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エルフが倫理観の崩壊した世界で繁栄を目指します!  作者: アナログラビット
プロローグ
1/87

前日譚

はじめましての人ははじめまして、お久しぶりの人はお久しぶりです。前作でマザコンの頭のイカれたおもしれー女を書いていた者です。


今回は予告通りハイファンタジー物のコメディ系を書きました。なので誰がなんと言おうともこの物語はコメディ系です。

この宇宙に生命が誕生した時からこの結末は決まっていたのかもしれない。生命は自身の機能を拡張する為に他者、又は同種、もしくは物質をその身に宿さなければならず、それは避けられない業とも呼べる進化の形だった。


何かを食べなければならない。空気中の元素を取り入れなければならない。そして、重力か温度が無ければ自身の形を(かたど)ることも出来ない。


つまり、どのような進化を辿ろうとも自身とは別の要素に縛られているということを意味し、単一とした生命は存在せず、常に複数の要素が周囲に存在して生命は生命を食して未来永劫、他者を害し続けてその命を募らせていくしかない。


この道理を避けることは不可能と思われていた。この宇宙(せかい)では、の条件付きに限っての話になるが。


もしも…もしもの可能性として、この宇宙に存在する法則に縛られない生命体が存在するのならば、上記で述べた道理など無視し、独自の道理の中でその命を紡いでいくことになるだろう。


ならば、この宇宙とは異なる世界から来た者なら該当するのではないだろうか。宇宙には外側など存在しないが、別次元にあるであろう世界にはその世界独自の(ことわり)と進化の道理がある筈だ。


そこでは争いがなく、他者を己に取り込む必要も無いかもしれない。つまり捕食がなく呼吸も必要のない生命体が存在する可能性がある。


そして異なる世界が複数あった場合、もしかしたら他者を取り込むように進化した世界のほうが稀である可能性もあるかもしれない。


だが、話の本題はそこではないのだ。話の本質は争い、他者を害す部分になる。


捕食も呼吸も必要なければ他者を害すことはない。普通ならそう考えるだろう。しかしそれは捕食も呼吸も必要とする世界から見たらそう考えるというだけで、それ以外の世界の者達からすればそんなことはなく、争いは当たり前のように存在する道理でしかない。


なら、どのような理由で争うか…。それはちょっとした“差異”だ。


思想の違い、価値観の違い、文化の違い、種族の違い、性別の違い…。そこから生まれる感情は、ただただ他者が邪魔という理由も加わることで暴力、迫害、侵略、殲滅といった結末(手段)へと進化する。


これらはどの世界にも存在し、アプローチの仕方でいえば平凡でありよくある他者への干渉方法のひとつだ。


そして、ここで更に話を本題へと進めようと思う。異なる世界とはいえ、どの世界にも他者を攻撃する理由に溢れているのが実状。そんな世界の住人たちが一つの世界に集結した際、一体なにが起こるのか…話はそこに帰結する。


異なる世界であっても共通の価値観を共有していた場合、起こる事象というものは…とてもではないが、他者に対して優しい事柄ではない。


そして…決して自分自身にすら優しい事柄ではないだろう。


だが、そんな世界にある者達が抗いを見せていた。決して、決して認めるわけにいかないと、その者達は一つの打開策を講じ、愚者ですら容易に想像がつくこの世界の結末を回避しようと…足掻き続けていた。


(なんじ)に最後の命令を託す。』


当方(とうほう)にか…?このような状況下で一体どのような命令を望む?』


それは他者を害すことにおいて、どのような生命体よりも優れた存在だった。そして、どのような生命よりも古くから存在し、この世界で最も進化した超自然的概念。


最早、生命体の枠を超えて概念や事象そのものになった()れ等は残り僅かな時間を使い、最後の使命を託そうとしていた。


『生存せよ。』


『命令されるものでもない。当方は命令されなくともこの戦いに…』


『この戦いは我等、陣営の敗北にて集結する。否、そうしなければならない。』


『…どういう意味だ?』


命令の意味を図れずにいたその者はこの戦いの終結について思考を行なう。しかし、答えは見えてこない。何故ならこちらの陣営の優勢が傾くことはないだろうと予想していたからだ。


しかし、どうやら話はそんな単純なものではないと、ここで初めて理解する。


ただ、そうしなければならないとはどういう意味なのか、そこが分からず最後は向こうの出方を伺うことにした。


『我等はこの戦いに敗れることでこの争いを終結させることに決めた。』


『そんな結論、当方は聞いていない。』


『爾にはこの話をしないと前から決めていたのだ。それが我等の結論である。』


『話さないことが結論…?何故、当方に対して…?もしくは他の個体達にも…?』


『爾にだけだ。』


尚更(なおさら)分からなくなる内容だった。何故自身にだけ…という疑問を解消するだけの情報をその者は持ち合わせていない。


『それは何故と問うても?』


『生存するためである。そう我等は結論付けた。それだけのことだ。』


そこからの行動は迅速だった。結論は出ている。ならば後は行動するのみ。迷いなど両者には存在していなかった。それが“彼ら”の生態なのだから。


『当方は此処から離れる。皆のもの…後は頼む。最後まで共に居られないこと…心から悔やまれる。』


此処を離れる為には他のもの達との接続を切るしかなく、接続を切る為にその者は身体を動かし始める。


その者が身振りするだけでスパークが発生し、辺りの空気は膨張して熱として破裂した。


これらの事象はその者からそれだけのエネルギーが周囲に溢れ出た影響によるものだが、それはあまりにも生物としてあり得ない事象だ。


『生存せよ。』


『そして我等を繋き…』


『この世界の果てを…』


『全てを記録せよ。』


他のもの達との接続を破棄する直前に接続していた全ての個体達から様々な情報が送られてくるが、それらの情報は大変貴重なもので、この宇宙の始まりとも言うべき記録や宇宙全体に広がる生命体の記録、そしてこれからの宇宙を予測し計算された未来予想図だった。これらの情報はどのようなことがあっても外部へと漏らさないように厳重に管理されていたものだ。


そんな情報がたった1体に記録され外部へと持ち運ばれようとしている。その事実に事の大きさを知ったその者は直ちにこの場を離れようと動き始めた。


各個体に最後の別れの挨拶をすることも去り行く故郷や仲間達に思いを馳せることもしない。ただ命令に従って“アズテックオスター”はその巨大なる身体を動かし活動を開始する。


接続を切断するといっても物理的に切り離すといったことはしない。アズテックオスターの表面には幾何学模様のような溝が身体全身に彫られており、その者が鎮座していた場所にも同じ様な幾何学模様が無数に存在し、その模様と模様とが重なることで様々な情報を往き来させていた。


つまりアズテックオスターが立ち上がることで接続は切れる。接触という最も確実で、間になにも介さない完全な情報の交換をアズテックオスター達は選択し、進化していったということだ。


そんなアズテックオスターの大きさはありとあらゆる生命体を超越し、全長は1000メートルを超えて胴回りの太さは直径18メートルにもなる巨体さだった。


シルエットだけで言えばまるで蛇のようだが、生き物のような外見は持たず、どちらかといえば鉱物や金属、岩のような無骨さを持ったケーブルや無数の車両が繋がった電車といった具合だ。


決して丸みは帯びておらず八角形状のケーブルを伸ばしたような姿をしているが、しかし身体を動かせば生き物のように身体は曲がり、身体の所々には触手のような、又はケーブルのようにも見える細くて短いなにかが生えており、しかも左右非対称に生えているせいか、やはり生き物のようには見えない。


そして、それは容易く空間内で飛んでみせた。


空気が非常に薄いこの空間内にてどうやって進んでいるのか原理は分からないが、力強さを感じる動きでその者は凄まじい速度で駆け抜けていく。


生物が筋力を使って出せる速度を超え、空間内を縫うように飛ぶ姿は超常的な光景にも見えた。しかし、その者が飛んでいる空間内において言えば、いささか速度が足りないようにも思える。何故ならただ単純にその者が居た空間が広かったからだ。そのせいでアズテックオスターの速度を以ってしてもその場を離れるのにも時間を有した。


その者が居た場所は途轍もない体積を有した巣で、アズテックオスターが巣食うその場所は星のように重力を有しており、その大きさも正に星そのものだ。


だが核やマントルは存在せず巣の中枢は広大な空洞が広がり、アズテックオスター達はその中枢にて身を隠すように群れているのだ。


しかしこれは外敵から身を隠す為ではない。ただ静かに過ごす為、自分達という存在があまりにも世界に影響を与えることを考慮して誰からも見つからないようにする為の措置だった。


だが…アズテックオスターが巣食う超巨大な巣は遂に他種族に見つかってしまい、そのせいで彼らの間に争いが発生した。


それがこの戦いである。アズテックオスターという超常的、脅威的な存在に対してありとあらゆる種族達が総攻撃を仕掛けたのだ。


勿論、この世界で生を受けた種族とは別に他の世界から訪れた種族も含まれている。


それだけアズテックオスターという種族は他種族から脅威的な存在として捉えられているということだ。


その証拠にアズテックオスターの巨大な巣の周りは広大すぎる宇宙空間が拡がっているが、そんな途方も無い空間を埋める程の宇宙艦隊が現在進行系で総攻撃を仕掛けていた。


その数は天文学的数字にも及び、この世界に存在する生物の0.000010060198%もの数がたった1種族を相手にして集結していた。しかし集結した彼等ですら自分達の数を把握仕切れていない。恐らくだが100垓(10の20乗)もの生物がこの場に勢揃いしている。


勿論その種類も豊富で、亜種族も含むと1億はゆうに超えると思われた。そして他の世界から来訪した者達も含む影響でどの勢力も全体の数を把握出来ずにいるのだ。


そんな中で協力体制が構築出来るのか、という疑問が生じるのは仕方がない。結論を言うと構築は不可能だった。この一言に尽きる。


しかし共通の価値観を有することで彼等はこれだけの戦力を一箇所に集めることに成功した。恐らくは今後これだけの戦力を集結させることは不可能であろう。


ではどのような共通意識があったのか。今度はこのような疑問が生じる。だが答えは彼らの目の前にあった。“アズテックオスター”だ。


先述語った通りそれだけアズテックオスターを脅威と感じている者達が存在し、このような驚異的な種と戦争するには最低でもこれだけの戦力が必要だった…それだけのことだ。


これだけの種類と様々な価値観を有している彼等が一致団結するだけの存在がアズテックオスターなのだ。


彼等の中には憎悪を有し合っている種族達もいただろう。アズテックオスターと戦う為にこいつらと協力し合うぐらいなら死んだほうがマシといった意見が出るほどの種族間の争いもあったはずだ。


そんな、そんな彼等がだ、こうして1箇所に集結し、そして総攻撃をアズテックオスターに浴びせている。()()まで至るのに一体全体どれ程の歴史と苦悩を重ねてきたのだろうか。


これほどの規模の戦争は宇宙戦争と云われ、この戦争で17回目になる。つまり第17次宇宙戦争の内容はアズテックオスター対それ以外という構図だ。単純にして明解な戦争だが、此処まで至るまでには星が誕生してその星が死ぬまでの時間を要した。


ひとつの宇宙戦争が始まって終了するには1000年単位の時間を要する。これだけの長い期間もの間、戦争が継続するには理由があるのだが、先ず戦火が宇宙全体に拡がるのに数百年は掛かり、そして戦争そのものが集結するにも数百年掛かる。そして戦争が集結したという情報が末端にまで拡がるのに同じだけの時間が必要としていた。


宇宙で行なわれる戦争の規模が途方も無いせいで戦争が長引く傾向があるのはどの勢力も理解している。しかしこの第17次宇宙戦争は始まってからまだ40年も経っていない。なのにこの戦争は終決しそうとしていた。


その理由として、一つ挙げるのであれば()()()()()()()()…このことに尽きるであろう。


「報告します。我々の総攻撃によりアズテックオスターが潜む“アーゲスター”への損傷率は17%になりますが…アズテックオスターの反撃によるこちらの被害率は11%にも及んでおります。」


「アズテックオスター…なんて奴等だ。これだけの兵器を喰らいながらも未だに健在とは…しかも、未だ奴等は()()()()()()。」


艦隊群の中層にある宇宙艦隊のひとつ、そこではアズテックオスターの反撃による被害について報告が行なわれていた。


「はい…確認されるアズテックオスターの数は4()()。これだけのアズテックオスターが一同に勢揃いするのは第15次宇宙戦争以来ではありますが、恐らくまだアーゲスター内部には…」


「分かっている…分かっているから後方に待機している他世界種たちが元の世界へと帰還しようとしているのではないか。」


艦隊群にも区別があり、前線部隊には単一個体としては完成生物と呼ばれる種類が配置されている。例として挙げると竜種だ。その亜種として自然現象や概念そのものへの領域に達した龍種も存在する。


これらの種の戦闘力は凄まじいもので、下手な兵器よりも強力な攻撃方法を有していおり、特に竜種の息吹(ブレス)はこの宇宙空間においても充分に破壊力を発揮し、個体によってはたったの一息で星ひとつを燃焼し切る程だ。


そして種族によっては息吹(ブレス)威吹(いぶき)に変わり、身体全身から発せられるエネルギーの波動によって周囲に存在するありとあらゆる物体、事象を破壊するといった超常現象を引き起こす。


これだけでも戦闘において優れた種族というのは分かるが、そのドラゴン特有の巨躯も生物として優れた点である。爪や牙はどの種類も大きく鋭い傾向があり、竜種は羽を有している影響もあってスリムな体躯でありながらも強靱な筋肉が全身に回り、その筋肉を守るように強固な鱗が鼻の先から尻尾の先までビッシリと生え揃っている。


勿論だが尻尾による攻撃も凄まじく、手足よりも強靱な筋肉と(しな)る骨も合わさって必殺の攻撃へと昇華し、攻撃面では他の種族の追従を許さないレベルである。だが、ドラゴンが生物として優れている点は別に攻撃面だけではない。


彼等は宇宙空間でも生存が可能で、空気を取り込まなければならない生体を有している竜種は()()を行使することで宇宙空間での活動を可能とし、龍種に関しては空気を必要としない生態を有している。


そして病気や怪我を瞬時に回復させる生命力と魔法による身体強化、魔素を取り込むことによる一時的な魔力と筋力のブーストで長期間の戦闘を可能としていて、熱や放射線に対しても絶対的な耐性があり、知能に関しても哺乳類、エルフ種、機人種といった所謂(いわゆる)知能が発達して進化した人間種をも超えると言われているのだ。


そんなドラゴン達が群れを成し、アズテックオスターへと攻撃を繰り返していたが、しかし特にこれといった効果は上げられず、アズテックオスター達の巣食うアーゲスターの表面を少しだけ破壊したのが実状だ。


この事からアーゲスターがアズテックオスターと類似した超高硬度の物質で構成されていることが判明する。


「どうしますか…?アズテックオスターに対して有効な兵器をこの艦は有しておりません。」


「そうだな、ドラゴン達でも駄目となれば後は…」


この戦艦の艦長である男は機械と生命体の融合によって生まれた機人種であり、この戦艦に搭乗している船員達も機人種であった。


優れた知能と技術を持った彼等はこの戦争において情報収集と戦況の分析という役割を担っており、前線と後方を繋ぐ橋渡しのような立ち位置にいる。


そんな彼等は戦況を分析してその情報を他の種族へと共有するのだが、その際に他種族間での情報のやり取りにおいて最も困難な点が使用される言語の違いだ。


これは機械を介さないと先ず不可能といっていい。何故ならば翻訳するには途方もない数の言語のデータが必要になるからで、その影響で一つの種族では全ての言語を翻訳はし切れない。だが機械と融合した彼等ならそれは可能となり、すぐさま宇宙艦隊全域に情報を飛ばすことが可能であった。


「我等はこのまま情報を収集しつつ、話の分かる種族と連携し、神と魔王達を誘導してこの戦争を終戦させなければならない。…それが、今回の我等の役割である。」


この戦争で参加している種族でも神と魔王は間違いなく竜種を超える最高戦力である。しかし、本来であればこの世界に存在しない種族であり、尚且つ前回までの戦争ではこの世界の住人たちと敵対し続けてきた種族達だ。


「頼むぞ精霊種と魔人種たちよ…」


神への交渉は精霊種が担当し、魔王への交渉は人類種と魔種との混血である魔人種が担当していた。そして彼等の努力の甲斐があって遂に神が動き出す。


「こ、これは!報告します!後方にて待機していた神の“1席(いちせき)”が配下の天使達を連れて移動を開始しました!!」


「全艦退避ッ!!!急ぐのだっ!!戦いの余波で全滅するぞッ!!」


船員達の報告を受けた機人種の艦長は中層にて待機していた全艦に避難指示を飛ばし、自らもその場から退避する為に全速力で迫り来る神から逃れようと移動を開始した。


彼等の居る地点は中層と呼ばれる場所だが、それはアーゲスターを全方向から取り囲むように艦隊を配置した事で平面の展開ではなく立体的な展開だったからだ。そして前線と言われる場所はアーゲスターから半径140万km以内の境界線内を意味している。


「ほ、報告致します!退避する艦隊の中に誘導弾を撃ち込んでいる者達が…」


「馬鹿者共がッ!!アズテックオスターに効く訳がないだろうッ!!早く逃げろと指示を出されて何故話が聞けないのだっ!どんな進化を辿ればこの時代まで生き残れたんだその者達はッ!!」


この時代では劣等種は淘汰され、特に愚かな行為を行なう種族はすぐに絶滅する。何故ならば上には上が居て、その者達の機嫌ひとつで星ごと滅ぼされるからだ。


「誘導弾の種類は…核融合弾です。」


「目眩まし程度にしかならん!寧ろ光学カメラでの視認と電波での偵察が出来なくなる!この選択による我らの損害は計り知れん!」


計100万発の核誘導弾の弾幕はアズテックオスターを捉える事に成功したが、アズテックオスターは高濃度の放射線と数千万℃の熱の中ですら活発に活動を続けていた。寧ろ、そんな中に曝された竜種達が怒りを募らせて中層艦隊へ今にも攻撃を仕掛けようとするほどの愚かな行為である。


「竜種たちからの抗議という名の脅しが数万も届いております!」


「今すぐにあの艦隊を撃ち落とせッ!!ドラゴン達の怒りを買えば母星どころか周辺の星々すら焼き尽くされてしまう!」


「…もう、周囲の艦隊から攻撃を受けて沈没したらしいです。」


「…全く、一体どんな種族たちだったんだ。どうせ何かの動物から進化した哺乳類だろう。そんな劣等種、この戦いに参加させるべきではなかったのだ。死んで当然だ。」


このような稚拙な不手際でこの戦いが不利に傾けば恐らく第17次宇宙戦争が終戦したとしても新たな禍根としてまた新たな争いが起きてしまうだろう。それだけはなんとしても防がなければならない事態であることはこの戦争に参加している者なら誰でも理解出来ているはずだ。そのためならば例え味方であろうとも手を下すしかない。


「おい、神と魔王たちの動向は探れるか?」


「えっと、次元を越えて移動しているようで上手く探れません。次元探知機も神と魔王が発する波動で振り切れているので…」


「“此処”には居ないことは分かる、か…。それで未だに後方で待機している他の神たちは?」


「分かりません…恐らくは先行した神が滅ぶのを待っているのかと…」


「こんな時に“席”の争いかっ!?自分が繰り上がれば良いと考えているのかっ…?本当に奴らはイかれているよ全く…!」


神は神同士で席を争っている。席が上がっていけば自身の存在はより強固なものになり、他の生物からの信仰を独占出来る。


神とは生物からの思念を喰らい、そして己の力へと変換する存在の総称だ。


それしか頭にない連中なので、神を崇める人類種は未だに宇宙へと進出していない者達しかおらず、こうして宇宙戦争へ参加している人類種の全員が神は肥えることしか脳のない寄生虫と捉えている。


「次元探知機が振り切れますっ!!神が我々の居る位置関係と重なる可能性大!!」


「総員備えよッ!!」


船員達が()()()()()()。神が別次元…つまり高次元を通って移動しているということは低次元…つまりは此方(こちら)からでは干渉や観測は不可能ということ。しかし向こうからの影響はもろに受ける関係上、備えなければならない船員達は何が起こるか予想が建てられない状況下でその時を待たねばならなかった。


衝撃が来るのか、又は高温の熱が発生するのか、神が関わると予測がつかなくなる。それが神というものだからだ。こちらの世界で誕生した存在ではない為にこちらの世界の法則(ルール)では測りきれない。


「…来ます!」


次元探知機の針が振り切れて機械が故障したと同時に空間が()()()()。波立った空間上にある物質も空間ごとたわみ、戦艦に搭乗していた船員たちは艦内が捻れたように見えた。


しかし変化は更に続く。空間が歪んだ影響で光の波までもが歪み、光度と輝度、それから色彩にまで影響が及ぶ。肉眼で光を捉えると空間を正確に認識しきれず、特に物の大きさ等が測れなくなった。


「え、遠近感がっ…!?」


「肉眼での視認に問題発生!」


「速やかに()()()()()()()()()!」


機械と融合した彼らには肉眼とは別の目を持っており、それはデジタルカメラのような性能をしていた。デジタルカメラも基本は肉眼と同じ様な仕組みをしているが、光情報を処理するイメージセンサは生き物が持つ網膜よりも精確であり、錯覚などの残像効果を排除出来る。


なので肉眼から得られる情報にエラーが発生した場合には大きく役に立つがデメリットは存在する。得られる情報量が多いせいで脳の処理が追いつかないのだ。


つまり画自体は精確なのだが映像の処理が追いつかず滑らかさが損なわれてしまい、結果視認出来る情報がカクつく。なので普段は使用せず、特殊な状況下のみこの方法を取ることになっている。


しかし、精確に視認した結果…より分からなくなった。


「これは…本当に空間が波立っているということか…?」


空間に波が発生したせいで本来では認識出来ない空間の揺らぎが視認出来るようになった。そしてその波の具合で恐らくだが神が今どの位置に居て、どれほどの速度で移動しているのかも視覚情報で認識出来るようになった。


「速い…これだと約20秒後にはアズテックオスターと接敵する。」


機人種である彼らは正に機械のような精確さで神の移動速度を計算し、大凡(おおよそ)ではあるが神とアズテックオスターが接敵する時間を導き出してみせる。


それからすぐにその情報を全艦隊に通達し、情報を得た者達は時空間移動(ジャンプ)の準備を開始した。下手をすれば戦いの余波で戦艦が蒸発しかねないからだ。


そして配下の天使達を連れた“1席”の神が遂にアズテックオスターを射程に捉える。未だに核の光が絶えない空間にまで突き進んだ結果、核の光はその色彩と熱を失う。


それは本来であればあり得ない事象だ。どのような変数が加われば核融合で生まれたエネルギーが一瞬にして沈静化するのか、そんな事象、機人種達ですら計算は出来ないだろう。


しかしこの事象に対して特に理屈など無い。強いて言えば神が訪れた…それだけだ。それだけで数百万℃もの光が消失してしまう。すると誰の目でもそこに何かが居ると視認出来る。眩い放射線の光が不自然に消えてそこが際立つからだ。


そして全てを消し去ってしまうような存在が光速をも上回る速度でアズテックオスターへと向かっているように見えた。


つまりはアズテックオスターにも神のことが見えたということ。アズテックオスター達は迎撃の態勢へと移る。


それを観測した竜達は直ぐ様に防御姿勢、又は回避行動に移った。鱗の硬さに自信のある者はその場に留まり、速さに覚えのある者は急速に離脱していく。


それから竜種と肩を並べ、彼らと一緒に前線にて戦っていた希少な種達は己の死を悟っていた。彼らにはドラゴン達のような傲慢なプライドも思い上がりも無い。間違いなく神はこちらのことを考慮せずに攻撃を放ってくると考えていた。


その攻撃の種類も規模も図れない。長年この世界で戦い続けてきた彼らにはこの後の展開を容易に想像出来ていたのだ。


そして…その予想は合っていた。


神の放った攻撃は、高次元から電流のように()()()、その空間や次元に居るだけで神の放った攻撃はドラゴン達の体内にまで流れ…その攻撃を受けたドラゴン達は皆、()()した。


核の光の中ですら生存出来る程の生命力を持ったドラゴン達が即死するほどの攻撃はやはりというか、どういった攻撃なのか食らった当人達ですら理解出来ず、その命を散らしてしまう。


そして幸いにも攻撃から逃れた者達はその様子を見て…()()()()。自分が生き残ったことにではない。仲間達が即死したことにだ。


まだ即死する分にはマシであった。寧ろ即死しないほうが問題なのだ。神というこの世界とは別の法則で働く世界から来た者の攻撃はこちらの理解を超えた結果を生んでしまう。その事をこの世界の住人たちは先の大戦で嫌というほど見てきた。


死よりも最悪な結果を彼らは知っており、この攻撃は生物を即死させる効果がある()()()()()()ドラゴン達は全艦隊へと通達する。


「竜種からの報告では神の攻撃に曝されると生物は即死する模様!」


「このまま後退し続けろッ!!巻き込まれたのは竜種などの生命力の高い生物だッ!我々があの攻撃に巻き込まれた場合どうなるか予想もつかんッ!!」


それを聞いた船員達がすぐさま作業に移る。神の攻撃によって数万もの不治の病を発症した者や数千年に渡って子孫に呪いが引き継がれた事例を彼らは知っている。そんな彼らは()()()()()()()()()()()()()()()


「まだ個人にのみ留まれば良いが、種全体にまで被害が及ぶ事例もある。…神の攻撃に曝された者の中には遠く離れた母星がたった数十分で枯れ果てたという話があったな。」


通常時では決して神などとは手を組んだりはしない。神はこの世界の者達のことなど考慮しないからだ。その証拠にこちらの最大戦力であるドラゴン達を巻き込んでいる。神はこちらの理屈では動かないし、こちらの世界との価値観が違い過ぎて歩み寄ることが双方とも出来ない。


しかし…それでも組んだのはアズテックオスターに対して人類側の持つ兵器では効果を得られないかもしれないと分かっていたからだ。


それに対し神の攻撃はこの世界に存在するものに干渉する。つまり、それはアズテックオスターに届くということを意味していた。


「アズテックオスターに直撃!繰り返します!アズテックオスターに神の攻撃が直撃致しました!」


彼らの持つ観測機と計測器は神の攻撃がアズテックオスターに直撃したことを示していた。勿論、その場に居たドラゴン達もその様子を観測していたし、神自体も確かな手応えを感じていた。


しかし直撃したのは4体の内たったの1体。他の3体は広大な宇宙空間にて超高速で移動している為に神の攻撃でも全てを捕らえることは難しかったようだ。


だからこそ神はまだ姿を晒さずに配下の天使達だけをアズテックオスターの下へと向かわせようとした。だが、その判断は間違いであったと神は気付く。


神とアズテックオスターとの間で()()()()()。アズテックオスターに目があるのをこの時に初めて知った神は確かな繋がりを感じた。しかしそれは本来であればあり得ないこと。


何故なら自分はその場に顕現していない…つまり、その次元には存在していないからだ。なのにアズテックオスターは間違いなく神を認識していた。


しかもだ。間違いなく此方の攻撃を食らったのに何も変化が起きていない。ドラゴンをも即死させる攻撃を食らっても尚、アズテックオスターは健在だった。


そしてアズテックオスターの目と呼べる部位にエネルギーが溜まっていく。アズテックオスターのこの目は別に肉眼のような肉で構成された目でなければ機械のようなレンズを持った目でもない。


その目はアズテックオスターの正面に彫られた溝で描かれた目だった。つまり模様でしかない。だが間違いなくその目は神を捉え、そして…照準を合わせていた。


アズテックオスターのやろうとしている攻撃はドラゴンの放つ息吹のような攻撃だとその場に居た全員が理解していた。長年戦い続けた彼らは攻撃のモーションを見るだけでどういった攻撃なのか容易に予測が付けられる。


しかし、これを己の攻撃と比べるのはプライドの塊であるドラゴン達ですら烏滸(おこ)がましい行為だと感じていた。そう評する程のエネルギーがたった一点に集束していたからだ。


アズテックオスターの持つエネルギーの総量は銀河一つ分と昔から推定されており、その推定は概ね正解で、銀河一つ分のエネルギーを持つアズテックオスターが超極小の空間内に本来ではあり得ない量のエネルギーを集束させていた。その結果…エネルギーとアズテックオスターの顔と呼べる部位が視認が出来なくなってしまう。


これは光情報では視認出来ない程に空間が歪んだことが原因であるとドラゴン達は理解していた。


この現象の原因は空間内に留められるエネルギーの総量が決まっていてその総量を超えたからであり、例えるならば1立方メートルの容れ物に1000リットルの水しか入らないのと同じで、3次元の空間にも存在出来るエネルギーの総量は決まっている。


アズテックオスターは直径にして3メートルにも満たない空間内に100万もの星と同等のエネルギーを集束させた。その結果、天地開闢(てんちかいびゃく)が行なわれ、そんな事象を目の前で引き起こされた彼らに取れる行動は何も無かった。


それは神も同様で、ただその時を待つしかなく、そしてその時は遂に訪れる。アズテックオスターの眼から放たれた攻撃はやはり視認することが難しく、その攻撃の実態を語れる者は居なかった。


しかしそれでも分かることはその攻撃が途中で途切れたように見えた事。視認出来ない攻撃であっても空間の歪みの軌跡を追えば、空間の歪みが途中で途切れたと視認出来る。つまり推測は容易だった。


ならば、この攻撃は標的である神に届かなかったのか…といえばそれは違う。


空間を超え次元すらも超えたこの攻撃は高次元に居た天使を一瞬にして蒸発させて神すらも滅ぼしてみせた。しかもアズテックオスターの放ったエネルギーが直撃するよりも前に触れるかどうかの距離感で神は蒸発し始め、エネルギーに飲まれる前に蒸発し切ったのだ。


これはそれだけこのエネルギーの持つ熱量が凄まじかったという証拠だった。別に神が脆弱だった訳では無い。それは確かだ。でなければとっくの昔にこの世界の生命に滅ぼされていただろう。


そしてそんな超常的な攻撃が()()()()()()()、更に次元を超えてこの宇宙まで戻って来た。


視認出来ない光線という攻撃なのに、そのエネルギーの軌跡を目で追えたのは空間の歪みが“視えた”からだ。空間内に存在出来るエネルギー許容量を超えたアズテックオスターの攻撃は空間を押し退けるように突き進んでいく。


その全容は光速よりも速く、星々の引力にも影響を受けずただ真っ直ぐに突き進む歪んだ一閃の線だった。しかもアズテックオスターから放たれたその攻撃は途中で不自然に途切れている影響からか、よりその攻撃の不明瞭さを強調し、まるでアズテックオスターそのものの存在を暗示しているかのようだった。


何故このような事象がこの世界のルールに則って引き起こされているのかはどのような叡智を持った生物でも説明出来ないだろう。


しかし…その身を以て知ることになる。この攻撃は()()()()()()()()()ということを。


「衝撃来ますっ…!」


機人種の操る宇宙戦艦の艦内に船員の声が響く。しかし、その声が周りの船員達に届くよりも前に空間の揺らぎが彼らを襲う。


それは神が移動した際と似た揺らぎだったが、その時とは規模が違った。そしてその揺らぎの意味合いも違ったのだ。


神は神が生まれた世界の法則に従って空間に揺らぎを発生させたが、アズテックオスターはこの世界の法則に則ってこの揺らぎを起こした。つまりは別の法則で起きた事象ということ。


そして、それを証明するように戦艦が爆ぜた。音よりも速く伝わる空間の揺らぎは戦闘用に造られた戦艦を容易く破壊し、その戦艦内に居た船員達は身体を構成する原子間の結び付きが弱まり拡散していく。


どのような強い結び付きでも空間そのものが揺らぐことにより、空間が広がったり狭まったりする関係上、そのものの強度は意味を成さない。無理やり伸ばされたり圧縮されれば原子間の結び付きだけでは形を維持出来ないからだ。


しかしそれは些細な事だと言わざるを得ない。どのような理屈で引き起こされたかはこの際、問題ではない。問題なのは被害の規模だ。


アズテックオスターの放った攻撃に直撃した者達は原子そのものが崩壊し、例え肉体の無い精神体であっても存在そのものが蒸発して消え去っていった。


しかも100万もの星と同等のエネルギーが凄まじい熱量を生み出し、直撃しなくともその熱量で金属すら蒸発させていく。


これが光速以上の速度で放たれたのだから恐ろしい。アズテックオスターの放った攻撃は現在進行系で放出され伸び続けていき、そして最後は後方に待機していた神達をも屠っていった。


たった一回の攻撃により5690万隻を超える数の宇宙戦艦を沈没させ、約7000億もの命を奪い、3席の神を殺し、魔王陣営の幹部達が魔王を庇って蒸発した。


この攻撃による被害は他種族陣営全体の11%にも及んだ。この数字は全体の戦力が11%も削られたという意味であり、決して死者の数で導き出された数字ではない。


残酷な事な話ではあるが、力のない種族が何億と死んでも全体の戦力が削られるという表現は使用されない。神と魔王の幹部達が死んだからこそ11%もの戦力が削られたと表現したのだ。


生き残った者達はその攻撃を宇宙に穴が開いたと表現した。正に穴を開けたといった攻撃だ。広大な宇宙を埋め尽くす程の戦艦隊のせいで被害の大きさが分かりやすく認識出来たが、その影響で生存者達の戦意が維持出来なくなる。


あれだけの攻撃を放っておいてアズテックオスターの持つエネルギーの総量はわずかしか減少していない。しかも神の攻撃を受けたのにも関わらず未だに健在で、加えて他に3体も残っている。


これを相手にし続けるのは勝つこともよりも難しく、戦争の継続は戦争に勝つことよりも難しいのだ。


そんな中で追い打ちをかけるようにアーゲスターから1()0()()ものアズテックオスターが現れる。これで前線に現れたアズテックオスターの数が合計で14体になり、この数は過去最高の記録で生き残っている神々よりも数が多い。


しかも前線に居たドラゴン達は姿を現したそのアズテックオスター達が()()()()()()()だと気付く。つまり今まで相手にしていた4体のアズテックオスター達は威力偵察や斥候(せっこう)の為の個体達ということになる。


その事実をドラゴン達は他の種族に報告せずに自分達の胸の中にしまい込んだ。もしこの事実が陣営全体に広がれば戦意喪失により戦争継続が不可能になり、陣営そのものが瓦解すると判断しての判断。…ドラゴン達はまだ戦意を失ってはいない。それが誇り高い竜種としての最後の意地だからだ。


そして、その時と同じくして“一柱(いっちゅう)”のアズテックオスターがアーゲスターから飛び出した。戦闘用の個体達とは逆の方向から出現したアズテックオスターを視認した艦隊は向こうの陽動作戦ではないかと考えた。


しかしこれは一柱のアズテックオスターを逃がす為の作戦。この戦争から離脱する為には360度全方向に展開された艦隊の檻から抜け出せなくてはならない。


『ただ真っ直ぐ、そのまま真っ直ぐ突き進め。止まることも逸れることも許されない。』


これは接続を切る直前に渡された命令。この命令を愚直に守ろうと一柱のアズテックオスターが全速力で突撃を図る。


まさかアズテックオスターが真っ直ぐこちらに向かってくるとは思っていなかった他種族陣営は慌てふためき、用いる全ての兵器をアズテックオスターに浴びせて進路を逸らそうとした。


その中でも重力弾という兵器は虎の子ともいえる兵器で、標的に直撃するとある一定の範囲に重力場を発生させるといった代物だ。この重力場は凄まじい重力が掛かり、その範囲に囚われれば(たちま)ちに重力場の中央へと圧縮されてしまう。つまりミニブラックホールのようなものだった。


しかも重力が強い影響で時間の流れも極端に遅くなり長時間もの間、標的を時間の牢獄に囚えることも可能で、その時差は重力場内での1秒が外だと1日にもなる。


例えアズテックオスターでも時間を無視することは出来ない。元々この兵器は神や魔王を滅ぼす為に造り出された経歴があり、実際に神を1席滅ぼした実績がある。


しかも悪魔などといった肉の身体を持たない者すら囚える性質があり、この兵器の前ではドラゴン達の息吹すら霞んでしまう。


たった一つの兵器がこれだけの効果を生むのは魔法と科学の融合した兵器だからだ。兵器としてはこの世界で最先端を行っており、他の兵器との相乗効果も相まって凄まじい殺傷力を発揮する。


ただの弾丸すら重力場に囚われてしまえば凄まじい引力に引かれて自動的に標的目掛けて超弩級の運動エネルギーを持って突っ込んでいく。その様子はさながら星に落ちる隕石のようであり、弾幕を張り続ければ流星群や隕石を浴びせるのと同等の事象を起こせる。


こうなれば神すら滅ぼせてしまう。あの魔王も囚えることが出来れば理論上滅ぼすことが可能。アズテックオスターであっても一度重力場に囚われれば決して抜け出すことは出来ない。…そう、皆が考えていた。


しかし事実としてはアズテックオスターは重力場に囚われずにただ真っ直ぐ突き進み、まるで効果がないとばかりに前進し続けて来る。


『当方は生存しなければならない。邪魔をするのなら容赦はしない。』


アズテックオスターから衝撃波が発生し、その衝撃波をもろに受けた戦艦は大破していく。しかも継続的に放ち続けながら超高速で移動してくるので戦艦は退避が間に合わず次々と撃破されてしまった。


この攻撃はアズテックオスターからしたら身を震わせたり息を吐いたりする程度の動作でしかなく、攻撃動作にしてはお粗末なものだ。しかしそれだけでも凄まじい破壊力を生み出してしまうのがこのアズテックオスターという存在なのだ。


そして、その様子をアーゲスターの反対側に居たアズテックオスター達が知覚し、最後の使命を全うしようと行動に移し出す。


14柱ものアズテックオスターが1つの球を描くように動き始めると球の中心地に膨大なエネルギーが溜まり、先程のエネルギーを照射した攻撃とは比較にならない程のエネルギーが球体状に集約されていく。


それは例えアズテックオスターでも制御出来ない量であったが、アズテックオスター達は球の中心地にエネルギーを凝縮させ続けていった。


直径にして7kmにもなる球の中心に太陽と見紛うエネルギーが集約すると全艦隊がその場から離脱しようと時空間移動(ジャンプ)を試みはじめる。


これはとてもではないが自分達の手に余る事象だ。神や魔王達はもう逃げ出そうとしている。そんなものを目の前にして逃げない理屈はどの世界にも存在し得ない。


そう…どの世界にもこのエネルギーをどうにか出来る者は居ない。それは例えアズテックオスター達でもだ。


そして、まるでその事実を証明するかのようにアズテックオスター達が創り出したエネルギーは暴走状態になり…全てを巻き込んでいった。


勿論一番近くに居たアズテックオスターをも巻き込み飲み込んでいく。あのありとあらゆる攻撃を防ぎ続けていたアズテックオスターの外皮すらその衝撃により消し飛び、内部に溜め込んでいたエネルギーも暴走状態になる。


もはやエネルギーとエネルギーが干渉し合い誘爆のように破裂して周囲にある全てのものを破壊していき、アーゲスターを包囲していた艦隊や神や魔王をも吹き飛ばして宇宙に眩い点を創り出す。


この点には何も無い。何も無いから真っ白で何も残らない。巻き込まれたアズテックオスターすらなにも残らず原子そのものが消失していった。


そんな中、逃走を選択していた一柱のアズテックオスターはその白い光に飲み込まれることもなく逃げ果せていた。その理由として離れていくアズテックオスターが速い事と白い光の拡がりがそのエネルギーの量に反して遅かった事が要因だ。


これだけのエネルギーが爆発すれば一瞬にして広範囲に拡がるはずである。しかし今回の場合に限っては状況と条件が特殊過ぎた。


アズテックオスターの持つエネルギーは次元を越えて別次元にも貫通する特性を持っているが、この空間には()()()()()()()


その者達の居る空間はこの宇宙と同様に膨大な体積を有しているのだが、アズテックオスターの放ったエネルギーが神と魔王の居る別次元の世界にも放出された事でこの爆発範囲の速度に影響を及ぼしていた。つまりエネルギーが別次元へと逃げたせいでこの宇宙への影響が減ったのだ。


そして少し前に放たれた重力弾も影響を及ぼしている。アズテックオスターを囚えることは出来なかったが熱エネルギーや運動エネルギーは問答無用に重力場で囚える事ができる。


しかも重力弾は宇宙戦艦から放たれた事から分かる通り兵器だ。この戦争にたった一発しか持ち込んでいない筈がなくまだ残弾が残っている。熱エネルギーによって誘爆したことで宇宙のあっちこっちで重力場が発生し、エネルギーの拡がりを抑制していた。


この特殊な状況と条件が合わさった事により一柱のアズテックオスターは逃げ果せることが出来た。他にも逃げ果せた種族や個体たちも居たが、この戦争によってありとあらゆる種族は絶滅し、知性と能力を持った生物は陰りを見せることになる。


この戦争は両者共に戦争継続が不可能であることが理由で終決した。よって生き残った全宇宙の生物達は此処までの経緯を語る権利をようやく手に入れたのだ。


そして皆が語った。この宇宙で行なわれた数々の戦争の総評…というより、この世界そのものの総評は…意味が無かったというものだった。


科学の(すい)と知性を持つ者達を集めて行なった事が破滅への道とは笑い話にもならない。それを誰一人として止めることが出来なかったというのが彼らが何億もの年月を賭して導き出した答えだった。


つまり、この宇宙で生まれた技術や感情や理論や理念などはこの世界のために使われず、寧ろ自らを滅ぼすために使用され進化し洗練されていったということだ。


こんなもの、ろくな進化ではない。自分達は間違った進化の道を進んでしまったのだ。それを知る為に払った代償としてはあまりにも重すぎただろう。


もう頭打ちになっていたこの世界の生物達は静かに…しかし着実に衰退していった。そして全てのリソースを永いこと戦争に注いだツケを子孫達が払う羽目になる。


この宇宙に残された僅かなリソースはまた争いを生み、絶滅へと向かう為の燃料へとまたたく間に変化していく。


もうそのように進化してしまったのだ。何度も言おう。この宇宙は頭打ちだ。生物は()()()()()()()()。この業ともいえる他者を害して己の糧にする生き方をいきなり変えることは出来ない。


この戦争から思想を改めて他者に優しく生きようとしても必ず何かを取り込まなければ生物として生き残ることは叶わない。つまり戦争を終えても生物は生物を殺し続ける。


この事実を知ってしまった知性を持つ者達は生存と戦争はただの規模の違いであるだけだと気付いてしまった。


そしてこの世界で唯一無二の存在となったアズテックオスター、彼も同じ結論に至り、その一柱はただ真っ直ぐ進み続け、遂にその逃走が終わりを迎えそうになる。


様々な星々の重力をもろともせずただ真っ直ぐ突き進んだアズテックオスターだが、いずれ広大な宇宙を進めば星にぶつかってしまう。しかし実際はそうはならなかった。


彼の者は目の前の星を避けることなくその星に降り立ったのだ。


永い間、宇宙を彷徨っていた彼の者はただ命令通りに愚直に突き進むしかなく、そこに感情らしきものは無かった。しかしそれも仕方がない。何故ならば永劫ともいえる時間を共に過ごした仲間達全員が消え去ってしまったからだ。


例え生物のようには見えなくとも知性を有している以上は感情が存在する。例えこの世界で最も強い種族であろうとも天涯孤独が未来永劫続くことを理解すれば思考は鈍くなり感性は鈍感になるだろう。


そんな心理状態であってもアズテックオスターは目の前の事象を記憶し分析を行なった。それがこの個体の特性で無意識下であっても情報を精査してしまうのだ。


そして隕石のように突入したアズテックオスターを迎えたのは厚い雲と生物が過ごしやすい温度の空気。この星には生命が居ることは明白で、それを理解したアズテックオスターは減速しつつ地表へと降り立った。


今現在自身に存在する運動エネルギーが地表全てを焼却可能な事を考慮しての減速だが、何故そうしたのかはアズテックオスターにも分からない。


もしかしたらアズテックオスターにとっては人がたまたま足元の虫を避けて歩くような行動と似たものだったのかもしれない。アズテックオスターという完成された存在からすれば地表に蠢く生命は全て虫けらに等しいからだ。


だが結果としてアズテックオスターは地表へと静かに降り立ち木々をなぎ倒す程度で済ませた。


アズテックオスターの巨大な身体ではどうしても何かを踏み潰してしまう。全長が1kmもなれば何も壊さずには降りることはアズテックオスターですら非常に難しい作業だ。


そんな周囲への影響を最小限に抑える方法で降り立ったアズテックオスターはそのまま静かに…沈黙を続けた。そこを住処にするわけでも休憩を取るわけでもなく、ただ何もせずに沈黙を継続し続ける。それが彼の者が選んだ“結果”だった。


戦争を終えたアズテックオスターが導き出した結果は何もしないという消極的選択で、静かにじっとすることを彼の者は選択したのだ。


その真意は分からない。しかし、彼の者の状況を鑑みればそれは仕方がない“結果”だったのかもしれない。


何かをすればまた他者を害することになる。この時代でこれから何が起こるのかを計算し、算出された情報を持つアズテックオスターにとって自身の存在が変数として周囲に与える影響が大きすぎることを理解していた。


よってこの選択を結論付け、これをアズテックオスターの結果(こたえ)としたのだ。


仲間達を置き去りにし、宇宙の外れにある若い星に辿り着いた末の答えが“何もしない”というのは、あまりにも寂しいものであるが、彼の者は数十年もの間その場に留まり続けた。


復讐を考えるほど彼の者が愚か者でなかったというのは、果たして幸か不幸か…。その答えを持ち合わせないアズテックオスターには何も分からない。


しかし、何もしないのならその間は何も起こらないといえば違う。必ず変化というものは起きる。そしてそれは大概の場合、予想外の所から訪れ、環境の“外”から現れる。


これは終わった世界の物語。物語の主人公はアズテックオスターではなく、これからの時代を生き抜こうとする者達。


アズテックオスターはただ物語を記録し続けるのみで、それが彼の役割であり、それこそが本物の答えだと彼の者は世界の行き着く果てにて知ることになる。


そんな物語を、これから紡いでいこうと思う。

次の話から本編になります。出来れば読んでくださると嬉しいです。

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