66 奪われるソロモンの指輪
(ここは……?)
ソロモンが目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。どうやらどこかの地下室のようだ。
手足は拘束されていて身動きが取れなかった。
目の前には見覚えのある顔があった。悪魔アスモデウスだった。
「お目覚めかな?」
「………やあ。久しぶりだね。アスモデウス君」
ソロモンはこんな状況でも冷静に対処しようと努めていた。
相手は悪魔の中でも上位クラスの強力な存在である。下手な真似はできないと思ったからだ。
「ああ、久しいな。ソロモン王。乱暴な真似をして済まない。だが言うことを聞けば手荒なことはしないつもりだ」
「……目的は何だい?」
そこである男が姿を現した。
一見女性かと思うほど綺麗な顔をしている男で、大きな翼を背中に生やしている。
そして暗闇を照らすような光をまとっていた。天使のような姿である。
だがその光輝く姿と対照的に、邪悪な気配を漂わせている男だった。
その男を見た瞬間、ソロモンは全てを察した。この男が誰なのかを。
「お初にお目にかかる。ソロモン王よ。我が名はルシファー」
「……なるほどね」
その名を聞いてソロモンはすぐに察した。
神に反旗を翻し堕天使となり、その後魔王となった存在であることをーー
「それで?魔王ルシファー様までお出ましになって僕に何の用だい?」
ソロモンは冷静に問いかけた。
「我らの目的は一つだ。貴様の持っている指輪だ」
グローブを嵌めた手の指に嵌めている10本の指輪ーーソロモンの指輪。
これを狙っていたというわけかーー ソロモンは瞬時に状況を理解した。
そしてこの状況から脱出する方法を考えたがーー すぐにやめた。下手に抵抗しても無駄だと判断したからである。
「渡してもらおうか。我々の目的はその指輪。貴様の命ではないからな」
「……」
ソロモンは黙って指輪を外し始めた。抵抗する素振りは一切見せない。ただ黙って指輪を外していった。
10本全ての指輪を外した後、ソロモンは言った。
「どうぞご自由にーー」
そう言ってソロモンは両手を差し出した。
それを見てアスモデウスが言った。
「潔いなーー所詮貴様などただの人間だ。賢い貴様であれば抵抗は無駄だとわかるはず」
「ああ、拷問など受けたくないしね。僕はもう王じゃない。今は一介の人間さ」
ソロモンはそう言って肩をすくめた。
こうしてソロモンの指輪は、魔王ルシファーの手に渡ったのである。
(約束通り乱暴にはしない。楽に葬ってやろう)
アスモデウスは無表情で、ソロモンを気絶させ眠らせた後、彼を封印した・・・。
ソロモンは暗闇の中へと閉じ込められてしまった。
生前に彼が、ソロモン72柱の悪魔達にそうしたようにーーー