36 音楽の神アポロン
数日後、私とダビデは、ヘラクレスさんに連れられてギリシャの神であるアポロンの神殿へとやってきた。
ギリシャの神々は私達がいる地域とは別の場所に集まっているらしい。
(この異世界に神が集まってきてるって噂、本当だったんだ……)
そんなことを思っているうちにアポロンの神域に到着したようだ。
中に入ってみると、荘厳な雰囲気に包まれており、いかにも神様がいそうな場所という感じだ。
奥に進むと祭壇のようなものがあり、そこに美しい青年が立っていた。
その青年は金髪で碧眼、顔立ちは非常に整っていてまさに美しい男といった感じであった。
「あれがアポロン。あいつは人間を見下していて気難しい奴だから気を付けて」
ヘラクレスさんは小声で私達に教えてくれた。
「ほう……お前が新しい異世界の客人か」
そう言って不躾にじろじろ見てくる。
「お初にお目にかかります。本日はお招きいただきありがとうございます」
ダビデは跪き挨拶をする。私も慌てて真似をした。
「ヘラクレスから聞いている。竪琴を所望しているらしいな。俺は音楽の神だ。お前の腕を見せてみろ」
アポロン神は冷たい目付きで言い放つ。
何か偉そうだし怖そうだな……まさに塩対応。
つまり、竪琴を献上するに相応しいかテストされるってことかな?
ダビデからすれば異教の神の前で…。私なら怖くてまともに弾けないだろうなぁ。
「わかりました。それでは早速演奏させて頂きます」
ダビデは静かに立ち上がり、竪琴を構えた。
(久しぶりだな…だが覚えている。ヤハウェさま、貴方に演奏を捧げます)
ダビデの演奏が始まったーーー。
竪琴の音はまるで透き通るように美しく響き渡る。
まるで天界にいるかのような幻想的な雰囲気に包まれる。
(あれ?何だろうこれ。心が震えて止まらなくなる)
私は不思議な感覚に襲われた。
ただの美しい旋律というだけでなく、きめ細かく計算されたような音の流れが心地よくてずっと聴いていたいと思ってしまうのだ。
(すごい…音楽がこんなにすごいなんて!!こんなの初めて。魂にまで響いてくるみたいだな)
私は涙を流しながら感動していた。
(ヤハウェさま…。貴方は私と共にいてくださる主。私には主の恵みがある)
ダビデはそう心の中で思っていた。
ただヤハウェのことを想い、竪琴を弾いていたのだ。
それは神がかった光景だった。
その場にいる誰もが言葉を発することもできずに釘付けになっていたのだ。
曲が終わると沈黙が流れた。
やがて拍手が巻き起こる。
私達は周りを見渡した。いつの間にかたくさんの神々が集まっていたようだ。
「うわあ、何て素敵な音色なの」
1人の女神がいつの間にかヘラクレスさんの隣に来て感嘆の声を上げていた。
私はその女性を見て、あまりの美しさに瞬きすら忘れてしまっていた。
(え……?なにあの超絶美女は!?)
「へべ。気に入ったのか。俺は音楽はよくわからんが、俺も気に入った」
ヘラクレスさんはその女性、ヘべさんの肩を抱いて引き寄せた。どうやらこの方が奥さんのようだ。
ふとダビデに視線を移すと、へべさんに見惚れていた。
ああ、彼も男なんだね…。
「ご静聴ありがとうございました」
ダビデはそう言って一礼すると、こちらに戻ってきた。
「ほう…。人間ごときにしてはやるな。ここまでとは思わなかったぞ」
アポロンは感心しているようだ。
「お前の竪琴の腕前は見事なものだ。だが、俺は音楽の神だ。お前の才能は認めてやるが俺には遠く及ばないことを肝に銘じることだ」
そう言って鼻で笑う。
うわーー…神様なのにマウント取っちゃってるんですけど。これはちょっと引くわ……。
「え……?当然です。私はまだまだ未熟者ですから」
ダビデは謙虚に言う。
何か…ダビデの方が大人だなって思うんだけど気のせいかな?
「ところでそなたの竪琴の音色は俺も気に入ったぞ。お前を俺の従者に加えてやろうか?」
は?
ええーーー!!まさかあのアポロンからダビデがスカウトされちゃった!
どうしよう・・・!