エルフ、準備を終える
Molly Daisy ScarpineのExtrasという曲が好きです
ダークエルフ達の作り出した弓はエルフ達の体躯を鑑みて小さな弓だった。これなら取り回しが良くて作るのも容易だ。
しかし小さいということは威力も小さいということ。何かしらの対策を講じなければ武器として少々心許ない。
「ひとりひとつずつね。」
「どれも同じだから。」
「喧嘩しないでね。」
「「「「ありがとうございます!」」」」
取り敢えず受け取ってみると弓に必要なものが付いていない事に気付く。手渡された弓に弦が付いていなかったのだ。弓は単体だけでは何も意味がない。弦があって初めて弓は引くことが出来る。
「あの、弦はどうしたら…」
「魔素を使って。」
「弦を作る。」
「もしくは自分達の…待って、こういうパターン知らない。ひとりじゃ説明しきれないよ。」
ダークエルフ達のいつものを披露するが今回はまた捻りを利かした別パターン。エルフ達は気遣った笑みを浮かべて反応に困っていた。
「みんな自分の髪を。」
「3本か4本。」
「抜いてみて。」
エルフ達は言われた通り髪を抜こうと髪留めを外し始める。そうすると見た目が全く同じになり区別がつかなくなるが、ダークエルフ達には区別がついていた。
「どうする?」
「説明を?」
「一人ひとり個別でいいよ。」
3人で一緒に説明をすると時間がかかり、エルフ達の行動時間を減らしてしまう。もう朝日は昇りつつあり焚き火の光が無くても薄暗さを感じない時間帯になってきた。
「エルフの髪は動物性タンパク質と植物繊維の要素を持っているから弦に向いてるの。」
植物から生まれたエルフ種の髪は植物繊維のようにコシがあって引張力が強く弾性に優れるが、動物性タンパク質を含んでいてツヤもある。
そういった2つの要素の良いところ取りをしているのでエルフの髪は弦としての性能が非常に高い。
「髪の毛を編み込んで弦を作って。一本よりも数本で編み込んだ方が強度と使い勝手が良くなる。」
言われた通りに数本の髪を縄を作るように編み込み始めるエルフ達。その手際は初めてとは思えない程に手早くダークエルフ達を唸らせた。
「やっぱりエルフ種は器用だね。ダークエルフはそこまで手先が器用じゃないから上手く髪型のアレンジが出来ない。」
ダークエルフの言う通り彼女達の髪型はエルフ達と違い3人共にただ髪を下ろしてるだけでエルフらしくない髪型をしている。
「…やりましょうか?」
リタはエルフ達の中でも手際が良く、自身の髪を編み込み終えてからダークエルフ達に髪の毛を弄ろうかと提案した。
「いいの?」
「いいの?」
「いいの?」
「いいですよ…?お礼も兼ねてですし。みんなも終わったら手伝って。」
リタ以外のエルフ達も編み込みを終えるとダークエルフ達の髪を弄り始める。
「うわあ〜私達と髪質が違うー。なんだろうこれ。髪の毛っていうよりも…?」
「うん、毛じゃないね。なんだろう…良い表現が思い付かない。」
「硬いんだけど靭やかでさ、でも軽いんだよね。」
「癖っ毛じゃなくて直毛だから纏めるの難しいよ。」
エルフ達は手持ちの道具では纏めきれない事に気付くと自身の髪を編み込んだ弦を使ってダークエルフ達の髪の毛を纏め始める。
「それ弓に使うやつ。」
「気にしないでください。まだまだ私達の髪の毛はありますし、寧ろ私達の髪の毛でごめんなさい。森の中に入って髪留めになりそうな素材を見つけてきますね。」
「ううん。これでいい。ありがとう。」
ダークエルフ達は目を瞑りエルフ達のやりたいようにやらせ、自分がどのような髪型になるのか期待に胸を膨らませながらその時を待った。
そして出来上がったとエルフ達に言われ目を開けると…
「おおおおおおお。」
「ルーズもクーデも可愛い。」
「クーデのどうなってる?ルーズとメーテみたいに可愛い?」
3人共に気に入ったのかお互いの髪型を褒め合う。そしてその光景を見たエルフ達は満足げに胸を張っていた。
ルーズの髪型はリタと似ていて髪の毛を後ろに流して1つに纏めたものだったが、纏めた位置は首の下辺りからで、そこから金の縄で何周か巻いたような纏め方をしていた。
そうすることでリタとは違った雰囲気になり、少し大人のような印象を生み出すことに成功している。
しかし髪の毛全てを後ろに纏めてる訳ではなく軽く耳に掛けたりなどサイドにもある程度の髪の毛があってそこも他のエルフとは違う髪型になっていて非常に可愛いらしい出来になっていた。
これにはルーズもご満悦で軽く手で触って状態を確認し、自分でも出来るように髪型を覚えようと確かめる。
「メーテの髪型難しそう。出来るようになるかな。」
メーテの髪型はトップとサイドの髪を纏めて後ろに流し、二層に別けてポニーテールを作る髪型でルーズよりも難易度が高そうである。
しかしその甲斐もありエルフ特有の耳が良く見えることで一番エルフらしい髪型をしていた。しかもまだまだアレンジの余地があり、ここに髪留めとして櫛やバレッタ、又はリボンで纏めても良い。
首元も正面からはすっきりして見えるので首飾りや耳飾りも映えるだろう。この髪型はツインとアザの合作であり力作である。
「クーデのはその日の気分で変えられそう。」
クーデの髪型は左サイドに髪を纏めてあるが、髪質と毛量、そして髪の長さ的に全ての髪をひとつに纏め上げるのは不可能だったのでワンサイドヘアで纏めていた。
右サイドはおでこと耳を出すように耳に髪を掛けて後ろに流し、逆に左サイドは前髪とサイドの髪でおでこと耳を隠すように紐で纏めていてアシンメトリーを意識した髪型になっている。
これはサイドテールにしているミロのアイデアで、クーデとしては妹とお揃いのような髪型で満足そうに髪に触れていた。
「一生。」
「この髪型で。」
「生きていく。」
この髪型を崩さないと誓い合ったダークエルフ達はもし死んでもこの髪型で生まれ直せないか検討を始める。
「あはは、ちょっとそれはどうかな?とは思いますけど気に入ってもらって良かったです。」
「良く似合ってますよお姉様方。」
「またやりますのでいつでも申し付けてください。」
「定期的に変えるのも面白いと思いますよ。」
この間にも再び自身の髪の毛で弦を編み込むエルフ達。もはや手元を見なくても編み込めるようになっていてエルフ達の手先の器用さが遺憾なく発揮されていた。
そして弦を編み終えると早速弓に取り付け始める。予め弦の両端に作っていた輪っかの片方を弓の先端に取り付けると弓を地面に置き、体重をかけてしならせ弦を取り付けた。
この工程を説明なく出来る辺り知識として知っているだけではなく狩猟を続けてきた種としての資質も関係がありそうだ。
「みんなの髪の長さを考慮して弓のサイズを決めたけど。」
「丁度良さそう。」
「あ、ごめん。髪を弄ってて聞いてなかった。」
いつものを披露し終えたダークエルフ達は弓の運用方法について説明を始める。
「矢はそこら辺の木の枝を加工してもいいけど。」
「魔素を使えば。」
「簡単に作れる。」
魔素で時計を作れるのならもっと単純な構造をしている矢を作ることは時計よりも容易い。例え魔法をまだ上手く使えないエルフ達でも少し練習すれば作ることが出来るだろう。
「…魔素を使ってもいいんですか?」
リタの質問は先程の説明会で聞かされた自分達が保有しているリソースには限度があり、いずれ生命の樹が枯れてしまうという内容を鑑みたものだった。
矢を魔素で生み出すことはリソースの無駄遣いになるのではないかという質問にダークエルフ達は…
「これが無駄遣いなんて。」
「あり得ない。」
「狩猟にリソースは割くもの。」
ダークエルフ達が言うにはそこでケチって魔素を温存してもそこで原生生物達に食われたらそれこそリソースの無駄遣いになるというもので、エルフ達はなるほどと納得した。
自分達が死ねば生命の樹が自動的に生み直し、そこで栄養素もエネルギーも魔素も消費することになる。なら木の枝で作った脆い矢よりも大木さえも持ち上げられる魔素を使った矢を作った方が自分達の生存率を上げられるだろう。
「こうやるのかな…?」
魔素袋に意識を向けて魔素を取り出して押し固め始めるエルフたち。魔素は木や石といった物質と同じで形があり、普段エルフ達は魔素を胸の袋の中に液状にして保存している。
これは水などと同じで分子の配列を変えて結合させることで気体、液体、固体に変化する特性を使っているのだが、魔素を体外に取り出す時は魔素袋から全身に繋がってる血管のような管から汗腺へと送り込むことで可能にしている。
そしてこの魔素は空気中に浮遊している魔素とは違い様々な元素と結合していて特有な性質を保有していた。
そもそも魔素は物質なので他の物質と結合する特性がある。エルフ達は体内に魔素を取り込むと自分達にとって使いやすいように分解、結合を行なう。そしてそれらの魔素はエルフの身体の一部になり感覚まで生み出される。
この魔素を使うことでエルフ達はいわゆる“魔法”というものを使うのだが、魔素が物質という特性がある以上は押し固めればそれは形状を持つことになる。
そうすることで時計や矢などの物に変えられるのだが、勿論こういった使い方以外にもルーテが空に放った結界などといった高度な運用方法も存在する。しかし今のエルフ達にはそこまでの高度な運用方法は使えない。
「…これでいいですか?」
エルフ達は無事に魔素を使って矢を生み出した。矢はガラスのような透明で、透き通っていて一種の工芸品のような美しさがあった。
ダークエルフ達の時計は黒くて透明度は皆無だったこともあり、両者の魔素は全くの別モノであるとエルフ達は自分達の矢を見て気付く。
「強度は十分。」
「軽くて使いやすそう。」
「先端も矢尻で出来てて良いね。」
知識として矢の形を知っていることもあり実践的な造りをしていて問題は無さそうだ。
「あとこれは魔素を使ってるから。」
「探索魔法にも応用が利く。」
「勿論ほかの魔法にもね。」
魔素を使ってるのでこの矢を遠くまで放てば魔素の保有主は自身の感覚を遠くまで飛ばしていることになるので探索範囲が格段に広くなる。
それから例えば魔素を使って炎を生み出す魔法を使えば火の矢に変わり威力を増すことが可能。
エルフ種はこういった運用方法を発達させて食物連鎖の頂点になった歴史を持っている。
「何から何までありがとうございます。」
そして全ての説明を聞き終えたエルフ達はお礼を口にし弓を担いで森の方へと歩いていく。もう太陽は顔を出しており、しかも真上には衛星があって太陽光を反射させているのか一気に空が明るくなっていた。
どうやらこの星は衛星の位置によって日中の明るさが変わるらしく、昨日ではこういった事象が観測されていないので周期はかなり複雑そうである。
「…時間だけじゃ日が上っている状態が分からないかも。」
リタはこの星がエルフの母星であった常識が通じないことを念頭に置いて森に入ろうとした。でないとまた昨日のようになる。
もしからしたら夜の時間になっても今日は明るいままなのかもしれない。だが夜行性の生き物は例え空が明るくても活発化し始める可能性はある。この星の生態系は未だに未知な部分が大多数を占めている。
「またモニターしてるから。」
「記録は大事。」
「いつか見直して昔を懐かしむ時が来る。」
生後数日の姉妹の会話とは思えない内容だったが、緊張をほぐすには丁度いい。そんな気遣いを感じる送り出しにエルフ達は笑顔で答えて森の中に入って行った。
そして彼女達の姿が見えなくなったと同時に、もはや小屋とは言えない建物からルーテとアズが出てくる。
「はあ〜はあ…おはようございます。」
ルーテはかなり眠そうにしながらも陽の光に当たる面積を増やす為に手を横に伸ばしながらキョロキョロと辺りを見回す。
「あれ?エルフ達は?トイレですか?」
どうやらエルフ達を探しているらしくルーテはトイレの小屋の方へと向かうが、ダークエルフ達がそんなルーテを呼び止める。
「おはようございます母様。」
「みんなはもう起きて。」
「森に出掛けたよ。」
「え?そうなんですか…随分と早起きさんですね。」
ルーテはもうエルフ達が居ないと教えられ、もう少し早く起きれば良かったなと後悔する。
「母様昨日よりも早いね。」
「結構無理して起きた?」
「ハイエルフはまだ寝てる時間だよ?」
ハイエルフが朝に弱い事は知識として知っている。だからこそ何故この時間に起きたのか不思議な気持ちを抱いた。
もしかしたらこの星の独特な環境が影響した結果かと考えているとルーテが早起きした理由を口にする。
「いえ、エルフ達に今日は魔法を教えようかなと考えていたんです。昨日は悔しそうにしていたので私に何か出来ないかなと考えていたんですが…どうやらみんなが私の代わりをしてくれたみたいですね。ありがとうございます。」
ルーテはダークエルフ達の後ろにある地面に転がっていた材木から大体のことは察していた。この崩れ方は弓を作る魔法による特徴だとルーテは知っていたのだ。
「なら当方に言えば早く起こしたものを。彼女達が起きた時には当方はもう起きていたぞ。」
「ごめんなさい。こういうのは自分でやらないとなんですよ。私はあの子達の親ですから。」
ルーテの気遣いを聞いたダークエルフ達はルーテのことを誤解していたと気付く。
ハイエルフという種族…というよりもルーテという人物はもっと共感性が無いんだとダークエルフ達は思っていた。何故なら昨日の会話からではそういった印象を受けてもおかしくないからだ。
エルフ達が死んでもなんてことないように受け止めていた彼女だったが、こうして無理をして早起きしたのもエルフ達の為で、しかもどうやら昨日の内に毛皮の処理を終わらせようと魔素を消費して魔法を使ったのも今日一日はエルフ達に時間を使う為だったらしい。
弱肉強食が当たり前な時代にこのような価値観を有した生き物が生き残った事と、そんな存在が自分達の親であることにダークエルフ達は言葉には言い表せない想いを抱いた。
「母様。」
「母様。」
「母様母様。」
そしてそんな気持ちを表現するためにルーテの周りをぐるぐると回り始めるダークエルフ達に、ルーテは朝からこれは止めて欲しいなと肩を下ろす。
「はいはい。母はここに居ますよ〜。なんならアズも居ますよ〜。」
「当方は二階の続きをするのでルーテに任せる。」
「ちょっと余生をエンジョイし過ぎですよ!アズ達と戦争していた人達が知ったら卒倒しますから!アズテックオスターがド田舎の星でログハウスを建ててるとか想像もしていないでしょうね!」
そんなツッコミを受けてもアズは黙々と作業を始めた。最早この星で一番生き生きとしているといっても過言ではない。
どうやら相当ダークエルフとしての生活が楽しいらしく、ルーテのことはもう放置気味である。好奇心と知的欲求が強いアズらしいといえばアズらしくはあるが、少しだけ気に食わないルーテはちびっ子ダークエルフ達と過ごすことで気を紛らわせようと考えた。
「今日は私と一緒に過ごしましょうか。あ!魔法とか教えられますよ!」
「あ、大丈夫だよ。」
「やることいっぱい。」
「時間が出来たら教えて母様。」
そう言い残してダークエルフ達はいつものフォーメーションを解いて生命の樹の方へと歩いて行ってしまう。
「…あれ?もしかして私…いらない?」
気付いてはいけないことに気付いたルーテはまだこの星に降りてきて3日間にして手持ち無沙汰になってしまった。
(お、落ち着くのですルーテ!)
アズが衣食住の住を担当し、エルフ達は衣食住の食を担当している。ルーズ達も忙しそうにしているので多分エルフ達のお手伝いをしているのでしょう。
なら私は衣食住の衣を担当すればいいのですが今のところやることがありません。だって温暖な気候で服があまり必要がないんですもん。しかも元々私達には服がありますしね。
それに毛皮も栄養素とエネルギーを蓄えています。今は生命の樹に与えたほうがいいでしょう。
「毛皮…昨日頑張って仕上げたんだけどな…。」
次回は再び森の中へエルフ達が入っていって狩りをします。
そして出来ればこの舞台?というかこの星の生態系について深堀りしていければなと考えています。




