エルフ、反省会をする
ヨルシカのアルジャーノンという曲が好きです
これで3度目の経験、私達はまた生まれた。つまり2度死んだということ。もう自分の死で慌てることもない。たった1日で私達は私達という種族を知った。
私達は弱い。とても弱い。自分達の死因が分からないぐらいに蹂躙された。いつの間にか私達は死んでいたんだ。
「おかえりなさい。」
ルーテ様が私達を出迎えてくれた。怒られなかった。ただ無駄に生命の樹にある栄養と魔素を無駄遣いしたのに。
なんでみんな温かく出迎えてくれたのだろう。なんで何も聞かないのだろう。なんで私達は用意された食事を食べているのだろう。お腹なんて空いていない。だって体内に栄養が満タンの状態で生み出されているから。
そういえば随分と小屋が豪勢になっている。床も木の板で張られていてその上に毛皮で出来た敷物が敷かれている。おそらく敷物は魔法を使ったのだろう。じゃないとたった1日で毛皮の鞣しは終わらない。
天井も高い。しかも二階を作っている途中。…アズ様は凄い。流石はアズテックオスター、流石はダークエルフ。生まれながらにして私達とは大きく違う。
…こんなの、怒られた方がマシだった。要らないもの扱いされた方が気分が楽だった。なにが何度もチャレンジ出来るだ。なにが地位の向上だ。
もう最初から私達の地位は確立されている。できの悪い家族…それが私達の地位だ。
「今日は疲れたでしょう。もう寝ましょうか。」
眠いわけがない。だってさっき生まれたばかりだ。まだまだ活動できる体力がある。しかし夜の森は私達エルフにとって死地でしかない。だから…寝るしかない。それしか、やれることがない。
でも私達はずっと空を見ていた。二階を作る途中だから天井を見ると吹き抜けの部分があってそこから夜空が見えるのだ。
そこで夜空に一際大きな2つの星が印象に残った。どうやらこの星の周りを周回している衛星らしく1つは緑色に輝き、もう1つは赤みがかったピンク色をしている。
2つの衛星は動く速さと衛星軌道が違うらしくて2つの星がかなり距離が近くなるタイミングがあることに気付いた。しかし交わることなくすれ違っていく。
そしてそれぞれの光が雲を照らすと角度によってはただの雲が宝石のように見える。とくに緑色とピンク色のコントラストが混じった箇所はとても綺麗で、こんな景色はあの深い森の中からでは見えもしなかっただろう。
「…」
姉妹たちに何かを言おうとした。みんなもそんな気配を感じたのか私に意識を向けているのが分かる。だけど結局は何も言うことが出来ず私は無理やり目を瞑って眠りについた。
そして朝を迎えると私達はダークエルフのお姉様達の下へアドバイスを聞きに向かった。ダークエルフ達はとても朝が早い。おそらくそこまで寝る必要がないのだろう。ルーテ様が寝ると言ったから寝ただけで、ダークエルフは睡眠が私達エルフより少ない時間で平気そうだ。
因みにだがアズ様はルーテ様の隣で待機していて、そのルーテ様はまだ爆睡してて寝ている。私達エルフ種はやはり植物から生まれた種族なので日が昇らないと覚醒しない。特にハイエルフはその特性を色濃く継いでいるので私達よりも睡眠が必要だと知識で知っている。
私達みたいなただのエルフ種はハイエルフと精霊様がそんな特性を薄めて作り出した種族なのでまだ日が昇っていない早朝でも起きることが出来る…らしい。
酪農とか農業をする際にハイエルフ様達だけでは難しかったから朝に強いエルフ種を作ろうとしたのが起源らしいが、これも知識でしか知らないから確信というか自覚はない。だって私達姉妹全員ともすごく眠いから。
その点、ダークエルフは本当に同じエルフ種か疑わしいと思う程に眠そうには見えない。だってほら、ああやって私達を出迎える為に切り出した木を横に寝かせて椅子のように座り焚き木までしてる。
昨日までは無かったのに何時から起きて作業をしていたのだろう。
「待ってたよ。」
「ここ座って。」
「私の隣空いてるからここね。」
ダークエルフのお姉様達にお招き頂いたので私達は恐れながらも隣に座らせていただきましたが、どうやら私達がここに来ることを予想していたようです。
「えっと、気を使わせてしまってしまいごめんなさい。もしかしてこのために早起きをして…?」
一応エルフ種の代表?である私からダークエルフ達に謝罪を口にしたけど、もし本当に私達の為に早起きさせてしまっていたら申し訳ない。
「まあ半分はそう。」
「でも元々早起きだし。」
「100日は寝なくても平気だから。」
す、凄いですね…。寝る必要がないとは思っていましたがそこまで寝なくても平気なんですか…。はあ〜…驚きで言葉も出てきませんよ。
「でも昨日は寝てましたよね?」
「妹達が起きてる間は起きてたよ。」
「みんな寝てから寝た。」
「また森に行くんじゃないかってヒヤヒヤ。」
当たり前のように私達を心配してくださったことに私達姉妹は虚を突かれたみたい目をパチパチとさせてからお互いの顔を見合い、そして…
「「「「ご心配をおかけしました。」」」」
お礼を口にした。どうやら私達のお姉様達はかなり心配性のようだ。これ以上ご迷惑をかけるのは忍びない。
「「「いえいえ〜。」」」
やはり姉妹なのかお姉様達はとても似ている。見た目もそうだけど仕草もそっくり。私達姉妹よりもお互いがとても近い存在に見える。
「じゃあ早速本題。」
「言ってみよう。」
「だから2人で終わらせないで。」
いつものをやってから本当に本題に入るのが多分お姉様達の鉄板というやつなのだろう。もう慣れました。だから反応を待たないでください。大丈夫面白いですって。
「昨日の様子は見てたよ。」
「話も聞いてた。」
「私達は応援するよ。」
あ、そうか。昨日の様子は見られていたから話も聞かれていたのか…。ちょっとそこまで頭が回っていなかったな…。これは反省しないと。
「あの、応援ってつまり…」
私ではなくツインがおずおずと手を上げて私達が聞きたい内容を口にしてくれた。この子は他の姉妹達とは違って私寄りの感性をもったマトモな子なので個人的に一番仲良くしていきたい姉妹だ。
他の子達はね…まあ、悪意があるわけではないけどそこが逆に悪いまであるからそこそこの距離感で仲良くしていきたい。うん、悪い子達ではないけど良い子でもないからね。うん。……………うん。
リタは己に言い聞かせるように言い訳を並べた。
「そのままの意味。」
「心配しないで。」
「ここに居る者達しか聞いていないから。」
どうやらお姉様達はただの変人ではなくそういう気を利かせたり配慮も出来るらしいです。…もう私達要らないんじゃ…?
「でもルーテ様、昨日は凄く優しかったよ?」
「そうそう、だから何かで知ってたんじゃないかって…」
確かに昨日のルーテ様の反応は少し引っかかってはいたけど、お姉様達がそんなすぐにバレる嘘をつくとは考えにくい。
「昨日は…ね。」
「色々あったんだよ。」
「トラウマを抉られてね…。」
「「「「トラウマ?」」」」
私達が頭の上に?を浮かべるとお姉様達が…
「「「知らなくていい。」」」
かなり強い口調でこの話を終わらせた。でも気になるものは気になる。だってこんな反応されたら気にならないほうがおかしいもん。
エルフ達はルーテのトラウマについて様々な憶測を頭の中で思い浮かべていたが、そのトラウマの原因がまさか自分達の名前とは思いもしなかっただろう。
そしてそんな事実をダークエルフ達が妹として大事に思っているエルフ達に教えれるわけがない。この事実は墓場まで持っていく所存だった。…この種族に墓場は必要ないのだが、少なくとも本人達はそう思っていた。
「本題に戻ろう。」
「そうそう。」
「母様が起きる前に終わらせたいでしょ?」
そう言われたら引き下がるしかない。エルフ達は切り替えて本題に移ることにした。
「先ず第一に森の中での活動時間を決める。」
「第二に食べられないようにする。」
「第三に目的を明確にする。」
ルーズ・メーテ・クーデの3人は人差し指を立ててエルフ達にルールを設けた。その理由は単純、これを守らないと何も結果を出せないからだ。
「ルーズから説明するね。だからメーテとクーデは口を出さないで。」
「オッケー。」
「これフリ?」
エルフ達は「2つの文章を口に出来たの!?」と、ルーズを見て大変驚いていたが、別にただダークエルフ達が面白がってやっていた事で別に縛りなどはない。本当にただウケ狙いでやっていただけだった。
「森の中での活動時間を決める理由はエルフ種が適した時間帯があるからだよ。」
ルーズは手にしたタブレットにお手製の映像を映し出してエルフ達に説明を始めるが、画面の左下におそらくではあるがルーズ本人が自分をイラスト化したものを編集で入れているせいでエルフ達は集中して見ることが出来ずにいた。
しかもルーズのイラストは3コマ程度ではあるが動くせいで説明中でもずっと確かな存在感を出してくるのだ。エルフ達はツッコミたい気持ちを抑えるのに必死になり、もはや説明を聞くどころではなかった。
「あ、因みにこの子はマスコットのルースーちゃんです。ルースーちゃん、皆さんにご挨拶は?」
ルーズがタブレットを操作するとなんとマスコットが画面の中央に移動し始める。もうここでエルフ達は限界だった。
「みんなーおれさまのなまえはルースー。きょうはおまえたちにおれさまのかんがえたさいきょうのせんじゅつをおしえてやる。しかとききやがれー。」
なんとボイス付きである。しかも声は加工してあるが、この口調はダークエルフ達の特徴的な間延びしたもなのなのでこれもおそらくになるがルーズ本人の声であるのは間違いない。
((((なにを見せられているんだろう…))))
エルフ達は全く同じ感想を抱いていたが中々に面白そうな展開なのでツッコむのは止め、ただマスコットがこれからどう面白くなっていくのか成り行きを見守ることにした。
((((ワクワク…!!))))
見た目からは分かりづらいが彼女たちはまだ子供なのだ。こういうのを初めて見ることも相まって食い付きはかなり良い。
「「ぐぬぬぬ…」」
そしてメーテとクーデは楽しそうに見ているエルフ達を見て恨めしそうにルーズを睨み付けていた。これは「そういう手があったか!」という悔しさも相まって嫉妬だけでは片付けられない複雑な心情から出たぐぬぬぬである。
「おれたちえるふはよるのかつどうにふむきだ。なぜかわかるかるーず。」
「うーんとね、多分それは単純に死角が増えるからかな。」
「そのとーり。」
まさかの二人三脚式。エルフ達の心はバッチリと掴んでいた。そしてルーズは確かな手応えを感じてタブレットを操作していく。
「おれたちえるふはそんなに“め”はよくねえ。よるにそとにでればたちまちおそわれちまうぜ。」
「じゃあ夜の森は入っちゃ駄目だね。」
「そのとーり。」
使い回しの台詞があるがそんなこと、エルフ達にとっては些細なことである。
「この“ひょう”をみてくれー。」
3コマしかないのに頑張って表に手を当てて説明を始めるルースーくん。
「このほしの“ひので”と“ひのいり”のじかんだ。おまえらちゃーんとおぼえておけよ。ひのいりのいちじかんまえにはもりのそとにでないとしんじまうぞー。」
表は太陽の位置関係を示したもので1日のうちに何時間、太陽が上っているのか図で分かりやすく表していた。
この星の1日は24時間。今日の日の出は5時40分からで、日の入りは19時4分になっている。
「じゅうぶんひがのぼったときにもりのなかにはいればまちがいない。しかしだいじなのはどれだけかつどうにじかんをさくかだ。」
「そうだね。もしお昼に森の中に入ったとしたら夕方には森の外に出ないとだから長くても5時間程度しか活動出来ないね。」
「そのとーり。」
もうここまで擦ればネタになる。やったもん勝ちである。
「もりのなかだとたいようがみえねえー。つまりじかんかんかくがあいまいになるんだ。」
「気が付いたら夜になってたじゃ遅いもんね。」
「「「「そのとーり!」」」」
ルースーくんが言うタイミングでエルフ達が台詞を被せ始める。ルーズは嬉しさのあまりこれを恒例行事にしようと考えていた。
「じゃあどうやってじかんをはかるか。おめえたちはわかるかなー?」
「あ、そういえば時計がここにあるよ。」
ルーズはフードの中から時計を4つ取り出してみせる。用意が良過ぎて急に現実に引っ張られたエルフ達は困惑しながらも時計を手にとって実際に時間を測る練習を始めた。
「びょうしんはほそくてながいはり。ふんしんはふとくてながいはり。じしんふとくてみじかいはりだ。」
「これで時間が分かるね。」
「そのとーり。」
今回はエルフ達の返しが無くて少し寂しそうなルーズ。
「因みにこの時計はルーズが魔法で作ったから無くしたり壊しても大丈夫。」
つまりお手製である。魔法適性がエルフよりも低いダークエルフが作れる限界値がこの時計で、単純な機能しか彼女は作り出せない。しかしエルフ達が使える魔法と比べれば天と地の程の開きがある。
現状では魔素を器用に動かす程度の魔法とはいえない代物が限界であるエルフ達は、ただ純粋にルーズを尊敬の眼差しで見ていた。
そしてその様子を恨めしそうに見続けるメーテとクーデ。まだまだこの反省会は終わりそうにない。
反省会は1話でまとめるはずが楽しくなって終わりませんでした。多分次で終わります。




