76 新たな聖書転生者?
堕天使ルシファーに奪取されたはずのソロモンの指輪。
その指輪がなぜかソロモンさんの指に嵌められていた。
えっ!?どういうこと?
なんでまたソロモンさんの手元に戻ってるの? 混乱している私にソロモンさんは説明してくれた。
説明によるとこういうことだ。
捕えられたソロモンさんは、ソロモンの指輪が狙われていることを察し、手にグローブを嵌めたまま「保管魔法」を使って異空間に指輪を移動させた。
そして「物質化魔法」で偽物の指輪を物質化した。
物質化魔法は贋作レベルで再現はできないけど、魔族達を騙す程度になら使えるという。
そうして、偽物の指輪をルシファーに渡したーー
それが、ソロモンさんが捕らえられてからの出来事だった。
「つまり、あのルシファーって悪魔は偽物の指輪を持っていったってことですか?」
「そういうことだね。まあ、本物かどうかなんてどうでもいいんだけどね。どうせ、僕以外には使えないんだから」
ソロモンさんはあっけらかんとしている。
待てよ?ということは…
(私がヴアルさん達に助けを求めなくても自力で助かってたんじゃ…)
「ごめんなさい。余計なことをして騒ぎを大きくして…」
ヴアルさん達まで巻き込んでしまったことを申し訳なく思い謝る私だったが、ソロモンさんは笑顔で首を横に振った。
「いや、そんなことないよ。ヤマトちゃんとヴアル達が助けてくれて嬉しかったし、おかげで彼らと和解できたしね」
ソロモンさんは私の頭を撫でながら言った。
「あ、ありがとうございます」
ソロモンさんに頭を撫でられ、少し照れてしまう私。
ソロモンさんは、今度は私を抱きしめて言う。
「ありがとうヤマトちゃん。僕を助けに来てくれて……」
「と、当然です…あの、離してもらえますか?」
私は恥ずかしくなってきたので離れようとしたが、ソロモンさんは離してくれない。
それどころかますます強く抱きしめられてしまった。
「捕まってて。これから転移魔法で移動するから」
ソロモンさんの言葉に私は驚く。
「え?それって特殊魔法ですよね?ソロモンさんも使えたんですか!?」
「うん、指輪の研究をしている時に使えるようになったんだ」
ソロモンさんは嬉しそうに笑う。
「それじゃあ行くよ」
ソロモンさんがそう言った瞬間、周りの景色が変わったーー
そこは見覚えのある場所だった。
そう、ここはソロモンさんの屋敷にある仕事部屋の一つだった。
机の上は書類が置かれたままで、ソロモンさんがいなくなった時のままだった。
(ダビデ達……今どうしてるかな……?)
ヤマトとソロモン、ダビデ達、ソロモン72柱の悪魔達がソロモンの指輪を巡る陰謀に関わっていた頃。
ある男が異世界へと転生していたことを彼らは知る由もなかった。
そよ風が吹く草原の中、彼は目を覚ます。
男は立ち上がると、辺りを見回した。
どこまでも続く広大な草原、遠くに見える山々、澄んだ空気、自然豊かな世界だった。
その男は生前のことを全て覚えていた。
目の前の風景に覚えはなかったが彼は自然、そして自ら耕した畑を誰よりも慈しみ愛していた。
男は生前の記憶を探りながら、そっとある者の名前を呟いた。
「アベル………」とーーー