エルフ、賢くなる
REOLの宵々古今という曲が好きです
ルーズの説明、解説によりエルフ達はこの星での“時間”を理解した。生まれて間もない彼女達では日暮れも分からない状態だったが、ルーズのおかげで退くタイミングを覚えたことはかなりの進展であろう。
「その時計は魔法で作られたものだから特殊な使い方が出来るよ。その時計を利き手じゃないほうの手のひらに置いてみて。」
説明を聞いたエルフ達はルーズの言う通りに利き手ではないほうの手のひらに時計を置いてみるが、これが特殊な使い方なのだろうかと疑問を抱いた。
しかしその疑問はすぐに解決することになる。
「じゃあ空いたほうの手でその時計を押し込んでみて。」
「「「「押し込む?」」」」
「こうやって押し込むの。」
ルーズはタブレットを持っていないほうの手で押し込む動作をしてみせる。だが別にエルフ達はその意味を分かっていない訳では無い。そんなことをして何になるのかと疑問を口にしたのだ。
「こ、こうですか?」
とりあえずリタが率先して手のひらサイズの時計を手と手で挟むようにして押し込んでみる。すると時計が手のひらに押し込まれたではないか。
「うわっ!?時計が手のひらに沈んだんですけど!?」
時計は間違いなく固形で厚みがあるのだが、リタの手のひらには時計がタトューのように肌の表面上に映し出されていた。
しかも秒針が動き、今も時間を表しているではないか。
つまり間違いなく先程までに手のひらにあった時計で間違いなさそうだった。
「ルーズ達はアズテックオスターという特性を色濃く継いでいるからこういう風に情報を模様として変換出来るんだよ。」
そう言ってルーズは自身の腕をエルフ達に見せる。ダークエルフはアズテックオスターのように体表に独特な模様が浮かんでおり、この模様が接触し合うと情報のやり取りをすることが出来るという特殊な特性を持っている。
ダークエルフ達が手にしているタブレットも手のひらにある模様を通じて情報のやり取りをしているので、ダークエルフ達にとってはこれが普通という認識だ。
「ダークエルフは魔法の適性がエルフよりも低いから得意分野で魔法を行使してみた。エルフが服に情報を模様として付ける特性をエルフの肌に応用した感じだね。」
エルフ達が着ている服に使われている魔法とダークエルフの肌に浮かんでいる模様の特性を上手く組み合わせた魔法がリタの手のひらに浮かんだ時計という訳だった。
「みんなもやってみて。」
ルーズが促すと他のエルフ達も時計を押し込んで模様として情報を変換させた。確かにこれは便利な魔法だと皆が気付く。これなら荷物にならないし無くしたりもしない。
しかも時計もこの模様も魔素を殆ど有していないのでこの魔素を感知される心配も殆ど無いだろう。利便性が非常に高い魔法と言える。
「うんうん。拒絶反応もないね。違和感はない?」
「無いです。」
「でもまだ慣れない…。」
「違和感じゃなくて不思議な感じです。」
「うん、ちょっとまだ驚きがあって、ね…?」
4人とも自分の腕…というより肌に動く時計があることに慣れないのか、少し気にしたような面持ちだ。
「多分時間が経てば気にしなくなるよ。」
ルーズは時間の問題だと言ってドヤ顔をする。これは時計にかけたジョークだったが、不評のようでエルフ達からの反応がない。
ルーズは少し落ち込んでから説明を再開した。
「…利き手のほうの指で時計に触れてみて。人差し指と中指の2本でこうスライドさせることが出来る。」
タブレットに人差し指と中指で触れてスライドさせるとルースーくんが連動して画面を縦横無尽に動き出す。
因みにその間もルースーくんは3コマ程度の動きを見せていてかなり哀愁を誘う。
そしてこれも因みになるが、ルースーくんが時計について説明をしないのはそのボイスが作られていないからだ。まさかルーズもエルフ達にここまでウケるとは思っていなかったので心のなかでは後悔していて次回は大増量でお届けするつもりである。
まあ今回は時計を作る時間を確保するのが最優先の為に例えウケると確信していても編集する時間が無かったので、結局はルースーくんが時計について説明をする事は難しかっただろう。
「おお…!凄いです!」
ルーズの言う通りに2本の指で時計に触れると時計が動き、手のひらから手首にまで移動した。これなら手を開かなくても時間を見ることが出来て非常に便利である。
しかもこの時計にはある特性があった。
「あっ、この時計どう動かしても文字盤が変わらないよ!」
ミロがその特性に気付く。時計をどう動かしても上下の位置は変わらない。つまり時間を示す文字盤が常にエルフの視点を参考に自動で補正している。
分かりやすく説明すると12時の文字が常に上で6時の文字が常に下になるようになっていた。
「しかも腕を激しく動かしても大丈夫だね。」
ミロと同様にその特性に気付いていたアザが時計が付いた方の腕を上下左右に動かしてどの角度からでも補正されることを皆に伝える。
「便利でしょ。あと親指も加えて3本の指を使うと拡張したり縮小も出来るよ。」
「「「「便利〜〜。」」」」
細かい気配りも利いていてエルフ達が絶賛している中、ふたりのダークエルフ達は終始無言だった。ただじっとして説明を聞いていた。
「これにてルーズと。」
「ルースーのはなしはおわりだ。」
「「ここまできいてくれてありがとう。」」
((((ここはボイスあるんだ…))))
締めも完璧。エルフ達から惜しみない拍手が贈られる。しかし若干2名だけ…ダークエルフ達が悔しそうにして拍手をせずただ拳を握っていた。
そしてそのふたりの姿を見たルーズはいつものように無表情を浮かべていたが、その目には勝者にしか許されない驕りと愉悦が確かに写っており、両者の間で隔絶とした差と埋めることの出来ない溝が確かに生まれていた。
「次はメーテ。メーテがやる。」
挙手をしてからわざわざルーズの座っている場所へ移動するメーテ。別にその場所が説明をするのに適した場所ではないが、ルーズと同じ土俵に立ちたいという対抗意識から出た行動であった。
「せいぜい頑張りな。」
「上から物を言うな。」
ちょっとした煽り合いではあったが、瞬時に空気が張り詰め、エルフ達は息をするのも忘れてしまう。
ダークエルフという最上位の生き物が少しでも害意を外に漏らせば周りの生き物は生きた心地がしなくなると、エルフ達はこの時に初めて知ることになる。
「じゃあメーテから妹達に伝える内容は食べられないようにすることだよ。」
メーテは指を立てて順序よく説明をし始めた。
「私達のような魔素を有する生き物は大なり小なり魔素が必須。だからみんなが魔素を求めて地表を闊歩している。」
先ずは前提条件から説明するメーテ。この程度のことはエルフ達も知っているが、敢えて説明に加えることで初歩的な話だと印象付けることが出来る。
「そして魔素を有する生態系で最も特徴的なのは単独の個体で進化が可能ということ。」
魔素を有さない生態系はこの宇宙に存在する。つまり魔法が存在しない星があるということなのだが、そういった星の生態系では進化する為には途方もない時間とサイクルが必要になる。
しかし魔素が存在する生態系では単一とした種、又は単独の個体が自己進化を図り、短期間で進化することがあるのだ。
「進化するには魔素がいる。そして私達エルフはもう進化しきった種族。ここまではいいよね?」
長年生き続ける彼女達は進化を終えている。なので魔素を得ても進化することはない。でなければハイエルフとして何万年も生きているルーテは進化していないとおかしくなる。
しかし彼女はずっとハイエルフという種族でここまで来ていることからエルフ種はもう進化の余地は残されていないことが分かる。
「でもこの星の生き物達は原生生物ばかり。進化の余地は残されている種族しか居ない。そんな生態系の中で純度が高く膨大な魔素を持ったエルフ達を介入させ、しかも定期的に摂取出来るとなったら自己進化が促されてとんでもない脅威が生み出されてしまう。」
基礎の基礎の話だが、かなり特殊な状況下なのだとこの時にエルフ達は自覚した。自分達という外来種が生態系に及ぼす影響が思っていたよりも大きい事に冷や汗を流す。
「みんながキュルルと呼んだあの鳥、多分あそこで殺せず食べられたら進化していた。そうなったらもっと厄介な存在になっていただろうね。」
あれよりも厄介となったら今の自分達で対処出来るだろうか…。エルフ達はそう思い、今まで以上に真剣な面持ちでメーテの説明に耳を傾ける。
「だから食べられるのは駄目。敵が進化してここまで乗り込んで来るかもしれないから。魔素を大量に取り込んで魔素袋が出来たらここまで食べに来るよ。」
無表情で抑揚のない声であるからか、脅しではなくただの事実として話されたように感じ、エルフ達は自分達が如何に無知で愚かな事をしてきたか気付く。
「メーテの説明はここで終わり。多分クーデが補足として説明してくれるだろうし。」
「サンキューシスター。借りが出来た。」
メーテは立ち上がってクーデと席を交代した。どうやらメーテとクーデはルーズに対抗してふたりで協力し合うことにしたようだ。
「おほん。じゃあ次はクーデだよ。クーデが話すのは目的を明確にすること。」
これもメーテと同じく基礎の話のようだと、エルフ達は第一印象としてそんな感想を抱く。
「みんなはなんで森の中に入ったのか説明出来る?」
だが意外にも今回はただの説明ではなく講義のように生徒達にも発言をさせる形のようであり、急に振られたエルフ達は驚きつつもリタが代表として答えを口にする。
「それはルーテ様のご命令で…」
「うん、そうだね。でもそれで森の中に入って死んだのはどう思う?」
かなり答えづらい質問だったが、責めるような口ぶりではなく、ただの確認といった雰囲気だったのでリタは正直に答える。
「…不甲斐ないです。」
「そっか。ならみんなが死ぬことを…母様が望んだと思う?」
リタだけではなくツイン・ミロ・アザの3人が前屈みになってクーデに詰め寄ろうとした。
「それは無いです!!…あ、ごめんなさい。大きな声を出してしまって…」
「構わないよ。クーデも意地悪なことを聞いた自覚はあるから。」
そう言ってクーデはエルフ達に落ち着くように促す。
「ここではっきりさせたかった。母様とみんなの望みは違うこと。そして目的が違うことを自覚してほしかった。」
「自覚…ですか?」
ツインも会話に参加し始め、ミロもアザも続いて会話に参加しようとルーズの言葉を待つ。
「母様の目的はエルフ種の復興。そして4人の目的は自身達の地位を確立すること。これは全く別の目的で同じじゃない。」
「それは…そうですけど。」
「うん、ミロが母様の言いつけを守っていないとは思っていないよ。寧ろ叶えようと努力している。アザもミロと同じ考えかな?」
「はい…そうです。私達にとって最も大切なのはルーテ様です。ルーテ様が居なければ私達は誰一人として生まれていません。」
ルーテが最優先。これは全エルフが共通した考えだ。何故ならハイエルフが生まれることが無いからだ。恐らくだがこの宇宙にハイエルフはもうルーテしか居ない。
ルーテが居なければエルフを増やすことが出来ない。勿論だがアズが居ればダークエルフは生み出せる。しかし、ダークエルフはその余りにも強大な存在な為に外敵が生まれてしまう。
アズテックオスターという世界最強の種族がアズのみになってしまったのは他の種族にとって脅威だからだ。ダークエルフも数を増やせばいずれアズテックオスターと同じ末路を迎えてしまうだろう。
だがただのエルフならば誰も気にも留めない。つまり外敵として認定されることがない。この時代にエルフ種がまだ絶滅していないのはドラゴンのように数多くの他種族から敵として認識されないからだ。
「クーデの言いたい事は目的を混同させてはいけないことだよ。ちゃんと線引をして自分達が今なにをしなければならないのかを知ってほしい。そのためにも現状を知ることが大事。」
クーデはルーズと同じようにタブレットを使い説明を始めた。
「これを見て。このデータは現状を示すもの。生命の樹の内部に保存されているエネルギー、栄養素、魔素を表している。」
タブレットという画面に数値として視覚化出来たことはかなり大きな意味を持つ。これなら誰の目にも正しく現状を理解させることが出来る。
「そしてこれはエルフ一人分を生き返らせるのに使用される数値。今の備蓄されているエネルギー、栄養素、魔素から計算すると後208回は可能だよ。」
グラフの横にエルフ一人分にかかるコストが表示されるが、こうして具体的に説明されると自分達がただの不死の種族ではないと再認識せざるを得ない。
これは生命の樹が無ければエルフは生まれないが生命の樹だけではエルフを生み出すことは出来ないという話だ。
そんな基礎の話を彼女達は生まれて初めて聞かされた。
「そしてこれは一回の食事で消費されるコスト。クーデ達は1日に一度の食事を摂るとして計算すると143回分しかない。」
エルフ種は植物から生まれたということもあり食事は1日に一度で済むが、別に1日抜いたとしても餓死することはない。しかし栄養素とエネルギーを補給出来ないと魔素を使って生命活動を行なう為に魔法が使えなくなるという欠点を抱えている。
「それからこれが基礎の基礎、生命の樹の運用コスト。生命の樹も生きてるからクーデ達みたいにランニングコストが掛かるんだけど、生命の樹は計算によるとあと78日で枯れると分かってる。」
「たった…たったそれしか余裕が無いんですか?」
「ううん、みんなが考えているよりももっと余裕は無いよ。だってこれは別々のコストで計算してるから。」
「どういうことですか?」
エルフ達はまだ分かっていない。生きるということは途轍もなくコストが掛かることに。
「78日で枯れるというのはクーデ達が一切食事を摂らなかった場合だよ。実際は食事を摂るからもっと早く生命の樹は枯れるし、みんなが死ねばもっと余裕が無くなる。」
前にダークエルフ達が狩った分の貯蓄があるからエルフを4人も生み出すことが出来たのだ。本当ならもっとここに至るまでに時間を浪費したはずで、ルーテがもしアズと出会ってなかったら単独のサバイバルが何十日も続いていただろう。
何故なら自身と生命の樹の分のコストを賄うだけで1日を使い果たしてしまうからだ。
「現状を理解出来たかな?出来たならクーデ達の説明は終わりだよ。」
クーデはメーテと同じく無表情で抑揚のない声で説明を終えた。つまりこれも誇張された表現でも脅しでもなく純然たる事実ということを意味している。
「…理解、しました。みんなも、理解…したよね?」
表情を見れば皆が現状を理解したことが分かる。そして思っていたよりも自分達の役割がかなり大きなもので、しかも非常に重要性が高いものであることも理解出来た。
「じゃあ次の。」
「ステップへ。」
「行ってみよう。」
ダークエルフ達がいつものようにお家芸を披露してこれからの話を始める。
「また今日も森の中に入ってもらうけど。」
「流石に手ぶらじゃ他の種族に。」
「食べてくださいと言っているのも同じ。」
武器もなく狩りが出来るはずがない。一応は魔法という武器を持っているが、魔法を使って魔素を消費すればそれは同時にエルフ種の保有している魔素を減らす行ないでもある。
「低コストで。」
「大量生産が。」
「可能な武器を教えるね。」
ダークエルフ達は立ち上がってエルフ達にも立ち上がるように促すと座っていた木に手を当てて魔法を行使し始める。
「この木は弾性も。」
「強度もあって。」
「弓の素材に適してる。」
木がひとりでにボロボロに崩れ始めた。そしてボロボロになった木材をかき分けるとまるで職人の手によってに加工されたような弓が4本掘り起こされる。
これはエルフ種が作り出した魔法の一種で、ダークエルフ達は生命の樹から情報を得てこの魔法を知り、彼女達が起きてからすぐに用意したものだった。
やっとちゃんとしたサバイバルが始まりそうです。




