41 あなたは光のような存在
私は元の世界で性同一性障害だった。
心は女なのに体は男。
私はずっと自分を受け入れられず否定して生きてきた。
なぜ女に生まれなかったの?
女に生まれたならこんなに苦しまずに済んだのにーー
私はまた泣いてしまう。
自分のこと受け入れられない。いくら今は女の体になれても、自分を嫌いなのは簡単に変わらないんだ。
ダビデやソロモンさんみたいに前向きになれない自分が嫌になる。
どうしたら良いのかわかんないよ……
誰か助けて・・・!!
その時、脳裏にあの光景が浮かんだ。
突然異世界に飛ばされて、急に魔物が現れて怯えてたら。
ダビデは恐れる素振りもなく立ち向かっていった。
あの光景を見た時、光が見えた気がしたんだよね。
そして……彼は私に言ってくれた。
『君は君だ』って。
あの言葉に救われた気がした。
元の世界で男だったのに今は女の私を、偏見もなく認めてくれた。
私そのものを認めて受け入れてくれたんだーー
あの人は私にとって、光のような存在なのかもしれない……
そう考えた瞬間、心が温かくなったような気がした。
「おい、どうした?」
急に声をかけられ振り向くとそこにはダビデがいた。
いつの間に部屋に入ってきたんだろう……?全然気づかなかったんだけど!
「あ、えっと何でもない」
慌てて涙を拭うと、何故か手を掴まれた。
「何か悩んでるのか?」
真剣な目で見つめられるとドキドキしてしまう。
「べ、別に何も……」
「本当か?」
「うぅ……」
どうしよう!誤魔化せないかも。
「悩みっていうか…。私……元の世界に戻りたいと思ってたけど、実は辛いことがあって。また辛い思いするんじゃないかって思うとわからなくなっちゃった……」
「そうか……」
「ごめんね!こんな重い話…」
性同一性障害のことは言えないけど、嘘はついてないはず。
「君も辛い思いをしてきたんだな。私もね、生前は苦労も辛いことも多かった。裏切られたことも何度もあったな。だが一つわかったことがある」
「?」
「神は、乗り越えられない試練は与えない。どんなに苦しいことや悲しいことが起きても、それを乗り越えられる力を必ず与えてくれるんだ。だから大丈夫さ」
そう言ってダビデは私の頭をぽんぽんと撫でる。
その言葉は、どこかで聞いたことがあるありきたりな言葉だけど、彼の『経験』から紡ぎ出された言葉は説得力があった。
「うん……。そうだよね。元気出てきた」
私は彼に笑顔を見せる。
それを見て彼も微笑むのだった。
答えは出せないままでこの先どうするのかまだわからないけど、今はこの人についていきたいと思ったのだったーーー