける子は少なかった筈です。…親が優秀だからですかね。えへへ。」


ルーテは自分の子供が優秀であることが嬉しくなり頬を弛ませる。だが親の影響で子供が優秀になることはエルフ種では起こらないのだ。


あくまでエルフ達の個人差は本当に個人差でしかなく、親の影響、しいては親の遺伝は子供に何も関係がない。彼女達はそういう生態なのだ。種族としての特性は引き継がれるが、その個体が優秀なのかどうかは生まれてみないと分からない。


なのでルーテが優秀なのかどうかはさておき、リタが優秀なのは別に親であるルーテとは何も関係がない。


そしてそのことを一応は知ってはいるルーテだったが、親バカというものは自分の都合のよい事ばかりを選択して辻褄を合わせる生き物。しかもそのことを指摘出来る者も居ないとなるとルーテの独擅場になるのは仕方がないことだった。


「あの!魔素の範囲はどうしたらいいでしょうか!」


「そうですね…人ひとり分の面積をカバー出来ればいいです。イメージは自分の身体を包める程度で固めるってところですかね。」


リタは言う通りに人ひとりがすっぽり入れそうな大きさに魔素を固めた。見た目は硝子の彫刻といったところだろうか。魔素が硬質化していて触れればすぐに魔法を感知することが出来るだろう。


「では行きますよー!」


ルーテは右手の人差し指を立ててくるりと回すとその後すぐに丸太が()()()()、そして丸太の破片が地面に落ちた頃にリタはようやくルーテが魔法を行使した事に気付いた。


「え?あの、ルーテ様、魔法…使ったのですよね?」


「使いましたしリタの魔素にも触れましたよ。」


「え!?それはあり得ないですよ!何も感じなかったです!」


リタは心底驚いた様子で絶対に自分の魔素に魔法が触れたような感触は無かったと言う。そして少し離れた場所で見ていた姉妹達も魔法を視認出来ておらず、何故あそこに立っている丸太の一部が切れたのか分からずにいた。


「…お姉様達はお分かりになりましたか?」


ツインがダークエルフ達にルーテの魔法を認識出来たか質問をするが、ダークエルフ達は自信が無さそうにして丸太のもとへと向かって行った。


「多分だけど…凄く小さな規模の魔法だったと思う。」


「うん、メーテ達の視力でなんとか見えたぐらい。」


「でもどんな魔法か分からない。」


ダークエルフ達を先頭にエルフ達が追従してぞろぞろと突き立てた丸太のもとへと集まる。そしてその光景を見ていたルーテは両手を組んでニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「ふっふっふっ、さてさてあの子達には分かるかな?」


「楽しそうだな。」


「今のアズほどではありませんよ。その丸太を下ろしてから近づいてきてください。存在感が凄いです。」


「失礼した。」


アズは言われた通りに両腕で持っていた丸太を下ろしてルーテの隣まで近付いた。


「正直、驚いた。魔法というよりもあれは魔素の操作と言うべき代物だったが精度が素晴らしい。」


「アズテックオスターに褒められるなんて思いもしませんでした。悪い気がしません。」


「しかし今のあの子達にあれ程の精度を求めるのは酷な気がするが…」


「酷なのは大人達がこの程度だろうと子供達の上限値を押し付けて我々が自己満足に浸ることです。」


そう、子供の可能性を否定してはいけない。なまじ経験がある我々は大体という勝手な定義を計算してしまう。そして生きる上でその大体という予想が有益に働く場合が多いことを我々は()()で知っている。


だから私達のような経験を積んだ者達は可能性を狭めてしまう。これからあの子達が積んでいく筈の失敗を無駄な事だと決めつけて未来への道を我々が手前勝手に整備し、我々が成し遂げれなかった未知という目的地を消してしまうのだ。


「駄目なんですよ。決めつけるのは。まだ生まれたばかりの身に加えてまだまだ続いていく彼女達の人生を考慮すれば教育期間を長く取らないといけないんです。早く育つ必要はありません。私達には他種族に比べて時間があります。上限値を決めるのは数千年後でも遅くないでしょう。」


「しかし現状だと当方達にはそこまでの時間は許されていない。ルーテよ、汝らは不死ではない。いつかリソースを食い潰し永遠の終わりを迎えてしまう。」


「そこは我々の問題です。子供達が背負う問題では無いんです。」


ルーテは真剣な面持ちでアズの方へ振り向く。いつもニコニコして笑みを浮かべているか、または腹痛に苦しんで苦悶の表情を浮かべている彼女にはらしくないその表情は正に全てのエルフ種を束ねるハイエルフそのものを象徴しているようだった。


「しかしエルフ達には狩りに行ってもらいますし、時には責任感を感じさせることもあります。ですが我々だけが安全圏に居てしかも全責任を子供達に背負わせることは絶対にあってはなりません。」


「…森へ入るつもりか?」


アズの表情はいつもの無表情ではなく険しく、そして厳しいものだった。人によっては威嚇のように感じるだろう。しかしルーテには自分を心配しているように感じていた。


「場合によってはそうなります。ですがそれは最終手段です。この星の菌類をある程度調査し終えてからでないと皆に迷惑をかけてしまいます。…あの子達はみんな、とても優しいですから。」


もし森へと入り自分に何かあれば子供達が責任を感じてしまうのは火を見るよりも明らかだ。だから私はここであの子達の可能性を信じ、教育していかなければなりません。


「…ルーテの中で答えが決まっているのなら当方は口を出さない。その方が上手くいくと汝の判断を信じている。」


「なら、その期待に応えなければなりませんね。」


正面を向く頃にはいつもの表情に戻っていたルーテは子供達に声をかけて授業を再開させる。


「切断面を見て何か分かりましたか?」


「凄い斬れ味の刃物で斬った感じでした。」


「あと物凄く刃が薄い刃物のように感じた。」


「はいはい!あと丸太が切れる音が全然していなかったので重い物がぶつかった訳では無さそうでした!」


エルフ達とダークエルフ達が挙手をして入り乱れて意見を言うものだからルーテは収集がつかなくなると思い実際に体験したリタに意見を聞くことにした。


「リタは気付かなかったのですよね。その原因は分かりますか?」


「いえ…魔法がぶつかれば魔素があの丸太のように切れてもおかしくありません。ですが私の魔素は何も傷がなく、損傷した所が無いので…」


顎に手を当てて考え込むリタを見てルーテはすぐに答えを言うのは止めようと考え、もう一度体験させることで自身で答えを導き出せるように指導していこうと決める。


「リタ、もう一度やりましょう。次は私がタイミングを口にします。」


「それなら分かる…とは思います。」


先ほどは不意打ち気味のタイミングだった。実戦的な魔法となると基本的に不意打ちで攻撃魔法を放つのが定石だが、今回は攻撃のタイミングを伝える事で魔法の探知のスキル向上を目指していく算段だ。


「じゃあ行きますよー!いちにのさんっ…!」


再びルーテは人差し指をくるりと回して魔法を行使した。今回はかなり集中して魔覚に全神経を向けるリタだったが…


「なんでっ!?」


結果は先ほどと同じくルーテの魔法が丸太を切断して破片が飛んだ。かなり早い速度の攻撃ではあるが、そうなるとリタの魔素になんらかの反応や挙動があってもおかしくない。


丸太を切り飛ばす程の魔法がリタの魔素に触れても何も起こらない理由、リタは勿論その場に居たエルフ達もこの魔法のカラクリが分からずにいた。


(このまま続けても分からないでしょうね。ならここでやり方を変えてみましょうか。)


「リタ、魔素は硬質化させていますが、どれ程の硬度で固めてますか?」


「私の身体と同じぐらいです。硬質化させたといっても今の私では金属や岩のように硬くは出来ませんから。」


そう言ってリタは魔素を生き物のように動かしてみせた。この事から硝子のように見えても実際にはある程度の柔らかさを持った魔素という名の元素の塊であることが分かる。


「つまり実際にはスカスカということですよね。そこは分かりますか?」


「そう…なんですかね。私にはよく分かりません。水を通さない程度には密度がある筈なんですけど…」


「つまり人体と同じですね。そこを念頭に置いてもう一度やりますよ。」


ルーテは本日3度目となる魔法を行使する。しかし今回は先ほどのやり方とは異なり緩慢な構えをしていた。そして指先を回す速さも遅く、何度も何度もくるくると回している。


「では行きますよ。いちにの…さん!」


ルーテの魔法が何度も斬りつけられて高さが低くなった丸太に目掛けて飛んでいく。


「あ…()()()。」


ダークエルフ達はその魔法の正体を視認し、どういった魔法なのか理解した。しかしその魔法はあまりにもシンプルで、あまりにも緻密な操作が必要な魔法だ。ダークエルフ達には決して出来ない魔法であることは明白だった。恐らくダークエルフよりも魔法適性があるエルフ達にも難しいだろう。


「ダークエルフ達は分かりましたか。ではリタ達は分かりましたか?」


ルーテはリタの所まで歩いて行き、答え合わせを始める。どうやらエルフ達もなんとなくではあるが分かっているようだ。


「もしかしてですが…とんでもなく()()()()()()()()()()()()()?」


「正解です!3度目で分かるのは偉いですよ!」


ルーテは自身の髪の毛を一本だけ抜いてその髪の毛を操作する。髪の毛には魔素が含まれているのでこうして自由自在に操作することが出来るが、先ほどの魔法は別に髪の毛を飛ばしたわけではない。


「このぐらいの細さなら気付けますね。」


リタの操る魔素にルーテは髪の毛を突き立てる。別にお互いに痛覚は無いので痛みを感じることは無いが、リタは非常に苦しそうな表情で髪の毛の感触を感じようとしていた。


「うぐぐぅ…髪の毛一本なんて皮膚に直接当てないと分からないのに魔素で感じるのは難しいよっ…!」


魔覚は痛覚ではない。つまり痛覚よりも鈍感なのだ。髪の毛一本が自身の魔素に突き刺さっていても感じる事は難しい。何故なら魔素はスカスカだからだ。


「皮膚には痛覚を感じる箇所がありますが魔素と同じで隙間があるんですよ。なので痛覚を刺激しない細さを持つ針なら刺しても人は気付きません。先ほどの魔法は痛覚すら感じさせない細さに硬質化させた魔素を飛ばす魔法になります。」


今度は自身の人差し指から魔素を放出してみせるが、至近距離で見ても瞬きをすれば見失ってしまうほどに細い。


こんなに繊細な操作はハイエルフであるルーテにしか出来ない神業のような精度だった。


「こんなの分からないよ!」


「ていうかなんで針のような魔素で切れるの?」


「それはメーテも思っていた。母様、どうやって針で丸太を斬るの?」


「そんなの簡単です。ちょっと付いてきてください。」


皆で丸太を囲むように立つとルーテが人差し指の先端に魔素を集めて硬質化させていく。するとまるで魔素が宝石のように輝き、職人が仕上げたような美しいナイフが指先から生えていた。


「綺麗…ルーテ様の魔素ってこんなに綺麗なんですね。」


あまりの美しさに見惚れる者が現れるほどにルーテの魔素は他の魔素とは一線を画すものだった。


「ハイエルフはみんなこんな感じでしたので初めて言われました。ありがとうございます。」


ルーテはお礼を言い、指先から生やした魔素のナイフで丸太に斬りつける。そのあまりにも呆気なく、ついでとばかりに指を振るったのでエルフ達は反応が遅れた。


しかし結果として丸太は真っ二つに切断され、先ほどと同じく木の破片が地面に転がる。


「これ便利なんですよね。料理に使うとまな板も切断してしまうので斬れ味の調整がいるんですけど、肉や骨を切断してバラすのに使えるのでエルフ達には使えるようになってほしいんですよ。」


ルーテは更に魔素を操作してナイフの針のような細さに形状を変える。


「結局は刃物が触れる箇所はこの刃の刃先だけなので、刃先だけを魔素で作ればこうして…」


そして今度は針のような細さの魔素で丸太に斬りつけると先ほどと同様に丸太が切断された。


これは別にルーテが刃物の扱いが上手いわけではない。ただ単純にこの刃の鋭利さが凄まじいだけだ。ルーテ本人は戦闘行為そのものを不得手としている。


しかし、これまでの事を鑑みるに間違いなくルーテはハイエルフとして、そして種の存続を任された者として求められる最低限の戦闘力を有した人物であることは疑いようがない事実だった。

実はルーテはひとりで森の中に入っても大丈夫なだけの戦闘力を有しています。アズなどのダークエルフ達と比べたらそりゃあクソ雑魚ナメクジなんですが、人の頭を簡単に吹き飛ばせるだけの火力はあります。

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