74 距離が近づいていく2人
ヤマトとソロモン側に場面は移る。
ソロモンさんは身の安全のために悪魔祓いの魔法陣を張った場所に身を隠していた。
ヴアルさんやバルバトスさん達はダビデ達にそのことを知らせに行ってくれて、私はソロモンさんと一緒に残っていた。
体が辛そうなソロモンさんに私は回復魔法をかけていた。
「ありがとう、ヤマトちゃん」
ソロモンさんがお礼を言ってくれた。
「いえ……私にできるのはこれくらいですから」
「僕はさ、ほとんどの魔法の適性を持ってるのに何故か治癒魔法だけは適性がないんだ。だから助かるよ」
そう言ってソロモンさんは微笑んだ。
「…ねえ、ヤマトちゃん。君はまだ元の世界に戻りたいって思ってる?」
ソロモンさんの質問を聞いて、私の心臓は一瞬跳ねた。
「はい……家族がいるので」
一瞬ダビデの顔が浮かんだ
元の世界に戻りたい気持ちはあるけど、そうしたらダビデとはもう会えなくなる…。
「そう。僕はさ、君に元の世界に戻ってほしくないと思ってる」
「え?」
それってどういうことだろう…
私がそう思っているとーー
彼は私の手を優しく握ってきた。
(え、何これ?)
いつもの軽いふざけた感じとは違う雰囲気に戸惑う私。
握った手をギュッと握りしめられる。
ええっ!ちょっと待って、ちょっと待って。
ど、どうしよう心臓がバクバクしてきたんだけど!?
元の世界で性同一性障害だからってのもあるけど、恋愛経験0の陰キャラにはこんな青春ドラマみたいなシチュエーション無理だって!!
(ダビデ………)
私は思わず心の中で名前を呼んでしまった。
「ねえ、何で父上に、本当は心も女ってこと黙ってるの?」
ソロモンさんは手を握ったまま、私の顔を見つめてそう言った。
「……っ!」
「君が女性としての生き方を選びたかったのなら、わざわざ男のふりをすることもなかったんじゃないかなって思ってね」
ソロモンさんの言う通りだった。
最初は自衛のためだった。
中身が男ということにすれば、女扱いされないから。
それに元の世界では体は男だったから、いくら心は女でもすぐに女の肉体に慣れなかったというのもある。
だけど、今は違う。
今の私は女の子の体なんだもの。
心も女なんだから、もう隠す必要はないのかもしれない。
「でも、打ち明けるのは勇気がいるよね。きっと君は、ずっと重いものを抱えて生きてきたんだろうね」
ソロモンさんは労るような表情で、私を見つめてくる。
「でもね、ヤマトちゃん。君がこの世界に来たことは運命だと思う」
ソロモンさんは真剣な表情で言う。
「元の世界が辛かったなら、君にはこの世界で幸せになってほしいって思うんだ」
ソロモンさんは真剣な眼差しで、私のことを真っ直ぐに見つめてきた。
「だから、どうか考えてみてほしいんだ。このまま、この世界に残ることを」