40 ヤマトのもう1つの秘密
『君は元の世界でも女だったはずだ』
突然ソロモンさんにそう言われて頭が真っ白になった。
「ち、違います。私は確かに男だったし」
「うん。嘘はついてなさそうだね。だが…君にはまだ隠してることがあるだろう?」
ソロモンさんは私の目をまっすぐ見つめこう続ける。
「君は元の世界で男だったがーーー心は女だったんじゃないか?」
私は思わず泣きそうになってくる。
「……っ!……何でそれを……!」
どうしてバレたんだろう……今まで家族以外には誰にもバレなかったのに……まさかソロモンさんにはわかるなんて……!
私は居た堪れず、逃げようとするけど手首を掴まれていて逃げられない。
ソロモンさんは今度は、強引に私を引き寄せて壁ドンするような体勢になった。
顔が近い……恥ずかしくて顔を背けたいのに動けない!
「離して下さい!」
必死に訴えるがソロモンさんは離してくれない。
ああもう!何なんだこの人は! こんな乙女ゲーみたいな展開いらないってば!
「この前君と話した時、中身が男って感じがしなかったからね。だけど君が生前男だったというのも嘘をついてるようでもない。となると、君は生前は体と心の性が違う人間だったという結論に至るわけだ」
「……はい」
もうここまできたら隠しようがないと思い観念して認めた。
ソロモンさんはそっと私の頬に触れ、涙をぬぐってくれた。
そして優しく抱きしめ、頭を撫でてくれたのだった。
「済まない。泣かせてしまったね」
「いえ……」
しばらくして落ち着くとソロモンさんは言った。
「だけど、君にとってチャンスかもしれないよ?」
「え?」
「君は女になりたかったんじゃないの?この世界で女として転生できて、新しい人生を送ることができるんだよ?」
新しい人生?
でも私は元の世界に帰ることを目標にしてて。
あれ?
そうだ。私は…僕は…性同一性障害の自分の身をずっと呪って生きてた。
僕にとって忌まわしい呪いだった。
心は女なのに体は男だから、男として生きていかないといけなくて苦しかった。
ずっと、ずっと自分を否定して生きてた。
だけど、家族を捨てろっていうの?
僕の障害を家族だけは理解してくれた。大切で大好きな家族を簡単に捨てられるわけないよ。
でも、ずっとなりたいと思った女になれて、そりゃ抵抗はまだあるけど、やっと呪いから解き放たれるとも思った。
だけど元の世界に戻りたいのも本心で。
一体どうすればいいのーーー?
***
「ヤマトちゃん。僕は君がここに残ってくれる方が嬉しいな」
しばらく考え込んでいた私にソロモンさんが声をかける。
「………。ソロモンさん。ダビデにはこのこと言わないで…」
私がそう言うと彼は頷く。
「わかったよ。二人だけの秘密だね」
それからソロモンさんと別れ、自分の部屋に戻った後、ベッドに横たわりながら今後のことを考えた。