34 ヘラクレスのとんでもない提案
そうこうしているうちに目的の場所に到着したようだ。そこは一面色とりどりの花が咲き誇る美しい花畑だった。
「うわあ……綺麗……!」
思わず感嘆の声を漏らす私を見て満足そうに頷くヘラクレスさん。
私達は花を摘み、どうにか花束らしく見えるように整えたあと帰路についた。
「そうだ…!ヘラクレスさま。竪琴を手に入れる方法ご存知ですか?」
帰り道、ふと思い出して聞いてみる。
「ふわああ…ん?竪琴?楽器が欲しいのか?」
あくびをしながら不思議そうに首を傾ける彼に私は事情を説明した。
何だか猫みたいっていうか、図体に似合わず子供みたいな神だな…。
「へえ…あの男前、音楽をやるのか。俺は音楽だけは苦手だ。そうだ。あいつなら何とかできるかも……」
「あいつ?」
「俺と同じギリシャの神、アポロン」
「あ、アポロン!?」
アポロンってオリンポス12神の!?
そういや音楽の神でもあるんだっけか……!
「アポロンは苦手だけど、君は良い子だから助けてあげるよ〜ふわあ…」
あくび混じりに言うヘラクレスさん。
「いいんですか!?」
「うん」
普段は猫みたいだけど、やっぱり良い神様だわヘラクレスさま!さすが大英雄!
「あ、ありがとうございます…!」
そして数日後、再び会うことになったのだが、そこでとんでもない提案をされることになるのだった。
「ふわあぁ…やあ…ヤマト。この前の花束だが妻が喜んでくれた」
やっぱり眠そうだけど、嬉しそうな笑顔で礼を言うヘラクレスさん。
本当に奥さんを愛しておられるようで微笑ましい気持ちになるなぁ〜と思っていたが、次の言葉に仰天してしまう私。
「そうだ…竪琴のことだけど、アポロンの奴、竪琴を献上するなら自分の前で演奏して欲しいって」
ええええええぇぇぇーーーっ!!??
それってつまり目の前で演奏しろってことだよね……?!
ダビデって一神教信者っぽいし絶対嫌がると思うんだけど……!!!
「で、でも音楽の神の前で演奏なんて…」
「ん?だったらやめる?」
「い、いえ…!喜んでやらせていただきます!!」
あ、勢いでOKしちゃった…。
だってこんなチャンス滅多にないし!!
これしか竪琴を入手するルートなんてないよね……? ダビデに怒られてもいい。説得しよう!
***
「何だと?竪琴を異教の神の前で演奏するだと?」
案の定ダビデは不機嫌になってしまった。
「そして君は私に相談もなく受けてしまったのか?何故私の許可を取らなかった?」
ダビデはいつもと違い厳しい顔付きで腕組みした。
「ごめんなさい……」
私は素直に謝った。でも仕方がなかったんだよ……だって断りづらかったんだもん……。
「勝手に話を進めたことは感心できないが……君は竪琴を探してくれていたんだな。ありがとう」
(あれ?)
てっきり怒られると思っていたので拍子抜けしてしまった。
そんなことを考えていたら優しく頭を撫でてくれた。
そしてーー
そっと口付けされる。
「!?」
あ、そうか。キスって古代イスラエルの習慣なんだっけ。
息子のソロモンさんとするくらいだし。
だけどこっちは日本人だし慣れてないから恥ずかしいよぅ……!
私が照れていると彼はフッと笑った後こう言った。
「君だけに苦労させるわけにはいかない。私も欲しい物があるなら自分で手に入れるとしよう」