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エルフが倫理観の崩壊した世界で繁栄を目指します!  作者: アナログラビット
星に流れ着く
17/98

エルフ、持ち帰る

supercellの時間列車という曲が好きです

木の陰に隠れたことで標的の姿が見えなくなったが、生き物特有の気配を感じなくなった事で仕留めたと感じたエルフ達は素早く木から降りて標的に向かって駆け出し始める。


その表情は喜びを隠しきれておらず、口元に笑みを浮かべていた。だが勝利の雄叫びを口にする者は居なかった。


その代わりにエルフ達は各々の思いを口にし始める。


「矢が貫通したせいで標的の位置を見失ってしまったわ。」


「うん、一人は矢の返しを大きくして体内に留まるようにしたほうがいいかも。」


「もしくは急所を狙って即死を狙うのもアリだよ。」


「初めての標的の急所は分からないからこれから色々と調べて覚えていこう。」


口から出たのは以外にも喜びの言葉ではなく反省の言葉だった。しかしやはり喜びを隠し切れないのか全体的に早口で若干声が上ずってしまっている。


その事に気付いていたエルフ達は確かな喜びと達成感を姉妹同士で共有出来ていたことに満足感を覚えた。


そして獲物の下まで辿り着くとその大きさに少したじろぐが、個々でやるべきことを分担して獲物の後処理を始める。


先ず最初にアザが一人だけで矢を回収しに行くが、自身の身体から離れると例え自身の魔素でも動かす事が難しくなる特性があり、身体から離れた魔素は基本的にはそのまま空中に霧散してしまう。


しかし今回は押し固めて固体化されていたので空中に霧散することなく地面や木に突き刺さっていた。


そして残りの3人は先ず獲物の血抜きから始めようとするが、これは血を捨てるためではなく寧ろ回収する為であり、血は貴重な栄養源でしかも魔素を含んでいることもあって魔法の触媒にも使えた。一滴も無駄には出来ない。


なので傷口から垂れる血を受け止める為にミロが自身の魔素を手に集めて袋状に変質させた。魔素は矢のように硬くも出来るが元々液状化させていた事もあって袋のように柔らかく固体化させることも出来る。


見た目は透明な袋だ。そこにミロを息を吹き込むと空気が抜けるような音がしないことから密閉性が高い事が分かり、これを使って血を受け止める事が出来そうだった。


そして矢を回収してきたアザが各々の矢をエルフ達に配り終えるとエルフ達は魔素の矢を()()()()()()()()()


魔素を呼吸などで吸収出来るエルフはこうして体外に排出した魔素を体内に吸収する事ができ、こうすることで魔素の無駄が無くなり何度も矢を作り直すことが可能となる。


「アザ、こっち持ち上げて。私はこっち持ち上げるから。」


「分かったよ。」


リタとアザのふたりが自身よりも大きくて重い獲物の身体を持ち上げる為にブーストを使い、自身の両手を獲物と地面の間に差し込みそのまま持ち上げようと力を入れた。


すると簡単に胴体部分が持ち上がり、ツインとミロのふたりが持ち上がった胴体部分の下に潜り込み作業に取り掛かる。


「じゃあ…行くよ。」


ツインが獲物の傷口に手を近づけて魔素を送り込み血管に残った血を押し出し始める。すると傷口から垂れていた血の量と勢いが増し血抜き作業が高速化された。


「うわあ…これ私の魔素の量で受け止め切れるかな。」


ミロは自身の魔素で形成した袋の半分まで貯まった血の量を見て袋のサイズを変更させようとするが、魔素の密度を落とさずに大きさを変えるのは至難の業で中々上手くいかない。


因みにだが、こうしてエルフ達が急いで作業をしている理由として血の匂いに釣られた他の生物を警戒してのもので、ここでどれだけ素早く作業を行えるかによって自分達の生存率が変わってくる為に皆が真剣に取り組んでいる。


「…毛細血管までは難しいな。勢いをつけると血管が破れて内出血させちゃう…」


ツインは自身の魔素から伝わってくる感覚頼りに獲物の身体中に張り巡らされた血管内に魔素を注入し続けた。エルフには魔覚と呼ばれる五感に似た感覚を有しているので視覚で見なくともどこまで魔素を伸ばしているのかを知覚している。


しかし繊細で脆く、しかも幾重にも枝分かれする血管に魔素を送り込み、尚且つ本来の目的である血を押し込んで血抜きをするという複雑な動作を初見で出来てしまうのは彼女に魔法の素養が無ければ成し得ないことだった。


「ツイン凄い…私にはこんな繊細な魔素の操作出来ないよ。」


リタはツインが操る魔素の精度に驚きを隠せないようで周囲の警戒を忘れて見入ってしまっていた。他のエルフも同様にツインの才能を見て関心を向けている。


「褒めてもこれ以上早くはできないよ…。」


目を瞑り魔素から伝わる感覚に集中しているツインは額に汗を浮かべながら返事を返す。これだけの操作をしながらでも返事が出来る余裕があることにリタ達は更に驚いた。


そして自分の二回りは大きいであろう生物の血管全てに魔素を注入しきったツインは最後の一滴を絞り出す。


「…終わった。もうカラカラな筈よ。」


「撤収!」


リタの合図で撤収作業へと移るエルフ達。もうここに長居する理由が無いので素早く拠点へと戻らなければならない。


死んだ生き物を持って森の中を散策するほどエルフ達の神経は図太くも阿呆でもないからだ。


「私の魔素でサポートするから最低でもふたりは力を貸して。」


ツインは獲物である原生生物の血管内全てに自身の魔素を満たしている。なのでその魔素を操作すれば推定80kgはあるであろう生物を持ち上げることは可能だ。


だが持ち上げることは出来ても素早く動かすことは今の状態では難しい。ツインの魔素はもう彼女自身から離れて獲物の体内にある。つまりツインと魔素は分離された状態だ。身体から離れた魔素を操作する事は並大抵のことではなく、非常に高い魔法適性が必要になる。


その点、ツインはその素養があった。だが初めての試みである事と、ろくに訓練もしていない事も相まって勝手が分からない。教えてもらった事が無いのにこうして分離した魔素を操作出来ている時点でかなり凄いことなのだ。


「じゃあリタが先導してて。私とミロで運ぶから。」


アザが獲物の身体を支えるように持ちミロも片手だけを使って持ち上げることにした。ミロは血の貯まった魔素の袋で片手が塞がってるのでこうするしかないが、まだまだ余裕が見られる。


「私から離れないようにしてね!」


リタは探知魔法を使いながら先導をし、他の3人は獲物を抱えて走り出した。来た道を戻るだけの道中だが、彼女達にとってはこの行為そのものが未知の領域で、今のところはただの一度も成功したことが無い。


その為か皆の表情は硬く、動きには焦りが見えた。しかしその足取りには不安さを感じさせないものがあり、走りづらい筈の地形であっても滑るように木々の間を走り抜けていく。


そして皆が最悪の場合を想定していつでも戦闘へ移行出来るように臨戦態勢に入っていたが、彼女達の思惑とは裏腹に森の中は平穏そのもので木の枝を伝う小動物や手のひらサイズの虫しか見られない。


しかしそれでも警戒を緩めることはなかった。


自分達の成果で種全体の持つリソースが変わってくる。その事実を強く認識していたエルフ達は必死そのもので、早くあの場所へと考えて足を動かし続けた。


そして…遂に走り始めて30分が経った時、空気中の魔素の量が少なくなったエリアまで辿り着く。


この星には空気中に魔素が含まれていて濃度が重力や様々な要因によってその濃さは変わるものの地表においてはそこまでの差は出てこない。


なら何故魔素が少ない領域があるのか。それは彼女達を生んだ生命の樹が空気中の魔素を吸い続けているからだ。


つまり…遂に彼女達は辿り着いた。アズテックオスターが降り立った影響で周辺の木々が消し飛んだのか、不自然に広く拓けた場所にぽつんと立つ一本の生命の樹(がいらいしゅ)


そこには彼女達の帰りを待つ家族が出迎えに出てくれていた。


「おかえり。」


「待ってたよ。」


「無事で本当に良かった。」


わざわざ出迎えをしてくれていたダークエルフ達。エルフ達は姉たちの顔を見てようやく安堵して、肩の力を抜く。


「た、ただいま戻りました。」


「「「お疲れ様でした。」」」


まだ朝といえる時間帯だったが、ひと仕事を終えた彼女達に対して適した表現を使ったダークエルフ達はエルフ達の持つ獲物を受け取ろうとした。しかし…


「私達が直接ルーテ様に見せます。」


そう言って拒否する妹達を可愛く思い、差し伸べた手を引っ込める。


「あの〜…あれって何ですか?」


「それにもう二階が出来てるし…」


「あと木も伐採しました?」


「それにルーテ様もアズ様も見当たらない…」


リタ達がリラックス状態に入ったことである異変に気付いた。ここを出る前には無かったはずの()が空いていた。そしてログハウスの二階部分も完成していて生命の樹の周りには伐採された木々が積まれている。


たった1時間程度であまりにも変化していた自分達の住処にエルフ達はツッコミを入れざるを得ない。


エルフ達が拠点としてるこの広場は木々が生えていない代わりに草が生い茂っていてかなり拓けた土地だ。しかし拓けているとはいってもその範囲は長細く幅はそこまで広くはない。


これは前述で語った通り直径が1キロメートルにも及ぶアズテックオスターが降り立った影響で、縦幅は1キロメートル以上あるが横幅は長いところで100メートル程しかない。


そして彼女達が拠点としているのはその範囲内の先端と呼べる場所。そこに一本だけ生命の樹が生えており、周囲の木々とは30メートルは離れている。


しかし生命の樹を真正面から見て右隣にアズテックオスターが生えているので、淋しそうに木が一本だけ生えているようには感じられない。仲良く地面から生えている。


あと2階建てのログハウスが生命の樹から50メートルほど離れた場所にぽつんと建っているが、近くに焚き火が出来るように草が刈り尽されているのでここは生活感が強いエリアになっている。


だがここまでは昨日まで見慣れていた光景だった。問題なのは生命の樹を中心に一回りぐるっと木が伐採されていた事とログハウス側の広場に人が入れそう穴が空いていた事だ。


「ログハウスの二階部分はまだ外側が出来てるだけで内装はまだだよ。」


「木々を伐採したのは生命の樹が周囲の栄養素と魔素を独占していて、いつかは枯れてしまうからその前に伐採したの。」


「あの穴はルーテ様が掘ってるの。因みにアズ様も一緒に掘ってる。」


ダークエルフ達の説明を聞いていたエルフ達は更に分からないといった具合に首を傾げた。特に最後の方は意味が分からない。


「母様が水源を見つけたんだよ。ルーズ達は食べ物からでも水分を充分に補給出来るけど。」


「飲水以外にも利用方法はいくらでもある。」


「例えば身体を洗ったりね。」


エルフ種は汗を掻く。そして老廃物も出るので清潔に保つには定期的に水浴びをする必要があるが、彼女達は元々植物から生まれた事もあって哺乳類種よりも汗の量も老廃物の量も少ない。


それに彼女達の着ている服は少量の血ならば吸収して清潔に保つ機能が付いているので汗や老廃物もある程度は吸収してくれる。


なので水浴びの為に水源を見つけたり穴を掘ったりすることはかなり奇妙な事のように聞こえた。少なくともエルフ達はそう考えた。


「じゃあ…ルーテ様はお仕事をしているんですね。」


「そうだね。だけど…」


「それならこれ、お姉様達にお渡しします。」


そう言ってエルフ達は自分達の狩った獲物をダークエルフ達に手渡す。


「…いいの?初めての狩りを報告しなくても。」


「いいんです。ルーテ様は今もお仕事をしている…。なのに私達が褒めてもらいたいって理由でその邪魔をしてしまうのは違うので。」


「そう…ならルーズ達の方で報告しておくよ。」


エルフ達が獲物とその血をダークエルフ達に手渡すと休憩もなく再び森の中へと入って行ってしまう。


「…我が妹達は働き者で。」


「…思いやりがあって。」


「…とても可愛いらしい。」


そんなエルフ達を愛おしく思いつつダークエルフ達はルーテに報告する為に穴の方へと向かっていく。


「おお〜深い。」


「魔法を使ってるから早いね。」


「母様〜妹達帰ってきたけどまた出掛けたよ〜。」


ダークエルフ達が穴を覗きつつ妹達の成果を見せつけるように持ち上げる。すると穴に入る光量が減り、深さ7メートルにも及ぶ穴の底に居たルーテとアズが頭上を見上げた。


「あ、帰ってきてたんですね。しかもそんな立派なものまで。」


「見たことのない生き物だ。初見の相手を仕留めるとは優秀だな。」


「そうでしょ〜。頑張ってたよ〜。」


エルフ達の視界を介して一部始終を見ていたダークエルフ達は妹達の武勇伝を語り始めようとしたが、ルーテがこの仕事を終えてから聞くと言ってダークエルフ達にお願いをする。


「それ、生命の樹には入れないで取っといておいてください。今晩のご飯で出します。」


「おっけっけー。」


「母様、血の方はどうする?」


「ご飯になる?」


クーデは自身の魔素で作った黒い袋の中に入った血をどうするかを聞いた。エルフ達の魔素は透明でガラスのようだがダークエルフ達の魔素は薄暗く全体的に黒い。


そんな事に気付いたルーテは少し興味深そうに見ながら血も取っておくように伝える。


「りょ〜。空気に触れないように保存しておくね。」


クーデは袋のように模った自身の魔素を操作して陶器のように固めて密閉してみせる。エルフよりも魔法適性が低いダークエルフ達だが魔素の操作は今のところはエルフよりも優れているようだ。


そしてダークエルフ達が去った後、ふたりっきりになったアズとルーテ達は作業を再開させるが、アズ作業をせずにルーテを見て疑問を口にした。


「聞こえていたんだろ。何故返事をしなかった?」


「何がですか。」


ルーテはアズの方を見ずに地中に自身の魔素を流し込み地面を掘り進めていく。この方法が最も魔素の消費が少なく音も振動も少ない。


地中に潜む原生生物のことを考えるとこの方法こそが最適解になる。


「エルフ達が帰って来た時点で分かってた筈。我々エルフ種は耳が良いからな。」


エルフ種がもつ特有な耳の形は周囲の音を聞き漏らさないように進化したものだ。例え穴の中に居たとしても距離が100メートル程しか離れていない話し声を聞き逃す筈が無かった。


「う〜ん…最初は褒めてあげたかったんですけど、彼女達が私に配慮してくれたので、私が自身の仕事を放棄するのは違うかなと。」


「…そういうものか。」


アズは興味深そうにエルフ種、強いてはルーテと子供達との関係性について言及、追求をする。


「そもそもこの穴を掘っている理由は水浴びの為だったな。当方は粘土質の土が欲しくて掘っているが。」


アズは手伝っていると言ったがほとんどがルーテの魔法によって掘り進めている。地下に流れる水源を魔法で見つけたのもルーテ、掘っているのもルーテ。アズは特に何もしていない。


だがアズがもし穴を掘ろうとすれば恐らく地脈そのものを掘り起こしてしまうだろう。力の制御が怪しいアズにはとてもではないがさせられる作業ではなかった。


なのでルーテひとりで掘り進めるのは理にかなっているとも言える…かもしれない。


「そうですね。あの子達が帰って来る前に水浴び場を作って上げたかったんですけど、思いの外早く帰って来たので少し焦りました。なので…顔を合わせづらくて会わなかったのかもしれません。」


「そういうものか。」


親としてのプライドか、それともハイエルフとしての意地か。今のアズには判断がつかなかったが、今のアズでも分かることはルーテがこうして服と靴を泥だらけにしながらも掘り進めているのはエルフ達が生きて帰って来るのを信じてのものという事だけだ。


もし今回の狩りも失敗したとしたら彼女達は恐らく死んで戻って来ることになる。そうなると彼女達は新たに生まれた姿でここに戻ることになるが、そうなれば水浴び場は必要ない。


何故なら埃一つない状態の無菌状態で生まれてくるからだ。非常に綺麗な状態で生まれてくるエルフ達に水浴び場は不要なものになる。リソースの無駄と言っていい。


しかしルーテは今日の仕事を水浴び場を作ることにした。それはエルフ達が森の中を駆け抜けて獲物を狩り、身体と服を汚して帰って来ると考えてのもので、彼女達が無事に帰って来ることを確信したものだ。


「レンガを作ったら水浴び場に使いますから早めに制作してくださいね。本当は色々と材料が必要なんですけど鉱山はまだ見つけていませんし時間が足りません。」


「石を砕いた物と混ぜ合わせてから圧縮するので問題ない。耐水性は保証する。」


アズが粘土質の土を必要としているのはレンガを作る為。このダークエルフ、完全に建築に目覚めていた。


ログハウスを途中で切り上げたのはこの為だ。ルーテが穴を掘り進めていたのを見つけたアズが興味を抱いて伐採作業を止めてしまった。それが今回の顛末である。


何も知らないエルフ達からすれば意味が分からない状況だったが、真相はアズがアズをしていただけのことだった。


「ふふ、それは楽しみです。あの子達を驚かせてみせますよ。」


「期待には応える。あの子達もこちらの期待を応えてくれるだろう。だから当方も全力でレンガ作りに励むつもりだ。」


「全力出して星を破壊…なんてことな無いようにお願いしますよ。…あ、水気が出てきました。あともう少しです。」


「ほう…露骨に土質が変わったな。面白い。当方も素手で掘ってみよう。」


そう言ってアズはしゃがみ込んで素手で掘り進めようとした。ダークエルフの腕力ならばルーテよりも早く掘り進めてしまうだろうが、その代わりに手は土で汚れてしまう。


「ちょっと、手が汚れますよ。」


「水浴び場があれば問題ないだろう?」


「…そうですけど、今日中に作り終えれるかは半々って感じなんですよ?」


「ならダークエルフ全員で取り掛かればいい。喜んで手伝ってくれる筈だ。」


アズの言い分を聞いたルーテは確かにと納得した。そしてすぐにダークエルフ達がやって来る。


「呼んだ?」


「手伝おうか?」


「おもしろそうとは思っていた。」


「私達だけで大丈夫ですので気にしないでください!こういうのは大人達の仕事なんです!」


ダークエルフ達もエルフ種、耳はとても良い。例え生命の樹が生えている場所で作業をしていてもルーテ達の会話を盗み聞きすることは容易いことだ。


「ちぇー。」

 

「つまんない。」


「早く大人になりたーい。」


「自分の仕事を途中で放棄している間は子供ですよ。」


珍しく食い下がって来るダークエルフ達にルーテは教育がてら少しだけ語ってみせる。しかし…


「つまり仕事を放棄したアズ様は。」


「子供ということになる。」


「アズ様は子供?」


相当な煽りをかますダークエルフ達にルーテは頭痛を覚えた。なまじ知能が高いダークエルフと口論したところで勝てるビジョンが思い浮かばない。


「アズはですね、アズは…ですね、アズ…は…、そう、特別なんですよ。」


「特別とは。」


「子供おばさん?」


「子供おじさん?」


「それは流石に失礼ですよっ!ねえアズ!?」


一応は女性個体であるアズにこどおじ発言はいただけない。しかし当の本人は…


「少し待っててくれ。今良いところだ。もう少しで水源に辿り着く。」


「…子供でした。ルーズ、メーテ、クーデ、アズは3人と同じ子供です。」


「ごめんなさい。」


「誰も幸せにはならない議論だった。」


「もうこの話はしない。」


そう言い残しダークエルフ達は悲しそうな表情で戻って行く。ルーテはダークエルフ達と同じ様に悲しそうな表情でアズのことを見ていた。


「…楽しいですか?」


「非常に楽しい。やはり手があるというのは創造性を大きく刺激する。」


「うん…楽しそうで私も嬉しいです。」


なんでも珍しいとばかりにダークエルフ人生を楽しむアズを見て、ルーテはもしかしたら子育てが必要なのはアズただ一人だけなんじゃないかと気付く。


いや、この表現は正しくない。気付くのではなく、気付いてしまう。これが最も正しい表現だ。


(私…一生アズの面倒を見ることになるんでしょうか。)


一番手のかかるのがアズである現状を憂いつつ、もうエルフ達は心配しなくても良さそうだなと考え直すことでどうにか心の平穏を取り戻したルーテは穴を掘り進める。


でないとあとどれぐらいの時間、こうしてアズとふたりきりでこの狭い空間に居ないといけないのか。早く終わらなければこうしている時間がどんどん増えていってしまう。


だから私は急ぐ。その事実にも気付いてしまったから…。

この物語は大体200話で終わらせる予定でいますが、前作も同じ事を言って実際には600話以上掛かった過去があります。


もし前作と似たような話数になると完結に何年掛かるか分かりません。なのでもう少し投稿頻度を上げるか1話当たりの文字数を増やそうかなと考えています。


もしくはもうちょっとテンポを上げたりとかね。話の展開はもう決まっているので調整は利くと思います。


しかしこの話もそうなんですが伏線を張りまくってるので中々思うように話が進んでくれません。これが楽しくて書いてる部分もあるのでしょうがないのかな?

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