72 アスモデウスと大天使ラファエルの因縁
「私も本気を出させてもらうぞ!」
ヤコブは手を掲げる。すると彼の体からオーラが噴き出した。
その光は徐々に強くなり、やがて強烈な閃光へと変化していった。そして……
光が弾けた瞬間、そこに現れたのは大きな白い羽を持った男性の姿だった。
「何だ、あれは!?」
「あれはヤコブがこの世界に転生してから芽生えた能力。一時的に天使化できるようだ」
驚くダビデに、アダムが説明する。
アダムも無効化能力を持ち、ダビデも光を放つ能力をなぜか最初から持っていた。
聖書転生者達は皆、何かしら異能を持っているようだ。
ヤコブは空を飛びつつ、上空から羽根の雨を降らせた。
アスモデウスの盾になっていた竜も、上空からの攻撃では防ぎきれないようで、ダメージを受けているようだった。
「今だ!!」
ダビデの合図で一斉に総攻撃をする。
「ぐおおおおおお!!!」
竜は苦しそうな声を上げた。
どうやらかなり弱っているようだ。
「ダビデ、私が攻撃を防ぐから君はとどめを頼む!」
アダムが言った。
「わかりました!」
ダビデは頷くと、剣を構えて竜の心臓を貫いた。
断末魔の叫びを上げながら、やがて竜は消滅したのだった。
「よしっ!」
ダビデは小さくガッツポーズをした。
「人間共の分際でよくも……!!」
アスモデウスは怒りに震えていた。
「もうお前を守るものはいないぞ!」
ダビデは勝ち誇ったように叫んだ。
「……いいだろう。ならば我が全力をもって相手をしてやる」
アスモデウスは槍を構え、力を溜め始めた。
すると彼の周りに紫色の光が集まっていく。
「これは……?」
ダビデは嫌な予感がした。
「この一撃で貴様達を葬り去ってやろう」
アスモデウスは不敵に笑い、攻撃を仕掛けようとしたがーー
「!?」
だが前方を見て動きが止まってしまった。
何故なら彼の視線の先に、邪眼の持ち主である大天使サリエルがいたからだ。
邪眼により動きを封じられたアスモデウスだが、彼はそれよりサリエルの隣にいる天使に目を奪われていた。
「やあ、久しぶりだね。アスモデウス」
(こいつは……大天使ラファエル…!!)
アスモデウスは大きく動揺していた。
「アスモデウス。君がソロモン王を拐ったんだね?」
(何故こいつがここに……?)
「答えろ」
ラファエルは普段の温厚な顔からは想像できないほど厳しい表情をしていた。
(うわー…これはラファ兄が本気で怒ってる時の顔だ)
サリエルですら戦慄するほど、氷のように冷たい表情をラファエルは浮かべていた。
アスモデウスは何も答えることが出来なかった。
「沈黙は肯定と見なすよ」
(まずい……このままでは殺される……!)
アスモデウスは思った。
(こうなったら一か八か……!)
アスモデウスは全身全霊の力を使い、全力で必殺技を繰り出したーー!
ドゴォォン!!という轟音と共に、凄まじい衝撃が発生した。
地面が抉れ、土煙が舞う。
「うわっ!?」
あまりの爆風に、聖書転生者達は思わず顔を覆った。
その隙を突いてアスモデウスは姿を消していた。
ラファエルとアスモデウスの因縁は聖書の外典「トビト記」が有名です。
アスモデウスが人間の女性サラを好きになってしまうという、アスモデウスがやらかしてしまう話でもあります。ただトビト記にはアスモデウスの名前はなく悪魔としか書かれてません。